呪術廻戦リリカルなのは   作:織姫ミグル

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第三十章

 

 

これが通常の面会だったら、神父は最後まで詩を読ませてくれないかと頼んでいただろう。

 

が、今回は違った。

 

今回は秘匿死刑。

 

よって死刑は時刻表通りに執行される。

 

急ぎの死刑はスケジュールなどお構いなし。すぐに行われなければならない。人間は、たとえそれが神に仕える男であっても、舞台を譲らなければならない。 

 

だから急ぎ駆けつけた次第だ。

 

死に立ち会う人間として、こういう時に慰めを与えるのが彼の役目だった。これまでに面会してきた死刑囚のほとんどが感情を昂ぶらせ、恐れたり、怒ったりした。

 

後悔している者だっていた。

 

 

「「「「     」」」」

 

 

なのに今目の前にいる四人は、完璧に沈着冷静であるようだ。

 

まるで、すでに死んでいるかのような表情をしていた。

 

全てを諦め、受け入れた。

 

そんなところか。

 

神父は死刑囚の正面に立ち、聖書を開いた。何年かかけて、死刑囚の慰めになりそうなお気に入りの節をいくつか見つけ出していた。

 

そのうちの一節を開き、読み始める。

 

 

「「「「     」」」」

 

 

だが、神父は目を上げて死刑囚の四人を見た。

 

関心を持っているようには見えない。息を呑む音すら聞こえない、完璧な静寂。死に対する反応が百人百様、人によって様々であることは神父にもわかるようになっていた。泣き出す者。心から悔い改めれば神の赦しが得られ、天国に行けるはずだと考える者。当然のごとく怒り出し、下品で激しい、暴力的な言葉だけを吐く者。座ったままさめざめと泣き、一言も言葉を発しない者。

 

しかしどのような態度であっても、尊重されてしかるべきだ。 

 

秘匿死刑を言い渡されるほどの罪を犯したとしても、この礼儀正しい無関心も。

 

 

「異世界の聖書に興味はありませんか?」

 

「「「「     」」」」

 

 

それが形ばかりの質問だと知りつつ訊ねてみるも、四人は無反応。

 

言葉を切って息をつくと、鍵が鳴り、ドアが開いた。 

 

─────時間だ。

 

四人は入って来た者達によって強引に立ち上がらせられ、連行されていく。

 

神父もそれに続き、脇に立つ。少なくとも死刑執行室まで同行し、魂が肉体を離れるまで付き添うことになる。

 

そこから先、魂はどこに行くのか。

 

神に仕える神父でも、知ったようなことは言えなかった。 

 

まだ若い子供の三人に、目隠しをした男。

 

その命が終わる部屋まで続く、果てしない──────ある意味では短い、廊下を歩くのに合わせ、足首と足に巻かれた鎖が音を立てる。 

 

神父は詩を読み終えていなかったが、それはどうでもよかった。

 

四人はもはや興味がなさそうにしていたからだ。

 

拘束具で担架に体を固定されている間も、彼らの心は別の場所に飛ばされたかのように虚であった。よく見る光景ではない。普通なら死刑囚は死の恐怖に耐えられずに激しく抵抗するのに、四人は最後まで黙って従っていた。

 

まるで人形のように、素直に受け入れていた。

 

両脚と胸の上で拘束具がきつく締められる。 

 

眠気や平安といったイメージはまやかしだ。安心もまた、まやかしだった。

 

ここは死刑執行室なのだ。

死刑執行人達が彼らの腕を叩き、血管を浮かび上がらせる。彼らだって人間である以上はそれなりに病院の世話になってきただろう、点滴だって受けたことがあったはずだ。

 

だが、今回打たれるのは薬ではなく毒だ。

 

それはいや増しに高まりつつある鼓動の最後の数拍、残り少ない拍動によって、すぐに全身を巡ることになる。

 

なのに、

 

彼らはそれでも恐怖を抱いていない。

 

立会人達のいる部屋の窓が開くも、その先には誰もいない。代わりに立ちはだかった刑務所長らしき人の声はきびきびしていて、感情が篭っておらず、退屈しているように聞こえる。

 

それもそのはずだ、と恨みがましく思う。

 

彼はこれまで何度同じ言葉を繰り返してきたことか。

 

死刑囚は彼らだけではない。

 

これまでも様々な人間が死刑になっているのだ。

 

 

「この者達、虎杖悠仁、伏黒恵、釘崎野薔薇、五条悟は極刑に値する殺人、及び共同正犯によって有罪判決を受け、今日この日、一ニ月二五日に秘匿死刑が執行されることをここに宣言する。死刑囚、最後に言い残すことはあるか?」 

 

「「「「     」」」」

 

 

忍び寄る暗闇の恐怖さえも抱かず、四人は黙っていた。

 

