呪術廻戦リリカルなのは   作:織姫ミグル

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第十二章

 

 

「宿儺の器の捜索って············交流会の時とは真逆のことをしてるわね」

 

「私的には血生臭い呪霊退治の任務じゃないから嬉しいですけどね··········だとしても、疲れた〜」

 

 

二日目。

 

地上は真っ白に目が眩むほどに晴れ渡っていた。

 

関西にある街中に呪術高専の姉妹校の生徒、京都校に在籍している二人の三級術師が歩いていた。

 

呪術界御三家の一つである禪院家の生まれで足が長いスタイル抜群の美少女の“禪院真依”と、高校生だというのにスカートだと居合いが取れない為なのかパンツスーツを着こなす水色の髪がチャームポイントの“三輪霞”

 

二人も呪術師である以上は例の任務を請け負っているはずだ。

 

そう。

 

宿儺の器、虎杖悠仁の捜索だ─────なのに、何故か二人はお気楽にカフェで休日を満喫しているご様子だった。

 

迷子を捜す、と息巻いている二人だったが、どうも長時間歩いている内に足が痛くなってしまったらしく、三輪はテーブルに突っ伏してグターッとしている。

 

真依は真依で、店の名物である大型パンケーキに夢中だ。

 

 

「疲れたとはいえ、迷子になっている虎杖悠仁を探さず、こんなところで呑気に休んでても大丈夫なんでしょうか」

 

「ま、大丈夫なんじゃない? 私達が休んでても他の術師が今必死になって探してるんだし」

 

「でも─────」

 

「それに、“アイツ”が今一番必死になって虎杖を探しまくってるしね。行方不明と聞いてからずっと戻らず休みもせずにあちこち探し回ってるそうよ」

 

「あぁ〜、そういえば今日“あの人”見てないですもんね。今どこにいるんだろ?」

 

「さあ? でも脳筋のお手本みたいな“アイツ”のことだから、むしろ“アイツ”が迷子になってる可能性も─────」

 

 

その時。

 

ブゥラァザァァァアアアアア!! という謎の音が二人の耳に入ってきた。

 

そちらを見てもそこにはもう何もなく、結局何だったのか分からなかったが、どうも改造バイクのようなものがすごい勢いで走ったのだろう、と勝手に結論付けた。

 

 

「昼間っから一体何考えてるんですかね。警察もああいう暴走族をしっかり取り締まってくれないと」 

 

「本当に迷惑よね。ああいうのかっこいいとか思ってるのかしら」

 

 

二人は呆れたように言ったものの、実はあれ乗り物ではなく一つの人影だったのだが、そんなことを気になる素振りもなく引き続きカフェでのティータイムを楽しむ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

『えぇ、今年の渋谷のハロウィンも混雑が予想されます。去年だけでもおよそ一万八千人が訪れており、人気の待ち合わせスポットであるハチ公前も混雑と混乱を避けるために封鎖をして対策を─────』 

 

 

家電量販店のウィンドウに並べられたテレビから、いかにもな時事ニュースが流れる昼下がり。 

 

京都校三年の二人の術師は並んで歩き、彼らもまた虎杖悠仁の捜索にあたっていた。 

 

 

「まさか、殺そうとしていた相手を探すことになるなんてね」

 

「あぁ、思ってもみなかったな」

 

 

魔女のような格好で俵のようなツインテールが特徴的な小柄の少女である“西宮桃”と、御三家の一つ加茂家の出身で糸目の男の“加茂憲紀”。

 

 

「しかし、確かに宿儺の器が行方不明なのは由々しき事態だ。加茂家嫡流としても見過ごせん」

 

 

加茂は呪術界を牽引する御三家嫡流としての矜持の高さから、厳粛なる秩序を重んじ、礼儀正しく落ち着いた振る舞いをする一方で非情な判断も厭わない性格の持ち主だ。

 

故に。

 

 

「上空からの索敵が特化している私の術式なら一気に広い範囲を捜せるのに」

 

「何度も言ったが、それはダメだ。帳のないところで術式を使ってるところを一般人に見られたりしたら後々面倒なことになるからな」

 

「相変わらず頭が固い」

 

 

頬をわずかに膨らませて不貞腐れる西宮。

 

小柄で幼さが残る可愛らしい外見をしていて、実は彼女は日本人しか呪術師がいないこの世の中で数少ないアメリカ人の呪術師の父の血を引き継いでいるため、ハーフのレアな呪術師である。

 

可愛いが正義と思っている彼女も、怒るとかなりガラが悪くなる。

 

