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巣の奥深くには、静かに脈打つ区画があった。
そこは「育成層」と呼ばれ、
六角形の透明カプセルが幾何学模様のように積み重なっている。
まるで巨大な蜂の巣そのものが、光と金属で再構築されたかのようだった。
カプセルの内部には、まだ小さな命が眠っている。
光の繊維が脈動し、赤ん坊たちの体を優しく包み込む。
その光は、温かく、柔らかく、
まるで母の手のように彼らを守っていた。
その中のひとつ――
カプセル番号「M-03」。
そこに眠る少女は、のちに Mio と呼ばれる存在だった。
彼女のカプセルだけ、わずかに光の揺らぎが強い。
まるで巣が彼女に特別な何かを注ぎ込んでいるかのようだった。
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■ カプセルの目覚め
「起動シーケンス、安定。対象、覚醒準備に入ります」
機械音声が静かに響き、
カプセルの内部に淡い光が満ちていく。
Mio の瞼がゆっくりと震え、
初めての光を受け止めた。
「……あたたかい……」
彼女の声は、まだ幼く、かすれていた。
だが、その瞳にはすでに“何か”が宿っていた。
光を映すだけではない、
光の奥を覗き込むような深さがあった。
隣のカプセルがほのかに光り、
別の少女が目を開ける。
カプセル番号「S-01」。
のちに Shiraka と呼ばれる少女だ。
「ここ……どこ……?」
彼女は周囲を見回し、
壁に刻まれた記号や、天井から降り注ぐ光の糸に目を奪われた。
さらにもうひとつ、
赤い光を帯びたカプセルが震える。
「ふん……やっと起きたってわけね」
カプセル番号「B-07」。
のちに Benika と呼ばれる少女だった。
彼女は目覚めた瞬間から、どこか反抗的な気配を漂わせていた。
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■ 初めての会話
三つのカプセルは、互いに近い位置に配置されていた。
光の繊維が彼女たちの声を拾い、
まるで巣全体が会話を聞いているかのようだった。
「ねえ……あなたたちも、いま起きたの?」
Shiraka が柔らかい声で問いかける。
「そうみたい……」
Mio はまだぼんやりとしたまま答えた。
Benika は鼻で笑う。
「ふん、起きたところで何が変わるのよ。
どうせ私たちは、巣に決められた通りに生きるだけ」
その言葉に、Mio は小さく首をかしげた。
「決められた……?」
「そうよ。見てみなさいよ、ほら」
Benika は自分の胸元を指差した。
そこには、光るタグ番号「B-07」が刻まれている。
Shiraka も自分の胸に触れた。
「S-01……これが、わたしたちの名前……?」
「名前じゃないわ。番号よ。
巣が私たちをどう扱うか、その印よ」
Benika の声は冷たかったが、
その奥には、どこか寂しさが滲んでいた。
Mio は自分の胸に刻まれた「M-03」を見つめた。
その瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。
「……でも、わたし……なんだか変な感じがするの」
「変な感じ?」
Shiraka が心配そうに覗き込む。
「うん……胸の奥が、ざわざわして……
何かが見えそうで、見えない……そんな感じ」
Benika は眉をひそめた。
「はあ? 何それ。寝ぼけてるんじゃないの?」
だが、Mio の瞳は真剣だった。
光を映すだけでなく、
光の“向こう側”を見ようとしているような深さがあった。
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■ 異常値
そのとき、巣の上層から機械音声が響いた。
「対象 M-03、数値異常。
遺伝子反応、通常値を大幅に逸脱。
分類保留、再検査を実施します」
Shiraka が息を呑む。
「Mio……異常って……」
Benika も驚いたように目を見開いた。
「ちょっと、あんた……何したのよ?」
「な、何も……してない……」
Mio は不安そうに胸を押さえた。
その奥で、またあのざわめきが広がる。
光が揺れ、
巣全体が彼女の反応に呼応するように震えた。
「……まただ……何かが……見える……」
Mio の瞳が淡く光り、
六角カプセルの壁に反射した光が、
まるで未来の断片のように揺らめいた。
Shiraka は思わず手を伸ばす。
「Mio、大丈夫……?」
Benika も、さっきまでの強気が消えていた。
「ちょっと……やめてよ……怖いじゃない……」
Mio は震える声で答えた。
「……わたし……どうなっちゃうの……?」
その問いに答える者は、まだいなかった。
ただ、巣だけが静かに脈動し、
三人の少女の運命を見守っていた。
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