死刑執行の時間。

 

担架がゆっくりと傾きはじめ、四人は虚な目で天井を凝視していた。

 

やがて透明な死の液体がチューブを通って、じわじわと腕に流れ込む。 

 

体内に入り込むそれは、酷く冷たい。

 

死。

 

そのものが体内を駆ける。

 

走馬灯、といったものを感じる暇もないほど意識が遠くなっていく。

 

暗闇が降りて来る前に四人が最後に目にしたものは。

 

無。

 

それだけだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

魔法。

 

元々、アリサ・バニングスにも月村すずかにも縁もゆかりもない単語のはずだった。実際、彼女達の同級生でクラスメイトであり、親友の高町なのはでさえもその存在に気付かなかったら今頃は普通のクリスマスを過ごせていたはずだ。

 

手に入れたきっかけについても棚から牡丹餅に近い。たまたま三人のうちの一人が魔法適性があって、それでこの世界にたまたまやって来た魔導師に導かれて魔法を身に付けた。

 

その結果少女は強大な力を身に付け、今では魔法が当たり前の世界から注目されるべき存在となった。

 

 

「だからって、それを簡単に受け入れられるわけないでしょう」

 

 

真っ白な病室、そこで二人の少女は向かい合って話し合っていた。

 

ここはどこかにある部屋の一つ。

 

自分達でも場所の把握ができていないということは、ここはもう違う世界であるということを証明している。

 

ソファーとベッド、二人は互いの顔を見合うようにそこに座っていた。

 

 

「······そう、だね」

 

 

月村すずかは上手く答えられず、ベッドの上で視線を落とした。

 

今でも忘れられない、あの光景。

 

自分達の親友が見たこともない格好をして、見たこともない杖を振るって、見たこともない技術を使った。圧倒的な破壊力を秘めた一撃を防いでいたあの力をどう説明すれば納得できるのか、そんなの魔法という言葉しか出てこない。魔法以外の何物でもない、あんな人智を超えた異能の力をただの科学なんて言われても納得できない。

 

たまにテレビとかでやっている、児童向けの魔法少女というジャンルのアニメでしか見ないあの姿。

 

その姿を以って振るう力に相応しい名を与えるとしたら魔法しかない。

 

少女のあの手慣れた様子から見て、随分前からあの力と出会っていたようだ。

 

そして、そんな魔法を使用してこちらの命を刈り取ろうとしたあの女性。長い銀髪に西洋の鎧をアレンジさせたような格好をした、あの女性。得体のしれない魔法陣のようなものを用いて発射する光線は、間違いなくこちらを殺そうとしてきた。

 

それから守ろうとする二人の少女に、知らない二人。

 

前後の出来事については全くわからなかったが、彼女達のあの緊迫したような表情からして、自分達が病院から去った後にすぐ戦闘が始まったのだろう。

 

自分達はそこにたまたま巻き込まれた。

 

それで、二人は思った。

 

──────足手纏い。

 

もしかしたら、以前高町なのはが一人で思い悩んでいたのは、その力を身に付けて様々なトラブルに巻き込まれていたからではないか。あんな危険な力を身に付けて、危険な目に遭っていれば誰だってあんなに重い表情をする。あの時は、もっと自分達を頼って欲しいなんていう考えを抱いていたが、それがどれほど烏滸がましいかを思い知らされた。

 

結局、あの少女が思い悩んでいたのはそういうことだったのだ。

 

当然と言えば当然の話なのだが、自分達が知らない技術を説明されて納得がいくか?

 

口頭で魔法の力を手に入れたなんて説明されても、ふざけてんのかで終わってしまうだろう。こっちは真剣に心配してやってんのに、そんな馬鹿馬鹿しい夢物語の話をされたら当然キレる。

 

だから彼女は黙っていた。

 

嫌われたくないという想いから?

 

それもある。

 

だがそれ以上に、友達を巻き込みたくないという気持ちの方が強いだろう。

 

彼女は優しい。

 

知らない方が幸せなこともあるというように、知らないままで平穏な世界で生きていて欲しいという彼女の優しさ。

 

だから彼女は相当焦ったはずだ。

 

今回、長く隠してきた真実を知られて、踏み入れてはならない領域に彼女達を巻き込んでしまった、なんてことを考えているかもしれない。

 

高町なのはというたった一人の平凡な女の子が必死に守ってきた。

 

真実も、秩序も、常識も。

 

今回のことで全部崩れ去った。

 

自分達が、見てしまったせいで。

 

 

「「············」」

 

 

湧き出てくる罪悪感。

 

何故とか、どうしてとか。

 

そんなことを口にして咎める権利どころか、自分達は関わる権利すらないのではないかという考えが二人の意識に浮上する。実際問題、彼女達は知ってはならないことを知ってしまった。この世界以外にも多くの世界が存在しており、その世界では魔法という技術が使われている。

