「つまらん」
何もない空白の空間。
『そいつ』の目の前にはボロボロに引き裂かれた虎杖悠仁がいた。
上品さの欠片もない、つまらなそうに睥睨している『それ』
全てはこの小僧の能力不足、虎杖悠仁自身が行った選択だ。
ゴォン······と。
空間は一変する。
一面は禍々しく牛の頭骨と血の池で覆い尽くされた、とにかく地獄絵図。
正確な色彩はもはや定かではない。分厚い闇に覆われ、黒に支配されている。日差しも月明かりもない。地平線という考え方すら存在しない無音のどこか。だけど『そいつ』自身が全ての中心点とも言うかのように、この空間の全てを斬りつける光。
「この程度の下奴な連中に負けるとは」
吐血に汗、止まった心臓の鼓動音、開かれた瞳孔は何の像も映していない。
無風の荒地の池に沈み込んでいる少年は何も言い返さない。自分の服から滲み出る赤い液体がより一層空間を赤黒く染めている。寸前で入れ替わったとはいえ、小僧が未だに目を覚まさず気を失ってる理屈は知らない。というかこんな小僧の惨めな姿なんか見たくもないから別にどうでもいいが、何にしてもこの状況は許せない。
別世界に勝手に連れてきて、勝手気ままに死んだ。
『自分』のことをまるで存在すらしてない、あったとしても『日本書紀』に記されるぐらいの空想上にしか存在しない仮想の偶像としか見られない世界に取り残されるなんて、不快だ、極めて不愉快だ。
禍々しさしかない世界でたった一人残された『そいつ』は池に足を付け虎杖まで近づいていき、独り言のように呟いた。
「お前が死のうが俺には関係ないことだ。切り分けた魂はまだ一六もある。故にその程度の奴だったと己を憐れめばいい······とは言え、腹立たしいことに『この世界』には俺の存在すらない。『呪い』すらも迷信で片付けるような所では俺の魂は存在していないも同然だ」
そして嗤う。
それがどれだけ異質な事象か。
本人がしれっとやっているから凄さが伝わってこないだけで、恐らくだがとんでもないほどの反則を起こそうとしている。
「それに、こんな世界二度と訪れる機会はないだろうからな。折角の御馳走を見逃すほど俺は愚者ではない」
一つの楽しみが芽生えると次の喜びも連鎖的に発生して愉悦状態に陥ってしまう。普通の考え方が通じない。口を三日月のように開いて獰猛さしかない笑みを見せると、『そいつ』は小僧を通り越して地平線へと向かって歩き出す。
ざわり、と。
四つの瞳が、再び邪悪に蠢き始める。
その瞳に映るのは─────『千年前の記憶』だ。
『どこの者だ············安倍家の生き残りが俺に復讐でもしに来たか?』
『何でそう思うの?』
『俺に近付いてくるような奴は、俺の力に恐れ慄いた愚か者と決まっているからな』
それは自分の肉体がまだこの世にあった頃。
『彼』はあの藤原北家直属“日月星進隊”と“五虚将”を殲滅し、天才と言われた陰陽師の生家、安倍家の精鋭と菅原家余党で編成された“涅漆鎮撫隊”を退けている。彼の力を恐れ、もしくは自分たちの方が優れているからという理由で彼の命を狙ってくる奴が多かった。ま、『史上最強の術師』と言われた彼に挑むこと自体が間違っており、挑んできた奴らは全員生きては返さず皆殺しにしてやったが。
その生き残りなのか、『奇抜な格好をした女』が自分に謁見を求めてきた。
『額に縫い目』があり、十中八九そいつの術式が絡んでるのだろうが、そんなことはどうでも良いし興味もなかった。
それよりも何しに来たのかの方が重要だ。もしくだらない理由で自分の貴重な時間を奪ったというのなら、容赦なく斬殺する。
その殺気を感じながらも、『そいつ』はこう言ってきた。
『“転生”って、興味ない?』
『ない』
彼は即答した。
迷うことすらしなかった。
『早いな!?』
『そんなくだらないことを話すために俺に謁見を求めてきたのか? なら今すぐに貴様を殺して、この話を終わらせよう』
『待って待って!?
