どんな女がタイプだ? 作:ブラザー
わぁー……日間二次創作、総合ランキング1位ありがとうございました!
ピエッ……! としか口から出なかったですけど、一度は辿り着いてみたかった世界を経験することが出来て感慨無量です。記念にスクショしちゃった……! キャッ……!!
ミームのせいで書くことになった作品ですけど、恐れ多い気持ちを抱きながら返せるのは今日もまた投稿することくらいです……。感想は時間ある時にまた返していくので。
……いや待って。流石に伸びすぎやない? ノミの心臓が破裂するで……。
バスに乗ってから用意された場所で服を着替えては試験会場に辿り着く。
冬というのもあって皆着込んでいる中、俺は――
「す、すげえ筋肉だ……」
「オールマイトみたいな人がいる……」
「身長的にはエンデヴァーじゃね?」
「筋肉の個性か……?」
「デカすぎるだろ……」
「あれ本当に学生?」
「ウホッ♂」
「なんで裸?」
「なんでかペンダントだけ着けてる……」
「えっちすぎるでしょ……」
上半身裸で両腕を組みながら仁王立ちしていた。
だが何も身につけてないわけではなく、ロケットペンダントだけは常に持ち歩いている。何故ならばこの中には俺の推しのアイドルの写真が入ってるからだ。
スタート地点で周りの受験生を見るが、期待出来ないものばかりだ。食指が動きすらしない。
戦い慣れてないものばかり。
俺は高校生だろうと大人の不良だろうと喧嘩してぶっ飛ばしたことがあるとはいえ、これならば先の校門前で見たツンツン頭の方が幾分かマシに感じる。
もっと俺の退屈も消えるかと思ったが、そんなことはなさそうだ。
入学しても変わらず小森と推し活するとしよう。
さらに人が増えてきたところで、視線が向かったのは数人だ。
カマキリみたいな外見をした男。漫画の吹き出しみたいな人物。茶髪と楕円形の目が特徴の男。セロテープみたいな男。ピンク髪の触角の生えた女。好みでは無いが身長が高くスタイルのいい、浮くくらいに容姿の良い女など様々な人間がいる。
ん? あのサイドテールのオレンジ髪の女は何処か他と違うな……なるほど、立ち振る舞いからして武を嗜んでると見た。
個性がどうかは知らんが、あいつは合格するだろう。
ただ一人気になるというか、珍しくて2度見してしまったのは透明人間だった。あまり類を見ない個性だな。
服装的に彼女だろうが、ロボ相手ならば有利かもしれないな。
『スタート!』
推しの写真が入ったペンダントに軽く触れ、開始と共に誰よりも先に前に出る。
俺が動いたからか、遅れて反応して他の人たちも追ってくるがスタートダッシュを切るのと切らないのでは大きな差がある。
『標的発見!』
「味見と行こうか!」
アームを振るってくるロボに合わせて拳を突き出す。
部品の数々が崩壊し、全身から爆発して機能が停止する。
「柔いな……」
一瞬で気持ちが沈んでいく感覚があった。
脆い、脆すぎる。呪力すら宿していないただの拳で壊れる……?
気を取り直そう。
あくまであれは1Pだ。誰でも壊せるようにしてるのだと思われる。
天下の雄英がまさかこの程度のはずがない。
『ヤバソウナオト!』
『コロセ! コロセ!』
『ヨクモオレタチノナカマヲ!』
『ヤロウオブクラッシャー!』
次々と集まって来ることから、音に反応するように設計されてるのだろう。
駆け出しながらラリアットをかますと、それだけでひっくり返って機能が停止する。
踏み込んで蹴り、流れるように回し蹴りで蹴り飛ばしながら巻き込んでいく。
強いパンチの打ち方、蹴りの繰り出し方。
それらを知る上に、元々の戦闘経験やセンス+俺には“東堂葵の経験”が刻まれている。“両面宿儺”というもう一人の“最強”との経験もな。
この程度じゃまず攻撃を貰うことすらない。
しかし3Pが相手だろうと呪力は必要無さそうだった。
周りは個性頼りの動きをしているが、これならば個性を使う必要すらないだろう。
まだ入口付近なのでロボットが少ないため、向かってきた位置から察するに奥の方がいるのだろう。
呪力を足に集中させてアスファルトを砕きながら跳躍する。その際に向かってきたロボットが巻き込まれて機能停止していたが関係ない。