 

その存在を知ってしまった彼女達は、想像もつかないほどの重圧に襲われる。

 

たとえば、だ。

 

難解な暗号を複雑に並べていくつものダミーが用意されている中で、たった一つだけ正解の発射コードがあるとしよう。それで、世界でたった一人の人間がそれを読み解き、正解の核ミサイルの発射コードを知られてしまったという状況だったとしよう。

 

そのたった一人が発射コードを入力しただけで世界各国が滅ぶとしたら、そのたった一人の人間は世界中から狙われる羽目になる。一人の人間が発射コードを知っているせいで世界が滅ぶというのなら、全ての人間は何としてでもその一人を排除しようと考えるだろう。

 

そう。

 

秘密を知っただけで簡単に滅ぶのだ。

 

高町なのははそれ以上に重大な責任を負い、ずっと知られないように隠してきた。

 

世界が滅ぶ確率がたった一パーセントだったとしても、それだけで世界は大パニックに陥る。世界を賭けにするにはあまりにも高すぎる確率で、ゼロにしない限りは誰も安心できない。

 

均衡と安定が保たれてきたのに、ちょっとでも傾いたら世界は変わる。

 

その感覚を彼女達は味わった。

 

これほどに息苦しくなるのか。

 

世界を滅ぼしかねない側に立たされるのは、良い気分ではない。

 

この苦しい想いをあの少女はずっと抱えてきたのか。

 

毛先ほども理解されない、共感されない、現実味が湧かない、全然ついていけない。

 

その事実を背負って生きていくというのは、これほどまでに最悪な気分なのか。

 

 

「嫌だ············」

 

「え?」

 

 

アリサがその事実に打ちひしがれた時、ソファーの上で彼女は自分の両手へ目を落としていた。そのことに気付く要素はどこかにあった。

 

例えば、プールでの一件。例えば、フェレット一匹を追いかけて傷を負った件。例えば、いきなり学校に来なくなった件。

 

それらの裏で、彼女はずっと戦ってきたのだ。

 

それに気付かなかった自分を呪い、同時にアリサは心を抉られた。彼女達が今こうして生きていられるのは、きっとあの親友が知らないところで命を懸けて戦っていたからだろう。

 

その事実に、アリサはやがて二つの掌で自分の顔を覆う。

 

隠した顔の奥で、押し止めていた本音が漏れ出す。

 

 

「なのはが、遠くに行っちゃう。そんなの──────ッ!!」

 

 

嫌だ、その言葉が出てくる直前。

 

今度の今度こそ、もう二度と手の届かない場所へと立ち去ってしまいそうな気がして、アリサはそれを受け入れられずに涙を流す。

 

自分達の方が特別だと思っていた。

 

生まれた時から良い所のお嬢様で、望めば何でも手に入るような環境であったが、高町なのははそれ以上の物を持っていた。

 

だから悔しかった。

 

あの子がもっと特別だからとか、そんな幼稚な理由ではない。

 

どれだけ大金持ちで、財を以って全てを解決できる力を持っていたとして。

 

そんなの『魔法』の前では全く役に立たないという事実を突きつけられて、彼女は非常に悔しかった。

 

桁が違う。

話が違う。

 

おそらく、あそこに一緒に立っていれば、必死に表情を取り繕っていただろう。

 

何故ならば、常軌を逸したあの世界で彼女は日々戦っていたのだ。

 

見ただけでもわかる、あれは自分では手に負えない領域だ。そんなスケールと一緒に過ごしていたなのはは、もう自分達が知っている高町なのはではない。

 

随分前から懸念だけはあったのだ。

 

あの少女は、自分達とは違う世界を歩いているのではないか、と。

 

もはや彼女の抱えている世界が自分達よりも一段でも二段でも先の舞台にあって、そこにはあの少女をより良く知る人物で満たされていて、自分達は周回遅れのように蚊帳の外を歩いているのではないか、と。

 

フェイト・テスタロッサが良い例だ。

 

彼女の存在はビデオメールで初めて知った。フェイトとなのはが出会った経緯は知らない、だけど今回のことでようやくわかった。

 

彼女は高町なのはと同じ領域に立てる数少ない存在。

 

命懸けで戦わなければならない世界に踏み入れることを許された存在。

 

もう、手を伸ばしたって届かない。

 

ずっと寄り添って親友でいたいという想いを抱くことさえも失礼だと思うほど、気の強いアリサは叩きのめされた。

 

どんなに心配したって、彼女達の帰るべき場所になったって。

 

それで本当に役立っているのだろうか。

 

 

『アリサちゃん、すずかちゃん。心配かけてごめんね············今は二人には何も言えないんだ。でも───ッ!!』

 

 

