艦娘幼稚園 遠足日和と亡霊の罠(サンプル) 作:リュウ@立月己田
遠足を楽しんでいた子供達や先生。
演習の練習をしていたある時、絶望へと陥れる事件が発生する……
この後、遠足どころではなくなっていく展開。
そして、更なる事件が起こっていきます……
心のダメージからなんとか立ち上がる事ができたのは、それから1時間ほど経った後だった。ちょうど訓練も一段落がつき、子供達は休憩の時間を利用して、思い思いに行動していた。
「先生、大丈夫ですか?」
「あー、はい。大丈夫は大丈夫なんですけど……」
言って、愛宕の顔を力無く見る。すると、さすがに気まずく思ったのか、愛宕は申し訳なさそうに両手を顔の前に合わせた。
「ごめんなさい、先生。ヲ級ちゃんがどうしてもって言うから、仕方なく参加したんです。このお詫びはちゃんとしますから、許していただけませんか?」
「え、えっと、そこまで言われたら……許すしかないじゃないですか……」
俺はそう答えたけど、実際は謝る愛宕の仕草が可愛過ぎて、思わずにやけてしまいそうになるのを必死で押し隠していただけなんだけどねっ!
あー、もう、可愛いなぁ!
「うぅぅ……良かったです……先生に許してもらえなかったらどうしようかと、ドキドキしてたんですよ~」
「……ち、ちなみに俺が愛宕先生の事を許さなかったら、どうするつもりだったんですか?」
「そ、それは……えっと……」
急に恥ずかしそうな表情になった愛宕は、両手を背中に回してモジモジしだした。
やだ……何これ可愛い……っ!
「も、もし許してもらえなかったら……その、許してもらえるまで……ええっと……」
俺の顔を上目遣いでチラチラ見ながら……って、反則レベルでドキドキしちゃうでしょうがっ!
これあかんやつやっ! 改めまくって惚れてまうやろーーーっ!
「せ、先生が……そ、その………………あれ?」
「……え?」
急に変な声を上げた愛宕が、両手で自らの身体を触りまくっていた。
これは……何かを探しているのか……?
「あ、あれ……おかしいですね。確かこのポケットに……あれれ、あれあれあれっ?」
愛宕は焦りにまみれた表情で身体中のポケットを探しまくったが、目的のモノが出てくる様子もなく、ガックリと肩を落としてうなだれた。
「ど、どうしたんですか、愛宕先生。何か無くされたんでしょうか……?」
「え、ええ……普段使っている方ではない懐中時計なんですけど、どこにも見当たらなくって……」
「いつ頃まであったか覚えてないんですか?」
「それは……えっと……」
愛宕はそう言いながら、人差し指を口元に当てて上を向きながら、う~ん……と考え出した。
うむ、この仕種も可愛いですねっ!
「昨日、島を見回っている時にはありましたけど……」
「部屋に置いているとか、鞄に入れたとかは?」
「いつも持ち歩くようにしていますので、それは無いと思います……」
「なるほど。ちなみに最後に確認したのはどこだったんですか?」
「それは……確か、すぐ側にある小屋に入った時ですね」
「小屋って……あそこの?」
昨日、子供達を休憩させる為に入った小屋を思い出しながら俺は指を差す。
「ええ、あそこにある小屋です」
愛宕も俺の指先に視線を移してコクリと頷く。
「それじゃあ、ちょっと中に入って探してきますよ。ちなみに、どんな形状をしているとか、教えてもらえますか?」
「いえいえ、私の探し物の為に先生のお手を煩わせるなんて、申し訳ないです」
フルフルと顔を左右に振って笑顔を見せた愛宕は、「少しだけこの場を離れますけど、その間だけ子供達をお願いできませんか?」と頭を下げたので、俺は「任せてください」と言って、自分の胸を拳で叩いた。
ポイントを稼ぐ場面ではあったけれど、結果的に子供達を見るという事で点を稼げたと思うので良しとしよう。
しかし、昨日元帥が言っていた通り、愛宕の俺に対する心証はそれ程悪くないように見える。会話も普通にできているし、嫌がられている素振りも殆ど無い。それどころか、忘れ物に気づいて中断してしまったが、ヲ級のお願いによって落ち込んだ俺に謝りながら、何かを伝えようとしていた雰囲気は、かなり好意的に感じられる部分もあったと思う。それが俺の勘違いと言うのならば少々へこんでしまうのだけれど、案外この遠足で良い感じになってしまうんじゃないかという期待もそこそこあるだけに、今日の夜の自由時間が今から楽しみになってきたりする。
「そしてそのまま、ワンナイトラブ……みたいな事になってしまうとか……ムフフ」
「Wow! なんだか先生がいやらしい目つきで私を見てマース!」
「な、なんだとっ!? なんで俺の方を見ないんだよ先生っ!」
「あら~、天龍ちゃんったら大胆ね~」
龍田は天龍に向かってにこやかに言いつつも、俺にしか見えないように自分の首元を人差し指と中指でスッパリと斬るようにスライドさせた。
相変わらず脅しが恐過ぎるんだけどっ!
そして、勘違いも程々にしてくれ……って、そんなに顔に出ていたのかよ、俺っ!
「男ハ本来ケダモノダカラネ。オ兄チャンモ、一皮剥ケレバドウナル事ヤラ……」
悟ったように言っているんじゃねぇよっ! むしろお前がケダモノじみて襲ってくるんだろうがっ!