ビルに着地後、次々と跳んでロボットが集まっている箇所を発見すると落下する勢いを活かしてそのまま踏み潰した。
『ナニヤツ!?』
『ヨクモブラザーヲ!』
『ヒトノココロトカナインカ?』
『サイコウソクドデブチヌイタル!』
そうなると当然囲んで俺を標的にして一斉に襲いかかってくる。
相変わらず口の悪さはどうなってるのか。実力も口の悪さもまだ不良の方がマシだった。
最小限の動きで避け、拳と蹴りだけで壊していく。
しかし個性を使わずに終わってしまうと、舐めプしてると思われて悪印象を抱かせる可能性もあるか。
試験終了後までに使う機会が訪れればいいが。
ある程度ポイントを稼いだあとは、周囲の観察に徹した。
斬った跡が残ってたり、文字が攻撃してたり、空気を固めたり、セロテープで身動きを封じたり。服だけが浮いてる透明人間は倒す手段がないのかスイッチを切ってたり、容姿が目立っていた女は瓦礫のサイズを変えたり、角の生えた女は溶かしてたり、オレンジ髪のサイドテールの女は手を大きくしていたり、他にも多くの受験生たちが個性を用いている。
俺は建物の上から観察しつつ、危うそうな場面を見かけては、その人が戦っているロボットは壊さず攻撃部位だけを破壊するように徹していた。
横取りしたなどと無駄ないざこざを起こしたくはないからな。
ちなみにだが、俺が支援に動いてるのは既に開始からかなり経っており、体力の低下で危険な目に遭う者たちが出てき始めていたからだ。
それに俺が倒しすぎては他の受験者が合格出来なくなる。
ポイントの数はもう覚えてないが、60くらいは行ってるはずだ。
ひとまず反応が遅れていたオレンジ髪のサイドテールの背後に迫っていたロボットのアームを受け止めると、そのまま潰す。
「やれ」
「え、あ、ああ!」
困惑しつつも個性で潰していた。
これなら奪ったことにはならないだろう。
「助かったよ、ありがとう。でもいいのか? ポイントを譲るなんて……」
「譲ったわけではないさ。“ヒーロー”に求められるのは戦闘能力だけか?」
「……!! そうか! ヒーローに必要なのは一つだけじゃなくて……」
答えを言ったわけではないのに、辿り着いたか。
どうやら頭の回転は早いようだな。
この試験の裏にあるものに気づいたらしい。
やはり俺の目に狂いはない。元より人助けをしていたのは見えてたので性分なのだろうが、彼女は合格するだろう。
だからなんだという話だが、俺はすぐに他の場所に向かう。
時間も僅かになったからだろうか、突如として地震のような揺れが発生していた。
発生源に目を向けると、どこに隠していたのか巨大なロボットが出現し、建物が崩れていく。
あれが
……流石にデカすぎないだろうか。現れただけで甚大な被害を出している。あれほどの質量だ、ビル並みのロボットがアームを振り下ろしただけで衝撃波がとんでもない。
受験生たちはあまりに巨大な存在だからか、逃げ始めていた。
そもそも倒してもポイントにならないからだろう。
仁王立ちする俺を避けるように周りが走って逃げている中、俺だけはその場から動かずに見上げていた。
「いったぁ……」
「ん?」
ふと声が聴こえる。
しかし俺の視線には何も映らない。
考えるに、さっきの透明人間だろうか。
靴は見えるが……姿が見えん。呪力は呪霊を見ることは出来るが、透明人間を見るような力は備わっていない。しかし珍しい個性だったのもあってよく覚えてるため、靴だけは見えるから思い出せば何となく体の位置は分かる。
人が多い中で透明人間が逃げるのは誰も見えないのだから厳しい。それも足元なんていちいち見てられるわけがない。
近くには0P。
このままでは瓦礫に押し潰される可能性がある。それどころか何人か逃げ遅れてる者もいるようだ。
まずいな。
「早く!! こっちに逃げて!」
逃げてなかったのか、サイドテールの女が個性を使って埋もれた人の瓦礫を持ち上げてるのが見える。
逃げ遅れたのかサイズを変えていた女を連れている。
しかし彼女だけでは手が圧倒的に足りない。数が多すぎる。
「ならば!!」
俺の出番というわけだ。
左の甲を下にし、右手で叩く。
把握しろ、ひとまず優先順位は透明人間。
パァン!
