TS→後輩(天才女)のヒモ   作:鰻重特上

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私の居場所

 

 先輩が変わった。

 

 正確に言えば、先輩の私に対する距離の取り方が変わった。

 

以前の先輩は、意識せずに私の傍に寄ってきていた。ソファで肩に寄りかかり、玄関でマフラーを巻き直し、私の弁当箱に好物を詰めながら鼻歌を歌っていた。

 

 その全てが、先輩にとっては呼吸と同じくらい自然な行為だった。

 

 それが、ここ数日で微妙にぎこちなくなっている。

 

 変化は些細だった。

 

 朝食の時にこちらを見る視線が一瞬早く逸れるようになった。

 

 私に触れる時、ほんの少しの躊躇いが見えるようになった。

 

 ソファに座る時、いつもの位置に座る前にほんの一拍だけ躊躇する間が生まれた。

 

 先輩はたぶん、自分では隠しているつもりなのだろう。

 

けれど三ヶ月間、先輩のあらゆる動作を観察し続けてきた私には、その微差は明瞭だった。

 

 原因は……おそらく、先日の夜だ。

 

 先輩が言った、「千賀に、言いたいことがある。今日じゃなくて、もう少し考えてから」と。

 

 先輩が「言いたいこと」を保留した理由を、私は考え続けていた。先輩は自分の感情に名前をつけたのかもしれない。私に対する感情が友情を超えているかもしれないと気づいて……それを口にすることに躊躇している、のかもしれない……。

 

 なぜ躊躇するのか、答えは容易に推測できた。

 

 先輩の優しさを、私は痛いほど理解している。

 

 だからこそ……。

 

 その優しさが、今は少しだけ苦しかった。

 

 

─────

 

 

 火曜日の朝。

 

「おはようございます、先輩」

 

「おはよう、千賀」

 

 先輩がキッチンからこちらを見て笑った。いつもの笑顔だ。けれど一瞬、先輩の視線が私の目元に触れてからすっと横に逸れるのが見えた。

 

 直視を避けている。

 

 以前の先輩なら、寝癖を見つけて笑うか、「千賀、また隈が出てるよ」と眉を寄せるかしていたはずだ。

 

 朝食のテーブルについた。鯖の塩焼きと、インゲンの胡麻和えと、なめこの味噌汁。先輩の作る和食は、いつも出汁の加減が絶妙だ。

 

 味噌汁を一口飲んで、舌の上で出汁の旨味が広がるのを感じながら、先輩の顔を見た。

 

 先輩はこちらを見ていなかった。自分の茶碗に目を落として、白米を口に運んでいる。いつもなら「千賀、味噌汁どう?」と感想を求めてくるのに、今朝はその問いかけがない……。

 

「先輩」

 

「ん?」

 

「味噌汁、美味しいです」

 

「あ……うん。よかった」

 

 先輩の返答が、一拍遅い。そしてその後の笑顔が、ほんの少しだけぎこちない。

 

 先輩は隠し事が下手だ。

 

 感情が顔に出る人で、嘘をつくと目が泳ぐし、照れると首まで赤くなる。今の先輩は嘘をついているわけではないが、何かを意識的に抑え込んでいるのが手に取るようにわかった。

 

 玄関で靴を履く時、先輩が弁当を鞄に入れてくれた。

 

 手が触れて……いつもなら先輩の方から指先を重ねてくるのだが、今日は触れた瞬間にさっと手を引いた。

 

「……行ってきます」

 

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

 

 先輩の声は優しかった。優しいけれど、どこか遠い。

 

 手を伸ばせば届く距離にいるのに……先輩の心が、薄い膜を一枚張ったように感じられた。

 

 

 研究室に向かう電車の中で、私はずっと先輩の変化について考えていた。

 

 先輩が距離を取り始めたのは、自分の感情を自覚したからだろう。自覚した感情を持て余して、私への接触を意識的にセーブしている。先輩にとってそれは「迷惑をかけないための配慮」なのだと思う。

 

