呪術廻戦リリカルなのは   作:織姫ミグル

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第七章

 

 

前から思っていたことだが、高町なのはは自分の命の恩人である虎杖悠仁とまともに話したことがない。

 

そもそも彼はフェイトよりも更に保護観察が厳しくされているため、会う機会がほとんどないのだ。

 

 

(お話、したいな·······)

 

 

言葉を交わすどころか名前すら互いに呼びあったことがない。フェイトにも言ったが、友達になるのは凄く簡単で一番最初に相手の名前を呼ぶことから友達としての関係が始まる。それで思ったのだが、なのはは虎杖の名前を一言も口にしたことがない。そして何より虎杖も高町なのはの名前を口にしたことがない。

 

何が言いたいのかというと、なのはは虎杖悠仁と話がしたいのだ。

 

特に理由はない。

 

命の恩人だからとか、どうしてジュエルシードを持っていたのかとか、虎杖悠仁の世界ってどんなところなのかだとか、そんなのを聞きたいんじゃない。単に、虎杖悠仁を仲間として見たいのである。虎杖からは敵意は感じない、それどころか良い関係を築けそうな気がする。一緒に闇の書の捜索及び襲撃者の捕獲をやる仲間として、少しでも良いからお話をしたいのだ。

 

なんて事を思ってるのも束の間、なのはは自分の下駄箱の位置までやってくると靴を脱いで指定された箇所に靴を放り込み、上履きを履いて、廊下を歩いて、自分の教室の前に立つ。そして教室のドアを開けると、見慣れた友人達がなのはの存在に気付き彼女の元に歩いてくる。

 

 

「なのは!」

 

「おはよう、なのはちゃん!」

 

「おはよう! アリサちゃん、すずかちゃん!」

 

 

いつも通りの挨拶、この教室では特に気にする必要もない日常風景として扱われる光景に、クラスの面々は散り散りになりながら世間話をする。なのはも自分の席に着くと、金髪の少女アリサと紫髪の少女すずかと共に世間話を始めた。

 

 

「そういえば今日だよね? フェイトちゃんが転校してくるのって」

 

「うん! ちょうど私達のクラスに転入してくるようになってるから、これからもっと仲良く話せるね!」

 

「いつもはビデオテープでの会話だったもんね。いざ目の前に本人が現れると、どう反応したら良いかわからないわ」

 

「あはは、いつものアリサちゃんで良いと思うよ。フェイトちゃん、ちょっと人見知りな所があるから、ビデオテープで見せていたアリサちゃんとすずかちゃんを見たら落ち着くだろうし」

 

「そうだよね! むしろ変な気遣いしたら困らせちゃうかもだし」

 

「うん! いつも通りの私達で迎え入れてあげよう!!」

 

 

なのははいつもの会話を楽しみながら、自分がこの空間に溶け込んでいるのに気づいた。魔法という異端技術と出会って、もう何ヵ月も経つ。今ここにいる高町なのはは、数ヶ月前までの平凡な小学生ではないのだ。まるでセーブデータを失う前の古いデータの上から、記録を失った後の新しいデータを上書きしてそこに存在するかのように、高町なのはは普通の小学生を演じていた。

 

しかし、だからといって彼女の抱えている問題が解決したわけではない。

 

まだ事件は続いている。

 

平和とは程遠い危険な世界で生きることを決めた彼女は、自分の胸の中に眠る力を抱き締め、目の前の問題と向き合っている。

 

 

(みんなを、守らなきゃ········!!)

 

 

この何気ない風景を見て、改めてそう誓うなのは。

 

そう、彼女はもう。

 

魔法少女なのだから。

 

 

「·······」

 

「なのは?」

 

「なのはちゃん?」

 

 

アリサとすずかの声で、高町なのははようやく我に返った。

 

 

「あ、ごめん! フェイトちゃんがこれから転入してくると思うと頭がボーっとしちゃった!」

 

 

強引に取り繕って、彼女は偽りが作る平和へと帰っていく。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「はいはーい、皆さん席に着いてください! ホームルームを始めますよ」

 

 

担任の先生が教室に入ってきた頃には、既に生徒のほとんどは着席していた。

 

 

「さて、出席を取る前にクラスのみんなにビッグニュースです! 実は先週急に決まったんですが、今日から新しいお友だちがこのクラスにやって来ます!!」

 