『一切ない。どうでも良いの極致だ』
『あーもう!! 君ってやつはほんとッ!!』
縫い目の女は思わず頭を掻き毟って気持ちの悪い声で叫んでいた。
その姿がとても滑稽で愉快だったから、彼はつい続きを話すことを許した。
『愉快な女だ。それほどにまで俺に話しておきたいことか?』
『そうだよ! 今の貧困の世じゃ、君だって退屈だろう? だからもっと娯楽を増やしたいとか思わないかい?』
『全くな───────』
『ない、以外で話してもらいたいな···········せっかく会話を楽しんでもらおうとこっちも一応努力してるんだからさ』
ぴくり、と眉がわずかに動く。
そんな舐めた態度を取るとは──────いい度胸だ。
『俺の言葉を遮るとはな···········いいだろう、最後まで聞いてやる』
『ようやく言ってくれたね』
素直に喜んでるのか、もしくはそういう性格で舐めているのか。
女は両手をパンと叩いて、
『君はとても強い。あの安倍家の精鋭と菅原家余党で編成された涅漆鎮撫隊をも捻じ伏せるほどだ。だからこそ、君は史上最強でいられるわけだけど──────』
女は心底つまらなそうな目をして、こう言ってきた。
『その史上最強でも···········
『···········何?』
『飢えてるだろう? こんな貧困の時代じゃ当然さ。庶民は米や布を手に入れるだけで一苦労、通貨だって働いてもたったの一枚程度。一日二食しか食事をしないのなら、味が落ちて当然。だから君は位階や官職によって豊かな生活を送っている貴族の女子供を好んでるんだろうけどさ、貴族は庶民に比べたらものすごく少ない。別に私的にはどうなろうと構わないんだけどね、今のままじゃ君の好きな貴族の肉はすぐに枯渇してしまうよ? もっと食事の摂り方には気を付けないと』
『くだらん前置きに付き合う気はない。さっさとお前が話したいことを言え』
女はこれからが良いところなのにとでも言うかのように頬を膨らませるが、彼は無視した。
その表情を見た女はこれ以上の無駄話は命の危険に関わると判断し、
『最初に言ったじゃないか···········転生に興味はないかい、って』
『···········だからなんだ?』
『簡単な話さ。この私がもう二度と君を退屈にさせないように、もっと良い世界に連れて行ってあげようって話さ!!』
不愉快な笑みを浮かべる女。
それでも構わず続けるのは、彼が話すことを許しているからだ。
『転生···········つまりは【未来の世界】は今よりも飽食になっていて、女はもっと肉付きが良くなって、早死にする子供だっていない。管理が行き届いた未来の世界では食うに困らない。貴族ばかり喰っていた君でも、庶民の味で満足するはずさ』
『それは予想か? あるいは貴様の願望か?』
『どう思う?』
そう問われても彼は何も返さない。
面倒に思えてきた、やはり付き合いきれん。
そう思ったのか彼は術式を発動させるために指を上げようとした時、
『どう思うかは君次第だけど、私の言うことを信じてもらえるのならば、未来の世界···········そうだな、千年後くらいかな? その時代には君の舌を飽きさせないほどの人間達が跋扈している。それだけは断言できる』
『···········』
『どうかな? 興味が湧かない?』
『············』
女は恭しく跪き、頭を垂れた。
だというのに、まるで旧知の仲のような親しげな口調で話しかけてくる。
『この平安を凌ぐほどの呪いの世界が広がっているか、技術が進んで絡繰のようなものが蔓延る世界になっているか、はたまた呪いの世界が終焉を迎えて【別の力】によって発展しているか』
『貴様の言う、【別の力】とは?』
『そうだねぇ~、君にもわかりやすく伝えるなら············【魔法】? かな?』
女の大仰な物言いによって、彼はようやく眉間に皺を寄せた。
だが。
そんな言葉を聞いたあの時の彼は、新しいおもちゃで遊べる喜びに満ちたような、とても楽しそうな表情をしていたに違いない。
『きっと楽しいよ、君の呪いの力を超えるほどの別の力と戦えたら。その味を知ったらもう引き返せないだろうね』
「これが貴様の言う別の力か────“羂索”?」
『それ』の顔から一気に表情が出る。
獰悪、猛悪、凶悪。
