お嬢様狂想曲~或いは国内のこんな出来事~   作:elfte

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  この小説は拓銀お嬢様こと「現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変」の二次創作小説になります。
 尚、「内容はすべてフィクション」であり「実在の人物とは一切関係ありません」。
 ということにしておきましょう、怖いから。
(モチーフのネタはありますが、現実にはありえないので本気でお願い致します)


お嬢様狂想曲~或いは国内のこんな出来事~ 其の五

「……何もないな」

 

 予想された襲撃が一切無く、怪訝な表情をマスク越しに浮かべながら外郭放水路の中を確認しながら歩く三人。

 約3キロの道のりに対して1時間近く経っているが、警戒しながらの歩きならばどちらかと言うと早かった。

 どちらかと言うと戦闘時に必須とも言える強化外骨格のバッテリーを惜しんで、脱出時以外は自力で稼働させていたことが原因の疲労のほうが大きい。

 ただ、それでも稼げた時間は大きかった。

 傍受できる警察無線からお嬢様が東日本帝国鉄道の宇都宮駅に登場したことが報告されており、同時に大規模なガサ入れの申請が無線を飛び交っている。

 

「これで俺等が地上に出てきたら、どっちが駆けつけてくれるやら」

 

 そんな他人事のように呟く“先輩”に対して“後輩”が相槌を打つ。

 

「そりゃ最後の手札で襲撃確定でしょ、ここまで馬鹿にしたんだから」

「だよなぁ、絶対見逃してくれねぇよなぁ」

 

 最早当たり前のこととして、出たら襲撃されるのはほぼ確定事項の前提として動いている。

 つまり相手は「完全に追い詰められた鼠」であることに今更気づいたわけで、隠蔽のイの字もないだろう。

 そんな会話を他人事のようにのたまう二人に、久春内七海は顔を表情を消しながらこう尋ねた。

 

「で、ここまで大規模に引っ掻き回して、お二人は何がお望みなのでしょうか?」

 

 角も当然のように発せられた質問に、“先輩”が苦笑しながら言い放つ。

 

「そりゃ一つだけですよ、お嬢様の手駒として“後輩”を保護して欲しいだけですから」

 

 これだけの大事に対して、金銭ではなく人の確保を頼む。

 それはつまり背後の面倒くささを断ち切るための、「最良の手段」としてお嬢様をこの二人は選んだということだ。

 

「言い方はあれですが、他に手段はなかったんですか?」

「ないですな、このタイミングでこの出来事が起きてなければ、ふたりとも多分一生お嬢様に縁がなかったでしょうしね」

「……?……それはどのような意味で?」

「俺は来年あたりに何処かの短大にでも潜り込む予定だったんですよ。で、それに対してお嬢様が関わると面倒事になる。対して後輩は、「誰かが見張ってないとヤバい」んですわ……この国のと言えるほどでは有りませんが、この地域の暗部には頭までどっぷり浸かっているので」

 

 そう、本来なら「助けられない定めしかありえない」存在が、お嬢様によってひっくり返っていることの一つの証として存在している。

 これがお嬢様に対してどういう意味を持つのか、“先輩”だけが薄ぼんやり把握できてしまった一つの回答なのである。

 だからこそ、いま切れる手札を最大限切り、お嬢様の庇護下に“後輩”を入れる。

 そのことに躊躇無く手持ちの賭けれるものを全部賭けた“先輩”は、ある意味でお嬢様と同類だった。

 

「失敗したらどうしてたんですか」

「そんときゃそん時です、ぶっちゃけ「命なんて安いものだ。特に俺のは」なんてアニメの台詞が冗談抜きで付き纏いますから」

 

 そうぶっちゃける“先輩”の言葉に嘘はない。

 ある意味「定時制」という「実験室の中のフラスコ」の一つが、一番の揺り籠になっていた二人である。

 しかも「一応一般人」として振る舞える“先輩”は兎も角。家族構成から身の上、背後関係を含めて「極道」の二文字が付き纏う“後輩”に対して、地域から身ぎれいに脱出できる手段が他になかったのである。

 

「まあ、だからこそ最後の相手の鬼札が怖いわけですが」

 

 お嬢様がニュースに出たことで、相手はしくじったことを悟った。

 更に「相手と交渉する」という選択肢を爆破した二人に対して、容赦などあろうはずがない。

 ならばどうするかと考えれば。

 

「本職だろうなぁ」

「北日本かロシアか、或いは満州辺りで爪弾き者にされた”裏社会でも飼えない奴”辺りですね」

 

