一番星の子   作:孤独なバカ

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第13話

かなSide

 

「……っ!」

 

演技やっていると気づくことがあるこの緊張感。周囲が引き締まり、物語が終盤になったと分かる。

一部役者にだけ備わる、プレッシャーに監督やディレクター、AD、照明、そして私達も全てがたった一人の少年に視線が集まる。

 

「……なにこれ。」

 

この子役の女の子も気づいている。

そしてその先を見ると明らかに今までとは表情が違うキングの姿がいた。今までとは違い口数も少ない。

怖いくらいに気持ちが乗っている。

 

「……それじゃあシーン49入ります。」

 

そしてカチンコの音がなる前に私は身構える。

ただでさえ上手い演技で見せ場をずっと作り出してきた男の子。それが今まで少し目立つくらいだったけど、でもそのリミットが外れたら?ここはキングの見せ場。それを理解して抑えてきたのであれば……

こういう時は本気で演らないと呑まれてしまうから。

 

「アクション。」

 

カチンコが切られる。このシーンだけはもう受けの技術も関係ない。

このシーンだけはもうキングの一人舞台なんだと。

 

「…マイちゃん!!」

 

足音を立てながら走ってくる近づいてくるキング。

息遣いが荒れ少し間を取る。一つ一つの間合いが上手くそしてカメラの中心にこのドラマで初めて立った。

ここは原作でも多くのファンがこのシーンを楽しみにしているところで、優しい男の子がヒロインの私が責められているところをみて唯一怒りの感情を表すシーン。

私も、特にお気に入りのカットであり、普段優しく可愛い印象の男の子がヒロインを守ろうとする為に勇気を振り絞る場面。

足音、間合いのとりかた。息遣い、表情、目線。全てに情報が詰まっている。

相手の子役の子も台詞を言っているけど、カメラは既にキングを軸にとっていた。

キングがそういう役者なのだと理解していたはずだった。構成を気にしてこのシーンの為に行動してきたんだって布石をうち、本当の見せ場では誰にも負けない存在感。

可愛く優しい男の子だった印象から大切な人の為に怒っているというのギャップをこの物語全体を通して作り上げたのだ。

キングに誰もが目を奪われる。このシーンだけは誰にも譲らないという気持ちが演技から伝わっている。

最初は生意気でわけわからなくて不思議な男の子だった。

でも、意外と真面目で頼りがいがあって、私にも優しい。でも演技に関しては真剣で、……そして私のことをずっと見てくれていた。

裏でこっそりとママが現場に入らないように取引があったのも壱護さんがスカウトの時に話していた。

もう半分死んでいた私を暗闇の中から外に引っ張り出してくれて、この撮影が役者人生で一番楽しくて……そして誰よりも頼りになる男の子。

……本当に生意気なんだから。

その後ろ姿に何処か心地よさを感じ私は既にキングから目が離せかった。

 

 

キングSide

 

「お~い。かな先輩!?不知火さん。」

「……えっ?」

「大丈夫?固まってたけど。シーン終わったよ。」

 

見せ場のシーンが終わった際なんか皆動かなかったんだけど……

 

「……凄い。」

「ん?」

「凄かった。そんな演技できるんだ。」

「不知火さんは俺をどう思っていたわけ?」

 

すると視線を逸らす不知火さんに俺は苦笑する。

多分コネで主演とったとかそんな感じだろうな。

 

「一応これでも主演やっているんだけどな。」

「…でも、前の映画でもここまでの演技はしてなかったよね?」

「まぁ、今回は自分の見せ場が分かりやすかったからなぁ。ターゲット層も同世代の女の子向けだろ?こういうのが受けやすいかなぁって。」

「うん。正解。」

「…見せ場って分かってたから、感情演技に全力を出したんだよ。ギャップって男子も女子受けもいいし。」

「…うん。めちゃくちゃ良かった。」

「……」

 

何度も頷くかな先輩。不知火さんにも好評だし、いい感触がある。

 