ともすればやることは決まっている。
小僧と『そいつ』には利害による『縛り』がある。それを破れば罰を受けるのは『そいつ自身』だ。
一つ、『そいつ』が“契闊”と唱えたら一分間体を明け渡し、その時間は誰も殺さんし傷つけてはならない。
二つ、その縛りを忘れること。
それらを破れば、『そいつ』にどんな災いが降りかかるかわからない。
だが、
確かに誰も傷つけてはならない。
ならない、が。
ならば。
問題、ない。
「ここで朽ち果てるのは流石の俺も厭わしい。俺には俺の計画がある。それを為さぬ限り死んでも死にきれんな」
それはあくまでも私益のためだった。
小僧のためではない。
しかし、
それでも、
『呪いの王』の口元に浮かぶのは、ただひたすら笑み。
喜怒哀楽の全てに当てはまり、同時にどれも当てはまらない説明不能の笑み。
「さて────」
小僧が生き返って息を吹き返すまでの制限時間はおよそ一時間、とにかくその間楽しめれば良い。
彼は囁く。
口の中で転がすようにその感情を弄びながら、同時に快楽を得るための反則な宣言を。
「久方ぶりの
◇◆◇◆◇◆◇
「どけ」
「ッ!?」
「ッ!!」
両目を見開き、呆然と立ち尽くしている仮面の男達の耳に、少年の声ではない声が届く。その声、それを聞いた瞬間に二人は思わずその場から跳んで後ろへと引き下がった。
腕を切り飛ばして絶命の一歩手前である少年は、道路の泥で汚れた部分を片腕で平然としたような顔で払うと、切断された自分の腕を踏み潰して近付いてくる。指に管理局から貸し出されたデバイスが嵌められている腕のことなんて一切の興味も示さず、ただこちらに近付いてくる。
あまりの激痛で気が狂ったのか、いや、あれは勝利を確信した故の正常な笑みだ。
しかし。
明らかに利き腕を失ったこの状況で正常な笑みを浮かべているのは、気が狂った異常者の証だ。
二人は恐怖のあまり、それ以上は動けなかった。
あの少年が今何を考えているかはわからないが、切断された腕の断面から今まで封じ込めていた闇が噴き出したかのような邪悪さを放っているのだけはわかった。
失った腕のことなど気にも留めない。もはや抗う力も残っていないはずなのに、彼は変わらず嗤っている。
憐憫に、
皮肉に、
慈愛に軽蔑に愉快に楽しく嘲るように。
彼は言う。
「頭が高いな」
思わず仮面の男達の呼吸が止まった。
突然少年が呟いたその声に、仮面の男達は説教される子供のようにビクリと肩を震わせて動きを止めてしまった。
血のように赤い四つの眼光に睨まれて、恐怖を覚えてしまったのだ。
恐怖心の塊が体を拘束する。
─────時間切れだ。
したがって。
強制的に膝を付かせる。
「がッ!?」
「グッ!?」
腰近くから下の感触がなくなった。
明確に仮面の男達の命を狙ったものではないが、余波の振動だけでも恐怖が包む。
ただ、
そう知覚した直後には仮面の男達は地面に叩きつけられ、信じられない量の鮮血が溢れる。
それは下半身の傷口からだけではなく、口や鼻からも溢れた。傷口から『何か』が侵入してきて、内臓を傷つけたのだ。洒落や冗談ではなく、命に関わる。口からも吐き出したその血の水圧に耐えられなかったのか仮面を付けている接着部分が剥がれてしまい、二人の隠された顔を露わにする。
「ほう·······そういう顔だったのか」
顔だけじゃない。
体全てが変化する。仮面が剥がれ落ちた影響で変身魔法が強制的に解かれてしまい、本当の姿が現れる。
猫を素体にした、二人の女性。
双子なのだろうか。髪が長いか短いくらいで判別するのが非常に面倒くさいので、適当に女性達とでも言っておけば説明がつく。
というかぶっちゃけどうでもいい。
二人を跪かせるために地面が削り取られたが、そんな汚いアスファルトの上に転がされた二人を見下して、『それ』は言う。
「まあ俺には関係ないことだ。お前達がどこの誰だろうが」
「く······ッ!? この······ッ!!」
「何なんだよ······何なんだよアンタッ!?」
双子は睨み付け短く訊ねたが、『それ』は嗤うばかりで答えない。
それこそ、寿命が尽きた虫が蟻んこに食い千切られている様を愉快に眺めているような目で。
自然と今まで以上に拳を強く握り締める双子を見て、ほとんど舌舐りでもしそうな表情で、彼は言う。