 

おお、とクラスの面々の注目が先生に向く。

 

 

「ちなみにその子は海外からの留学生さんです! フェイトさん、どうぞー!」

 

『失礼、します』

 

 

先生が声をかけた扉の向こうには、既にフェイトが待機していた。実は彼女、かなり緊張していた。心臓がバクバク鳴り響き、今にも血が逆流して吐血しそうなほど心が痛んでいた。一方、教室の中の高町なのはやアリサにすずかは、最初から知っていたから笑顔で迎え入れるつもりだった。

 

教室の入り口の引き戸かガラガラと音を立てて開かれた。

 

クラスの皆は一体どんな子なんだろと、視線を向けると、そこには美少女が立っていた。

 

 

「うわぁ~!」

 

「可愛い~!」

 

「綺麗な目!!」

 

「髪が輝いてる!!」

 

 

などと彼女を褒める声が交錯するが、フェイトは一先ず先生の隣に立ち、みんなが見える位置で自己紹介をする。

 

 

「あの、フェイト・テスタロッサと言います。よろしくお願いします」

 

 

その声を合図に、クラスの全員が拍手を送る。あまりの歓迎っぷりにフェイトは呆然としてしまったが、なのはやアリサにすずかといった見知った顔を確認して、フェイトは安堵の微笑みを見せた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

質問の嵐だった。

とてもまともに立っていられないほど、クラスにいる全ての男女全員の視線がフェイトに集中した。

 

 

「ねぇ! 向こうの学校ってどんな感じ!?」

 

「あ、あの······私、学校には────」

 

「すっげぇ急な転入だよね! なんで!?」

 

「えっと·······その、色々あって」

 

「日本語上手だね! どこで覚えたの!?」

 

「前に住んでたとこってどんなとこ!?」

 

「えっと········あの·······その········」

 

 

色めき立つクラスメイト達にフェイトは思わず目が泳いでしまう。一気に質問を投げかれられたらまずどれから答えたら良いのかわからず、更にはどこまで言って良いのかわからなかった。彼女はこの世界の出身ではない。魔法という異端技術が当たり前の世界で育ってきたため、そのことを知らないみんなにどこまで話したら守秘義務違反になるのか、判断に困っていたのだ。

 

というかそもそも、みんな目を輝かしすぎではないか?

 

そんなに転校生という存在は貴重なのだろうか?

 

それを見ていたなのは達三人は少々心配そうな目で見ている。

 

 

「フェイトちゃん·······人気者!」

 

「でもこれはちょっと大変かも~」

 

「はぁ~、もう。しょうがないなぁ」

 

 

それを見かねたアリサがフェイトを取り囲むクラスメイト達に注意するように手を叩き、一旦質問の嵐を静めさせる。

 

 

「あーはいはい! 転入初日の留学生をそんなにみんなでわやくちゃにしないの!」

 

「·······アリサ!」

 

 

助けに入ってくれたアリサに、フェイトは微笑んだ。アリサは腕を組んで続ける。

 

 

「それに質問は順番に! フェイト困ってるでしょ?」

 

「はい! じゃあ俺の質問から!!」

 

「はい、いいわよ」

 

 

フェイトの代わりにオーケーを出すアリサだが、当の本人は何を質問されるのか不安で仕方がなかった。もし出身世界の事を聞かれたらなんて答えようとか、答えられる範囲が狭いフェイトは頭の中で必死に口に出す言葉を探していた。

 

クラスメイトの男の子は聞く。

 

 

「向こうの学校って、どんな感じ?」

 

 

向こう、とは。

 

おそらくフェイトが留学生という設定だからか外国の学校文化を知りたいのだろう。しかし、フェイトは“とある事情”で学校に通ったことはない。つまり、フェイトには答えられない質問だった。フェイトは少し悩んだが、ここで黙っていても怪しまれる。彼女は特に解決策を見出だせないまま、その質問に答える。

 

 

「え、えっと·······私は普通の学校には行ってなかったんだ。家庭教師というか、そんな感じの人に教わってて」

 

「へぇ~! そうなんだ!!」

 

 

嘘は言わずにそう答えたら、なんとか納得してもらえた。だが問題はまだ続いている。一人の質問が終わったら次々とクラスメイト達が手を上げ、我先にと質問をしようとしてくる。