「よかった。正直ちょっと不安だった。今まで可愛い演技しかして来なかったから。」

「…あ~、イメージ戦略的な感じってこと。」

「まぁ。かな先輩は少し分かるでしょ。一度世間に与えたイメージって中々拭えるもんじゃないって。」

「そのこと責められると私はもっと酷いことしてるし。」

「あの、かな先輩地雷多すぎるって。違う。そういうことじゃないって。10秒で泣ける天才子役の方。だから比較的演技に泣き演技多いでしょ?」

「……それはあるかも。」

 

かな先輩は頷く。俺も可愛いとか媚て売れたってよく言われた。

 

「これは俺の持論なんだけど、確かにいきなりブレイクした時のことは、世間からの印象はいいけど、一度これでイメージが固定されるんだ。殆どの人はこのイメージを極めようとする。実際それで長く生き残れる人もいるとは思うけど、大抵は上手くいかない。運よく見つかっただけでこの芸能界っていうのは自分以上にその分野に強い人がいるから。」

 

その言葉に一人の男性が俺の方に近づいてくる。もう何度も呼んでくれてる三宅ディレクターだ。

 

「…ほぅ。面白い話してるな。」

「……あっ。三宅さん。撮影再開ですか?」

「いや。少し興味深い話をしてたから聞きに来ただけだよ。聞かせてもらっていいかな」

 

その言葉に苦笑してしまう。多分隠しておくほうが印象は悪くなるだろうから話すしかない。

 

「はい。だから子役って長続きするっていうのが難しいんだと思う。基本的に売れたスタイルで売り込もうとするのが所属事務所とか劇団なんです。」

「……続けて。」

「特に演劇はキャストを選ぶ際に何ができるかっていうのを制作陣は考えるはずです。子役に求めてるのは新鮮さだから年が取るにくれて仕事も減っていく。多分俺もこのドラマで子役としては秤に掛けられてるはずなんです。今は結城さんとアイのバーターとして出られているだけ。」

「……えっ?あの演技で。」

「俺は演技下手な部類だと思う。特別明るい笑顔はできないし、顔は普通の方、特に目立った顔つきでもない。特別上手い演技ができるわけがない。」

 

実際上には上がいる。俺は引き立て役であり、目立つことに長けている役者は幾らでもいる。

 

「キングくんがそういってるだけでキングくん、この年で主演に選ばれるくらいに普通に実力があるからね。安心してフリルちゃん。……なんなら今回の配役ってアイくんと結城くんがバーターの方だよ。」

「……えっ?」

 

三宅ディレクターの言葉に俺は言葉を失う。

 

「……君は過小評価しすぎだよ。多分君は自分を軽く見てるけど、普通ならキャストに口出しなんてできないよ。君ってドラマと映画出てるけど、今君が主演格で出た作品って売り上げどうなってるか知ってるの?」

「えっと一応全作品黒字になったとは聞いてますけど。」

「……えっ?」

 

今度はかな先輩が驚く。そんなにおかしいことだろうか?俺がやったドラマや映画は基本的に上手い人ばっかりだったしその後も売れている人が多かったからだと思ってたんだけど……。

 

「うん。そうなんだよ。全部黒字なんだよ。正直君の歌の補正もあるとは思うけど、それでいて君の出た作品は売れてるんだ。普通ならあんなにアドリブとか好き勝手やったら怒られるんだよ。」

「えっ?でも俺いつもこんな感じだったんですけど…なんなら今回も好き勝手やって構わないって台本貰った時に三宅さん言ってたじゃないですか。」

「仕方ないでしょ。そっちの方が面白いんだから。」

「…?」

 

その言葉に俺は首を傾げる。それでいいのか脚本家や監督は。

 

「君の演技は面白いんだ。下手だと思ってたら急に上手くなったり、とても面白いアドリブを入れてくる。そのアドリブのお陰で今回のかなちゃんや結城くんみたいなことが起こったりする。それだけでも十分なのに今日の君は自分の見せ場はまるで人が変わったかのような存在感を出してくれる。君は会うたびに成長していくから使いたくなるんだ。」

「流石に言い過ぎなんじゃ。」

「かなちゃん。キングくんとまた共演したいって思う?」

「…当然やりたいです!!」

「かな先輩?」

「そういうことだよ。正直キングくん以上に演技が上手い子役はいっぱいいるよ。でも、こんなにもまた使いたくなる役者ってそうそういない。最初のキングくん本当に酷かったからなぁ。」

