呪術廻戦リリカルなのは   作:織姫ミグル

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第六章

 

 

お手並み拝見。

 

取り囲むのは宙を浮く傀儡兵達だ。

 

 

「······」

 

 

虎杖悠仁は呪術師といっても、人間は人間だ。

 

どんな陸上選手を遥かに越える身体能力を以てしても、同じ霊長類であることには変わりはないはずだ。いかに身体能力が優れているとはいえ、空気を吸わなければ死んでしまうし、食べ物を食べなければ空腹で死んでしまう。寿命だってあるだろうし、他の奴らより頑丈な体質の持ち主とはいえ、核ともいえる心臓を取られたら命を落とすはずだ。

 

同じ人間として、更には魔法すら使えない人間には弱点しかないはずだ。どんなに身体能力が優れていようが、それが人間と呼べる範囲にいるならなんとかなる。

 

バトルシミュレーション用の傀儡兵、魔法によって作られたゴーレムは、戦闘訓練として配備されている。元々は戦闘用として作られた兵器ではあるが、その活動中は相手に対して容赦はしない。だからこそ、どんな奴が相手だろうと、不可思議な現象を生み出す魔導師にも、的確に対応できる。冷静に敵を見定め、打ち倒すための手段を算出できる。

 

この戦闘シミュレーターを用意した連中も、相手が魔法が使えない相手ならばすぐに終わるだろう。

 

そう、本当に信じていた。

 

だが、

 

 

虎杖悠仁は本当に人間なのか?

 

 

轟!! という空気を渦巻く爆音が鳴り響く。

 

その手にあるシミュレーション用の非殺傷設定された模擬杖から複数の光弾が乱射され、そのどれもが虎杖悠仁を撃ち抜いていく。標的を無力化するというプログラムを設定されている以上、虎杖という人間が行動不可能となるまで攻撃は続く。だが、傀儡兵一つ一つに意思が宿ったかのように、虎杖という少年を見た瞬間生命の危機を感じ取った。そこから脱するためにこれまで培ってきた技術とプログラムを総動員し、全力でもって虎杖悠仁を無力化するために立ち向かおうとする。

 

が、

 

 

「ふんッ!!」

 

 

彼の軸足が思い切り地面を踏みつけた。

 

固い地盤が下から突き上げられたかのように振動する。虎杖悠仁の身が低く沈み込む。彼の足を中心に、コンクリートの演習場に放射状の亀裂が走り回る。周囲の壁まで軋んだ音を立て、耐えられなくなった地面が重力に逆らって宙に浮く。

 

ダゴン! という爆音。砕けたコンクリートを更に踏み潰し、魔力もない少年が瓦礫を蹴り上げると、ロケットのように空気を突き抜けた。

 

虎杖が空けた風穴、コンクリートの床を引き裂くトンネルの先から少年が突っ込んでくる。斜めに空けた風穴をなぞるように、天井の瓦礫と床下の瓦礫を蹴飛ばして集めて積み上げた階段を駆け上がるように傀儡兵達に迫り来る。

 

本来階段があっても間に合わない。

 

だからこそ、本来の階段なんて使わない。

 

あまりにも無茶なショートカットを実行した少年の手に武器はない。目に見えて何か凄まじい能力を持っているわけでもない。それでも彼は走る。明らかに手の届かない敵へと目指して、ただその両手拳を硬く握り締めて。

 

一番近くにいた傀儡兵を、虎杖は飛び蹴りをぶちかまして反対側の壁まで吹っ飛ばした。ノーバウンドで分厚い演習場の壁に激突した傀儡兵は、装甲をバラバラに粉砕しながら床に崩れ落ちる。

 

虎杖悠仁は相手が人間でない以上、容赦はしない。

 

正確に視線を固定していた瞳は、次のターゲットを正確に捉える。彼は傀儡兵の持っていた非殺傷設定の杖を強奪すると、迷わず槍投げのようにして別の相手の胸から腹にかけて突き刺した。

 

その相手の元へと跳躍して足場の代わりにすると、周囲を見渡して次の足場を探し出す。時に空中に浮かぶ傀儡兵を粉砕して自然落下する前に足で踏みつけてその威力で跳躍し、また別の敵へと攻撃を加えて無力化するとしがみつき、最短のルートを通って最小の力を振るって、最大の戦果を得る。