堅物な加茂の指示に、ついため息を吐く西宮。

 

それからしばらく歩き続け、結局虎杖の影すら見つけられなかった西宮は、もうさっさと何の成果も得られませんでしたと報告した方が手っ取り早そうだ、と考え始めたところ、

 

 

『渋谷駅前のスクランブル交差点では、仮装した若者らで混雑し、警視庁の機動隊員や通行人を誘導するDJポリスの増員を検討していると述べ、騒音を出す恐れのある車などを検問も行う予定とのことです。更なる混雑が予想される渋谷ハロウィン当日は、路上飲酒を控えさせるために店舗にも酒類の販売自粛を要請し─────』

 

「そういえばもうすぐだね············渋谷ハロウィン」

 

「あれの何が楽しいのか、私にはさっぱり理解できん」

 

「まあ、普通の人は近づかないイベントだしね。あまり気にしなくても良さそうだけど、こういうところだったら私も特に目立つことはなさそうだよね」

 

「魔女のコスプレでもするつもりか? 言っておくが術式の使用は許されないぞ。たとえ違和感がなかったとしてもだ」

 

 

一瞬、西宮は誰がそこまで言ったメンドクサと思ってしまった。

 

と、その時だった。 

 

西宮のポケットからスマホの着信音が鳴り響いた。 

 

手に取って画面に目をやれば、どうやらメールが着信したようなのだが。

 

 

「············“メカ丸”から?」 

 

 

思わずスマホを開いてしまったのは、珍しく後輩の“メカ丸”からメールが送られてきたからだ。

 

アイツはとある事情で表を歩けないからロボの体を使っているのだが、遠隔で操作しているためか電話を使うことのほうが多い。メールで文字を打って連絡するよりも口で言ったほうが早いという考えを持つ彼が、珍しくメールで連絡してきた。

 

内容を確かめようとして画面を凝視してしまう西宮。 

 

歩きスマホは危険だと注意しようとして加茂が声をかけようとしたところ、

 

 

ブゥラァザァァァアアアアア!! と。 

 

 

彼らの目の前を、全速力の何かが横切っていく。 

 

凄まじい突風に西宮はスカートを押さえ、加茂は細かった目を開いた。 

 

が、その時にはもう何もない。 

 

着信がなく、そのまま前を進もうとしていたらどうなっていた事か。

 

そう思う前に、二人は顔を見合わせ、

 

 

「ねぇ···········今のって」

 

「気のせいだ」

 

「え、でも─────」

 

「気のせいだ」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ブゥラァザァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」

 

 

我ながら変態じみた叫び声だと思いつつも、そいつは凄まじい速度を止めようとしない。 

 

もうかれこれ数百キロ近く走り回っているのに、全然疲れていないご様子。

 

アスリートでもマラソン大会出場を目指す人でもそこまで走れる奴なんていない。自身の体力や体調に合わせて、無理のない範囲で距離を設定したとしても、どこか良いタイミングで休憩を挟まなければ人間は過労死する。

 

何より、秋頃とはいえまだ残暑の光が照らす太陽の下を走り回るなんて自殺行為だ。

 

だが気にしない。

 

昼夜問わず彼は走り続ける。

 

交流会で、親友を超えて兄弟の契りを(一方的に)交わした男、“東堂葵”は道行く人達を引き裂くように街を突っ走る。 

 

 

「どこへ行ってしまったんだ虎杖(ブラザー)ッ!? 俺を置いて一人にするなんて、お前はそんな男ではないはずだ!! そうだろブラザァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!???」

 

 

走りつつ、いなくなってしまったマイブラザーへの熱い想いを語る東堂。

 

 

「俺との約束はどうする気だ!? 高田ちゃんのライブを一緒に行くと約束しただろ!? ブラザァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!???」

 

 

存在しない記憶を思い出して捜すその姿はどこか滑稽だった。

 

元々、東堂はケンカが強く、体力も並外れているため長距離走はお手のもの。虎杖を探し求めて表通りと裏路地を交互に縫い走り、見た目はパルクールのようなアクロバティックな姿を見せつけながら、そして綺麗なフォームで走り続ける。

 

 

「絶対に見つけてみせるぞ!! マイブラザァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」

 

 

叫びながら東堂は人混みの中に消えていく。

 

そんな中。

 

一般人から通報を受けたパトカーが高い警報音を辺りに響かせて『ハイちょっと止まりなさいそこの高校生。法定速度違反と騒音規制法違反のダブルパンチで連行案件ですー』というアナウンスが聞こえてくる。