かつて、親友に言われた言葉。

 

それが今になって思い出されて、アリサという少女の心の芯を射抜く。

 

 

『アリサちゃんもすずかちゃんも、大切なお友達だから·······!! なのはにとって大事なお友達だから、きっと·······! 言える時が来たらちゃんと伝えるから·······!!』

 

「·······ッ!!」

 

 

呼吸が詰まり、意識が暗転しかねない一撃。

 

あれはアリサ達を置いてけぼりにする一言だったと、今になって思う。

 

気遣って出た言葉だとしても、同時にあれは残酷な意味まで含まれていたということを突き付ける。

 

 

「もう·······ッ!!」

 

 

あの少女がどこへ行ってしまうのか。

 

アリサには具体的な詳細は理解できないが、それでも明確に予測できる事もある。強大な力を手に入れた人間が進む先にあるのは、死。たとえそれを回避する術を身に付けていても、その全てが死と隣り合わせの地獄の世界に繋がっている。

 

アリサは、思わずその全身から力が抜けそうになった。

 

歯を食い縛って。

 

少しでも楽になろうと思って、同時に思ってもいない悲しい気持ちを意識の表層に引っ張り出す。

 

 

「あたし、なのはの友達でいられ──────」

 

「やめてッ!!」

 

 

バチンッ!!

 

瞬間、アリサの頬に痛みが生じた。

 

それは、かつて高町なのはが放った一撃に似ていた。気が強く、大金持ちという立場から孤立していたアリサは、同じくお嬢様という立場にいた月村すずかにちょっかいを出した。すずかのカチューシャを奪って嫌がらせをしていたところ、あの少女、高町なのはが止めに入りアリサの頬を叩いた。

 

その時のなのはは彼女にこう言い放った。

 

 

『痛い? でも、大事なものを取られた人はもっと痛いんだよ?』

 

 

それに匹敵するほどの鋭い声が、そんな悲しいことを言うアリサの意識を遮った。

 

月村すずかのものだった。

 

彼女はアリサの目を真っ直ぐに見つめ、泣いていた。

 

 

「今·······何を言おうとしたの?」

 

「!?」

 

「友達でいられない? もしそう言おうとしていたなら今度は一回だけじゃ済まないよ」

 

 

その言葉を放つのに、実際にはどれほどの勇気が必要だっただろう。

 

気が弱く、自分の意見を言うことすら躊躇うような少女が、そんな言葉を言って友人の頬を叩くと言う行為を行うのにどれだけの葛藤があっただろう。

 

だが、少女は続ける。

 

当たり前を言い放つ。

 

 

「なのはちゃんがそんなことを望んでいると思う? 確かになのはちゃんは私達とは違う所に行っちゃうかもしれない。けれどね、それでなんで友達でいられないっていうことになるの?」

 

 

全ての前提を。

 

たった一撃で砕いてしまう。

 

それはまさしく、あの時自分がからかって嫌がらせをした気が弱い少女の言葉だった。

 

 

「傍にいたのが私たちだったから、なのはちゃんは今まで戦ってきたんだよ。なのはちゃんだって怖かったはずだよ。それでも震える足を動かして、押し潰されそうな心を支えて立ち向かっていけたのは、私達がなのはちゃんの傍にいたから。なのはちゃんがここまで生き残れてこれたのは、ずっと隣で支えてきた私達がいたから。一つでも欠けていたら、今頃隣にはなのはちゃんはいない。なのはちゃんが安心して笑える場所を守ってきたのは、私達なんだよ? それなのに友達でいられない? アリサちゃん、一体どういうつもり!? 誰よりもなのはちゃんと仲良く一緒に遊んで過ごしてきたのに、今更そんな悲しいことを言うの!? ふざけるのも大概にしてッ!!!!!!」

 

 

まさしくすずかは自分の意見を言っていた。

 

躊躇も遠慮もない、ただ真っ直ぐに彼女は自分の言葉を言い放っていた。

 

 

「·······謝って」

 

 

月村すずかは、高町なのはよりも周回遅れであることはもう認めている。

 

認めた上で、根気強く彼女の隣の寄り添う存在になると決めている。

 

結局はどう抗ったってあの少女と同じステージには上がれない。それを理解した上で、彼女はそれでもという想いで自分の言葉をぶつける。

 

 

「謝ってよ!! 私達の親友を裏切ろうとしたことを!! これ以上なのはちゃんを泣かせるようなことを言うなら、お望み通り自分の間違いに気付くまで何度でもひっぱたくからッ!!」

 

 

本来の性格を押し殺してでも、自分の曲げない信念を叫ぶその少女の言葉がアリサの胸に突き刺さり、様々な感情を呼び起こす。

 

