『苺プロのB小町所属ニノこと、新野冬子容疑者は容疑を認めており。』
『また教唆容疑をかけられている神木容疑者はほかにも数件の事件に関与していたとして、他の被害状況を調べています。』
テレビを見るとそんな話題ばっかりである。東京ドーム公演が中止から数週間がたった後も続いた。
あの日速報に流れたB小町メンバーも母さんもルビー、アクア、ミヤコさんも全員が理解できなかったらしい。
他のB小町メンバーは泣き出しドーム内は悲惨なことだったらしい。そして監督責任で叔父ちゃんは社長から降りることになりそうだったが……
そしてカミキヒカルに関しては調べたら調べるほどヤバかった。すでに数人を教唆していて何人か名前が知らない人が犠牲になっていた。
俺が知る2週間はここまでである。それまでナイフを向けられたことに関してのメンタルケアなどを行い入院中だったのだ。解放されたのが2週間先だった。真っ先に走ってきたのは当然のごとく母さんであった。
「キング!!」
「……えっ?」
思いっきり抱きしめられると体の暖かみを感じる。
「キング!?大丈夫!?ナイフに刺されたって聞いたよ!?」
「……刺されてないけど。」
「……えっ?」
「叔父ちゃんがチェーン付けてくれてたから平気。」
「ううん。……良かったぁ。無事で。」
お母さんは大丈夫そうではないのはわかるけど……少し痛い。
「…キング!?」
「キング!!」
するとアクアとルビー二人も走ってくる。
「……大丈夫?刺されたって。」
「…刺されてないけど……なんで皆そういうの?」
「……ごめんね。私の勘違いだったみたい。」
「本当か?」
「……あの、僕は本当に大丈夫だよ。」
すると今度はミヤコさんがこっちにくる。
「……おばちゃん。」
「とりあえず車に乗りましょう。」
「……はい。」
俺は車に乗ると皆に呆れたように見られる。今回の顛末はほぼ俺が操作したものだから仕方ない。その間もお母さんはずっと抱きしめられていた。
「…お母さんや叔父ちゃんたちは大丈夫?」
「大丈夫とは言い難いわね。あの人は社長から辞任することになったし、アイドルとしてのB小町は実質の休止、立て直しも難しいんじゃないかしら。あれだけのことをしたのだから。」
その言葉に俺は罪悪感を覚える。
分かっていたんだ。歴史を変えることが最善になるとは限らない。
「……そっか。」
「…もしかしたらってずっと思っていたけど……キング。もしかして最近ずっとピリピリしてたのってこのこと知ってたの?」
母さんの言葉に首を左右に振る。母さんは気付いていたんだ。
「…ううん。あのねお母さん。」
「…どうしたのキング。」
「本当ならお母さんが居なくなっていたの」
「……えっ?」
「あのね。僕ね。僕がいない世界を見たことがあるの。その時に東京ドームでライブをする朝に殺されちゃうことを知ってたの。」
その言葉に、お母さんもアクアもルビーもミヤコさんも驚く。
「…キングのいない世界。」
「うん。信じてくれないかもしれないけど……」
そして俺は話し始める。あの時星野アイがなくなったときの未来を自分が知る限り話した。お母さんは何も言わない。アクアもルビーも。
「…そしてお兄ちゃんがお姉ちゃんを守るために自分を刺して崖から落ちてお父さんと一緒に死んじゃうの。」
「……俺も?」
「…うん。これが僕が知ってる未来だった。」
「…それって……キングいつから」
「覚えてない。でも、物心付いたときからずっと知ってたの。」
「……貴方は全部背負ってたの?ずっと。」
「…背負ってたんじゃないよ。僕が助けたかったから」
これに関しては本当にそうだった。キングとして産まれ、愛されて、ルビーもアクアも母さんも原作以上に好きになった。
「……信じてくれるの?」
「…うん。ウソ付いてないの分かるから。」
母さんが俺の体を抱きしめてくれる。
「……ママ嬉しそう。」
「えっ?そう?」
「……そりゃ嬉しいわよ。自分の息子がアイさんのことを想っているわけだし。」
ミヤコさんが少しだけ羨ましそうにしている。実は俺だけは未だに斎藤の性ではなく、星野アイの養子ということになっている。ミヤコさんには……正直貧乏くじ引かせちゃったけど……
それでも、多分謝ることはできない。自分にとっては間違ったことはしたくない。
「……あのね。ミヤコさん。僕ね今から一曲歌いたい曲があるの。」
「……歌いたい曲?」
「うん。僕は歌うことでしか恩返しができないから。正式に出すんじゃなくてSNSになるけど。いちごプロのキングとして一曲だしていい?」
ビデオカメラを一つ置きミヤコさんにスタートボタンを押してもらう。
俺は父さんのことがよく分からない。
他人を殺してじゃないと愛を感じられない。命の重さが伝わらない。愛されなかったから。結婚することを断られたから壊れた?……正直どの感情も理解はできない。ただ。一つだけ分かること。
生きていないと意味がないんだ。
俺は借り出したマイクに声を乗せる。それは歌に載せる。メロディーもない。ただアカペラの曲。
元々は昆虫王者ムシキングの主題歌。『生きてこそ』
本来感謝を両親に伝え、この先も生きていく曲。
多分視聴者数はそこまでいかないのであろう。
でもこれは俺の決意の歌だった。今後辛いことが一杯ある。苦しいことも一杯あるだろう。
それでも僕たちは生きていく。
母さん、アクアもルビーの4人でこの世界で生きていくのだ。
だから見知らぬ父さん。せめて生きてください。
生きているたけでも意味はあるのだから生きて罪を償ってほしい。
歌い終わると俺はマイクを外す。すると外に人が集まっている。そこにはB小町のメンバーも、苺プロのスタッフもいた。壱護さんも……。
「…ありがとうございました。」
「……キングくんだったよね。確か。」
「うん。」
「いい曲だね。」
うっすら涙を浮かべている。確かこの人は初期メンバーの一人だったはず。
「……キングくん。私ね。君のお母さんが羨ましかった。」
「……うん。」
「ずっと輝く完璧なアイドルだと思ってたんだけど……あんなふうに泣くんだね。」
お母さんはすでに号泣している。ルビーとアクアも思うことがあるのか涙を浮かべていた。
「…お母さんはアイドルだけど、僕からしたら、お母さんだよ。」
「うん。ニノももう少し早く気づけたらよかったのに。」
B小町のメンバーの1人がその一言で泣き出す。
その言葉に何も返せない。あの人たちが見たかったのは完全完璧なアイドルのアイだ。人としての星野アイではないのだ。
その後苺プロ内は嗚咽に包まれ、その声は暫くは終わることはなかった。