精魂の巣   作:幻灯(Gentō)

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第2章 巣の教育区画

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巣の内部には、いくつもの層が存在する。

その中でも「教育区画」は、働き蜂候補たちが最初に足を踏み入れる場所だった。

 

六角形の廊下が迷路のように連なり、壁には淡い光を放つ記号が刻まれている。

床は透明な合金でできており、下層を流れる光の繊維が、まるで血管のように脈動していた。

 

ここは、巣の“脳”とも呼ばれる場所。

働き蜂候補たちは、この区画で

- 体術

- 思考訓練

- 巣の構造理解

- 役割適性

を学び、巣の一員として育てられていく。

 

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■ 三人の少女の姿

 

Mio、Shiraka、Benika。

三人は同じ育成層から選ばれ、この教育区画に配属された。

 

彼女たちの服装は、働き蜂候補用の白い軽装スーツ。

胸元にはタグ番号が刻まれ、背中には小さな補助羽根が装着されている。

まだ本物の羽根ではなく、訓練用の簡易装置だ。

 

● Mio

Mio は、淡い銀色の髪を肩まで垂らし、瞳は深い青。

どこか遠くを見るような眼差しをしており、

動きは柔らかく、静かで、風に溶けるようだった。

 

言葉遣いは丁寧で、少しゆっくり。

周囲の空気を感じ取るように、ひと呼吸置いてから話す癖がある。

 

● Shiraka

Shiraka は、白に近い薄桃色の髪をきちんと結い、

姿勢は常にまっすぐ。

瞳は淡い金色で、光を受けると蜂蜜のように輝く。

 

言葉遣いは丁寧で、落ち着いている。

動きは正確で、無駄がない。

誰が見ても「優等生」とわかる佇まいだった。

 

● Benika

Benika は、鮮やかな赤髪を短く切り揃え、

瞳は燃えるような琥珀色。

動きは素早く、感情がそのまま身体に出る。

 

言葉遣いは少し荒く、挑発的。

だが、根は情に厚く、仲間を見捨てない強さを持っていた。

 

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■ 訓練開始

 

教育区画の中央ホールでは、働き蜂候補たちが整列していた。

天井から降り注ぐ光が、彼らのスーツを淡く照らす。

 

「働き蜂候補、訓練開始」

 

機械音声が響くと、床の紋様が光り、

訓練用の立体映像が次々と展開された。

 

「今日は、基礎動作と空間認識の訓練を行います」

 

指導役の働き蜂が、透明な羽根を揺らしながら説明する。

 

Benika が小声でつぶやいた。

 

「ふん、また退屈な訓練ね」

 

Shiraka が眉を寄せる。

「Benika、聞こえるわよ。指導役の方に失礼だわ」

 

「はいはい、優等生さんは大変ね」

 

Benika は肩をすくめたが、どこか楽しそうだった。

 

Mio は二人のやり取りを見て、くすりと笑った。

「二人とも……仲良しだね」

 

「仲良しじゃないわよ!」

Benika が即座に反応する。

 

Shiraka はため息をついた。

「Mio、誤解よ。Benika はただ……少しだけ素直じゃないだけ」

 

「ちょっと! それどういう意味よ!」

 

三人の声が重なり、周囲の候補生たちが振り返る。

指導役が軽く咳払いをした。

 

「そこの三名。訓練に集中してください」

 

「す、すみません……!」

Shiraka が深く頭を下げる。

 

Benika は舌打ちしながらも、姿勢を正した。

Mio は小さく頷き、視線を前に向けた。

 

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■ 空間認識訓練

 

訓練の第一段階は、空間認識。

立体映像が複雑な六角構造を描き、

候補生たちはその中を移動しながら、

指定されたポイントを正確に通過しなければならない。

 

Shiraka は迷いなく動いた。

「次は右上……その次は左下……」

 

彼女の動きは美しく、正確で、

まるで光の中を舞う蝶のようだった。

 

Benika は勢いよく飛び込んでいく。

「こんなの、スピード勝負でしょ!」

 

彼女は大胆にショートカットし、

立体映像の隙間をすり抜けていく。

危なっかしいが、誰よりも速い。

 

Mio は――

ゆっくりと、しかし確実に進んでいた。

 

「……ここ……じゃない……?」

 

彼女は立体映像の“揺らぎ”を感じ取るように、

目を細めて動いた。

 

その瞬間、映像がわずかに歪んだ。

 

「え……?」

 

Mio の視界に、

ほんの一瞬だけ“別の映像”が重なった。

 

未来の断片――

まだ誰も通っていないルートを、

Shiraka が通過する姿。

 

「Shiraka……そこ、危ない……!」

 

Mio が叫んだ。

 

Shiraka は驚いて足を止める。

その直後、立体映像の一部が不安定になり、

光の壁が弾けるように崩れた。

 

Benika が目を見開く。

「ちょっと……今の、何……?」

 

指導役が駆け寄る。

「Shiraka、怪我はありませんか?」

 

「だ、大丈夫です……でも、どうして……?」

 

Shiraka はMioを見つめた。

Mioは胸を押さえ、震える声で答えた。

 

「わからない……でも、見えたの……

 Shirakaが、そこを通る未来が……」

 

Benika が息を呑む。

「未来……? あんた、何言って……」

 

だが、Mio の瞳は真剣だった。

光を映すだけでなく、

光の“向こう側”を見ているような深さがあった。

 

指導役は眉をひそめ、

Mio のタグ番号を確認する。

 

「M-03……あなたは、以前から異常値が報告されていましたね」

 

Mio は不安そうに頷いた。

 

「……わたし、どうなっちゃうの……?」

 

Shiraka がそっと手を伸ばす。

「大丈夫よ、Mio。わたしたちがいるわ」

 

Benika も、視線をそらしながらつぶやいた。

「……そうよ。あんたが変でも……仲間でしょ」

 

Mio は二人の手を握り返した。

その瞬間、巣の光がふわりと揺れた。

 

まるで、三人の絆を祝福するかのように。

 

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■ 巣の囁き

 

訓練が終わり、三人は休憩区画に向かった。

透明な壁の向こうには、巣の心臓部が淡く光っている。

 

Mio はその光を見つめ、

胸の奥に広がるざわめきを感じていた。

 

「……また、何かが見えそう……」

 

Shiraka が心配そうに寄り添う。

「Mio、無理しないで」

 

Benika は腕を組み、

「でもさ、未来が見えるって……すごいことじゃない?」

とつぶやいた。

 

Mio は首を振る。

「すごくなんかないよ……怖いの。

 見たくないものまで、見えてしまいそうで……」

 

巣の光がまた揺れた。

まるで、Mio の言葉に応えるように。

 

Shiraka はMioの手を握り、

Benika はそっぽを向きながらも近くに立った。

 

三人の影が、六角の壁に重なり合う。

 

その影は、まだ小さく、頼りない。

だが、確かに未来へと伸びていた。

 

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