「…あっ。お姉ちゃん!!」
俺が母さんの方に走り出す。撮影が始まり数日が経つ。
今のところ順調に進み、学校は相変わらず午前中に切り上げて行くことが多い。まぁ、そういうことで学校で話すのはアクアとルビーくらいなので正直仕事に行っている方が楽なんだが。
「ただいま。」
「見てみて!!お姉ちゃん今日テストでいい点取ったんだよ〜」
あざとく見せる。これは少女漫画の原作ということもあり、男の子は比較的可愛めに描かれているので基本的に上目遣いや少し高めの声、歩幅を小さくして幼さを出している。ただ
「……」
じっと見つめニコニコの笑顔を見せる母さん。
「……お母さんまた台詞抜けてる。」
「だって。キング可愛いすぎ。」
「職場で親バカ出さないで。本当にうちの母さんがすいません。もう一回お願いしてもいいですか。」
すると笑い声が漏れる。親子共演の影響で一番難を受けてるのは実は母さんだったりする。それでも初めてじゃなければツーカット以下で収めるところは流石母さんというべきだろう。
「…はい!オッケーで〜す。」
「……ふぅ。」
「キングくん。ちょっといい?」
監督から呼ばれる。俺は急いで向かう。
「……はい?お母さんが失敗多い件についてですか?」
「そういうことじゃないよ、今回アイくん失敗は多いけどキングくんがいるからかかなりいい演技してくれてるからね。キングくんも上手くやってくれてる。でも、ちょっと都合で小学校のシーン増やせないかなって。」
シーンが増える。所謂構成を少し変えるのが
「今からですか?でもこれ以上伸びたら構成上厳しいんじゃ。」
「そうなんだけど、ちょっとクレームが……」
「……またかな先輩の母親ですか?」
俺の言葉に監督がため息を吐いたように告げる。一応少しではあるが打ち解けているとは思いかな先輩と呼ぶことが増えた。ほぼ2人で撮影中は行動しているので
「わかっちゃう?」
「……ん。でも、無理ですね。構成が崩れる。本来はあっちがメインですよね」
「うん。相変わらずよく見てるね。本当その通りだよ。これがなかったら有馬くんも使いやすいんだけどなぁ。」
「……演技上手いですもんね。かな先輩」
少しやってみて分かる。目茶苦茶やりやすい。台本合わせのころからこちらに合わせる演技をしているのが分かっていた。
「…物足りなさそうだね。」
「そうっすね。このままじゃ足りないんで。」
「どうする?」
「このままで。……正直この作品、こっち側有馬かなが覚醒してくれないと物足りなくなるんだよなぁ。」
「……覚醒って。」
「親子初共演って母さんがかなり凄みがあります。注目されるときの結城さんは目茶苦茶凄みがあります。なんなら俺たちのパートが霞むくらいに。」
「……本当によく見えてるよ。君も目立っている方だけど。」
正直寂しがりやの男の子っていうといい演技ができているとは思う。でもそれほどまであの二人が強すぎる。俺たちのパートがいらないと錯覚するほど。一応壱護さんにも動いてもらってるけど、少し俺も動きますか。
「…かな先輩の所属事務所と母親の番号分かりますか。それと今回の撮影で撮った映像を借りれます?」
「……凄い。」
有馬かなに映像を見せるとすぐに、その凄さに気付いたようだった。数日後かな先輩との撮影日に朝早くから来てもらったのだ。監督に頼みこみ朝から2人きりにしてもらった。
「……でも、よく見せてくれたわね。」
「このドラマのエンディングを上げることを条件に出した。」
「…えっ?」
「元々作曲が追いついてないだけで数本ストックしてあるしな。」
「…それって作詞してるってこと?」
「……」
正直作詞とは言い難い。元々知っている曲を歌っているのだから。
「…別にそういうことではないけど、適当に歌った曲を専属の作曲家がメロディー付けてるだけ。」
「それで売れてるの?」
「売れるというよりYouTubeしか出してないだろ?歌番組にも出てないから本当に趣味の範囲なんだよ。」
ため息を吐くかな先輩に俺は苦笑してしまう。元々口は悪いが悪い人ではないことは知ってる。
「…俺はあんまり同じ曲ばっかり歌うの好きじゃないんだよ。好きな曲も嫌いになりそうになるし。批判されたらイラッてくる。かな先輩もエゴサくらいするだろ?」
「…まぁね。そういうのあんたも気にするんだ。」
「しないやつなんて殆どいないだろ。自分がいいって思ってだしてるんだから。なんなら子役なんてそうだろ。アイドルよりも賞味期限が短い仕事だろ。」