周回遅れなら、周回遅れだからこそ、誰よりも力を込めて前へ進まなければならない。置いてかれたら置いてかれた分、追いつけばいいだけではないか。たとえそのゴールがどんどん伸びていっても、そこにどれほど都合が悪い距離が空けられたとしても、絶対にそのゴールを見失わない。

 

それこそが。

 

周回遅れを取り戻すという事ではないのか。

 

 

「·······ッ!!」

 

 

だとすれば、余計なことを考えて悩んでいる暇なんてない。

 

 

「·······めん」

 

 

置いていかれているのなら、まだ友達でいたいと望むならば。

 

彼女を受け入れ、絶対に離れないという意思を見せつけなければならない。

 

 

「ごめん·······ごめんなさい」

 

 

もし、それに及ばないとして。

 

それで彼女達と別れる理由にはならない。

 

その間違いに気付いたアリサは、涙を流しながら怒ってくれたすずかの目元を指で優しく拭う。それに合わせて、すずかもアリサの涙を拭き取って、優しく抱き締める。

 

所詮は普通の人間。これまでの常識だけでは彼女の隣に立つことはできないだろう。

 

だから。

 

自分達も進もう。

 

そして受け入れよう。

 

二人は互いの顔を見て、微笑みながら、

 

 

「ねえ、なのは達に会ったらどうしよっか?」

 

「·······ちょっと気が引けるけど」

 

 

アリサの問いに、すずかは大して考えもせずに答えた。

 

 

「今まで私達に内緒にした分だけ、じっくり『お話』させてもらおう!!」

 

 

二人はそう言い合って笑う。

 

その瞬間、固く閉ざされていた部屋の扉が開かれる。

 

そこには、二人が望んだ世界があった。

 

『親友』という、守るべき世界が。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「検診終了。うん、やはり貴方の中から新しい自動防衛運用システムは生まれていません」

 

「·······そうか」

 

 

その声で、『夜天の魔導書』改め、主に新しい名を与えられた管制融合機のリインフォースはそう言った。

 

ベッドに寝かされている状態で、医者らしき男がまるで草むらで昼寝する少女の顔を覗き込むような感じで見下ろしてきていた。

 

彼から聞かされる事実に、リインフォースはなんとも言えない表情をする。

 

 

「本来ならばあり得ないはずなんですけどね。夜天の書の破損は深刻で歪められた基礎構造は変わらないから、新しい自動防衛運用システムが生まれてもおかしくないはずなんですが」

 

「私もそう思う。ナハトヴァールは彼らによって確かに破壊されたが、夜天の書本体が直にプログラムを再生してしまうはずなのに」

 

 

夜天の書は優れた魔導書だ。

たとえどれだけ破壊されてもすぐに修復できるほどの再生力を持っている。だからあの時、あの少年の規格外の炎によって切り離されたとしても、目隠しの男の手によってナハトヴァールを完全に消し去ったとしても、本体である自分が存在している限りは繰り返し再生されるというのに。

 

理由なんて想像がつかない。

 

もしかすると、彼らの理解不能な力によって新たな法則が生まれ、このようなイレギュラーが起こったのかもしれない。

 

あの時、精神世界。

 

もしくは心の中と言っても良い世界で、彼は言っていた。

 

 

『心配するな、手を出す気はない。何せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

両面宿儺。

 

彼は自分をも超えるほどの力を持ち、いかなる魔法にも打ち勝った。

 

勝つためなら容赦はしない、あの残虐性。

 

『外』の常識はおろか、どの世界にも存在しない新技術を利用して自分を殺しにかかってきた。

 

彼の信念は一つ。

 

鏖殺。

 

ただそれだけを胸に、あの化物は己の道を突き進む。

 

その力は凶悪で、幾つもの世界を滅ぼし、ロストロギアとまで言われたこの自分を圧倒した。後に聞かされたことだが、あの少年が放った力は限界を超えた一撃、オーバーSSSランクもあったとのこと。たった一人の人間が出せる威力ではない。

 

彼らの持つ力、呪術。

 

その力を以て、呪いを祓う。

 

呪いは呪いでしか祓えない。

 

呪いは負の感情から生まれる。

 

だからマイナスがマイナスを掛けてプラスに変え、正のエネルギーへと変換して浄化させた。

 

あの規格外の攻撃にそんな願いを乗せていたとは思えないが、それを受けたからこそ、今彼女はこうして存在を保てているわけである。

 

だが、そこに至るまで彼がどのようなことをしてきたのか想像もつかない。

 

そもそも、彼は心臓を自分で抜いていた。

 

当然ながらどのような魔法を使っても、無くなった心臓を元に戻すということはできない。

 

ニュアンスとしては存在しないものを一から作るのと同じものだろう。

 

それをやってみせたのだ。

 

一々どういう原理なのかとか考えてみても、答えが出ることはない。

 