 

それはもう、人間対AIとか、人間対ロボットとか、そういう戦いではなかった。破壊行為の中心に感情がない。

 

譬えるならば。

 

それは必死に逃げる戦闘機の背後から確実に迫り来る追尾ミサイルだ。

 

勝ち負けを論じるのではなく、攻撃が届くか否かの問題。そして届いた時には確実に破壊が訪れる。虎杖悠仁が撒き散らす戦闘は、もはや人間の限界領域に達している。

 

どういう風に動いているのか、まるで虎杖だけが時間停止した世界の中を自由に動き回るが如く、敵を足場にして空中に浮かぶ傀儡兵を何匹も破壊していく。空中の高いところで弧を描いて傀儡兵へと襲いかかる虎杖悠仁を眺め、AIはエラーを起こす頭をどうにか動かそうとする。

 

その時だった。

 

最後の一匹を押し倒し、火花を散らせる残骸へと変えた虎杖の首が、グルリと観覧席の方へと向いた。

 

 

「「「「「「「·······!?」」」」」」」

 

 

それらを一部始終見ていたなのは達は、言葉を失っていた。まずは彼の戦闘能力を見るために管理局の演習場を借りて、彼の戦闘スタイルを分析しようとしたのに、彼の常識は人間の常識には当てはまらない。

 

勝ち負けなどなかった。

 

彼は地に足をつき、もぎ取った傀儡兵の頭を後ろへ放り投げると、平然と演習場から出ていった。

 

所要時間、わずか三◯◯秒。

 

魔法を使わなければ相手にすることすら難しい傀儡兵相手に、素手で挑んだ彼に、皆言葉を失っていた。

 

何匹も散らばる演習場に、静寂と不穏さが訪れる。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

管理局での話し合い。

 

正式に『闇の書』と呼ばれるロストロギアの捜索を任されたリンディ達は、司令部である地球の海鳴市のマンションへと移動することになった。

 

虎杖もしばらくそこに厄介になることになり、異世界の地球を堪能しようと考えていた。片付けが終わり、ぼんやり一人向かいの部屋で話し合っているであろうクロノやリンディにエイミィ、そして外観を楽しんでいるなのはにフェイトの事を思い浮かべながら彼はうつらうつらとした寝ぼけ眼でベッドに横になろうとした。

 

そんな時だった。

 

コンコン、とノックする音が聞こえてきて、どうぞーって言ったらリンディが入ってきて急にこんな提案を出してきたのだ。

 

 

「俺の実力が見たい?」

 

 

管理局から司令部へと護送される最中、リンディがそんなことを言ってきた。

 

 

「えぇ、映像で見たのだけれど、闇の書での襲撃で貴方はビルから飛び降りたり、車並のスピードを出していたでしょう? 貴方の身体能力は、ハッキリ言って異常よ。だから実力を測るためにも身体能力テストを受けてみない?」

 

 

虎杖は行動を制限されている中そんなことを言ってきたリンディにブツブツと独り言を呟く。虎杖はトラックから下ろされる荷物を両手でいくつも持ち運び部屋へと運んでいたのだが、一段落したところでそんなことを言われたのでついため息をついてしまった。

 

そして、虎杖悠仁は管理局では保護観察と機密保持、更に各種工作員による並行世界漂流者としての貴重なサンプルの採取を抜き取られる危険性などを考慮して、極力マンションの外には出ないように言い渡された。一応目の届く範囲なら外に出ても構わないが、血液中に極小サイズの発信器を注入して、いつでもどこでも現在位置がわかるようになっている。

 

 

(ここまで来ておいて実力を見たい、か)

 

 

虎杖は自分の右の二の腕を擦る。無痛注射針の痕は、触った程度ではわからない。今回のケースは異例中の異例だった。だから管理局側も慎重になるのには無理はない。別次元に存在する世界に行くことが可能であるこの世界でも、流石に並行世界までは行くことができないらしい。そんな並行世界からやって来た虎杖を管理局が放っておくはずがない。

 