 

 

「はいはい! 次私!」

 

「はい待って! 待ってッ!!」

 

「「······あはは」」

 

 

アリサが仲介役として引き止めるも、質問の嵐は止められない。好奇心を剥き出しにしたクラスメイト達は、フェイトの事をもっと知りたいと躍起になっている。

 

その様子を、なのはとすずかは苦笑いすることしか出来なかった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

デバイスはファンタジー界での伝統的な補助具である杖や魔導書に比べて、高速に複雑な術式を組み立てて大規模な魔法を発動を可能とした、現代魔法の優位性を象徴する武器だ。

 

しかし、全ての面において優れているかと問われると、そうでもない。

 

まず、デバイスの起動には魔導師が持つリンカーコアと呼ばれる魔力資質が関わってくる。魔導師が持つリンカーコアにはそれぞれランクがあり、その数値によってデバイスが起動出来るか決まってくるのだ。より高度なデバイスを起動するには、最低でもAクラスは必要。なのはとフェイトはどちらもAAAクラス。

 

なのはは一二七万、フェイトは一四三万。

 

魔力の平均値を軽く越える彼女らは、まず人間をやめていると言ってもいい。最大発揮時はその三倍にも及ぶ。

 

デバイスは魔導師本人から送り込まれた魔力を材料て術式の起動式を出力し、魔導師は魔力の良導体である肉体を通じて起動式を取り込み、それを設計図にして魔法式を組み立て、魔方陣を展開して魔法を繰り出す。

 

要は、複雑な作業を瞬間的に行わなければ魔法は扱えない。マルチタスクが問われるのだ。それに加え、本人が持つ魔力値が少なければ、そもそもデバイスは起動しない。身を守るためのバリアジャケットすら纏えない。

 

よって、魔力の少ない虎杖には魔法は使えなかった。

 

 

「魔力F·······なのにあれだけの力を持っているのか君は」

 

「いや~、それほどでも」

 

「いや、褒めてるわけではないんだが·······そもそもここは落胆するべきではないのか? 君は魔法どころかデバイスすら起動出来ないんだぞ?」

 

「って言われてもなぁ~。俺別に魔法使えなくても戦えるし」

 

 

場所は駐屯所、司令部として使っているマンションの居間。リンディが作った弁当をじっくり味わいながら、虎杖はクロノの説明に耳を傾けていた。

 

 

「今回の目的の物はとても厄介な代物だ。魔力蓄積型のロストロギア。魔導師の魔力の根源となるリンカーコアを喰って、そのページを増やしていく。全ページである、六六六ページが埋まると、その魔力を媒介に真の力を発揮する。次元干渉レベルの巨大な力をね」

 

「ふ~ん」

 

「それで、本体が破壊されるか、所有者が死ぬかすると白紙に戻って別の世界で再生する。様々な世界を渡り歩き、自らが生み出した守護者に守られ、魔力を喰って永遠を生きる。破壊しても、何度でも再生する。停止させることが出来ない、危険な魔導書」

 

「それで、俺らがするのはその『闇の書』の完成前の捕獲ってこと?」

 

「そう、君が対峙した守護騎士達を捕獲して、更に主を引きずり出さないといけない」

 

「······」

 

「何か言いたそうだな?」

 

 

虎杖はその守護騎士達と戦わなきゃならないことに、少し抵抗があった。まず、確かに相手は人を襲って魔力を奪い、戦闘不能にさせるという行為をしている。所謂犯罪者だ。被害者が出ている以上、これ以上の被害は食い止めなければならない。そのためには、彼女らと戦わなければいけない。

 

しかし。

 

彼女らはあくまで、魔力を奪っているだけで、命を奪うことまではしていない。

 

そんな相手に拳を振るっても良いものか、虎杖は頭を悩ませていた。

 

だから、クロノはこう言い出した。

 

 

「君が悩むのもわかる······だが、このままだと多くの人々の命が失われることになる」

 

「え?」

 

「出来れば秘密にしたかったんだが、良い機会だ。君にだけは教えておく。僕とリンディ提督は、今回の『闇の書』とは深い因縁がある」

 

 

クロノの言葉に虎杖の表情が少し崩れる。

 

彼は虚空を見つめているが、その瞳には僅かに憎しみや憎悪といった色があった。

 