 最悪の最悪は「スペツナズ崩れ」だが、それに近い奴は出てくる可能性が高い。

 そう考えると全身を覆ったこの現代の全身鎧ですら、布切れ一枚とさほど変わらない感覚になってくる。

 一応対策はうつにはうったが、それが何処まで効果があったのかなぞ、賭けている本人ですら確認は不可能なのだ。

 

「念の為の連絡封鎖、効果があったのやらなかったのやら」

「相手に情報だけ渡して、動いてくれることを祈って行動なんて博打、よく考えて実行できましたね」

「それくらい賭けないと、盤上で相手が踊ってくれないからな」

 

 その踊る中に自分たちは入っているのだろうかと久春内七海は思いつつ、「地下神殿」とも評される調圧水槽に到達した三人。

 ここでも何事もなく階段を上がって行き、龍Q館を敢えて通らず金野井揚水機場の入口のガラス製のドアに差し掛かった段階で、“先輩”が異変に気づく。

 

「なんか凄まじく静かすぎる」

「そりゃ事前に連絡を入れてたから、職員の人は見て見ぬふりでしょうよ」

「いや、そうじゃなくて外が静かすぎるんだ。まるで誰もいないような感覚すら覚えるくらいに」

 

 そう、地上のドアのすぐ先は江戸川の土手だから人の気配でなくても動物の気配ぐらいはするものである。

 そういう物が一切感じられない違和感に、なんとも言えない感覚が襲ってくる。

 

「単なる勘違いであれば良いんだが、これ絶対出てくる所を狙われているよな」

「でしょうね、俺だったら間違いなくここが一番狙えると思って張りますよ」

「だよなぁ」

 

 マスク越しですら伝わる苦い表情に三人が三人とも見合わせる。

 誰から先に行くかを押し付けるのではなく、自分から出るから引っ込んでろという無言の圧力の掛け合い。

 年長者という虎の威を借って“先輩”が無言の勝負を勝利し我先にと、手近にあった竹製の箒を持ってドアを無理やり開けようとすると、ドア向かって放たれた弾丸によって腕を持っていかれそうになる。

 

「くそったれ!東製の狙撃銃かよ!」

 

 ぎりぎり掠った感覚が腕に残ったが、ドアを吹き飛ばすのに運動エネルギーの大半を使い切った上でガラスの破片が防具の上からほんの少し掠めた程度だったからこそ、この程度で済んだのだろう。

 万が一にでも腕に当たれば、もう腕が使い物にならなくなるのは確定だった。

 有効射程800mと言われるSVDことドラグノフ狙撃銃にとっては、約半分程度の直線距離なら狙撃は容易だろう。

 

「というか、ここって堤防から直接見えないっすよね」

「よほど優秀なスポッターが居るのか、それとも別の手があるのかは知らんが、狙撃屋の意地なんだろうよ」

 

 そう、堤防から直接見える場所としてはここは少々“低い”のだ。

 だからこそ直接射撃はないと踏んで、万が一の場合に遮蔽物腰に行動できる場所からドアを開けるという手段に打って出た。

 しかし、相手にとっては文字通り素人の小細工でしかなかったらしい。

 たった一発で出るに出れない状況を作られた上に、相手に更なる手段があれば文字通り全滅も免れない状況。

 命を賭けているとはいえ、もうどうにもならないクソゲー感に先輩がコンクリートの壁にもたれかかって頭を抱える。

 

「今の一発で右手の感覚が持っていかれた以上、装備を信じて突撃はバンザイ突撃にしかならんな」

「なら外骨格の電源はどうします?」

「もう入れっぱでいいだろ、あんなもんが出てくるってことはもうあの腕利きに全部突っ込んでるよ相手も」

 

 そう、飼える奴ではないが鉄砲玉としては理想なのだろう。

 ここで出来れば散ってほしいという相手の「飼い主」の思惑通り、ここに居るのは「屍兵」擬きしかいない。

 ついでに言うと、使い捨てロケットの一発でもあれば終わるような状況だが、狙撃にしか興味がない殺し屋を持て余した連中が売り込んだのだろう。

 最早ディーラーもいない場でレイズばかりが掛かる状況に近い現状に、手持ちの札が豚確定の人間がどうやって抗うべきだろう。

 そんなことを思いながら最後の手段とばかりにトランシーバーに「S・O・S」のモールス信号を叩いて送ってみる。

 保険ではあるが、「何処の誰とも知らない救援者」へのコールサインである。

 

「なんすかそれ」

「一応知り合い経由で“軍”の救援を最後の手段として頼んでおいたんだよ」

「誰に?」

「ナイショ」

 

 そんな益体のない言葉と共に文字通り最後の手札を切りきった二人は、一切の動きを止める。

 もうここでどうにもならなければ、掛け金としての自分たちの命を払って久春内七海だけはなんとか逃す覚悟を決めた時に、それは起こった。

 全く別方向からいきなりなる銃声。

 と同時に無線機から一言だけ声が聴こえる。

 

