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巣の深層へと続く通路は、教育区画とはまったく違う空気をまとっていた。
光の繊維は細く、脈動はゆっくりで、
まるで眠っている巨人の呼吸のようだった。
「ここ……いつもと違う匂いがする……」
Mio が鼻先をかすかに動かす。
銀色の髪が揺れ、瞳はどこか怯えたように揺れていた。
「旧女王の記録層よ」
Shiraka が静かに答える。
「巣の歴史、そして……前の女王の“記憶”が保管されている場所」
Benika は腕を組んだまま、眉をひそめた。
「記憶って……そんなの残してどうするのよ。
死んだ女王のことなんて、もう関係ないじゃない」
「関係あるわ」
Shiraka はきっぱりと言った。
「巣は“継承”で成り立っているの。
前の女王が何を見て、何を選んだのか……
それが次の世代に影響するのよ」
Benika は舌打ちしたが、
その瞳にはわずかな興味が宿っていた。
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■ 記録層の扉
三人の前に、巨大な六角形の扉が現れた。
透明合金でできているはずなのに、
その奥はまったく見えない。
「……開くのかな」
Mio がつぶやいた瞬間、
扉の表面に刻まれた記号が淡く光り始めた。
「対象 M-03、認証完了。
特別枠の女王候補として、記録層への入室を許可します」
Benika が目を見開く。
「ちょっと……なんであんたが認証されるのよ」
「わ、わたしにも……わからないよ……」
Mio は胸を押さえた。
ざわめきが強くなる。
光が揺れ、視界が歪む。
Shiraka がMioの肩に手を置く。
「大丈夫。わたしたちも一緒にいるわ」
Benika も、そっぽを向きながら言った。
「……置いていくなんて、許さないからね」
扉が静かに開いた。
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■ 旧女王の記憶
中は広大な空間だった。
天井は高く、光の糸がゆっくりと降り注ぎ、
床には無数の六角パネルが並んでいる。
そのひとつひとつが、
旧女王の“記憶”を保存していた。
「……ここが……旧女王の……」
Mio の声が震える。
Shiraka は周囲を見渡しながら言った。
「記録層は、女王候補だけが入れる場所。
本来なら、Mio はここに来る資格はなかったはずなのに……」
Benika が眉をひそめる。
「異常値のせいで、特別扱いってわけね。
ほんと、巣ってのは勝手よね」
Mio は返事をしなかった。
光の揺らぎが、胸の奥のざわめきと共鳴していた。
「……何かが……呼んでる……」
「またそれ?」
Benika が呆れたように言う。
だが、Shiraka は真剣な顔だった。
「Mio の未来視は本物よ。
ここで何かを“見せられる”のかもしれないわ」
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■ 記憶の発動
Mio が一歩踏み出すと、
足元の六角パネルが淡く光った。
「……っ!」
光が弾け、
空間が歪む。
三人の視界に、
別の景色が流れ込んできた。
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■ 旧女王の影
そこは、巨大な巣の中心だった。
黄金の羽根を持つ女王が、静かに立っている。
「……旧女王……?」
Mio がつぶやく。
Shiraka は息を呑んだ。
「これが……記憶……?」
Benika は眉をひそめた。
「なんか……嫌な感じがするわね」
旧女王は、誰かに語りかけていた。
『巣は……揺らいでいる……
未来が……見えない……』
その声は、どこか悲しげだった。
『選ばれし子らよ……
お前たちの中から……
新たな女王が生まれる……』
Mio の胸が強く痛んだ。
「……わたし……?」
旧女王の視線が、
まっすぐにMioを見つめた。
『未来を視る者よ……
お前は……巣の“影”を見るだろう……』
「影……?」
視界が揺れ、
別の映像が流れ込む。
――崩れ落ちる巣。
――血の匂い。
――Shiraka の叫び。
――Benika の倒れる影。
――そして、自分が女王と対峙する姿。
「やめて……やめて……!」
Mio は叫び、膝をついた。
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■ 現実へ
光が消え、
三人は記録層に戻っていた。
Shiraka が駆け寄る。
「Mio! 大丈夫!?」
Benika も、驚いたように声を上げた。
「ちょっと……何が見えたのよ!」
Mio は震える声で答えた。
「……巣が……壊れる未来……
そして……二人が……」
Shiraka と Benika は顔を見合わせた。
その瞳には、言葉にできない不安が宿っていた。
「そんな未来……絶対に来させないわ」
Shiraka が強く言う。
Benika も、拳を握りしめた。
「そうよ。未来なんて、あたしたちがぶっ壊してやるわ」
Mio は二人の手を握った。
「……ありがとう……二人とも……」
光がふわりと揺れ、
三人の影が重なり合う。
その影は、
これから訪れる運命の渦へと伸びていた。
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