ボウリングの球が三個、宙に浮いた……。ひとりは叫びながら、スイカの種を飛ばしてる……。ひとりは座って、自分の周りに黄色い池を作っている……。僕は今日食べたもので、残飯を作っている……。
ああもう、疲れた……
「逃げてください!」
その言葉で我に返った。
今の状況は!?
自衛隊の人が戦っている。
女性警察官が失禁している。
ぼくはゲロまみれ。
よし、最悪だ。
なんだあの化け物…タコの足みたいに動いている!? それに、先端が鋭利な刃になっているのか?! 漫画の寄生獣のような、バイオハザードに出てくるクリーチャーみたいだ。僕を殺したやつとは違う……、今は考えるのはやめよう。また気分が悪くなってきた。でも、弾丸は効いているようだ。撃たれた個所から、血みたいな液体をドバドバ出している。このままいけば……
ドシュ
嫌な音がした。そう思った瞬間には首は飛んでいた。
希望の星が宙に舞った。
逃げなきゃ……
まともに戦える人がいなくなった今
逃げるという選択肢以外、僕にはなかった。
「早くこっちに!」
僕は急いで、戦意喪失して座り込んでいる女性警察官の手を引っ張り、化け物の眼と、触手が届かないだろう物陰に身を潜めた。化け物は足が無いから、コチラに来ることは無さそうだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
彼女はただ、子犬のように震えながら謝るだけだ。
「大丈夫です。絶対に助けは来ますから」
そう言って、彼女を安心させようとした。
いや、自分に言い聞かせようとしたのかもしれない
化け物は獲物を見失ったからか、急に動かなくなった。
さっきまで暴れ馬のように動いていた触手は、元気がない花のようにくたびれて、先端の刃は地に降ろし、ジャラジャラと不快な音を奏でている。
これってチャンスじゃ…
このチャンスを逃すわけにはいかない!
物陰に隠れながら、亀のようにゆっくりと動けば……
「いまがチャンスです。ぼくが先に行きますので、後ろからついてきてください。」
「はい」
ゆっくり ゆっくりと……
今すぐ走ってこの状況から逃げ出したい気持ちを押し殺し、僕達二人はゆっくりと、化け物から逃げるため動く。
ぐちゃぐちゃ……
肉をこねくり回す音が聞こえた。すぐにその発生源がわかった。
根っこの化け物が変身、いや、進化し始めていたのだ。その場から移動できるように、足が生え始めていた……。
毛のない犬の出来損ないに、頭から触手が生えた様な姿は、奇妙でおぞましかった。画家のウェインバロウに、デザインして貰ったのかと思ってしまう。
ギョロッとした目玉が、僕の目と合ったような気がした。
「走って!」
咄嗟に叫んだ、絶対にこの展開はやばい!
僕は立ち上がり、後ろにいる女性の腕を掴み全速力で走りだした。息を切らしながら、ただひたすらに走っていたが、違和感を感じ立ち止まった。
後ろにいたはずの彼女の姿がないことに……
ぶらんと彼女の手首だけが残っている。
次はぼくだ
そう悟った瞬間、あの日の記憶が蘇る。
ああ、ぼくの人生ここまでか……
次の場面ではもう、僕の頭と体はきれいにわかれていた。意識がなくなってきたのか、化け物が自分の身体を食っているシーンが、徐々にフェードアウトしていく……
だが、遠のく意識の中、化け物の触手が宙に舞うのが、はっきりと見えた。何が起こったのか……、知りたかったが、残念ながらそこでぼくの意識はなくなった。
たぶん死んだんだろう…
目が覚めると、見慣れない場所にぼくはいた。僕の区画の場所から遠く離れていない場所のようだが……、しかし、なんで一人でこんな所で寝ていたんだろう?
まったく記憶がない……
「目が覚めたんだね。いえ、生き返ったって言った方がいいかしら?」
そう言いながら僕に近づいてくる少女……17歳ぐらいだろうか? スーツを着こなしてはいるが、アニメや映画でしか見たことのない物騒なマスクを着けており、どことなく異質感を漂わせている。映画マッドマックスに出演していても、違和感がないだろう。
「あの、ここは何処でしょうか?」
「もしかして、何も覚えてないの? 完璧に蘇るわけじゃないのね。」
「はい??」
言っている意味がわからない? 蘇った?
「暴走はしてないようね! 教えてあげる。昨日、何があったのかを……」