「誰が喋ることを許可した? 誰が面を上げて良いと言った?」
「「ッ!!」」
「不愉快だ」
音は消えた。
ぐしゃり、と。
直後に双子の体が莫大な力を受けてアスファルトにめり込んだ。
「がッ!?」
「グッ!?」
「そんな反応しかできんのか? もっと良い
何が起きたかわからなかった。
少年は大した動きはしてない。ただ少年の足が地から離れてトン、と軽い音が聞こえて二人の後頭部に降り立っただけ。
それだけで、二人は顔を潰される。
酷い顔面を見せつけながら睨む二人。
少年は勝手に面を上げた罰として正しい土下座の仕方を教えてやっただけなのだが、そんな二人の顔を見て口を歪める。
「悔しそうだな、慰めてやろうか? まあ、文字通り手も足も出ない相手からの励ましの言葉をもらうほど屈辱的なことはないだろうがな」
二人のうち、一人の髪の毛を掴み取って持ち上げる。
ゴミでも拾い上げるような感覚で。
「惨めだなぁ、この上なく惨めだぞ? ほら、良く見てみろ。まるでボロ布のように滑稽な姿で嗤えるだろう?」
「お、お前·······ッ!!」
「た────」
「!?」
少年は髪の短い方の女性を掴み、自分の盾────いや、盾にすら値しないボロ雑巾を見せつけ、髪の長い女に深い絶望感を与える。
そんなボロボロになった髪の短い女性から乾いた声が聞こえてくる。
「助け······て」
「ッ!!」
「ケヒッ、ヒヒッ!!」
その呼び掛けに応じたのは双子ではない。
少年の方だ。
そんな彼女の言葉を素直に受け取ってやったのだ、むしろ感謝してほしいまである。とはいえ、ろくに身動きの取れない二人へトドメを刺すためではない。彼は最初から、双子を徹底的にいたぶるためだけに地獄の時間を引き延ばそうとしている。
片腕を失くし、両足も失くし、だるまに一歩近い状態になった彼女を適当に投げると、少年は一本しかない生身の腕をポケットに突っ込んだ。
「救ってほしいか? いいぞ。別に逃げたければ逃げれば良い」
少年の言葉が、瀕死の双子の心を揺さぶる。
いいや、
揺さぶるどころか、半ば砕くほどの強引さがあった。
「ただしどちらか一人は死ぬがな。お前らどちらかが見殺しにしたせいで。ケヒッ! 別にどちらでも俺は構わないぞ、いずれにしても面白いものになるからなぁッ!!」
「く······グッ!!」
「くそ······ッ!!」
うつ伏せに倒れた体を仰向けに転がすのが精一杯だった。そうしながら、何が魔導師でもなんでもない部外者だ、と二人は自分自身に吐き捨てた。
少年の正体は明らかにそれよりももっとヤバい、それこそ怪物と言えるものだった。
あの虎杖悠仁という正義感溢れる男とは思えないほどの圧倒的邪悪、さっきは死に際まで追い詰めたがそうそう何度も簡単に倒せるような軽いレベルの怪物ではないことだけは理解した。
このままでは勝てない。
双子の手が、伸びる。
まるで姉妹愛を見せつけるかの如く。蛇のように這いずりながら二人は近づいていく。見捨てはしない、たった一人の姉と妹だ。それらを失うなんてことあってはならない。
よって、
髪の長い方の答えは決まっていた。
「『
『Okay Boss』
残っていた腕から『白い一枚のカード』を取り出した瞬間、
バキキッ!! と。
少年を取り囲む地面がそれぞれ束縛の陣を形成した。
それは物理的に少年を縛り、彼の肉体どころか魂までも永劫に『凍結させる束縛』
「『デュランダル』は凍結に特化した杖。あの『闇の書』ですら永遠の眠りにつかせるほどの強力な凍結魔法が発動させられる。父様に預けられた切り札だったけど、まさかこんなことに使うなんてね」
少年にはすでに聞こえぬだろうが、双子の女性はそれでも口を動かす。
赤く染まった口で、
「まずい·······血が止まらない·······ッ!!」
「一旦、父様の所に、戻ろ、う。ミッド、チルダの、精、密な、医療機材が、あれば、腕も足、も、再生させ、られる」
もう一刻の猶予も無いという感じであった。
言葉を紡ぐことすら難しく、途切れ途切れで話していてあと数分の内に止血か何かをしないと死に至る。
そんな中、
氷の中で、棒立ち状態の少年の唇がわずかに動いた。
指一本動かせぬ中での、精一杯の抵抗か。