 

乗っている二人の警察官は、迅速に変質者の捕縛を開始する。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「管理局の管理を受けている世界の書籍やデータが全て収められた、超巨大データベース」

 

「いくつもの歴史が丸ごと詰まった、言うなれば世界の記憶を収めた場所」

 

「それがここ······無限書庫」

 

 

無重力空間。

 

通路が弧を描くように設置されていて、リーゼ達は逆さまに浮かんでいる。四方の壁は全て本棚で埋め尽くされ、本棚の隅々まで本で満たされたこの広大な空間にユーノは既に適応したように無重力の中を泳いでいた。

 

 

「とはいえ、中身のほとんど全てが未整理のまま」

 

「ここでの探し物は大変だよ?」

 

「本来ならチームを組んで、年単位で調査する場所なんだしね」

 

 

取り囲む膨大な情報量、その結晶である書物達に目を眩ませることが多いと思うが、ユーノは心配なさそうに言う。

 

 

「過去の歴史の調査は、僕らの一族の本業ですから。検索魔法も用意してきましたし、大丈夫です」

 

「そっか、君はスクライアの子だっけね」

 

「私もロッテも仕事があるし、ずっとっていうわけにはいかないけど、なるべく手伝うよ」

 

「可愛い愛弟子、クロ助の頼みだしね!」

 

 

ユーノは頷く。

 

薄々気付いてはいたが、ここにある書物のほとんどはダミーである可能性が高い。大体この部屋で全ての世界のことを知れるなら、そもそもこんな空間自体存在しているはずもない。おそらくトラップとして用意されたダミー解答として残されているはず。正しい解読方で読まなければ真実には辿り着けない。

 

間違った解読法でも一応は文章として読める形には工夫されている。だからこそ、間違った解読法を編み出しても、それが正解だと思い込んでしまう。

 

それでもユーノは何の心配もなさそうだった。

 

膨大な情報量を全て読み込み、正しい正解へと導く術を知っている。

 

地球で言うと基本はテムラ法、つまり文字置換法ではあるが、変則ルールとして行数が深く関わる。ユーノはまず『闇の書』という単語から検索し、それを魔法で念じることで本が勝手に本棚から取り出され、自動でページが開かれる。ユーノはそれに坐禅するようにして頭の中では誰にも解読できない内容が次々と繙かれ、それは最強の兵器の設計図として組み直されているはずだ。

 

行数文字置換パターンを駆使して変換された文節を今度はページ数に合わせて並び替える。そうすることによってようやく正解の一つの文章が出来上がる。

 

たったの数分。

 

それだけの時間でユーノは『とある真実』へと辿り着く。

 

 

「······『()()()()()()』·······」

 

「は?」

 

「え?」

 

 

リーゼ達はユーノのその一言に首を傾げるが、彼は重たい声で告げる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

なのはは真正面から突っ込んでくる虎杖に合わせてレイジングハートで迎撃しようとする。模擬戦のため相手を傷つけないよう非殺傷設定にされているが、彼女の莫大な魔力の渦に呑み込まれたらどれだけ頑丈だろうとすぐに戦闘不能にされてしまうだろう。

 

 

『Divine Shooter』

 

 

なのはの周囲にピンク色のスフィアが現れる。

 

弾数はほぼ無限、それらが一斉に虎杖に向けて放たれた。

 

 

「シュート!」

 

 

ビュン!! という風を切る音が響いた。しかしそれはなのはが放ったディバインシューターの音ではない。

 

 

虎杖の体が真上に三メートルも飛び上がった音だった。

 

 

下や左右でもなく、上へ避ける。彼の持ち前の身体能力なのだろう。だとしても何という反射神経なんだ。銃弾並みの速度でいくつものスフィアを放ったというのにカスりもしなかった。杖を振りかざして空振りしたなのはに飛び蹴りのカウンターが襲いかかった。

 

 

「レイジングハート!」

 

『Protection』

 

 

ガン! という鈍い音と共に彼女が展開した防御壁に虎杖の蹴りが阻まれる。彼は信じていた、彼女が防いでくれると。だから遠慮せず虎杖はまだ小さな少女に飛び蹴りをわざとらしく放った。それを確認した虎杖は空中で後方転回し地面に足をつけようとする。

 

好都合だ。

 

躱されたとはいえ、受け身が取れない空中ならば体制を崩せる。

 

ならば狙うのは着地の瞬間。

 

