精魂の巣   作:幻灯(Gentō)

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第4章 議論戦(ディベート・トーナメント)

 

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巣の朝は、いつもより張りつめていた。

教育区画の廊下を満たす光の繊維は、緊張を映すように細かく震え、

壁に刻まれた記号が淡く脈動している。

 

「今日は……議論戦の日、なんだよね」

 

Mio が胸元を押さえながらつぶやいた。

銀色の髪が光を受けて揺れ、瞳はどこか遠くを見ている。

 

「ええ。働き蜂候補の政治教育の一環。

 巣の未来をどう導くか……その考え方を試されるの」

 

Shiraka は姿勢を正し、淡い金色の瞳で前を見据えていた。

白い教育服が、彼女の整った立ち姿をさらに際立たせる。

 

Benika はというと、腕を組んだまま、

教育服の袖を乱暴に引っ張りながら文句を言っていた。

 

「議論戦ねぇ……どうせ頭のいいやつが勝つだけでしょ。

 あたしみたいなタイプには不利よ、不利」

 

「Benika、あなたは考えるより先に口が動くからよ」

Shiraka がため息をつく。

 

「はぁ? それ悪口でしょ!」

 

「事実よ」

 

「ちょっと!?」

 

Mio は二人のやり取りを見て、くすりと笑った。

「二人とも……今日も元気だね」

 

Benika が振り返る。

「元気じゃないわよ! あたしはただ……」

 

言いかけて、視線をそらした。

その横顔には、わずかな不安が滲んでいた。

 

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■ 議論戦ホールへ

 

議論戦が行われるのは、教育区画の最奥にある「思考ホール」。

六角形の巨大な空間で、天井からは光の糸が降り注ぎ、

床には複雑な紋様が刻まれている。

 

中央には円形のステージがあり、

その周囲を透明な観覧席が取り囲んでいた。

 

「……すごい場所だね」

 

Mio は思わず息を呑んだ。

光の粒が彼女の髪に触れ、淡く揺れる。

 

Shiraka は静かに頷く。

「ここは、巣の“思考の中心”。

 議論戦は、巣の未来を担う者を選ぶための儀式でもあるの」

 

Benika は腕を組んだまま、周囲を見回す。

「ふん……なんか、落ち着かないわね。

 こんなに光ってたら、集中できないじゃない」

 

だが、彼女の瞳にもわずかな畏れが宿っていた。

 

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■ 議論戦の開始

 

「働き蜂候補、前へ」

 

機械音声が響き、

ステージ中央に光の柱が立ち上がる。

 

「議題:巣の資源配分について」

 

Shiraka が小さく息を吸う。

「資源配分……難しい議題ね」

 

Benika は眉をひそめた。

「難しいっていうか……面倒くさいわね」

 

Mio は胸の奥のざわめきを感じていた。

「……光が……揺れてる……」

 

「揺れてる?」

Shiraka が心配そうに覗き込む。

 

Benika は呆れたように言う。

「また変なこと言って……」

 

だが、Mio の瞳は真剣だった。

 

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■ 第一戦:Shiraka の論

 

「S-01、前へ」

 

Shiraka がステージに立つ。

光が彼女を包み込み、

観覧席の候補生たちが静まり返る。

 

Shiraka は深呼吸し、

落ち着いた声で話し始めた。

 

「巣の資源は有限です。

 働き蜂、雄蜂、女王候補……

 それぞれが必要な量を正確に把握し、

 無駄なく配分することが重要です」

 

彼女の声は澄んでいて、

言葉はまっすぐに響いた。

 

「特に、育成層への資源配分は慎重であるべきです。

 未来を担う子らのために、最適な環境を整えること……

 それが巣全体の繁栄につながります」

 

Benika が小声でつぶやく。

「……相変わらず、完璧ね」

 

Mio は微笑んだ。

「Shirakaらしいよね。優しくて、まっすぐで」

 

Benika はそっぽを向く。

「別に褒めてないし」

 

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■ 第二戦:Benika の論

 

「B-07、前へ」

 

Benika は勢いよくステージに飛び乗った。

光が激しく揺れ、観覧席がざわつく。

 

「資源配分? そんなの簡単よ」

 

Benika は腕を組み、堂々と言い放つ。

 

「必要なところに、必要なだけ回せばいいの。

 働き蜂が足りなきゃ、働き蜂に。

 戦闘が必要なら、戦闘部隊に。

 巣を守るために、最優先すべきは“力”よ」

 

Shiraka が眉を寄せる。

「Benika、それは……」

 

Benika は続ける。

「綺麗ごとじゃ巣は守れないわ。

 外敵が来たらどうするの?

 資源が足りなきゃ、誰が戦うの?」

 

彼女の声は荒いが、

その奥には確かな“現実”があった。

 

Mio は胸がざわつくのを感じた。

Benika の言葉が、光の揺らぎと重なって見えたのだ。

 

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■ 二人の対立

 

議論が進むにつれ、

Shiraka と Benika の意見は激しくぶつかり合った。

 

「力だけでは巣は成り立たないわ」

「理想だけでも守れないでしょ!」

 

「未来を見据えた配分が必要なの」

「今を守れなきゃ未来なんて来ないわよ!」

 

二人の声がホールに響き、

光の糸がざわめくように揺れた。

 

Mio は胸を押さえた。

「……やめて……二人とも……」

 

Shiraka が振り返る。

「Mio……?」

 

Benika も眉をひそめた。

「どうしたのよ、急に……」

 

Mio の瞳が淡く光った。

 

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■ 未来視の断片

 

光が揺れ、

ホールの景色が歪んだ。

 

――血の匂い。

――崩れ落ちる壁。

――Shiraka の叫び。

――Benika の倒れる影。

 

「やめて……見たくない……!」

 

Mio は叫び、膝をついた。

 

Shiraka が駆け寄る。

「Mio! 大丈夫!?」

 

Benika も、驚いたように声を上げた。

「ちょっと……何が見えたのよ!」

 

Mio は震える声で答えた。

 

「……二人が……争って……

 その先に……悲しい未来が……」

 

Shiraka と Benika は顔を見合わせた。

その瞳には、言葉にできない不安が宿っていた。

 

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■ 議論戦の終わり

 

機械音声が響く。

 

「議論戦、終了。

 評価は後日発表します」

 

候補生たちがざわつきながら退場していく中、

三人はその場に立ち尽くしていた。

 

Shiraka が静かに言う。

「Mio……あなたの未来視は……本物なのね」

 

Benika は腕を組み、そっぽを向いた。

「……あたしは信じないわよ。

 でも……あんたが泣きそうな顔してるのは……嫌いじゃない」

 

Mio は二人の手を握った。

「……二人が争う未来なんて……絶対に嫌だよ」

 

光がふわりと揺れ、

三人の影が重なり合う。

 

その影は、

これから訪れる運命の渦へと伸びていた。

 

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