精魂の巣   作:幻灯(Gentō)

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第1章 六角のゆりかご

 

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巣の奥深くには、静かに脈打つ区画があった。

そこは「育成層」と呼ばれ、

六角形の透明カプセルが幾何学模様のように積み重なっている。

まるで巨大な蜂の巣そのものが、光と金属で再構築されたかのようだった。

 

カプセルの内部には、まだ小さな命が眠っている。

光の繊維が脈動し、赤ん坊たちの体を優しく包み込む。

その光は、温かく、柔らかく、

まるで母の手のように彼らを守っていた。

 

その中のひとつ――

カプセル番号「M-03」。

 

そこに眠る少女は、のちに Mio と呼ばれる存在だった。

 

彼女のカプセルだけ、わずかに光の揺らぎが強い。

まるで巣が彼女に特別な何かを注ぎ込んでいるかのようだった。

 

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■ カプセルの目覚め

 

「起動シーケンス、安定。対象、覚醒準備に入ります」

 

機械音声が静かに響き、

カプセルの内部に淡い光が満ちていく。

 

Mio の瞼がゆっくりと震え、

初めての光を受け止めた。

 

「……あたたかい……」

 

彼女の声は、まだ幼く、かすれていた。

だが、その瞳にはすでに“何か”が宿っていた。

光を映すだけではない、

光の奥を覗き込むような深さがあった。

 

隣のカプセルがほのかに光り、

別の少女が目を開ける。

 

カプセル番号「S-01」。

のちに Shiraka と呼ばれる少女だ。

 

「ここ……どこ……?」

 

彼女は周囲を見回し、

壁に刻まれた記号や、天井から降り注ぐ光の糸に目を奪われた。

 

さらにもうひとつ、

赤い光を帯びたカプセルが震える。

 

「ふん……やっと起きたってわけね」

 

カプセル番号「B-07」。

のちに Benika と呼ばれる少女だった。

彼女は目覚めた瞬間から、どこか反抗的な気配を漂わせていた。

 

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■ 初めての会話

 

三つのカプセルは、互いに近い位置に配置されていた。

光の繊維が彼女たちの声を拾い、

まるで巣全体が会話を聞いているかのようだった。

 

「ねえ……あなたたちも、いま起きたの?」

 

Shiraka が柔らかい声で問いかける。

 

「そうみたい……」

Mio はまだぼんやりとしたまま答えた。

 

Benika は鼻で笑う。

「ふん、起きたところで何が変わるのよ。

 どうせ私たちは、巣に決められた通りに生きるだけ」

 

その言葉に、Mio は小さく首をかしげた。

 

「決められた……?」

 

「そうよ。見てみなさいよ、ほら」

 

Benika は自分の胸元を指差した。

そこには、光るタグ番号「B-07」が刻まれている。

 

Shiraka も自分の胸に触れた。

「S-01……これが、わたしたちの名前……?」

 

「名前じゃないわ。番号よ。

 巣が私たちをどう扱うか、その印よ」

 

Benika の声は冷たかったが、

その奥には、どこか寂しさが滲んでいた。

 

Mio は自分の胸に刻まれた「M-03」を見つめた。

その瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。

 

「……でも、わたし……なんだか変な感じがするの」

 

「変な感じ?」

Shiraka が心配そうに覗き込む。

 

「うん……胸の奥が、ざわざわして……

 何かが見えそうで、見えない……そんな感じ」

 

Benika は眉をひそめた。

「はあ? 何それ。寝ぼけてるんじゃないの?」

 

だが、Mio の瞳は真剣だった。

光を映すだけでなく、

光の“向こう側”を見ようとしているような深さがあった。

 

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■ 異常値

 

そのとき、巣の上層から機械音声が響いた。

 

「対象 M-03、数値異常。

 遺伝子反応、通常値を大幅に逸脱。

 分類保留、再検査を実施します」

 

Shiraka が息を呑む。

「Mio……異常って……」

 

Benika も驚いたように目を見開いた。

「ちょっと、あんた……何したのよ?」

 

「な、何も……してない……」

 

Mio は不安そうに胸を押さえた。

その奥で、またあのざわめきが広がる。

 

光が揺れ、

巣全体が彼女の反応に呼応するように震えた。

 

「……まただ……何かが……見える……」

 

Mio の瞳が淡く光り、

六角カプセルの壁に反射した光が、

まるで未来の断片のように揺らめいた。

 

Shiraka は思わず手を伸ばす。

「Mio、大丈夫……?」

 

Benika も、さっきまでの強気が消えていた。

「ちょっと……やめてよ……怖いじゃない……」

 

Mio は震える声で答えた。

 

「……わたし……どうなっちゃうの……?」

 

その問いに答える者は、まだいなかった。

 

ただ、巣だけが静かに脈動し、

三人の少女の運命を見守っていた。

 

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