一番星の子   作:孤独なバカ

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第22話

「あの、キングくん。」

「なんでしょうか?」

「任せるっていいましたけど、まさか四通りの演出を全て仕上げてくるとは思いませんでした。そしてそれを全部見せてくるとは……」

 

結局俺たちが選んだ結論は演出法を全てやって虹野さんに見てもらうことだった。

 

「そう考えるとたったこれだけの台本でもこんなに解釈があるんだな。」

「文句なしに合格点なのですが……流石にここまでされると……」

 

苦笑いする虹野さん。でも俺に限ってはそこまで難しいことではない。

 

「…基本的には歌と同じですから。」

「歌ですか?」

「はい。俺は持論に基本的に歌の印象を変えるのには、歌う人、メロディー、環境、表現の四つで構成されると考えています。同じ歌でも歌う人によって音程や歌声が変わったり、環境面ではオペラとか合唱コンクールとかなら分かりやすいですけど明らかに歌声って違うでしょ?それを演技にも使っているだけです。役者、台詞の時間、環境、表現それだけでも演技の特徴は大きく変わるって。」

「……成る程な。君からしたら歌の延長線ってことなのか。」

「そうとも言えないですけどね。……今回については役者が上手すぎたからできたことです。」

 

かな先輩も黒川さんも台本理解力が強く、流石にここまで全ての演技を出せるまで上げてくるとは思いもしてなかった。四つのうち一つでも手応えがあるやつがあればって思ってたけど黒川さんがこの期間で目茶苦茶伸びたんだよなぁ。

 

「あの二人に言えることは、ホントに相手が悪かったとしかいいようがないですよ。」

「…俺からしたらお前を相手にしたことが運がなかったと思うぞ。」

「いや、役者ならあれくらい。」

「普通はできねぇよ。あんな演出法は考える方もやる方も異常だろ。」

「私も姫川くんの意見の方ですね……少し天狗になっていた狭山くんの鼻を折ろうとしていただけなんですけど、流石にちょっとやりすぎです。」

 

なんか全部俺が悪いということになってない?狭山さんは何かぶつぶつ呟いてるし……

 

「…ついでにキングくんならどれくらいの完成度で今の演技できますか?」

「俺ですか?……村娘の泣き演技は苦手なんで時間かかりますけどそれ以外ならこれくらいの演技なら台本貰ってからすぐにでもできたと……」

「……」

 

虹野さんが口を開けて天を見上げる。姫川さんもあきれている。……そんなに可笑しいのかな?結構慣れたら簡単なんだけど……話を聞いていた他の人たちも変な雰囲気を出している。

その後まるで異質の物を見られるように結果発表まで俺はずっと見られるようになった。

 

 

 

「……って事があったんだけど。」

「何してるのよ。ホントあんた楽屋のあの二人流石に可哀想なくらいに凹んでたわよ。」

「あはは……私もちょっとやりすぎかなぁって。」

「あれ?俺味方いないの?」

 

帰り道、俺がどんなことがあったのかといったところあきれ顔の二人の姿があった。

 

「ホントあんた、そのキラキラネームくらいしか弱点ないんじゃないの?何ならアクアマリンよりも痛い名前じゃない?」

「……あの、かな先輩。本当にそれは俺に効くんで止めて。」

「えっ?キングくんて、ホントに名前がキングくんなの?」

「……星野皇帝って言います。皇帝って書いてキングです。マジでこれ毎回驚かれるんだよ。かな先輩やフリルも絶句してたし姫川さんには苦笑されるし。」

 

毎回本名を言うと驚かれる。こればかりは仕方ないことだ。

 

「……そういえば姫川さんと仲いいわよね?」

「……あ~。まぁ、ちょっとあって。」

「ふ~ん。」

 

ついでにDNA鑑定結果は当然合致したこともあり、ある程度姫川さんには話している。近いうちに話を聞きに来るらしい。

 

「でも、ホントに良かったんですか?虹野さんの誘い断っちゃって。」

「俺のこと?いや、ちょっと断わりたくない仕事のオファーが来ちゃって。」

 

元々予定は組んでいたんだが……ミヤコさんからそのオファーを聞いたとき流石に断りたくない仕事が重なったのだ。

 

「断わりたくない仕事って虹野さんの舞台よりってこと?」

「うん。歌関係でちょっとね。今は話せないけど。結構大きめの報告になるから。」

「歌関係?ライブでもやるの?」

「……」

「……えっ?そうなの?」

 

当たりなんだけど。何で分かるの?

 

「ライブね。でもそれだけの楽曲あるの?」

「あるよ。50曲くらいはストックあるし。夏休み期間にライブするから何個か下ろすことになる。」

「……へ?」

「黒川さん。この子本業そっちなのよ。役者も力入れてるけど、元々キングは歌手としてデビューしたのだから。」

「あの、それって作曲してるってことです?それも50曲以上も。」

「実際にはもっと多いわよ。キングには合わない曲やコンプライアンスを気にしなければその倍以上はあるわよ。」

「…えぇ……」

 

まぁ実際作曲してない曲ならその5倍は歌える自信があるんだけど……

 

「あの、それじゃあ曲何で出さないの?」

「それ毎回聞かれるような気がする。何なら俺は既に演技や歌は趣味だから」

「趣味って。」

「正直既にここまで売れたら何もしなくて印税や貯金で生きていけるくらいの額はあるし。」

「……まぁ、そうね。私もそれくらいの額はあるわね。」

「……えぇ。」

 