 

「十一年前、僕とリンディ提督は『闇の書』によって父を亡くしている」

 

「ッ!?」

 

「父の名は“クライド・ハラオウン”。十一年前、『闇の書』の輸送中、暴走した闇の書に父の指揮していた艦『エスティア』の制御が奪われてしまってね、『闇の書』の暴走を止めるためにやむを得ず父は艦と運命を共にしたんだ」

 

「········」

 

「君の性格はよくわかっているつもりだ。君は大勢の人間を助け、正しい死に導くことにこだわっているようだが、今回のは相当にヤバイ代物だ。よって、放っておくと被害が拡大し、最悪何百人もの人々が犠牲になる」

 

「ッ!!」

 

「だからこそ、僕らは彼女達を止めなければならない。その先にある死を、起こさせないために」

 

「········」

 

「·······どうだ? それでも君は彼女らに手を出すのを躊躇うのか?」

 

「決まってる」

 

 

答えるのも億劫そうな調子で虎杖は応じた。

 

 

「俺はただ、間違った死を回避させたいだけだ。それまでの過程なんて知らん。どんな事情があろうと、人の命は守らなくっちゃいけない。そのためなら、らしくねぇことをやる羽目になっても構わない」

 

 

そう言って。

 

虎杖悠仁は手を緩やかに伸ばした。覚悟を決めたかのように拳を強く握り締める。今、この命を賭して彼がやることは一つ。

 

 

「やってやるよ」

 

 

その瞬間、クロノは時間が停止したように黙り込んだ。だがそれも数秒も保たなかった。微笑んで、クロノは虎杖の覚悟を受け止めた。

 

善意にまみれていた虎杖にとって、誰かを助けるために命を奪うまでのことをしない相手と戦うというのは、それなりに覚悟のいる行為だったろう。

 

戦う。

 

間違った死を迎えないために。

 

必ず。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

魔力が少ない虎杖は、まず魔法が使えない。しかし、体術だけならば、彼に敵うものはいないだろう。呪術高専という呪いを祓う術を学ぶ場所で、彼は呪術を習い、呪力を拳に乗せて放つという戦闘訓練を受けた。

 

彼は二十階もあるビルの屋上まで一飛びで飛び移れるほどの脚力もあり、更には宙に瓦礫といった足場代わりになるものさえあれば、問題なく宙を渡れる。

 

ただ、そんな彼でも限界はあるだろう。

 

そう思ったデバイスに詳しいユーノは、一度虎杖を管理局本局へと連れていき、魔力がないものでも扱えるデバイスを借りに貯蔵庫へと連れていった。

 

 

「こちらです」

 

「おう」

 

 

促されて中に入った虎杖は思わず圧倒された。

 

何せ、所狭しと並ぶ武器、杖、魔導書、腕輪、指輪、剣だのが置かれている。呪術高専での武器庫でいくつもの武器を見てきた虎杖でも、魔法の道具がこんなにもあるのを見ると流石に驚いた。

 

 

「虎杖さんは戦闘技術に関してはほぼ無敵と言っても良いでしょう。しかし、魔導師は空中戦が強いられることが多々あるため、足場となるものが必要だと判断しました」

 

 

ユーノは語りながら棚の前までやってきて、いくつかの武器の中から一つの指輪へと手を伸ばす。小さな宝石が嵌められた、赤い指輪だ。

 

 

「これを使ってください」

 

「これは?」

 

「魔力のこもった指輪です。虎杖さんには僅かな魔力の波動が流れていることがわかったので、その指輪に力を込める要領で魔力を流すと、足元に魔方陣が展開されます。それを足場にして戦うと良いと思います」

 

「おぉ~! サンキュ! ユーノッ!!」

 

 

いえいえ、とユーノは手を振って微笑んだ。現時刻は夜、少年達はいったん廊下に出るとそこでフェイト達と再会した。

 

 

「あ! ユーノ!!」

 

「フェイト! それにアルフさんも」

 

 

二人が近づいてくるのに気がつくと、フェイトは何かを思い出したように、ポケットから何かを取り出した。

 

赤い宝石だった。

 

それはユーノにとって、元相棒だった。

 

 

「レイジングハート! 直ったんだね!!」

 

