一番星の子   作:孤独なバカ

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第17話

「……あっ。」

「…」

 

裏で少し待ち、かな先輩を待っていた。

 

「……待っててくれたんだ。」

「おせっかいな師匠を持ったからな。」

「…師匠?」

 

あの時共演した人しか俺と菜々子さんの師弟関係は知らない人が多い。世間でも話したことがないし。

 

「菜々子さん。デビュー作でミスってから演技を教わってる人。一応五反田監督にも教わってたけど、俺はあの人の作品の感性全く合わないから。」

「そういえば言ってたわね。……確かデビュー作だから6年前ってこと?」

「一応もう少しで七年だよ。俺ももう小学六年生だし。」

「私なんて中学生よ。本当に……月日って過ぎるの早いわよね。」

「仕事で自分の好きなことをやってるってこともあるだろうけどね。学校の皆はまだ5月って言ってるし。」

 

価値観でほぼ休みのない生活を送っていたこともあり、時間の感覚というのがどうも狂う。

 

「……そういや、あれどういうこと?」

「オーディションについてってこと?」

「そう。一次だけって聞いていたんだけど……」

「それは話せないよ。一応オーディションの審査をする方なんだし。……でもかな先輩が一番分かってるんじゃないの?」

「……そうね。」

 

黒川あかねという存在に。そして、あの中で争うのはあの二人だということに。

……そしてその内容を聞いているライバルもいることに

 

「それで、その黒川さんはそこに隠れてどうしたの?」

「へ?」

「盗み聞きはダメだよ。かな先輩のファンなのは知ってるけど……」

「……えっと…その。ごめんなさい。」

 

いや、普通に出てくるんだ。かな先輩も少し引いてるし……やってることストーカーに近いだろ。

するとスタスタと近づいてくる。すると思いっきり両手でつかまれる

 

「…あの!キングくんですよね!!」

「…う、うん。」

「私黒川あかねっていいます。あの、『夢への扉』のころからずっと見てます。」

「……えっ?」

「夢への扉?」

 

黒川さんの言ったタイトルに俺は絶句する。かな先輩は確実に知らないだろう。俺もこの作品の視聴者久しぶりに聞いたくらいだしなんならなんで知ってるんだと突っ込みたくなるくらい知らない人の方が多い。なんなら俺ですら既に内容が思い出せないくらいの作品だった。

 

「…またコアな所を。一応俺が初めて主要人物をやった作品だけど……あれって4年前の映画で俺が売れる前の個人製作のやつだから…俺が出てるどころか作品自体知らない人も多いと思う。なんならウィキにも載ってないくらいなのに。映画館も都内の小さな劇場しかやってなかったし。なんなら今見れるところもないし。」

「はい!!昔、劇団で見させて頂きました。隠れた名作って先生が教えてくれて。」

「あ~その繋がりか。」

「はい。特に……」

 

あの、黒川さん?黒川あかねさん?完全にオタクのような早口言葉でまくし立ててくる。なんならかな先輩がドン引きしているし、アクアとルビーが母さんのことを語るくらいの感触なんだけど。

 

「……あ、あの!!握手してもらっても。サインももし頂けると」

「……あっ。うん。いいけど。」

「いいんですか!!」

「……えぇ。」

 

まさかの厄介オタクみたいな感じに俺ですらかなりドン引きである。もうちょっと理性的なものがあると思っていたけど……子供の頃の黒川あかねってこういう人だったんだ。

 

「……。えっと、黒川あかねさんだよね。とりあえず一次試験突破おめでとう。」

「……えっ?もしかして見てくれてたんですか?」

 

体ごと乗り込んで嬉しそうにしている黒川さん。

 

「……あの黒川さん近い近い!!」

「えっ?あっ!ごめんなさい!!」

「……あんたそういう感じだったの?」

 

かな先輩が少し黒川さんから離れている。……これ本当に素で驚いているやつだな。

 

「…だってキングくんだよ!!キングくんは昔からかっこよくて作品の質を上げる演技をしながら周りを全部食べちゃうような演技をするんだよ!!」

「それは『恋空』で嫌っていうほど知ってるけど……」

「うん!!それにね。」

「……あの、ここ劇場前。……それと本当にやめてもらっていい?流石にちょっと恥ずかしいんだけど。二人とも少し時間ある?少し話そうか。」

「……いいんですか?」

「オーディションについての説明は各担当者、俺になってるからな。普通に騙されたよ。」

「……どういうこと?」

「とりあえず店行こうか。合格祝いで奢るよ。黒川さん慣れてないかもしれないけど、劇の話になるから個室になるしいいよな。」

「……えっ?」

「そこら辺は任せるわよ。」

 

俺はそうして適当な店をピックアップする。こういうところが芸能界に慣れたもんだと苦笑するのであった。

 

店に着き、二人に説明をすると俺はかな先輩と黒川さんに何があったのか伝える。

 

「何でキングがやってるのよ。」

「俺も分からん。どういう台本が来るのか配られてからじゃないと動きようがないしなぁ。」

「そうね。……じゃあどうするのよ。」

「とりあえず連絡先交換するか。俺もかな先輩も仕事少ないとはいえ、ある程度は出ないといけないからお互いの日程については合わせないといけないだろうし。」

「練習先は紫陽花さんの稽古場借りれない?それが難しそうならこっちの事務所のダンススタジオでやろうか。」

「紫陽花にいくつもり?」

「あそこ一応小さいけど劇場持ちだろ?ある程度劇場でやって雰囲気を作りたいってこと。俺は演劇に関しては初めてだし。」

「……成る程ね。」

「わっわかった」

「…それと先に言っておくと多分黒川さんを中心にオーディションは作るつもり。」

「えっ?」

「……えっ?私ですか?」

 