未だに世界に一つだけの花はカラオケで歌われた曲のランキング10位以内をキープしてるしキセキがランキング1位に入っているから……数十万くらいの額が定期的に入ってくる。

 

「高級店とかウーバーとかかな先輩は結構入り浸ってるけど、俺は母さんが仕事の時は自炊もやるから……」

「でもアンタ前にマンションフロア丸ごと買ってなかった?」

「不動産投資としてはよくない?それにかな先輩も安心して暮らせるでしょ?」

「そうなんだけどね。やってることが規模が大きすぎるのよ。アンタ。」

 

実は高級マンションではないがセキュリティが高いマンションを買った経緯がある。まぁ、前の母さんみたいな事故を防ぐためだけど。一応苺プロのタレントの寮としても使うことになったので、ある程度定期的に寮からお金が入ってくる。

 

「そういうかな先輩も株の勉強してるじゃん。」

「そりゃ私は一度落ちぶれてるから。将来に向けての投資もしてるわけよ。」

「……あの、二人ともどっちも可笑しいと思うけど……。」

「いやさ、今の芸能界ってこんなもんだよ。芸能界に夢や希望を持っていくのは別にいいんだけど……結局は蹴落としあいのデスゲームみたいなもんだし。誘惑とかも多いから誰を信じるのかも結構大事だよ。」

「そういうことよ。あんたもこの世界に来るのであれば覚えといた方がいいわ。……この世界には闇がある。」

 

かな先輩は少し悲しそうに告げる

 

「……そゆこと。……正直俺は演技をやれて良かったって思うよ。多分俺は自分の価値を理解できてないって思うし、歌で生きていけば多分だけど……昔の母さんみたいになってたと思う。」

「……昔のアイ?」

「うん。母さんって今は少なくなってるんだけど嘘ばっかりだったんだよ。テレビで映る姿と家にいる姿って全くの別人だったから。最近じゃワガママで親バカでドジで子どもっぽいところあるでしょ?」

「キングくんのアイってそんなんなの?」

「だってそうじゃん母さん家事もあんまり得意じゃないし、いたるところで抱きついてくるし、未だにお風呂に一緒に入ろうとするんだよ!!あの人普通に可笑しいと思うんだよ!!」

「……そうね。」

 

そう言えばかな先輩も一度経験あったんだっけ?お風呂のあとで母さん入ってきてかなり驚いていた印象がある。黒川さんも流石に笑顔が引きつっている

 

「でも、アイドルをやっている母さんよりは全然マシだけど。」

「……えっ?」

「…俺って最初の記憶って答えたら母さんが泣いているところなんだ。ホントに言葉も出せないくらいに小さい時に、一人で泣いてたんだよ。」

 

俺が転生者と理解した瞬間を答えるなら生後半年くらいに母さんが一人で泣いていたところを見たことだった。正直何を話していたのかも分からない。でも母さんが泣いていたということに怒りを覚えていた。

 

「多分ね。俺がアイドルとして母さんを見れないのはこれが原因なんだよなぁ。……母さんって、俺からしたら一人の人間なんだって。時に泣いたり、怒ったり、笑ったり。多分ねルビーやアクアでも見たことがない母さんを見せてくれたから。」

 

母さんは昔から俺だけは特別扱いすることが多い。いや、俺にしかそういうところを見せてこなかったんだと思う。

俺には涙を見せちゃったから。弱い星野アイを見られたから。

 

「演技をやってたら理解しちゃったんだ。そういうアイの二の舞を起こさないように事務所の皆が止めてくれてるんだと思う。母さんみたいにみんなの期待に応えようとして理想の歌手を演じちゃうと思うから。」

「……」

「だから、趣味でいられるように、歌を好きで歌わせてくれるようにしてくれたんだと思う。俺は実は音楽番組NGじゃないんだけど、ミヤコさんと壱護さんから絶対に出さないマネージメントをされてるんだ。一年に一度しか歌を出せなくしたのもなんだかんだ理由付けてるけど……俺が歌を仕事だと認識させないようにしてるんじゃないかな?」

 

壱護さんもミヤコさんも、元からいるスタッフも元B小町のメンバーも……俺やルビー、アクアそして母さんも忘れられないのだ。

あの母さんの涙を。たった一人の少女の涙を。たった一人の少年が歌った一曲の歌を。

 

「だからね。俺は結果で応えるんだ。誰であろうと関係ない。演技で歌でも大好きな仕事で誰にも負けないくらいに皆を照らす一番星になるって。」

 

それが俺の今の目標だ。母さんにも父さんにも……ルビーやアクアよりもみんなを照らす一番星になるために楽しむことをやめない。誰よりもこの世界を楽しみ愛してみせる。

 

「……あんたそんなこと言って恥ずかしくないの?」

「目茶苦茶恥ずかしいけど。でもこの名前以上に恥ずかしいものはないでしょ。」

「……それもそうね。」

「かなちゃん!?」

「ってことで二人も招待するから。あまり興味はないかもしれないけど。かなり大きめのところでやらせてもらうことになったんだ。」

「……何処でやるの?」

「あのね。驚かないでね。」

 

俺は一言間を空けその場所を告げた

 

「日本武道館!!」




ホントは覚醒イベントもう少し後からにしようと思いましたが、演技ばっかりもなんなので少し変更しました。
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