 けれど私にとって、先輩の距離は……ただ寂しかった。

 

 先輩が無自覚に距離を詰めていた頃の方が、よほど楽だった。先輩の意図を読み取る必要がなく、先輩の温度をそのまま受け取ればよかった。

 

 今は、先輩の一挙一動に「これは意識的な行動か、抑制された行動か」という分析が挟まってしまう。

 

 私の悪い癖だ。

 

 

 昼休み、研究室のデスクでスマホを開いた。

 

 先輩にメッセージを送ろうとしたのだが、何を書けばいいのかわからなかった。

 

「今日の夕食は何ですか?」では事務的すぎる……。

 

「先輩、最近少し様子が違いますが、何かありましたか」では踏み込みすぎる。

 

 結局、何も送れなかった。

 

 素直になれない臆病な自分が、本当に嫌になる。

 

 

─────

 

 

 水曜日の夜。

 

 帰宅すると、リビングの窓辺のラナンキュラスが満開になっていた。

 

 クリーム色と薄紫の花びらが、幾重にも重なって丸みを帯びている。先輩が買ってきた花だ。

 

 先輩は、花瓶の水を毎日替え、茎を切り戻し、花が長持ちするように、丁寧に手入れをしている。

 

 先輩のこういうところが、好きだ。

 

 最近は、こんな些細な事にさえ感情を揺らされる……。

 

 

 夕食は鶏のクリーム煮だった。マッシュルームとほうれん草と白菜が入っていて、味は申し分なく美味しい。

 

 先輩は黙々と自分の皿に向かっている。

 

「先輩」

 

「うん?」

 

「今日の鶏肉、火の通し方が絶妙ですね。しっとりしています」

 

「……ありがとう。えっと、塩麹に漬けてから、焼いたんだ。千賀が鶏肉パサつくの苦手だって言ってたから……」

 

 ……先輩は私の些細な好みを覚えていて、それに合わせて調理法を変えている。

 

 距離を取ろうとしている先輩の中に、私への気遣いは何一つ変わっていない。

 

いや……寧ろ、料理の手間は増えている気がする。

 

 先輩の矛盾に、胸が軋んだ。距離を取りながら、私のために手を尽くす。離れようとしながら、離れられない。先輩は自分のその矛盾に気づいているのだろうか。

 

 

 食後、いつもの様にソファで二人並ぶように座った。

 

 私がいつもの位置に座ると、先輩は、また少しだけ離れた位置に座った。

 

 先輩はソファの上で膝を抱えていて、小さな身体がさらに小さく見えた。

 

「千賀」

 

「はい」

 

「あの、さ……ちょっと、聴いていい?」

 

「どうぞ」

 

「千賀って、大学の頃……僕のこと、どう思ってた?」

 

 心臓が跳ねた。

 

 予想していなかったわけではない。先輩が距離を意識し始めている以上、いずれこの種の質問が来ることは想定していた。

 

 けれど想定していたことと、実際にその言葉を向けられることは、全く違った。

 

「どう、とは」

 

「後輩として僕と付き合ってくれてたわけじゃない? 学食で一緒にご飯食べたり、ゼミの後に喋ったり。あの頃の千賀にとって、僕はどういう存在だったのかなって」

 

 先輩の赤茶色の瞳が、まっすぐにこちらを見ていた。普段よりも真剣で、けれど同時にどこか怯えている目。先輩は答えを聞くことを……怖がっている。

 

 どう答えるべきだろうか。

 

 正直に答えるなら、大学時代、先輩のことが好きだった。

 

先輩を好きだと自覚しながら、打ち明ける勇気がなくて、卒業を境に疎遠になった。

 

 十年以上前から、この感情は始まっていた。

 

 けれど、今ここで、その思いを伝えてもよいのだろうか?