驚く黒川さんとだが、ちょっとだけ残酷なことを言わないといけない。

 

「…うん。そうしないと作品として崩壊する。厳しいことをいうけど、黒川さんとかな先輩には今それくらいに差がある。」

「……えっ?」

「多分かな先輩が本気の演技をしたら演技のバランスが崩れるくらいには。」

「……それって私が才能がないって」

 

涙目になってるが俺は首を横に振る。

 

「いや、普通に経験の差だよ。黒川さんがあの演技を見て才能がないっていうのはない。あの一次試験においてもかな先輩の次にあの現場で目立っていたのは間違いなく黒川さんだよ。」

「……えっ?」

「凄かったよ。前に見たフリルも凄かったけど……絶対に黒川さんも才能がある。ただ時期が悪すぎる。」

「時期ですか?」

 

流石に可哀想だけど、これは言っとかないといけない。

 

「今のかな先輩の全力の演技を協調型もできる俺がなんとか受けきれるくらいなんだ。かな先輩は恋空で呼んでから自信を付けて演技の質がかなり上がってる。実際恋空以降は一つ一つの演技の質が上がってきて目茶苦茶脂が乗ってるんだ。」

「…それは分かります!!今のかなちゃんはとっても可愛いから。」

「…そう。だからね。憑依型の黒川さんがそれをやると潰される。目立たないどころか存在感を出せない。」

「……えっ?」

 

それが一番怖い。今のかな先輩は子役の中に突っ込んでいいレベルではない。

 

「俺は下積み時代にかなり作品を作るってことを勉強したんだ。監督やプロデューサー照明とかも含めて一通りやらせてもらったことがある。その中でも一人一人の役割は本当に大切なんだ。光が強すぎても弱すぎても駄目。特に今回は二人演技の際は特にだ。」

「……うん。」

「憑依型の役割は相手を食うくらいの演技をすること。……かな先輩は共感型の受けの演技もかなり高い技術を持ってるから、作品を作る能力にも長けている。だから相性はいいはずだよ。」

「でも、かなちゃんの魅力は。」

 

そんなことずっと知っている。でもそれ以前に他人ばかりではいけない

 

「じゃあ黒川さんの魅力はなんだ?」

「……えっ?」

「役者の黒川あかねの強みって何だと答える?」

「私の強み?」

「俺にもちゃんと武器がある。俺は下積み時代に積んできた役者への理解力。どんな役者がどんな演技をさせるのかある程度予測して動きやすいようにしている。」

 

恋空以降俺の一番の強みだと自負している。他人を動かしてその魅力を伸ばすスキルに関しては誰にも負けたくはない。

 

「かな先輩は全ての演技のレベルが高く、色んな手札で勝負できること。前に出るときは出られるし、受けも上手い。技術面に関しては同世代なら飛び抜けていると思う。多分黒川さんはかな先輩の強みはとびきり目を奪われる演技だと思ってるでしょ。」

「…うん。」

「それもかな先輩の魅力のうちの一つにしか過ぎないって俺は思ってる。確かにかな先輩はヒロイン向けの役者だとは思うけど……でも、受けや周囲に合わせる技術もかな先輩の魅力になっていると思う。」

 

それが今の有馬かなという役者だ。完全に一皮向け、さらに成長の余地を残している。

 

「正直いうけど今の全力の有馬かなに勝てる子役は俺を含めていないんだ。」

「……でも、キングくんは恋空でかなちゃんと同じように食う演技してた」

「部分に限定したからだよ。元々俺はそういう役者だし、かな先輩みたいにずっと存在感だすのは無理だよ。あれは物語全体を仕込みに使ったからできる手法だし。」

「……そんなことできるんですか?」

「黒川さん。キングは私たちの一個下で月9主演男優よ。何なら映画で日本アカデミー賞助演男優賞と新人賞、ドラマでは最優秀男優賞を取ってるくらいだから……」

 

呆れたようにしている。まぁ正直事実だとは思うけど。かな先輩に言われてもなぁ。かな先輩も『恋空』ドラマ部門最優秀助演女優賞取ってたでしょ。

 

「…まぁ、話は戻すけど黒川さんもかな先輩と同じだよ。見つかってないだけ。そういう役者を輝かせるのは俺得意だし。」

「……はぁ。黒川さん諦めなさい。こうなったキングは止められないから。」

「ひどくね?」

「私の全力を出させるためにうちの親に干渉してきたバカに言われたくないわよ。」

「酷え。事実だけど。」

 

苦笑してしまう。

でも、多分こういうかな先輩の笑顔がリアルでも増えてきていることに少しだけ安心してしまう。

 

「とりあえず今回はヒロインに黒川さんを置きます。かな先輩はサポート役でいい?」

「……う、うん。」

「……分かったけど、あんたはその演出家に勝てるの?」

「役者でゴリ押ししないと無理。幾ら演出の知識があっても相手はプロだろ?知識で勝てるとは思わないかなぁ。そうなると演出より、役者の強みを押し付けた方が勝算はあるかなぁって。」

「それはそうね。」

 

かな先輩も頷く。とりあえず今回の方針について決まる。

とりあえず俺はやれることをできるだけやろうか。

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