この騒ぎに頭を抱えたのが管理局のお偉いさん方で、『虎杖悠仁クン、こちらの情報統制で騒ぎは治めるからそれまではリンディ提督の管理下の元平和に過ごしていたまえ』と、まあ事情はこんなところである。

 

そんな中での実力テスト。

 

虎杖は頭を掻いた。別に構わないのだが、それで更に管理局を困らせることにならないだろうかと別のところを心配していた。虎杖は並行世界の人間である。大人しくしとけと言われた矢先に身体能力のテストなんて行ったらお偉い方達に睨まれるのではと思ったのである。実際、お偉い方の中には虎杖を目の敵にしている者がいるかもしれない。ギル・グレアムのように全員が優しいとは限らない。

 

それを悟ったリンディが言ってくる。

 

 

「大丈夫、見るのは私とクロノとエイミィとなのはさんにフェイトさん。それにユーノ君とアルフさんの七人だけだから、管理局にも特別に許可を取ってデータを洩らさないようにするから、安心してテストを受けると良いわよ?」

 

「·······」

 

 

もはや展開について行けてない様子だった。よくわからないまま、虎杖は呪術高専の制服に着替えると、部屋の中に設置してある転送ポートとやらに足を踏み入れると、クロノ達が続いて入ってきた。なのはとフェイトも興味津々といった目をしてやって来たので、もう引くに引けなくなった。

 

そしてそのまま管理局へと転送された虎杖達は、特殊訓練が受けられるバトルシミュレーション用演習場を借りて、彼の戦闘能力を確かめることになった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「化け物だな君は」

 

 

管理局には運動後のシャワールームが存在する。虎杖は何匹も襲い来る傀儡兵相手に素手で挑み、ましてや瓦礫を足場にして宙に浮いている敵を撃ち落とすなど、普通の人間にはできない芸当だ。

 

虎杖は汗の掻いた体を清潔にするため、白い湯気とほど良い温水を浴びながら外で待機しているクロノと会話している。筋骨隆々な体を伝う雫が、彼の体にへばりついた石鹸の泡を排水口へと押し下げていく。

 

 

「そう? 俺的には普通に動いてただけなんだけどな?」

 

「魔法もなしにあそこまで動けるなんて······人間の域を越えているよ」

 

 

仕切りを挟んだ向こうからクロノの呆れた声が返ってくる。

 

 

「そもそも君は一体どんな生活をしていたんだ。あんなことができるなんて、普通の人間には無理な話だ」

 

「って言われてもなぁ。普通に寝て飯食って一日を過ごすくらいしかしてねぇから、特に特訓とかもしてねぇし」

 

「·······まあいい。貴重なデータは取れたんだ。君のその身体能力ならどんな奴が来ようと問題ないだろう。とりあえず、今日は司令部に戻ったら君には買い出しに行ってもらう。リンディ提督とフェイトは、なのはの実家の仕事場に行く予定だから、その間君は海鳴市という街を見てくるといい」

 

「マジ!? おっしゃ~!! 初異世界旅行!!」

 

「ちょっ!? 馬鹿! 前を隠せ!! 二人きりとはいえ他のみんなに見られたら迷惑だッ!!」

 

 

クロノは慌てて言ったが、異世界への冒険が楽しみすぎてテンションが上がっている虎杖の瞳には星がいっぱい輝いていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

虎杖はクロノ達と別れた後、当初の予定通り商店街のスーパーへと足を運んでいた。生鮮食品コーナーを覗くと、今日は野菜が安いらしいので四日分ほどの食材を買い込んでいく。

 

 

(しっかし、完成品の惣菜コーナーとかは人気だけど、野菜とかお肉とか食材系には人が集まってなかったな)

 

 

自炊派って絶滅危惧種なのかな、と虎杖は首を捻りつつスーパーから出る。ビルがある方を見上げると、真ん中に設置されているエキシビジョンがニュースを流しており、海鳴市で起こった出来事を放送していた。

 

 

「·······本当に俺、異世界に来ちゃったんだな」

 

 

