---
巣の朝は、いつもより静かだった。
教育区画の廊下を満たす光の繊維は、普段よりもゆっくりと脈動し、
まるで巣全体が息を潜めているように見えた。
「今日が……選別の日、なんだよね」
Mio が胸元を押さえながらつぶやく。
銀色の髪が光を受けて揺れ、瞳はどこか不安げだった。
「ええ。第一次選抜。働き蜂候補の中から、女王候補が選ばれる日よ」
Shiraka は姿勢を正し、淡い金色の瞳で前を見据えていた。
儀式服の白が、彼女の整った立ち姿をさらに際立たせる。
Benika はというと、儀式服の襟を乱暴に引っ張りながら文句を言っていた。
「はぁ……なんでこんな堅苦しい服着なきゃいけないのよ。
動きづらいったらないわ」
「Benika、今日は儀式なんだから……」
Shiraka が苦笑する。
「儀式儀式って……どうせ巣が勝手に決めるだけでしょ。
あたしたちが何しようが関係ないじゃない」
Benika の言葉は荒いが、
その指先は落ち着かず、儀式服の袖を何度も触っていた。
Mio は二人を見て、少しだけ笑った。
「二人とも……いつも通りだね」
「いつも通りじゃないわよ!」
Benika が即座に反応する。
Shiraka は肩をすくめた。
「でも、Benika が騒いでくれると……少し安心するわ」
「は? どういう意味よそれ!」
三人の声が廊下に響き、
緊張した空気が少しだけ和らいだ。
---
■ 選別区画へ
選別区画は、巣の中心に位置していた。
巨大な六角ホールの天井からは光の糸が滝のように降り注ぎ、
壁には古い記号が刻まれている。
その記号は、まるで巣の歴史そのものだった。
「……すごい……」
Mio は思わず息を呑んだ。
光の粒が彼女の髪に触れ、淡く揺れる。
Shiraka は静かに頷く。
「ここは、巣で最も神聖な場所。
選別の儀は、ここで何百年も続いてきたの」
Benika は腕を組んだまま、周囲を見回す。
「ふん……神聖だかなんだか知らないけど、
こんなに光ってたら落ち着かないわね」
だが、彼女の瞳にもわずかな畏れが宿っていた。
---
■ 儀式の開始
「働き蜂候補、前へ」
機械音声が響き、
ホール中央に巨大な六角台座が浮かび上がる。
透明な球体がいくつも浮かび、
その中で光が脈動していた。
Shiraka が小さく息を吸う。
「これが……選別装置」
Benika は眉をひそめた。
「なんか……嫌な感じがするわね」
Mio は胸の奥のざわめきを感じていた。
「……光が……呼んでる……」
「呼んでる?」
Shiraka が心配そうに覗き込む。
Benika は呆れたように言う。
「また変なこと言って……」
だが、Mio の瞳は真剣だった。
---
■ Shiraka の選別
「S-01、前へ」
Shiraka は深呼吸し、台座に立つ。
光が彼女を包み込み、球体のひとつが強く輝いた。
「分類:働き蜂候補、上位適性」
Benika が口笛を吹く。
「さすが優等生」
Shiraka は照れながら戻ってきた。
「ありがとう。でも……まだ終わってないわ」
---
■ Benika の選別
「B-07、前へ」
Benika は勢いよく台座に飛び乗った。
光が激しく揺れ、球体が赤く脈動する。
「分類:働き蜂候補、戦闘適性高」
「ふん、当然でしょ」
Benika は胸を張って戻ってきた。
---
■ Mio の番
「M-03、前へ」
その瞬間、ホールの空気が変わった。
光の糸が揺れ、
壁の記号が淡く震え、
巣全体がざわめくように脈動した。
Shiraka が不安そうに囁く。
「Mio……気をつけて」
Benika も、珍しく真剣な顔だった。
「変なことになったら、すぐ戻ってきなさいよ」
Mio は小さく頷き、
ゆっくりと台座に歩み寄った。
足元の光が、まるで彼女を導くように揺れている。
「……呼ばれてる……やっぱり……」
Mio が台座に立った瞬間――
光が爆ぜた。
---
■ 異常反応
球体のひとつが激しく脈動し、
次の瞬間、すべての球体が一斉に光り出した。
Benika が叫ぶ。
「ちょっと……何よこれ!」
Shiraka は息を呑む。
「こんなの……見たことない……!」
機械音声が警告を発する。
「対象 M-03、異常反応。
遺伝子値、規定範囲外。
分類不能――再検査を実施します」
Mio は胸を押さえ、苦しそうに膝をついた。
「……光が……流れ込んでくる……!」
Shiraka が駆け寄ろうとするが、
光の壁が彼女を弾いた。
「Mio!!」
Benika も叫ぶ。
「ふざけないでよ! 開けなさいよ!!」
だが、光はさらに強まり、
Mio の身体を包み込んだ。
Mio の瞳が淡く光り、
未来の断片が脳裏に流れ込む。
――血の匂い。
――崩れ落ちる巣。
――誰かの叫び。
――そして、自分が女王と対峙する影。
「やめて……見たくない……!」
Mio は叫び、光が弾けた。
---
■ 特別枠
光が収まると、
ホールは静まり返った。
Mio は倒れ込んでいたが、意識はあった。
Shiraka と Benika が駆け寄る。
「Mio、大丈夫!?」
「しっかりしなさいよ!」
Mio は震える声で答えた。
「……うん……でも……怖かった……」
そのとき、巣の上層から声が響いた。
「対象 M-03、特別枠に分類。
女王候補として第一次選抜に参加させます」
Shiraka が目を見開く。
「Mio が……女王候補……?」
Benika は驚きのあまり言葉を失った。
「は……? あんたが……?」
Mio は首を振る。
「わたし……そんなつもりじゃ……」
「異常値のため、特別枠として扱います」
機械音声は淡々と告げる。
「なお、対象 M-03 の未来視反応は要監視とします」
Shiraka がMioの手を握る。
「Mio……大丈夫。わたしたちがいるわ」
Benika も、そっぽを向きながら言った。
「……まあ、あんたが女王候補でも……別にいいけど。
変なことになったら、ぶん殴るからね」
Mio は弱く笑った。
「ありがとう……二人とも……」
光がふわりと揺れ、
三人の影が重なり合う。
その影は、
これから始まる運命の渦へと伸びていた。
---