「え……っ!? あれっ!?」
その瞬間、透明人間は俺の真横に居た。
突然瞬間移動したようなものだから混乱しているのだろう。
次々と俺は手を叩いていく。
鳴らす。鳴らす。鳴らす。
ちょうどいい残骸のロボと怪我をして動けない人、巨大ロボットの衝撃波に巻き込まれた人、倒れ伏せている人、逃げ遅れた人、避難出来てない人々を次々と0Pから離してると音によってバレたのか俺の方にヘイトが向いた。
突然の出来事に理解が追いつかずに固まってる者も多い。逃げれるまでは囮になるしかない。
「動けるか?」
「ご、ごめん。足が……」
「そうか、ならば抱えるぞ」
「きゃっ!?」
隣にいる透明人間は足から血を流していたため、最初に見た服の位置から腕の位置を思い出し、両脇を抱えるようにして抱き上げると、薙がれた一撃を跳ぶことで避ける。
声や掴んだ感触から明確に女性というのが分かった。
女装してるだけの可能性もあったからな。
だが、女性だったならばもっと遠くの残骸と入れ替えするべきだった。
急いでいたのもあって近くのにしてしまったが……いや動けないなら巻き込まれる可能性のほうが高い。
この方が好都合だ。
次々と攻撃を避けていくにつれて、鬱陶しくなったのか巨大ロボットは腕を振り上げていた。
避難はまだ済んでいない。
俺が引き付けてるのを察してかサイドテールの女や他の人たちが一緒に連れて逃げたり、理解した人たちが逃げたりしてはいるものの、あれほどの一撃ならば巻き込まれるだろう。
質量というのはそれだけで凶悪な暴力でもあり、全ての人に死の恐怖を与えるに足るものだ。
実際に恐怖心に呑まれてるのもいる。
「や、やばいよ! 逃げないと!」
「俺が逃げたら他が危ない。お前も足の怪我で逃げられないだろう。動けても殴られる方が早い。とりあえずこのままじゃ埒が明かん。俺の背に乗れ。両手が使えないと何も出来ない」
「わ、分かった! でも……どうする気なの!?」
「ここで取れる選択などひとつしかないだろう!!」
ロボが大きすぎるあまり邪魔すぎて透明人間の少女だけを入れ替えすることが出来ない。それに既に残骸が巨大ロボットの衝撃波で吹き飛んで近くにないのもある。
俺一人ならば逃げられるが、逃げたとして避難中の者が危険な目に遭う可能性。透明人間の女が逃げ切れない可能性。
それらを考えるなら取れる選択は限られる。
そのため彼女を降ろしたあと背を向けると、言われた通りに俺の背に引っ付いてるのが分かった。
――上半身の服を着てないのもあって直接感じて分かったのが、こいつ、思ってたより小さいな。というか……まさかこいつ服を透明にしてるのではなく服を脱いでるのか!? 正気か?
てっきり服を透明にしてるものだと。服どころか靴以外を下着も含めて脱いでるせいか直に感触が感じられる。
いや考えるな、今はそんなことを考えてる場合では無い。
「選択って! 何!?」
「ここで倒すッ!!」
しっかりと首から手を回してるのを確認した俺は、疑問に答えると同時に両脚に力を入れ、振り下ろされた0Pのアームを交差した両腕で受け止めた。
あまりの重さに地面が陥没し、衝撃が肉体に走る。
しかし地面には落ちていない。
「うっそぉ……!? 受け止めた!? あれを!? 個性を使わず!?」
耳元で騒がれると少々気が散るが、今までのヤツらと違う威力。
大したことがない試験だと思ったが、生身では随分と重く感じるな。
こんなロボットもいるならば高揚感が生まれるのも仕方ないというもの。
「やるな……! だが弱いッ!!」
両腕を動かして大きく弾く。
そして手刀の形を取った俺は呪力を纏って勢いよく振り下ろした。
硬い装甲ではあったが中に入っていたであろう回路ごと斬り落とし、それを手で掴みながら踏鞴を踏む巨大ロボットの腕に跳んで乗る。
「しっかり掴まっていろ!」
「う、うん!」
振り落とされないためにか力が強くなる。
ロボットを登るように駆け出す俺を掴もうとするもうひとつのアーム。
「大丈夫なんだよね、これ!?」
「
すぐに呪力を乗せて持っていたアームをロボットの頭上まで投げ飛ばし、迫ってくるアームを見つめながら冷静に両手を叩く。
あのアームならば二人分の移動は可能。
場所が入れ替わり、アームとアームがぶつかり合って武器が無くなったのを見ながら巨大ロボットの頭部に着地した。
「何度も殴ってれば分かる。ここが弱点なのだろうッ!?」
下半身に力を入れ、腰を深く落とし、両脚にしっかりと力を集める。
「――フンッ!!」
息を吸い込んでは吐き出し、拳が落ちる速度と体重を合わせて拳を振り下ろす。
同時に呪力を集中させ、渾身の一撃で打つ。
