大鍋を選び終えて手元のリストに目を落とす。
軽いものから済ませたから、制服の採寸は済んだし、杖以外のものはすべて揃えた。
重い物をあんまり持ち運びたくなかったのだ。
今思ってみればこの判断はやはり適切だった。
大鍋に教科書や望遠鏡を詰めて運んでいるが、これを持ち運んで制服の採寸やらなんやらはやりたくない。
『おもいよーーーーーーー』
あとちょっとだから、我慢して!
「それにしてもなんで杖最後にしたの?一番軽いんだし、早く行っちゃえば良かったのに」
「それは……なんていうか……雰囲気よ!」
「私は雰囲気だけでこんな重いものもって歩かされてるの???」
「……ちょっと楽しみだったのよ。最後に大事に選びたかったっていうか……」
「まったく、お姉ちゃんったら意外とそういうの重視するよね」
『お姉ちゃん、意外とかわいいとこあるんだよなー』
むぅ、ちょっと子供っぽかったかしら。でも本当に楽しみだったから……
「いいから早くいこ!ペット選ぶ時間なくなっちゃうし」
「そうね!ふふ、どんなに杖になるかしら」
杖、魔法使いといえば!だ。
イギリス以外のところ、特にアフリカの方では杖を使わない魔法族もいるらしいが、やはり魔法使いといえば杖を振り三角帽子をかぶり猫とカラスを連れていて箒に乗っているイメージがある。
自分の杖が手に入るなんて、楽しみだ。
「ここ、かな?」
こいしとともに見上げた看板には「オリバンダー:紀元前382年創業高級杖メーカー」と書かれている。
「そうみたいね。さあ、行きましょう!」
扉を開けると少し埃っぽい薄暗い店内が目に入る。
壁一面にある棚にはぎっしりと杖が詰められている。
この中に私たちの杖もあるのね……。
「いらっしゃいませ、お嬢さんがた。入学前に杖をお求めで?」
「ええそうよ。子供二人だけ……まあそうね、こう見えて私たち年齢不詳なのよ。なんせ人間じゃないんだもの。ええ、心が読める妖怪、とでも言っておこうかしら。あら、好意的な反応をしてくれる人にはなかなか出会ったことがないわ。私は気に入ってるのだけれどね。ほら、楽じゃない?説明の手間省けるし。まあ、あなたにかかればなんでも杖のためになるのね……。まさか私たちに杖を選ぶことを楽しんでくれるだなんて。私たち、杖を買うのをとっても楽しみにしてたの。今日はよろしくね」
『お姉ちゃん、テンションあがってるなあ』
『これはこれは、気合いを入れねばならんのう』
「そうですなあ、ではまず手近な杖を一本手にとって振ってみてくだされ」
『妖怪に杖を選んだことなど無いからのう……まずは杖の反応を見て慎重に行かねば』
私とこいしがそれぞれ手近な杖を手にとって振ると魔力が暴発したのか棚の一部が崩れ椅子が壊れてしまった。
『これ大丈夫?弁償とか』
大丈夫じゃなかったら持たせないはずよ。さすがに……。
『いっぺんにやるものではないのう……』
「じゃあお姉ちゃんのから選んであげて!すっごく楽しみにしてたの」
「もう!こいし!バラさないでよ!」
「ほっほ、ではお姉さんの方から選ぶとしよう」
『物腰柔らかく好奇心旺盛、気位は高く自信家、深い愛情を持てる、リーダーシップと精神力の強さを兼ね備えている。良くも悪くも周りからの評価を気にしない……』
『すごいなぁこの人、一瞬でお姉ちゃんの性格読み取っちゃった』
周りからはこういう風に見えてるのね。杖作りってみんな洞察力に優れているのかしら……
オリバンダーは私の性格について考えながら店の奥へと引っ込んでいくと、いくつかの箱を抱えて戻ってきた。
私はその中の一つを持って振ってみる。
……ハズレ。花瓶が割れた。
その次も……ハズレ。その次も、その次も、ハズレ。
『トネリコに一角獣の毛。クリにドラゴンの心臓の琴線。クマシデに一角獣の毛。カエデに一角獣の毛。一角獣もドラゴンも合わない、木材はアレがある、となると……』
「これはどうじゃ?キンヨウボダイジュに不死鳥の尾羽、30センチ、硬め」
『ギンヨウボダイジュは開心術者に高い適正がある。能力が開心術と関係あるかはわからんが、自身の能力を気に入っているようじゃから……。不死鳥は独立心の高い超然とした生物。きっと仲良くなれるじゃろう』
とても美しい杖だ。色合いもさることながら、つやと深みが飛びぬけて美しい。
しかし、その杖を振ってみると……微妙な結果だった。
杖先からパラパラと銀色の粉が噴き出す程度だ。
『なんか意外としょぼい……?』
『なぜじゃ……?相性は完璧……もしや、長さかの……?』
オリバンダーは慌てて店の奥に引っ込むとほこりを被った箱を出してくる。
「ギンヨウボダイジュに不死鳥の尾羽、17センチ、非常に硬い。これはわしが何十年も昔に作ったのじゃが、短くてのう……買い手がつかなんだ。でもお嬢さんなら……」
『20cm以下の異常に短い杖は、性格的に何かが欠落がある持ち主を選ぶ、とは言うが、常時人の心を読めてしまうのじゃ、何かが欠けているのが当たり前ということじゃろうか……』
その言葉通り、私が手にとると美しい杖の先端から金色の粉が舞い散り、まるで杖が喜んでいるかのように感じた。私の心にぴったりとはまるような、そんな杖だった。
『まさかこの杖に買い手がつくとはのう……長生きはするもんじゃ』
『さとり妖怪の精神が難しいのは今に始まったことじゃないもんね、特にお姉ちゃんはそう』
私はこいしにどう思われているんだろう……。
でもうれしい。私しか使えない杖なんて特別感あっていいじゃないか。それに気難しいのは私も好きだ。簡単に読めて操れるものなんか楽しくないし。
なんにせよ、杖が決まったのだ。
「全ての杖は持ち主を選び、その持ち主に対し忠誠心を持つ。杖がお主を選んだのじゃ。大切にしてやってくだされ。そして次は妹さんですな」
そう言うとまた奥に引っ込んでいく。
『次は私だよ!楽しみ!』
こいしはどんな杖に選ばれるのだろうか。