いくら反射神経がよくても、人の体は重力に逆らえない。虎杖が着地するタイミングを見計らい、なのはは防御を保ったままディバインシューターで空振りしたスフィアを引き戻す。

 

間違いなく姿勢を整える前に虎杖を捉える軌道で彼の背後を取り、そのまま撃墜する。

 

はずだった。

 

 

「え!?」

 

 

まるで新体操選手の如く、虎杖は両足を水平まで広げて地に足を着けた瞬間に地面に伏せてディバインシューターのスフィアを回避してみせた。あまりにもトリッキーな回避、彼の体は頑丈なだけではなく柔らかかった。明らかに取れたと思ったのに、それはまだ相手をしたこともないなのはにとって対応できるものではなかった。

 

引き戻したディバインシューターが虎杖の上を通過してなのはの防御壁に激突する。念のため防御を展開していたのが良かったようだ。しかし、自爆したなのはの周囲に爆炎が広がる。

 

視界を奪われた。

 

外れたディバインシューターの余波で演習場の地面の破片が空中に舞う。左手で展開していた防御壁で石の嵐が体に届くことはなかったが、これで少女の視界を奪った。

 

石の嵐の中を突っ切って、虎杖は再度なのはの懐へ走り込んでくる。

 

なのはは虎杖のその手を届けまいと杖を振るって叩き落とそうとしたところで、唐突に虎杖が虚空へ消えた。

 

膝抜き。

 

古武術において予備動作を消す技術。虎杖は膝のみならず股関節、肩と力を抜いていき当たるより滑らかになのはの足元へ移動。そのままアメンボの体制で地面を滑り、なのはの腿を払い、姿勢を崩す。その勢いのまま襟を捕まれて、なのははあっさりと地面に引きずり下ろされる。

 

そして、ポン、と虎杖は無防備ななのはの頭に掌を乗せる。

 

 

「はい、俺の勝ち」

 

 

ニッ! と勝ち誇った虎杖の笑顔。

 

体制を崩されたなのはの横でヤンキー座りをして見下ろしている虎杖。彼は立ち上がるとなのはに手を差し伸べる。それになのはが手を取り虎杖の力を借りて立ち上がると、少しへこんだ表情を見せている。

 

気のせいか、なのはのそんな心情を表すように彼女のチャームポイントとも云えるツインテールが下へと垂れ下がっているようにも見える。

 

なのはは低い声で、

 

 

「自信あったんだけどなぁ~」

 

「あぁ、俺も少しヒヤッとした時もあったよ。けどいい訓練になった。ありがとな、なのは!」

 

 

笑顔でそう答える虎杖。なのははそんな彼に苦笑いでしか返せなかった。悔しいという感情があるのかもしれない。彼女はまだ幼い。感情の抑え方がまだ未成熟の状態だ、仕方ないのかもしれない。

 

だからなのはもその悔しさを胸に抱き、こう答える。

 

 

「次は勝つよ悠仁君!」

 

「応! いつでも相手になるぜ!!」

 

 

ピピッ、という電子音が演習場に響く。

 

設けられた制限時間の最後通牒。一分間、六◯秒が経過したという機械的な合図。示された意味は、勝負あり。

 

結果、模擬戦は虎杖の勝ちで終わった。

 

 

『勝者、虎杖君! 二人とも一回戻ってきて~!!』

 

 

エイミィによる勝ち名乗りは元気一杯なものだった。

 

マンションの一室に用意された仮想空間の演習場。別空間にいるエイミィの声が聞こえてきた二人は、そのままこの空間から出るためのドアのレバーハンドルに手を掛ける。

 

次回の勝負はお預けだ。

 

なのははレイジングハートを待機状態の宝石へと戻すと、纏っていたバリアジャケットから私服へと戻る。

 

二人はそのまま演習場を後にした。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「お帰り二人とも!」

 

「オッス! ただいま!!」

 

 

そう言って虎杖はエイミィのハイタッチをする。エイミィは居間にて虎杖となのはの模擬戦を観覧しており、勝負が決したのを見計らって二人に戻ってくるようにマイク越しに伝えた。

 

エイミィがここに戻ってきているということは、おそらく一緒に出掛けたフェイトも戻ってきているということだろう。学校帰りにフェイトはリンディに連れられ、携帯電話を買いにいくと言っていた。そのついでに夕飯の買い出しに出掛けているエイミィを拾って帰るとも聞いていたので、虎杖はエイミィから台所へと視線を移す。

 