それはまさしく無駄な思考、宇宙の誕生やらタイムマシンやら、そういった不可能なものの仕組みの解明を試みているのと同じことだ。

 

 

「············」

 

 

リインフォースが息を呑む直前、レントゲン室によく似た部屋にビーッ!! というブザー音が鳴ると、その部屋に通ずる扉が開かれる。

 

医者はそれを見ると飄々としたような顔で『それではこれで』と一言言い残して出て行ってしまった。

 

入れ替わりに何人もの人間が入ってくる。

 

現代日本では見かけない、個性的な姿をした家族達。

 

そして、車椅子に乗った小さな主。

 

 

「我が主············」

 

「リインフォース!!」

 

 

少女はリインフォースの姿を見た瞬間に車椅子から飛び出して飛びつき、力強く彼女のお腹を抱き締める。

 

心なしか、彼女の体は震えていた。

 

それに気付いたリインフォースは主人の八神はやての頭を優しく撫でる。

 

 

「ご心配をおかけしました、我が主」

 

「ええよ、そんなこと気にせんでも! こうやってまた生きて会えただけで私は──────ッ!!」

 

 

ついに限界を迎えた。

 

嗚咽が聞こえたと思ったら、彼女はより一層リインフォースのお腹へと顔を埋める。力強く握っているからか、ちょっとだけお腹周りが窮屈になる。

 

それだけ心配させた、ということだろう。

 

その様子を、家族達············守護騎士達は慈愛の眼差しのようなものを向けていた。

 

 

「騎士達よ、お前達とはもう随分と長い付き合いのはずだが············こんな風に話したことはなかったな」

 

「············そうだな」

 

「ああ、こうしてまた会えたのに言葉が見つからねぇや」

 

「そもそも忘れちゃってたからね、貴女がいたことを」

 

「無理もない、夜天の魔導書のバグによって我等は記憶を失っていたのだからな」

 

 

守護騎士達は、ずっと一緒に過ごしてきたもう一人の家族と改めて再会して、正直どう思えば良いのかわからなかった。

 

言ってしまえば、ずっと前に死んだと思った兄弟が実は生きていたというのと同じ心境、なのだろうか。

 

そう思うべきなのかさえもわからないほどに現実味が湧かない。

 

しかし。

 

 

「体の調子はどうですか、我が主?」

 

「うん、まだ足に痺れは残ってるけど、苦しくない。これから次第に回復していくってお医者さんにも言われたわ」

 

「そうですか············」

 

 

リインフォースは、呆然とその言葉を聞き入った。

 

その後、彼女は自分の胸に手を当てて、

 

 

「私を、夜天の魔導書を蝕んでいたナハトヴァールが完全に消え去ったことで、貴方を苦しめていた呪いも消えたのでしょう。ナハトからの侵食も止まり、リンカーコアも正常です。不自由な足も時を置けば、自然に治るでしょう」

 

 

けれど、と彼女は言うと胸の中から光の球体を生み出し、その中から十字架のデバイスを取り出した。

 

 

「私にはもう、何の力も残っていません。防衛プログラムの侵食暴走体を切り離された際に魔導書の機能の大半も同時に切り離してしまい、力のほとんどを失ってしまった。今の私は言ってしまえば残りカス。全ての力はナハトが消えたと同時にこのデバイスに引き継がれました。いずれはこのデバイスから私の意志を注ぐ魔導の器が生まれるでしょう」

 

「え、それって············?」

 

「簡単に言ってしまえば············()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

そう言って微笑するリインフォース。

 

だが、その事実に八神はやては目を見開いていた。

 

僅かに魔力は残っているものの、もうあの少年と戦った時ほどの能力は残っていない。魔法を発動させても、できることは精々魔法陣を盾代わりに使うことくらい。戦闘面では何の役にも立たない。

 

あの少年、両面宿儺が自分を殺そうと炎の矢で燃やし尽くそうとした時、防衛プログラムの残滓は消え去り、彼女を蝕んでいたナハトヴァールは海まで吹き飛ばされていた。

 

だから、あの時少年がこちらにトドメを刺していたら、自分は間違いなく死んでいた。

 

少年の興味対象が変わったから回避できた展開。不幸中の幸いと言うべきか、あらゆる事態が起こした奇跡。

 

けれども、それは少年が意図して起こしたものではなかったろう。あの明確な殺意、あれは確実に情けも容赦もなかった。もしこの事実をあの怪物、両面宿儺が知ったら間違いなく落胆するだろう。

 

殺す気でやったのに、むしろ生かしてしまった。それだけでなく、八神はやてに新しい家族を与えてしまった。

 

同時に、それだけで彼女達は報われたと感じた。あの怪物に一泡吹かせてやった、怪物が望んでいた展開にはならずにハッピーエンドになってしまった。たったそれだけで、充分な復讐が成された。だからもう、それ以上は望まない。