「……その節は本当に申し訳ございません。」

 

少し嫌な思い出が浮かぶ。思いっきりやらかした思い出がある。

 

「…何したの?」

「台詞のない運動会の徒競走で走る生徒の役だったんだけど緊張で普通に石ころにつまずいて転んだ。んでそのシーンが面白かったからそのままNGシーン集として使われた。」

「キングくんもそんなことあったんだ」

「本当にめちゃくちゃ恥ずかった。兄ちゃんと姉ちゃんにめちゃくちゃ煽られるし母さんには可愛いって言われるし。」

「結構視聴者の受けも良かったから次も与えてみようってなって、そしたら次の使った時に一番重要なシーンで噛んでまたNGシーン集に取り上げられて。でも演技自体はかなり上手くなっていたから次は大きめの役を与えてみようってなったんだよね。それでも今のフリルちゃんやかなちゃんよりもかなり下手くそだったよ。」

 

事実なんだよなぁ。本当に才能はなかったからとある人に弟子入りして必死に練習したりや下積みを受けて、少しずつだけど褒められて。その繰り返しだった。こういうところは歌と同じだったから少しずつだけど伸びていく実感がある。

 

「…さっきの答えなんだけど、確かにキングくんが言っていることも間違ってない。今回フリルちゃんを起用したのも場面に新鮮さを求めたんだ。二人とも子役としてはベテランだから。」

「…うっ。」

「まぁ、俺等は歴そこそこありますからね。」

「でもね。この二人は結果をしっかり残しているんだ。その為に努力をしているのも現場は気づいてる。結局は結果とコネの世界なんだよ。君たちが思っているほど綺麗な世界じゃない。綺麗でいたければ結果を出すしかないんだ。」

「……結果。」

 

少しがっかりしているけどそこに関しては大丈夫だと思う。

 

「…そこについては不知火さんは大丈夫だと思うけど。正直今回のエキストラに関しては群を抜いて上手かったし。」

「……それに関しては私も思った。確か初出演なんでしょ?」

「うん。オーディションで受かったから。」

 

俺はコネで出演稼いだからオーディション受けたことないんだよなぁ。映画の際も代役出演だったし。

 

「…それなら次の現場紹介しようか?俺の兄ちゃんがお世話になってる監督が不知火さんが合いそうな映画を作ってるんだけど。」

「えっ?いいの?」

「うん。監督、子役いなくて困っていたらしいし、賃金的なものは個人製作になるから低いけど……毎回映画の作品賞にノミネートはされてるから知名度と実力を上げるなら出るべきだと思う。」

「あぁ。五反田監督か。本当に苺プロさんは顔が広い。」

 

一応何本かこの局のドラマも担当していたし、この話は多分大丈夫なはずだ。

 

「これでうちの事務所は生きているんで。」

「……それならお願いしていい?」

「了解。」

「それとこれ。私の連絡先。」

「……ん?」

「演技以外のことについて色々聞きたいから。」

「そういうことなら。」

 

視線的に真剣な奴だと思うし、監督の作品を送れるのもいいな。

 

「かな先輩も。」

「えっ?私も?」

「うん。色々聞きたいことがあるから先輩駄目ですか?」

「……別に構わないけど。」

 

あっこれかな先輩結構喜んでるやつだ。なお、かな先輩とは連絡先交換はしている。

…個人用殆ど使ったことないのだけど。

個人用の携帯には家族と師匠、かな先輩、結城さんを登録しているくらいだし地味に同年代の人と始めて交換したかも。

 

「…あの、話しているところ悪いけどそろそろキングくん、かなちゃん撮影戻れる?」

「あっ。分かりました。」

「はい。」

 

俺とかな先輩は頷く。現場慣れているため切り替えは早い。

そして撮影が始まる。

この時は知らなかった。これから先、この恋空が俺達の分岐になることになると。




感想、評価ありがとうございます。
感想は昔少し荒れたため返信してませんがちゃんと見ています。
ここで少しご報告なんですが、オリジナル展開が多く原作までまだ時間がかかります。御了承下さい。
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