そこには、夕飯の食材をビニール袋から出して冷蔵庫へ運んでいるフェイトがいた。

 

虎杖となのはの視線に気付いたフェイトが声をかけてくる。

 

 

「おかえり、なのは、悠仁」

 

「おう、フェイトもおかえり!!」

 

「フェイトちゃん、携帯電話無事に買えた?」

 

「うん、ほら!」

 

 

なのはの質問にソッと携帯を見せるフェイト。彼女らしく黒色に染まったガラケー。契約済みのため携帯電話には電話番号が入っているはずだ。

 

 

「え! 何番!?」

 

「えっとね、これ!」

 

 

ボタンを操るフェイトは自分の着信番号を見せる。虎杖はスマホで異世界の携帯電話のためここでは使えないからそれを見せられても意味がないが、それを見たなのははすぐさまポケットからピンク色のガラケーを取り出し、連絡先にフェイトの電話番号を入力する。

 

ついでにメールアドレスも登録。

 

二人とも楽しそうにしているのを横目に、虎杖も台所に移動し夕飯の食材を冷蔵庫に仕舞っていく。エイミィも虎杖と同様、途中でやめていた作業に取りかかる。

 

エイミィが虎杖にカボチャを預けると、

 

 

「そういえば、艦長はもう本局に出かけちゃったフェイトちゃん?」

 

「うん、アースラの武装追加が済んだから試験航行だって。アレックス達と」

 

「武装っていうと······『アルカンシェル』か。はぁ、あんな物騒な物、最後まで使わずに済めばいいんだけど」

 

 

エイミィは虎杖にカボチャを預けたまま何故かそれを撫でる。冷蔵庫へ入れるタイミングを失った虎杖はどうしたら良いかわからず、持ったままの状態で棒立ちしている。

 

『アルカンシェル』

 

管理局の大型航行艦に搭載されている魔導砲。

 

艦船武装の中でも屈指の殲滅力を誇り、打ち出される弾自体に威力はほとんどないのだが、着弾後一定時間経過して発生する空間歪曲と反応消滅で対象を殲滅する物騒な代物。

 

まさに切り札。

 

しかしその効果範囲は実に数百キロに及び、特定の条件下でのみ発射の許可が下りる。よって普通は使われないのだが、もしものことがあっては困るので念のため搭載されている。あくまでもあれは最終手段。使われないことを願うばかりだ。

 

 

「クロノ君もいないですし、戻るまではエイミィさんが指揮代行だそうですよ?」

 

 

そしてなのはもエイミィに話す。

 

現在司令部に責任者となる者はいない。リンディ提督はアースラの試験航行、クロノはユーノと共に本局に出向いている。現時点で二人に次ぐ偉い人材と言えば執務官補佐兼アースラオペレーターのエイミィだけなので、必然的に彼女がここの責任者だ。

 

なのはとフェイトの二人に任せるのは流石に論外だ。嘱託とはいえ民間協力者で、しかもまだ幼すぎる。そんな彼女達が現場の指揮を取るなんてことできるわけがない。

 

虎杖に至っては魔法についてほとんどなにも知らないので、何をどうしてどうすれば良いのかわからない。

 

よって、全ての責任はエイミィへと引き継がれる。

 

 

『責任重大!!』

 

 

リビングでビーフジャーキーを噛みながら寝そべっている小犬形態のアルフが他人事のように念話でそう呟くが、虎杖には聞こえていないためエイミィが独り言のように喋る。

 

 

「それもまた物騒な······まあ、とはいえ、そうそう非常事態なんて起こる訳が────」

 

 

そう言って虎杖から撫でていたカボチャをボーリングの球のように持ち上げると、

 

 

四角い居間のスペースが真っ赤に染まった。

 

 

断続的に瞬く赤い警告色が莫大な音と共に空間を照らす。赤い光の正体は、空中に表示されたモニターに映し出されている無数の警告信号だ。つまり現在それだけの異常事態が世界のどこかを蝕んでいるという証拠。

 

喜怒哀楽のどれも当てはまらない説明不能の表情を浮かべるエイミィは、思わずカボチャを床に落とす。

 

あまりにも早いフラグ回収。

 

それに虎杖も、開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

もはやそのマンションには不似合いな大型モニタが複数搭載された薄暗い部屋へ移動したエイミィ達は、異常事態の信号がどこから流れてきているのかチェックしていた。

 

キーボードを叩くと同時、エイミィは無数の操作命令を飛ばしていた。各自に設置されている駐屯所にいる管理局局員達へと接続する。 

 