「無駄だ·······デュランダルの凍結は『闇の書の永久封印』を実現させられるほどの魔法だ」
『········ケヒッ·······』
「「!?」」
そこで、少年は嗤った。
双子の顔に驚きが出る。氷結された者の動きではなかったのだ。
自然な調子で少年は言う。
『ぬるいな·······【霜凪】よりも温かいぞ?』
その瞬間、全てが切り裂かれた。
双子の瞳には、少年の腕の切断面、
ドーム状の暴風。
細やかに切り裂かれていく景色は空気をも切断し、周囲の三分の一が少年を中心に吹き飛ばされた。莫大な切断に住宅街は連鎖崩壊を起こしていき、行き場を失くした『未知なる力』はそこかしこで吹き荒れて景色を捻じ曲げる。
双子の体はおよそ五◯メートルは吹き飛ばされ、無様に後方へ転がっていた。
少年はまるで路傍の石ころを蹴るような感覚で、束縛魔法を解いてみせた。彼は蒸発した氷の中から出てきて双子の元に歩いていき、生え直した腕を見て舌打ちする。
「いかん、また治してしまった」
思わぬ誤算だった。
それは少年にしか理解できなかったかもしれない。その力が何なのか、それを知るのは彼だけだろう。何にしても、双子は大きな過ちをした。そもそも彼の言う通り最後まで戦わずどちらかを見捨てて逃げれば良かったものを。判断を誤った双子は初めて恐怖を抱く。人の形をしたものが、人の言葉を放つことに、これほど恐怖を覚えたことはなかった。
ゆっくりと瓦礫の上を歩きながら、少年は言った。
歪で禍々しい言葉が、双子の耳に響く。
「なあ、俺はこの世界ではどう扱われる?」
「「!?」」
「人は俺を『呪い』と言うが、『呪い』の全てを迷信に変えてしまうようなこの世界では、俺は一体何者なのだろうな?」
答えは元から求めてなかった。
独り言のように呟く彼は、双子の事を気にも留めずに語り出す。
「少なくとも、貴様らがどう思おうが知ったことではない。何に譬えようが、俺は俺だ。ここに確かに存在している。しかし、お前らもつまらんことに命を懸けたな。『この小僧』にそれ程の価値はないというのに」
意味が、わからなかった。
自分で自分を肯定しておきながら、急に否定し出した。今まで戦ってきた相手が訳のわからんことを述べたら当然恐い。
いずれにせよ、窮地に陥ったことだけは事実だ。
このままではこの少年に殺されてしまう。
せめて一人でも逃げて、『主人』に異常が起きたことを知らせて計画を続けなければならない。ここで立ち止まってはいけない。
せめて、
せめて、
攻めてッ!!
「「ッ!!」」
「ほう、まだやるか。いや、そうでなくてはな。もっと楽しませてくれねば。ほら、頑張れ頑張れ」
血まみれの体を引きずって、二人は魔法を発動させようとする。
しかし。
両者がぶつかり合うことはなかった。
ドッ!! と。
凄まじい閃光が両者の目に襲いかかったからだ。
視界が塗り潰される。双子はこれも少年の技の一つかと思って警戒したが、彼は目を見開いていた。意外そうな顔をしていた。しばらく呆然とその光を見ていたが、少年は嗤って遠くにある物を食い入るように眺めていた。
「ふむ、面白いな」
悦びに満ちた嗤い声が響く。
双子に向けられたものより、数倍も数十倍も色の強い、明確なる殺意。
双子はその隙を見逃さなかった。
「“アリア”ッ!!」
「次元転送ッ!!」
「ん?」
少年は双子の声に振り返るが、その目は虫けら程にも気にかけていなかった。双子の姿は既にそこにはなかった。大方、どこかに逃げ入ったのだろう。
つまらん。
しかしどうでも良かった。
今はそれよりも、新しいおもちゃだ。
「この気配······あの脆弱な小娘のものか? しかしどうもおかしい」
なんにしても、だ。
あの『呪いの王』が興が湧くほどの事が起きているのだ。これを見逃すほど愚かだと思うか?
答えは否だ。
全ては『この小僧』のせいだ。
『この小僧』が少しでも関わったせいで、この世界は血で染まることになるのだから。だからこれは自分のせいではない。全ての事象は『この小僧』にある。
最優先事項によって全ての娯楽は決定され、少年の体は轟音と共に消え去る。
跡にはアスファルトの破片が飛び散るが、そんなことを気にする者はいない。
両者は交差すらしなかった。
ただ圧倒的な力で捻じ伏せ、
そしてこれから、
一方的な蹂躙が始まる。