「――ってか、ちょっと待て。これってさっきと同じように仕返ししようと企んでやっているんじゃないだろうな?」
「チッ……バレタカ……」
「二度も同じ手を喰らう俺じゃないぞっ! 顔を洗って出直してこいっ!」
「でも、先生って結構エッチだよね?」
「ぶはっ!? な、何をいきなり言うんだよ時雨はっ!」
「だって、愛宕先生と話しているとき、大概胸を見ているからね」
「この会話は昨日もやった気がするぞっ!?」
ジト目で見つめる時雨の視線が痛いんですけど……
「でも、実際のところ、やっぱり先生ってエッチっぽい!」
「だ、だから、そういう話は止めにしてだな……」
「だ、ダメなのですっ! 一度しっかり話をしておくべきなのですっ!」
「なんでそうなるんだっ!?」
「大丈夫よ先生っ! 先生がどんなにエッチだったとしても、私が養ってあげるわ!」
「完全にヒモ男になっちゃうじゃん!」
いつの間にか子供達に囲まれていた俺は、四面楚歌状態でひたすら言葉攻めを受ける事になってしまった。
「こうなったら、響が矯正すれば良いんじゃない?」
「ふむ、暁の提案にはそそるモノがあるね。何をしても良いと言うなら、一度試してみたい事があるんだけど……」
「な、なんだか、別の意味で危なそうなのです……」
「大丈夫よっ! どんな事になっても、先生には私がいるんだからっ!」
「おいおい、俺様の事を忘れてもらったら困るじゃねぇか。先生を嫁にするのはこの天龍様って決まっているんだからよ」
「むしろ、先生は犬って感じよね~」
「そ、それって……先生をペットにしちゃう宣言じゃ……ないかな……?」
「そ、それは大胆過ぎマース! でも、かなりグッときますネー!」
「四つん這いになった先生に首輪をつけて……ふふ……それは楽しそうだね……」
「シ、時雨ガ何カニ目覚メタ……?」
ワイワイと騒ぎ立てる子供達の中心に、冷や汗だらだらの顔で引き攣る俺。しかし、逃げ出せるような状況ではなく、徐々に輪の大きさが小さくなり、俺はどんどんと追い詰められていった。
それから20分ほど経っただろうか。さすがに言葉攻めに飽きた子供達は、俺から離れて各自で休憩をしながら談笑をしたりしていたが、時雨だけは俺の傍でちょこんと座っていた。
さっきの発言を聞いただけに、ちょっと怖いモノがあるんだけどなぁ……
しかし、小屋に向かった愛宕の帰りが遅い気がする。気になった俺は、様子を見に行くべきかどうか迷っていたのだけれど、ここから離れてしまうと子供達を見る役目をする事ができなくなり、愛宕との約束を破ってしまう事になる。
「どうしたのかな、先生。なんだか迷っているように見えるんだけど……」
「あ、あぁ。実は、愛宕先生の帰りが遅いから、様子を見に行った方が良いんじゃないかと思ったんだけど、子供達の事を見てないといけないから俺がここから離れる訳にもいかないし、どうするべきかと迷っていたんだが……」
「それなら、僕が代わりに探しに行こうかな? それなら、先生は他のみんなを見ている事ができるよね」
「そうだけど……大丈夫か? 小屋からはそんなに遠くはないけれど、迷ったりすると大変なんだが……」
「昨日入った小屋だよね? それなら、あそこに見えるのがそうだし、さすがに迷う事も無いから大丈夫さ。それに、中に入って愛宕先生に声を掛けるだけだから、そんなに大変でもないよ」
「そうか……それなら悪いんだけど、お願いできるかな?」
「うん、僕に任せておいてよ先生。このお返しは、いつかしてくれれば良いからさ」
言って、時雨は微笑みながら立ち上がり、小走りで小屋に向かっていった。
いや、お返しって……何をさせるつもりなんだ……?
さっきの会話が残っているだけに、ちょっとどころかかなり心配なのだけれど、あれは冗談話という事にして置いて、まぁ、頭を撫でてやる程度で良いだろう。
俺は大きくため息を吐きながら空を眺めて背筋を伸ばした。雲一つ無い青空の下、最高の遠足日和でこの島にいる。昔の俺では考えられない状況に、思わずクスリと笑みをこぼしてしまった。
両親や弟の仇を取る為に、深海棲艦を倒す方法を勉強し、身体を鍛え続けた少年時代。中学、高校と、青春を全く謳歌しないまま恨みだけで生き続けた過去は、幼稚園の先生となった今でも忘れる事ができない。だけど、そんな過去の苦しみは、子供達と触れ合う事で重さを減らし、俺に新たな生きがいを与えてくれた。更には、死んだ弟が転生するという無茶苦茶な方法で目の前に現れ、様々なトラブルを起こしながらも、楽しい日々を過ごさせてくれている。
こんなに楽しく、嬉しい日常は決して離したくない。だからこそ、俺はできる限りやれる事をやろうと心に誓っている。どんなにへこまされても、どんなに傷を負っても、子供達や愛宕や高雄、窮地の際に俺を救ってくれた元帥の為に、全力で立ち向かう事ができるのだと。
だけど――そんな俺の思いを全てぶち壊すように、崩壊の足音が歩み寄ってくる。
「……ん?」
地面を激しく蹴る足音が聞こえ、俺は顔を上げて音のする方へと向いた。
時雨が――走ってこっちに向かってくる。
全力で、全ての力を出しきって、俺に前に立つ。
そして――悲壮な顔で、時雨は言った。
「愛宕先生が――危ない」と。
艦娘幼稚園 ~遠足日和と亡霊の罠~ における、第一の事件発生の前になります。
近いうちに、別のシーンもチラッと公開できたらなと思います。