エイミィはすぐに現状把握に務める。

 

 

「文化レベルゼロ。人間は住んでない、砂漠の世界だね」

 

 

映っていたのは守護騎士達の将シグナムと盾の守護獣ザフィーラだ。彼女らはその世界に住む魔法生物達から魔力を蒐集していたみたいである。管理局の目を避けるために文化レベルゼロの世界を転々としていた守護騎士達だったが、運悪く管理局の監視網に引っかかったようだ。

 

 

「結界を張れる局員の集合まで最速で四十五分。う~ん、まずいなぁ」

 

 

流石に時間がかかりすぎる。そうこうしている内に彼女らは魔法生物から魔力を蒐集してまた何処かへと消え去ってしまうだろう。

 

折角掴んだチャンスを取り逃すわけにはいかない。

目の前にある好機を無駄にするわけにはいかない。

 

闇の書の完成に着実と近づきつつあるこの状況を防がなくてはならない。完成は世界の終わりを意味する。それで人の命が失われるなんてことあってはならない。

 

しかし、間に合わない。

 

現場の総指揮を任されているエイミィが頭を悩ませていると、

 

 

「エイミィ、私が行く」

 

「アタシもだ」

 

 

フェイトとアルフがそう言ってくる。

 

確かに、彼女達が一番適任かもしれない。二人は彼女らと戦い合っている。しかし、彼女らを前線に出しても良いものか。

 

迷う。

 

もしここにリンディ提督とクロノがいたら、二人ならどう指示していただろうか。そう考えてしまう。だがしかし、彼女らの戦法をよく知る二人が最適な人材なのは間違いない。そもそも向かえる局員がいないのもまた事実であった。たとえ向かったとしても、ランクの低い人材故に即座に倒され魔力を蒐集される可能性がある。

 

だが、このまま悩んでいるわけにはいかない。こうしている間にも彼女らを逃がしてしまう可能性がある。

 

強い彼女達ならまず任せても心配ないだろう。

 

悩むに悩んだ末、エイミィは頷く。

 

 

「······うん、お願い」

 

「うん」

 

「おう!」

 

 

そしてエイミィは反対側にいるなのはと虎杖に指示をする。

 

 

「なのはちゃんと虎杖君はバックス、ここで待機して!」

 

「はい」

 

「押忍!!」

 

 

念のため後衛として控えることになったなのはと虎杖。他の二人、ヴィータとシャマルがどこかのタイミングで参戦してくる可能性も考慮し、二人の出番はもうしばらくお預けということにする。

 

ヴィータが来た場合、接近戦に強い彼女には遠距離攻撃が得意ななのはをぶつける。なのはとヴィータは共に戦法を知っているはず、互角になるとはいえ空中戦を強いられる以上、虎杖の投入は難しい。

 

しかし、虎杖は彼女らにとって天敵である。

 

魔力がカラカラのため闇の書に蒐集されることはない。何より彼の戦闘能力は人間の域を越えている。先程のなのはとの模擬戦でも時間制限やハンデがあったとはいえ虎杖が勝った。それに彼には非魔導師用のデバイスを持たせている。いざとなれば彼を投入する。

 

温存する切り札。

 

それがなのはと虎杖だ。

 

それを理解した二人はエイミィの指示に従い、ここで待機する。

 

そしてフェイトは一度自室に戻ると、予めセットしてあったスピードローダーのカートリッジを手に取り、愛機のバルディッシュに指示をする。

 

 

「行くよ、バルディッシュ」

 

『Yes sir』

 

 

準備は整った。

 

リンディ提督とクロノ執務官という責任者となる者が不在の中緊急事態の対応に追われても、フェイト達は焦ることなく冷静に判断し、標的を捕縛すべく現場へと出向く。 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

一方、その頃。

 

 

「ブラザァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」

 

『いい加減止まれやコラ馬鹿ガキ!!』

 

『ちょっ······先輩!?』

 

 

かれこれ一日中追いかけ回しても捕まえられないのか、パトカーに乗ってる警察官はついにキレ出す。

 

顔に傷痕がある銀髪頭の先輩は、鬼をも殺しそうな表情で東堂を追いかける。

 

そんな警察らしからぬ言動をした先輩の隣に座る警察官。彼と同じく顔に傷跡があるツーブロックの警察官は先輩を宥めようとしているものの、それを無視して東堂を何としてでも捕まえようとアクセルを全開にする。

 

違う世界でも、凄まじい逮捕劇が繰り広げられていた。

 

 

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