「…なんだ分かってるじゃない。」
「分かるよ流石に学校大半休んでまで仕事に打ち込んでないから。」
流石に小学生という時間を犠牲にしている。夏休みや土日も休みはほぼなく勉強も独学。実際子役としてもレギュラーはいるが、台詞ありなしでも変わってくる。
「…だからかな先輩が俺に合わせてるのも知ってる。」
「……えっ?」
「最近のかな先輩の演技。受けが上手い。昔とは違って目立とうとしてないでしょ?それにドラマの構成もある程度理解してた。番組の構成を考えていたんでしょ?」
「……見てくれてたの?」
「やってたら分かる。だってかな先輩つまらなさそうだもん。」
俺の言葉にかな先輩は黙り込む。その言葉に少しだけ睨みつけてくる。
「言ってくれるじゃない。やりたくてやってるわけじゃないの。」
「知ってるよ。」
「知ったような口を利くな!!じゃあどうしろって言ってるの!!私はこうやって生きてきたの。人の顔を伺って来たの!!」
あえて地雷を踏み込む。有馬かなの本心に……踏み込まないとそのリミットは外せない
「知ってるわよ!あんたみたいに全部揃っているわけじゃないの!!いくら芝居がやりたくても売れなきゃ仕方ないでしょ!!私が売れなくなったのは私のせいなの!」
「本当にそう?」
「そうよ!あんたも知ってるんでしょ?私態度が悪くて有名だったんだから。そこもかしこもNG食らっているわけだし。」
「NG食らっているからって本人が問題にあるとは限らないよ。今回のかな先輩のようにね。」
「……何を根拠に」
「一応俺も6年間演技で飯食ってるんだけど。同じ子役なら嫌でも噂は入ってくるのは知ってるだろ。」
「それは……そうだけど……」
俺の言葉はかな先輩も納得せざるを得ない。俺よりも長くこの世界にいて、お互いにこの世界しか知らないのだから。
「正直家庭の事情にケチつけられるほど偉くはないけど。演技に関してなら俺は誰よりもかな先輩を輝かせる自信がある。かな先輩の演技方法は俺のスタイルでもあるから何もいえない。でもかな先輩はそれだけの女優じゃない。かな先輩はもっと自由にワガママな方が絶対にかわいい。」
「……なっ。あんた。何を言ってるのよ。」
俺とは違ってスターといえる原石、ヒロインに向いているのは、前世のころから知っている。
「昔からそうだったでしょ。有馬かなといえば泣き演技だけじゃなかったでしょ。」
「……は?」
「笑顔だよ。何で楽しそうにしないの?有馬かなって泣き演技が分かりやすいだけであの時何で売れたかって聞かれたら楽しそうに演技してたからでしょ?」
「……」
「だからピーマン体操も売れたんじゃないの?笑顔を振りまいて楽しそう踊っているかな先輩が可愛くて人気出たんでしょ?」
「…………」
少し思い浮かぶ節があるのかかな先輩は考え始める。
「……あのね。持論だけど女の子っていうのは楽しそうに笑っている姿が一番可愛いんだよ。演技が好きなのは知ってるよ。生き残るために合わせることは確かに大切だけど……それでも最近のかな先輩の演技はちょっと辛そうなんだよ。」
「……そんなこと」
「分かるよ。だって俺だって子役の前に演者なんだよ。一緒に演じてると分かるんだよ。結城さんも母さんも楽しそうに演技してるでしょ。」
「……うん。」
「かな先輩は演技好き?」
「…当然でしょ。好きじゃないなら続けてないわよ。」
「うん。俺も好きだよ。……だからこそその演技で遠慮される辛さ分かる?」
「……」
「好きなことなのに相手に手加減されてるって分かりながら演技するの俺は嫌だ。」
その言葉にかな先輩は黙り込む。
「正直先輩に向けて生意気なことも下手なのも分かってる。嫌いになられてもNGになっても文句はいえない。でも、……いい作品にしたいって気持ちなら俺だって負けてない。」
「…あっ。」
「…俺の役が何でこうしたのか分からなかったんなら言うし、かな先輩が考えて舞がこうしたのか理解するから。」
「もういいわよ。……歳下の男の子に何言わせてるのよ。」
苦笑して息を吐くかな先輩。
その顔は今までの雰囲気とは違い俺の顔をしっかり見ていた。
「……ゴメン。」
「…こちらこそすいません。でも、こうしないとお互いの価値観が多分ずれちゃってるので……」
「……分かってるわよ。……それで、何で全力でやってほしいの?」
「…俺のキャラなんですけど……」
俺が考える構成展開を話し始める。
午後3時の撮影開始まで俺たちは昼食すら抜きひたすらこのドラマについて話し合うのであった。