『状況終了、以後撤収準備』

「了解、支援に感謝する」

 

 つい勢いで返信を返してしまう“先輩”。

 序にその一言のやり取りで、後始末も含めて相手方が処理をしてくれることを確信し、すべてが終わったことに気づく三人。

 だからこそ裏側がどう動いたのかなぞ何もわからないままでいることを良しとして、無線を解除して北樺警備保障の護衛車に場所を通達する“先輩”。

 同時に全身を覆っていた寄りをテキパキと脱ぎだし、強化外骨格を地面にひとまとめにすると、眼鏡とマスク、帽子を被って変装を改める二人。

 そして同時に久春内七海が口を開く。

 

「お嬢様には”何もなかった”とお伝えすればよろしいのですね……ついでにお名前も伺っていませんでしたが」

「ええ”何事もなく”ちょっとしたトラブルがあった程度でいいんじゃないでしょうか……申し遅れました、河原と申します」

「では河原様、この件は内密ということで」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 そう言いながら、久春内七海は到着した北樺警備保障の車に乗り込む。

 同時に強化外骨格を引き渡し、渡されたボストンバッグに詰められていた着替えを受け取って二人はそのまま車を見送る。

 

「やれやれ、一仕事終わった」

「オツカレ~」

 

 野郎二人になったことで近くの雑木林に入っていき着替えて渡されたボストンバッグに北樺警備保障を詰め込んで改めて変装を終了する。

 

「これでまあ、お前のエクソダスと今回の面倒事にケリが付いたはずなんだが」

「どうかしました?」

「なぁんか忘れているような気がするんだよなぁ」

 

 喉に引っかかった違和感が拭い去れない河原の言に、“後輩”が気になった様子で聴き返す。

 

「それ俺らに関係あるんすか?」

「いや、俺には多分関係あるんだろうけど、お前には関係ない何かがあったような気が」

「なんすかそれ」

 

 得も知れぬ謎の違和感を残しつつ、“後輩”はとりあえずお嬢様に預けることが出来た。

 その達成感でその違和感を忘れ去ることにした河原であった。

 

◇◇

 

おまけ

 

◇◇

 

 数カ月後。

 とある「お嬢様が日光に参拝する所」に一緒に行った軍団とテレビ局の放送で。

 頭を抱える禰宜の方と案内人、そして一行のやらかしを見て河原が思い出した。

 

「あ、警告するの忘れてた」

 

 何があったのかは各人で想像してほしいが、言い忘れて河原が某所で吊るし上げられたのは別の話である。




 という訳で、最後のおまけを書きたいが故に書き始めたこの作品。
 時期とか実際にやらかしたタレントさんとテレビ局は違うんですが、ガチでやっちゃったらしい。(現場にいた人間が友人)
 実際に聴いて「お嬢様が来たらどうやらかすんだろう」というのが初期コンセプトでしたが。
 流石に直接書くのはアレなので、クライムサスペンス調にしてみることに。
 ちなみに河原は当方のアバターでもありますが、同時に90年代後半に生み出したBREAK-AGEの二次創作キャラでもあります。
 “後輩”は反応次第で名前を考える予定ですが、捻らないとすぐバレるので今回は名前を考えるのを諦めました。

こっからはある意味毎度おなじみQ&Aを騙る設定暴露コーナー

Q:河原って転生者?
A:作者がそんな便利なポジにするわけがないでしょ。
 自己に必要な最低限の記憶だけ転写されてくる同一存在です。
 オリジナルというか最大限に能力を高めた存在も想定してますが、よくて「D&D世界で超越神エーオーの自立型電動蚊取り線香(本來は使い捨て)」ですわ。
(要は何かとちょっかい掛けるためによってくるタコ対策用の使い捨てのコマ)

Q:河原ってこの後どうすんの?
A:お嬢様に頼らないためにも、筆者と同じ学業ルート。
(というか、この時期大検受かって一年チンタラしていた時期で、ちょうどぽっかり余裕が空いてた)

Q:最後に“排除”に助力してくれた連中は。
A:知り合いに自衛隊関係にツテがある人間が幾つかあるので、そこら辺に頭を下げまくったということで。
(有り得るのがリアル定時制時代の恩人なんだが、リアルでは音信不通……但し設定が濃すぎてそのまま出せない存在なので、匂わせ要員で)

Q:何でこいつらこういう非常事態に鈍感なの?
A:リアルのほうが濃かった時期が定時制なので、そこを満喫してたらこんな性格になるんじゃねという妄想。

という訳で本編は多分ここまで、後は裏話という爆弾混じりの番外編を大量に仕込む予定でございます。
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