 

あの少年は意識を取り戻し、元の人格である虎杖悠仁に戻った。

 

ならば、あとは感謝しかないだろう。

 

散々痛めつけられたとしても、結果として救ってもらったのだから。

 

そう話し合って、八神はやてたちは頷き合うと、

 

 

「邪魔するよ」

 

 

部屋に入ってきた少年、クロノ・ハラオウン。

 

彼は身体中に応急処置として大量の包帯を巻き、手に何かの資料を持って、

 

 

「···········元気そう、だな」

 

 

ぎこちなく言う彼に、リインフォースも少々苦笑い。

 

 

「お前達にも、迷惑をかけたな···········謝って済む問題ではないが言わせてくれ、すまなかった」

 

「いい、こういう事は慣れっこだ」

 

 

そう言って微笑むクロノだが、すぐに切り替え、

 

 

「さて、話し合っている所悪いが、君達も己の罪状については一応聞いておきたいだろう? 今後のことについて説明しておこうとやって来た」

 

 

罪状。

八神はやては俯く。

 

望んだことではないとはいえ、自分達はたくさんの人達に迷惑をかけた。あれだけのことをしておいて、実は自分達も本当のことを知らなかったでは済まないのだ。

 

破滅へと向かわせたのは、他ならぬ自分達だ。

 

 

「ああ、そんな顔はしなくて良い。悪いようにはしない」

 

 

そう言うが、クロノはどこか複雑そうだった。

 

無理もない。

 

彼はかつて、呪われた魔導書である『闇の書』の手によって自分の父を亡くしている。

 

クロノの父、クライド・ハラオウン。

 

『闇の書』の輸送中、暴走した闇の書に彼の指揮していた艦隊のエスティアは制御が奪われ、『闇の書』の暴走を止めるために、彼は艦と運命を共にした。

 

だから、命を奪った張本人を前にして、彼も本当は穏やかではいられないだろう。

 

しかし、私情は挟まない。

 

彼女達もそれは望んで起こしたことではない。

 

故にこう言った。

 

 

「君達にはこれから取り調べと裁判、その間の保護観察処分が科せられる。魔力使用制限と所在地認証はもちろん、しばらくは僕達の厳重な監視の下に置かれる」

 

 

え? と、その場にいる全員がそんな顔をした。

 

それだけでいいのかという顔をするはやてらだったが、クロノは真剣な顔で、

 

 

「何を考えているのか大体わかるが、そう思うのは気が早いよ。裁判ではどう転ぶかわからないからね。僕らも君達が無罪になるように力を尽くすが、彼らだって甘くない。たとえ無罪だと言い渡されてもすぐに控訴してくる。時空管理局の検察はそういうところには厳しいからね、税金とマンパワーを投入して証拠を挙げる。判決が覆されることだってあり得る。油断だけはしないでくれ」

 

 

裁判とはそう言うものだ。

その判決に不服がある当事者が上級の裁判所に再審理の手続きを行った際、二回目の裁判が行われる。そうなった場合はもう勝ち目はない。三審の最高裁は狭き門、上告はほぼ門前払い。まともに審理されることさえ難しい。

 

だから充分に証拠を集めなくてはならない。

 

無罪を勝ち取るために。

 

しかし、自分達の罪状よりも気になることがある。

 

 

「あの、虎杖さん達はどうなるんです?」

 

 

まさか自分達と同じように厳重な監視の下に置かれて長い戦いが行われるのか、と八神はやてが思っていると、

 

 

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◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

ややあって。

 

秘匿死刑執行にあたって、リンディ・ハラオウン提督が秘密裏に集めた検察官、刑事施設の長、施設職員などといった少数の関係者が対象者達の死亡を確認する。

 

手首の脈、首元の頸動脈。

 

そこに流れるはずの血が止まっていることを確認する。

 

そして。

 

そして。

 

そして。

 

そして。

 

 

「脈なし、死刑囚達の死亡を確認」

 

 

虎杖悠仁。

 

伏黒恵。

 

釘崎野薔薇。

 

五条悟。

 

クリスマスの夜。

 

奇跡が起こることもなく。

 

死亡確認が取られたと共に。

 

リンディ提督の宣言通り。

 

彼らの『秘匿死刑』が完遂された。

 

霊安室に残ったのは、彼らの世界の文化で供養を意味する線香の煙と、打ち覆いで顔面を隠された何も言わぬ四人の遺体だけだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

一二月二六日。

 

クリスマスが終わっても、仕事はある。

 

 

「はぁ〜」

 

 

ため息と共に白い息が吐き出される。

 

白い息を見る度、自分の幸福度が逃げていっている感がしたので、これ以上はため息を吐き出すまいと首に巻いているマフラーで口を覆い隠す。

 