突き刺さった拳の部分から徐々にヒビが入り、全身に広がっていく。
そして。
高い位置に居るのもあり、視界に見える残骸。
両手を叩いて二体のロボの残骸と入れ替えるのと同時に、背後で爆発が起きた。
そのタイミングで、終了を知らせる声が響く。
――ふむ。黒閃を狙ったのだが、不発だったようだな。記憶での経験はあれど、俺自身はまだ未経験だ。つまり俺はまだ呪力の“核心”を得ていない。味を知らないのだ。
黒閃をキメて核心を掴み、領域展開は無理でも反転術式に近づければ、と思っていたのだが……。
お陰で完全に全身を砕くことは叶わなかった。頭部は粉砕したが、あくまで全身にヒビが入った程度。理想は完全に分解することだった。
だが、頭部には色んな回路が積まれている。
センサーやプロセッサ、AIの重要回路など。
そういった点から装甲がどうしたって薄くなる。故に呪力を乗せた俺の一撃でも簡単に粉砕することが出来た。
ただ正直な話、個性で入れ替えてしまえば終わりといえば終わりだった。しかしそれでは退屈だ。
だからこそ、こうして戦ったわけだ。
そもそもあくまでロボを形成しているのはパーツ。部品であるならば個性の対象だからな。
1番の理由としてはパーツを替えたらロボットが倒れるため、危険というのがあったが。
「ほ、本当に倒しちゃった……」
「怪我は平気か?」
「あ、うん……ってぇ!?」
急に手が離れた。それも背中から感じられる肌の感触も消えたため、後ろに倒れたのだと思う。
だいたい1mはあると考えれば頭を打つのは十分だ。
落ちないように咄嗟に背中に手を回すと、妙な感触が手から感じられる。
「んっ……!」
手からは柔らかい感触が直接感じられて、何やら色っぽい声が耳に響く。
服ではなく直接肌に触れてるような、というか肌ではなく弾力が――身長差か……!
透明のせいで分かりづらすぎる……!!
「……誤解しないでくれ。わざとでは……」
「だ、だだだだ大丈夫だから! わ、わかってる! は、離していいよ!! ご、ごめんね、私が急に離したのもあるもんね!!」
騒がれたら困るので誤解を解こうとしたら早口で捲し立てられた。
その間にも手の位置を変えて彼女の背中らしき場所に移動させてから、しゃがんで地面に近づけるとそっと手を離す。
するとゆっくりと降りたようだが、すぐに『いたっ』という声が聞こえた。
反転術式を得ていない以上、怪我を治す力は持っていないため、未使用のハンカチを取り出すと彼女の足首に巻く。
「あ、ありがとう」
「気にするな。ハンカチを持ち歩くのは男の嗜みだ。後、予め未使用だと伝えておく」
そう、それはいつでも推しのアイドルに差し出せるように、な。
使うハンカチと使わないハンカチは分けてあるものだ。
「それにむしろ俺の方が謝罪すべきだろう。すまん、事故とはいえ
「いっ、言わなくていいからっ!! デリカシー! あるのかないのか微妙だねっ!?」
こういうことははっきりとさせておくべきだと思ったのだが、違ったらしい。
「さ、さっきのはただの事故だし! 命の恩人だし! もうこの話はおしまい! そ、それより! ね、名前! 教えて?」
「お前がいいならいいが……俺は東堂葵だ」
「じゃあ東堂くんだ! 私は葉隠透! よろしくね!」
「よろしくできるかどうかは分からんがな」
「それは確かに! でもでも、お互い受かってたらまた会えるでしょ!?」
「……それはそうだが」
そう言うってことは自信でもあるのだろうか。いや、単に前向きなだけだろう。
明るい性格なんだろうな。
「それにしても凄かったね! 直接触れて分かったけど、見た目通りガチガチだもん! やっぱりそのパワーは筋肉? 個性じゃないよね?」
「ああ、まぁ体の使い方もあるが、基本的には素の身体能力だ」
「は〜……すっごーい! 正直オールマイトみたいって思ったよ! でも、どうして半裸?」
「……いやほぼ全裸のお前にだけは言われたくないが」
「っ〜! 言わないでよぅ! 個性が透明なの! 服着てたらロボットにバレちゃうの! 仕方ないじゃん!! 見えてないからいいの! え、見えてないよね!? 東堂くん見えてたりする!?」
「見えん」
「よ、よかったぁ……っ!!」
顔が見えないから何を思ってるのかは分からないのだが、不思議と顔を赤くしてるような気はした。
いくら透明とはいえ恥じらいはあるのか。俺みたいに堂々としていた方が……それはそれで女子がやるのは問題か。
服を貸してやりたいが俺は服を持ってないため、どうすることも出来ない。
まぁ見えないなら問題ないか。専用のコスチュームでも作ってもらうと……髪とかも透明なら作れなくないか?