聞いたこともない地名、空想の中だけの技術。それらが頭にこびりついていて、今自分は自分がいるべき場所ではない所に立っていることを自覚させられる。流れ的になんかロストロギアやらなんやらの捜索の手伝いをさせられることになったが、今でもなんで自分がそんなことを? と考えてしまう。

 

だが十中八九、あの祖父の遺言のせいであろう。

 

人を助けろ。

 

おそらく、虎杖が一番心に引っ掛かっているのはその言葉。

 

別世界の事とはいえ、虎杖だって何とかしたい。

 

混乱を生み出したあの特級呪物に『闇の書』と呼ばれるロストロギア。非現実の中間点に立っている虎杖は、それらが原因で命を落としてしまうなんて事、どう考えても間違っている。

 

今現在何が起こっているのか虎杖にはわからない。けれど、困っている人がいるならば感謝されなくても救いに行かなければならない。普通の学生が背負うべきではない責任を、虎杖は背負わなければならない。それが、大きな力を持つ者に与えられた使命なのだ。と、虎杖は無理にポジティブ思考をしながら薄暗い街を歩くことにした。

 

ぐるぐると考え事をしながら歩いているせいか、両手の買い物袋が妙に重たく感じられた。帰宅ラッシュで人が多い事もあるが、それにしてもよく人とぶつかるような気もする。これから司令部に帰って晩御飯の準備をしたりお風呂の用意をするのが面倒臭いな、と思った。電子レンジだの炊飯器だのを使って面倒な手順をパスする近道的な料理レシピとかないかな、と彼は少々真剣に考える。しかし、ここであることに気づく。

 

 

(みんなでテーブルを囲んで夕食を食べるなんて、いつ以来だろ)

 

 

祖父が入院してからというもの、必然的に一人で家の中で過ごすことが当たり前になっていた虎杖は、擬似的でも家族らしいことができることがちょっと嬉しかった。

 

そうこうしていると、また歩いている最中の人にぶつかった。

 

いや、歩いてたんじゃない。

 

 

「痛ッ!?」

 

 

今度ぶつかったのは、この大勢の中では動きにくそうな電動車椅子に乗った少女であった。彼女は虎杖の足元に車輪が乗り上げ傾いたことにより車椅子から転げ落ちてしまった。

 

 

「あ、悪いッ!!」

 

 

すぐさま車椅子を立て直すと、抵抗はあったが障害者であるということを考慮し、彼女の両脇に手を差し込んで持ち上げると、ゆっくりとした動作で車椅子に座り直させた。

 

 

「悪い、余所見しちまってて·······怪我とかないか?」

 

「ええ、大丈夫です。ご心配おかけしました。ありがとうございます!」

 

 

どことなく関西弁のようなイントネーションが混じっているような気もするが、彼女はすぐに微笑んで頭を下げるとゆったりとした口調でこう言った。

 

 

「むしろ謝るのは私の方や。こんな大勢の中車椅子で移動するのは流石に迷惑やと思うし」

 

「いや、そんなことねぇと思うけど。普通の事じゃね? 街中を車椅子で出歩くなんてこと」

 

「ありがとうお兄さん。お兄さんは優しいなぁ、ネガティブなことを言うてしまうけど、車椅子で街中をふらつくだけでも結構みんな白い目で見てくる人が大半なんよ」

 

「どうかしてんだな、そいつら。少なくとも俺は気にしないけど」

 

「ふふっ、ありがとうな。お兄さん」

 

 

なんて会話してるのも束の間、歩行者用の青信号が点滅を始めていた。今二人がいるのは交差点の真ん中、そして行く方向はお互い逆である。急がないと、ここは車が通る危険領域へと変わってしまう。

 

 

「それじゃ、ありがとうなお兄さん」

 

「おう! 気を付けて帰れよ!!」

 

 

とだけ呟いて、虎杖もまた交差点を離れていく。

 

少女は手を振って、反対側の歩道へと消えていった。

 

きっと、この出会いはフライングみたいなもので、それこそ意味なんて何もない。虎杖悠仁にとっては、今の出来事は『出会い』としてカウントしてないほどだ。

 

その『出会い』が重要な意味となるのはまだ先の話。

 

二人は何気ない言葉だけを交わして、そのまま海鳴市の街の闇へと消えていく。

 

 

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