年が明けるまでもう少し。

 

だからどこの会社も、できるだけ気持ち良く年を超えるために年内にやり残していることを終わらせたいと思っているだろう。それに別に出張自体は嫌いではない、自分の知らない土地に向かうというのはなんか冒険しているみたいで好きだったし。だが、年越し前の出張は流石に体に堪える。

 

行き先は、海鳴市。

 

一回行ったことがある場所なのがせめてもの救いだった。

 

いくつもの地方へと出向いてきたであろう社会人は、その街で一番人気の店を見分ける技術を身につけていた。いろんなところに行く以上は、その街にしかない店に入りたいという欲が出てくる。それでこの海鳴市でも、彼にとってのオアシス的存在である『喫茶店』を見つけている。

 

あのお店は素敵だ。

 

店長の男性の淹れるコーヒーを一口飲んだ時の感動は忘れられない。思わず口元に笑みが湧き、舌で味わう以上に鼻でも楽しめる、そんなコーヒーだ。

 

その店長の奥さんもとても綺麗で、何より彼女の焼いたシュークリームも格別だった。口の中に広がる優しい味、噛む毎にシュークリームの中に封じ込められていた香りが爽やかに解き放たれ、ふわりとした感覚へと誘ってくれる。

 

そして、そんな夫婦の子供達もお店を手伝っているというのがまた良いポイントだ。

 

一番上の兄らしき子は、その喫茶店の二代目店長となる存在故か、現店長の父に引けを取らないほどの腕前だった。たまたま店長が留守の間に訪れたことがあり、それで残念に思ったが、彼は父の味を完璧に再現していた。

 

そんな彼の妹らしき学生もいずれは店を継ぐのか、まだまだ母親には及ばないところはあるが、将来有望で伸び代しかない。新メニューの開発も手伝っているのか、彼女のアイディアは素晴らしかった。行く度にメニューが増えてるし、それが楽しみとなる。

 

そして最後に、一番末っ子であろう女の子の見せる笑顔の愛嬌は、全ての男達の胸をざわつかせるほどに魅力的であった。駄目だとわかっているのに、ついドキドキしてしまうあの異次元の可愛さ。

 

彼女に出会うまで、こんな魅力的な小学生がいるのかというのを彼は知らなかった。

 

初めて会った彼をまるで親戚の子か何かのように接し、帰る頃には友達のような距離感でこう言ってくれた。

 

仕事だから、みたいな義務から来る言葉ではない。

 

本当に友達同士のような、親しみのある言葉。

 

 

『絶対にまた来てください! 待ってますから!!』

 

 

ただの出張で立ち寄った彼を感動させるのには、それだけで充分であった。あんな嬉しい言葉は、社会人となって会社に縛られるようになってから一度もなかった。おそらくは他のお客さんにも言っているかもしれない、それを真に受ける方もどうかしている、なんてことも思わせないほどの純粋な笑顔。

 

あれをまた見たいと思った彼は、出張先が海鳴市だと聞いた瞬間につい上司に即答してしまった。

 

それほど再訪したいと思える喫茶店だ。

 

大人な味を提供する、誰も彼もが笑顔になれる、そんな喫茶店の前にやって来た彼は少し深呼吸をしてから落ち着くと、ゆっくりとドアを開ける。

 

────カランカラン。

 

ドアのベルが揺れる。

 

開かれた扉の先に広がるのは、懐かしさを感じ、誰もが帰れる場所という雰囲気のあの喫茶店。

 

 

「あ、いらっしゃ────」

 

「「らっしゃあせぇえええッッッ!!!!」」

 

「··········」

 

 

一瞬、自分が間違った場所に来たのではと不安になってしまった。

 

最初、ウニみたいにツンツンとした髪型をした学生は普通に接客しようとしてきたが、その後ろにいる短髪の男の子と肩にかかるくらいの茶髪の女の子が、まるでラーメン屋のような挨拶を元気良くしてきたので自信を失くしそうになった。

 

それでつい『間違えました』と言って出て行こうとすると、厨房からあの綺麗な笑顔を見せる例のツインテールの女の子が慌てるように出てきて一生懸命に頭を下げたきた。彼女が言うには新人のバイトらしく、まだ入ったばかりなので緊張しているとのこと。

 

それを聞いて彼らを見てみると、最初に挨拶をしようとした男の子が、そんなふざけた接客をした二人を見てこめかみに青筋を立て、短髪の男の子に拳骨を喰らわせていた。

 

それを見て愉快そうに笑っているサングラスを掛けた銀髪の男の客。

 

中々カオスな状況を見た彼はこう思った。

 

────しばらく来ない間に随分と賑やかになったな、と。

 

そんなことを思いながら、ため息交じりの苦笑いを漏らしてしまった。

 

 

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