「うん! なのはも今リンカーコアの検査を受けに本局に来てるから、渡そうと思ってたんだ。ユーノも一緒に行かない?」

 

「うん、そうするよ。虎杖さんもそれでいいですよね?」

 

「おう、もちろん!!」

 

 

そう言って四人はなのはがいるであろう診察室に向かう。しばらく歩いていると、扉の向こうから『ありがとうございました』と小さな女の子の声が聞こえてきた。

 

そして。

 

診察室の自動ドアが開き、そこから茶髪の少女が出てくるのが見えた。それを見たフェイトとユーノにアルフは走り出す。検査結果をいち早く聞くためだ。

 

 

「なのは!」

 

「検査結果、どうだった?」

 

 

そう問われ、なのははニッコリ笑顔を見せながら腕を上げ、

 

 

「無事、完治!」

 

 

なのはの笑顔に、三人も笑顔になる。フェイトは自分の相棒のバルディッシュを、ユーノはなのはに託したレイジングハートを見せて言った。

 

 

「こっちも完治だって!!」

 

「レイジングハート!」

 

 

なのははユーノからレイジングハートを受け取ると、相棒に向かっておかえりという言葉をかける。するとレイジングハートは『I returned safely master』とだけ返した。

 

と。

 

なのはは、フェイト達の後ろにいる虎杖に気付き、どういうわけか俯いてしまう。

 

 

「?」

 

 

よくわかってない虎杖は頭の上にハテナマークを浮かべるだけでそれ以上喋ろうとしなかったが、なのはが大きな声で急にこんなことを言い出した。

 

 

「あ、あの!!」

 

「ん?」

 

「えっと、あの········その········ッ!!」

 

 

言葉が中々でないなのは。ただ言いたいことを言えば良いだけなのに、それが出来ない。緊張しているというのもあるのだろう。ギクシャクとロボットみたいにカチカチと動いては止まりを繰り返し、それを見ていた虎杖は小さく首を傾げて、言った。

 

 

「高町なのは、だったよな?」

 

「え? あ、はい! そうです!!」

 

「体の方はもう平気なのか?」

 

「はい!! バッチリです!!」

 

「そっか! 良かった!!」

 

 

少年の言葉はあまりにも自然で、普通に会話が出来ていた。高町なのはは小さく息を止める。視線がどうしても下を向く。

 

それでも、これだけは伝えておきたかった。

 

 

「あの! あの時は助けってくださってありがとうございました!!」

 

「あの時?」

 

 

一瞬首をこてんと傾けたが、ああ、とすぐにあの夜の出来事の事だと思い出し、虎杖は純粋な笑顔を返して言った。

 

 

「別に礼を言われる筋合いはねぇよ。俺が勝手にしたことだし」

 

「でも、あの時助けてくれなかったら、私死んでたかもしれません。だから本当にお礼がしたかったんです!!」

 

「そっか」

 

「あの·······それで、一つお願いがあるんですけど」

 

「?」

 

 

ごくり、と。高町なのはは緊張の衝動が胸の辺りまでせり上がってくる。けれど、なのはは全てを噛み殺し、飲み込んで言った。

 

 

「私と、友達になってくれないかな?」

 

「え?」

 

 

飲み込んだまま、笑う。完璧な笑みとは程遠い、けれども虎杖という少年に見せたかった正真正銘の純粋な微笑みを見せて。

 

だからこそ、虎杖も笑って返した。

 

 

「何言ってんだよ」

 

「え?」

 

「俺達、もう友達だろ?」

 

「!!」

 

「そんなこと頼まなくても、俺達はとっくに手を取り合う仲間だ。だから遠慮なく話しかけてきてくれて構わないぞ」

 

「!! ありがとう! えっと、じゃあ悠仁君って呼んでもいいかな?」

 

「おう、こっちもなのはって呼んでいいか?」

 

「うん! これからよろしくね悠仁君!」

 

「こっちこそ、よろしくな! なのは!!」

 

 

虎杖はその笑顔を受け取り、差し伸べられた少女の手を力強く掴む。

 

パァン!! と。

 

野球のグローブでボールを捕らえた時にも似た、小気味の良い音が響いた。

 

こうして二人の主人公は初めて会話した。

 

二人は手を取り合い、この先に待つ困難を乗り越え、共に名も知らない人々のために立ち上がる。

 

 

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