個性を拡大して完全透明化を身につけたならばサポートアイテムも使えていいと思うが……。
そんな疑問があったものの、いつまで突っ立てっていても仕方ないので手を差し出す。
意図を読み取ったようで手を乗せてきたため、俺は彼女に文字通り手を貸しながら試験場に来たリカバリーガールの元へ近づいて彼女の傷を治してもらった。
あとは着替えて帰るだけだ。
◇
――試験を終えた私は約束した雄英から少し離れたところで葵を待っていた。
試験は合格圏内だと思う。
葵のことは心配してない。
葵の強さは私が1番知ってるし、葵が落ちるなら今回の試験は誰も合格出来ないことになる。
それは有り得ないから心配してない。
でもちょっと遅いノコね。
葵が怪我をすることはないと思うけど……。
そう思いながら背中を預けて足でリズムを刻むように動かしながら待ってると、遠目からでも分かるくらい大きな姿が見えた。
体格も身長も大きいお陰で、遠目から分かるのはいいこと。
ぱあっ、と表情が明るくなったと思う。
私はすぐに駆け出して――
「えぇーっ!? 東堂くん頭良いんだ!? その見た目で!?」
「偏見は良くないぞ」
「あっ、それはそうだよね……ごめん。でも意外すぎて! 私ちょっと自信ないもん! 実力もあって勉強も出来るって……凄いなぁ。東堂くんは合格してると思う!」
聞こえてきた、女の声に立ち止まった。
視線がズレる。
浮いている、どこかの中学の制服。スカート。ストッキング。
恐らく常時発動型の個性。
胸や声、仕草から女性というのは容易に分かる。
葵?
「もしかしたら東堂くんが首席だったりして!」
「どうだろうな。結果が出ねば分からん」
「絶対そうだと思うなぁ。あの巨大なロボットも倒しちゃったし、最初誰よりも早く前にいたじゃん!」
「自分の心配はしなくていいのか?」
「うっ……痛いところ突いてくるなー。このっこのっ! そりゃ心配ですけどもー。もうここまで来たらなるようにしかならないじゃん!?」
やけに距離感が近くて、姿が見えないから分からないけど葵の腕を肘で突ついている、と思う。
ねえ、誰その女。
ねえ、なんで葵の隣に知らない女がいるの?
そこは私の居場所だよね?
なんでそんなに近いの?
なんで私の葵にそんな気安く触ってるの?
なんで……なんでなんでなんでなんでなんでなんで――ッ!
「あっ、ヤバっ。もうこんな時間! 時間ないから私帰るね! また会おうね、東堂くん!」
「治ったとはいえ気をつけて帰るようにな」
「うん、分かってる! また連絡するねー!」
私の横を通る。
視線が動く。
見えないはずなのに、何故か目線があったような気がした。
でも彼女は私を知らないからそのまま通り過ぎていく。
髪で隠れた瞳で睨むようにその背を暫し見てると。
「小森、待たせたか?」
葵が声を掛けてきた。
感情を抑えるように深呼吸する。
自分の中の黒い感情を沈静化させていく。
葵は悪くないから、葵に当たることはしない。
だけど。
「……小森?」
「葵」
ゆっくりと近づいて抱きつく。
すると葵はそっと背中に手を回してくれた。
葵の匂い。汗の混じった馨しい匂い。いつもとはちょっと違う、匂い。男の子の匂い。
でも違う。混じっている、女の匂い。
いらない。葵にはこんな匂いはいらない。
グリグリ、と頭を擦り付ける。
「試験で何かあったのか?」
「……ううん」
上書きする。
あの女の匂いを落とすように。
私に染めるように。
強く抱きつく。
「そうか。であるならば帰るとしよう」
「うん」
横に逸れて腕に抱きつく。
抱きしめて、隣に位置する。
私の定位置。
葵は今更何かを言うこともなく、ただ受け入れてくれる。
だから出来る限りくっついて歩くことにしていた。
葵の方が歩幅があるけど、私に合わせてくれる。
そこは嬉しいけど、自分の中の黒い感情が溢れないように私はただ抑える。
嫉妬。そう、これは嫉妬。
自分でも理解していても抑えれるものではない。でも私の全ては葵に捧げると決めた。
彼の隣に居ると決めた。誓った。
例えそれが――
それを望んだのは、私なのだから。
だから彼の傍に居るのは私。誰にもその席は譲れない。
腸が煮えくり返るように蠢く黒い感情は、決して消えることはなかった。
これは持論だけどね、愛ほど歪んだ呪いはないよ。