奥に取り込まれている女性は、どことなく川にいた少年と似ていた。恐らく、少年の姉にあたる人物なんだろう。
とにかく早く助けないと……
彼女はこうしている間にも、化け物に取り込まれている。もちろん、僕自身もジッと助けを待っている時間なんてない! この死なない身体でも、細胞ひとつ残らず吸収されたらどうなるのか? 今はそんなことを考える暇は無い!
まずは、目の前の女性を助けるんだ!
しかし、いったいどうしたらいいのだ……
試しに、化け物の肉壁を引っ搔いてみたが、丈夫なバランスボールみたいに、ぶよぶよ反発して、全く効果がない……。今度は、口を大きく開けて、嚙み千切る作戦でいった。
ガブ!
ブチンッ!!
「やった! いけるぞ! 少しだが、化け物の肉を削れた!」
その直後、急に大海原に放り出された小型の船のように揺れ始めた。
多分、痛みでのたうち回っているんだろう……
このまま、嚙み千切って穴開けてやる!
僕は、無我夢中で嚙み千切り続けた。鳥のささ身のような触感、たまに誤って肉を飲み込んでしまったが、今の僕には、そんなことを気にする余裕はなかった。段々と、楽しくなって、食いちぎる速度が速くなっていく。
「いいぞ、もう少しだ! なかなかこの肉もいいもんだ」
気付いた時には、僕は化け物の身体に大きな穴をあけていた。
サメの化け物は、力尽きたのか動かなくなっていた。この勝負、僕の勝ちだ。
魚のゼノとの死闘に勝ったぼくは、高揚感にあふれていた。取り込まれている女性のことを、一時忘れるほどに……、自分が倒した敵の様子を今一度確認した後、体内に取り込まれている女性を助けるため、気が引けるが、もう一度サメの体内に入ったが、助けるはずの彼女は息をしていなかった。
もしかしたら、化け物と繋がったせいで、サメの化け物と一心同体の関係になっていたのだろうか。僕が化け物を殺したから、彼女も一緒に死んでしまったのかもしれない。
僕はあの少年を探した。周りをぐるっと見渡す。すると、物陰に小さくなって隠れている子がいた。僕は、小走りで少年のもとに駆け寄り安否を確認しに行った。化け物に取り込まれていた人は、助けられなかったが、この少年は助けることができた。
それでいいじゃないか……
そう自分に言い聞かせ、女性を助けられなかった罪悪感から逃げようとしていた。
「君、大丈夫だった? もう大丈夫だからね!」
「うん」
少年はゆっくりと顔を上げる。
しかし、そこにいたのはヒーローでは無かったのだ。
「うわあああああ、化け物!」
少年は、突如泡を吹いて倒れてしまった。
まったく!
命の恩人に対してそれは失礼じゃないか?
「しっかし、顎がなんか重いな……流石に疲れたか?」
僕は、ピラニアの様になった歯をガチガチと鳴らし、少年を負ぶって避難区画へと向かった。
朝8時を過ぎた頃だろう、避難区画の人たちのほとんどが起きて行動している。さて今日も復興作業頑張ろう、と意気込んでいる中、僕たちが現れたことにより、辺りは大騒ぎになった。ここに来る時には顎と口の違和感はなくなっていた。元の口に戻っていたようだ。
……本当に疲れただけだったのだろうか?
ピラニアの様な口になっていた事に関して、特に変に思わなかった。
「ちょっと、
騒ぎを聞きつけたのか、
「ああ、川の方で魚型のゼノに襲われてな……。この子のお姉さんが犠牲になってしまった。とにかく、この子を頼むよ。気絶しているだけだと思うけど……」
「しょ、
「そしたら服を脱いで、シャワーを浴びましょう!
確かに、今更だが体中泥だらけだ……
「でも、防御面全振りのあなたがよく勝てたわね。」
その言葉でやっと、自分の新しい力に気が付いた。
「ああ、自分でも驚いているよ……まあ、中から食い破ってやったぜ!」
でも、今は言わない事にしておこう。
「……あなたの壮絶な戦いは聞かないことにするわ」