 

先輩のこの質問の意図は、本当に私の望むとおりのものなのだろうか? いや……わかっている、理解している。

 

 でも……もしこの感情も、想いも、私の独りよがりであったならば……。

 

「……先輩は、大切な先輩でした。とても尊敬していましたし、一緒にいて……安心できる人でした」

 

 ……大嫌いだ。

 

 こんな答えしか吐けない、臆病で自分勝手で……。

 

 

「そっか」

 

 そう言って、先輩が少しだけ目を伏せた。先輩の表情が翳ったのが見えた。安堵でも失望でもない……何かを確認して、その結果を受け止めようとしているような、静かな表情だった。

 

「千賀にとって、僕はずっと『先輩』なんだね」

 

 そう少し微笑んで言った、先輩の声は穏やかだったが、そこに微かな寂しさが含まれているのを、私は聞き取ってしまった。

 

 先輩は私の答えを「友人以上ではない」と解釈した。

 

 

 違う。

 

 胸の中で、何かが軋んだ。

 

 違う。そうじゃない。先輩は「先輩」だけれど、「先輩」だけじゃない。

 

 ずっと前から……もっと、ずっと前から……。

 

「先輩。それは……」

 

「ごめん、変なこと聞いた。忘れて」

 

 先輩が立ち上がった。

 

 膝を抱えていた姿勢をほどいて、すっと立った。

 

 笑っていた。

 

 笑っているけれど、目が笑っていなかった。

 

 こんな表情の先輩を初めてみた。

 

「お風呂先に入るね。千賀はゆっくりしてて」

 

「先輩」

 

「昨日のタルトの残りがあるから、冷蔵庫にあるよ。千賀が好きなりんごの」

 

 先輩がリビングから出ていった。浴室のドアが閉まる音がした。

 

 私は、ソファに一人残された。

 

 先輩が消えたリビングが、途方もなく広く感じた。

 

 ……何をしているんだ、私は。

 

 先輩が勇気を出して聞いてくれたのに。先輩が、私にとって自分がどういう存在だったのかを確認しようとしてくれたのに……。

 

 私はそれに対して、当たり障りのない答えで逃げて。

 

 「大切な先輩」嘘ではないが、真実でもない。先輩が本当に知りたかったのは、そんなものではないと理解していたはずなのに……。

 

 私は研究者だ。データを集め、仮説を立て、検証する。先輩の感情が身体の変化だけでは説明できないことを分析で導き出して。先輩の感情が恋である可能性を仮説として提示して……。

 

 けれど自分の感情については……十年以上も仮説のまま放置して、検証から逃げ続けている。

 

 卒業式の日、先輩に想いを告げられなかった。

 

 先輩が卒業して、疎遠になって、連絡が途絶えて。あの時も私は「今は時期ではない」「先輩の負担になる」と自分に言い訳をして、結局何も伝えなかった。

 

 そして今……また同じことをしている。

 

 先輩が目の前にいて、先輩が私に心を開こうとしてくれていて、先輩が怯えながらも一歩を踏み出そうとしているのに……。

 

 私は……。

 

 

 浴室からシャワーの音が聞こえている。先輩は今、一人で、あの小さな身体で、何を考えているのだろう。

 

 私に「先輩」としか思われていないと解釈して、自分の感情を封じ込めようとしているかもしれない。

 

 「千賀に迷惑をかけたくない」という先輩の優しさが、先輩自身を締め上げているかもしれない。

 

 私の臆病が、先輩を傷つけている。

 

 その認識が、静かに、けれど抗いようのない確かさで胸に落ちた。

 

 

─────

 

 

 先輩が浴室から出てきたのは、四十分後だった。

 

 普段よりずっと長い。

 

 リビングに戻ってきた先輩は、パジャマ姿で髪を下ろしていた。入浴後の先輩は、濡れた茶髪が肩にかかって、色素の薄い肌がほんのり上気していて……いつも見慣れているはずなのに、今夜は目が離せなかった。

 

「千賀、お風呂空いたよ」

 

「先輩」

 

 先輩の足が止まった。私の声が、いつもと違うトーンだったのだろう。

 

先輩が、少し赤くなった目で、怪訝そうにこちらを見た。

 

「先ほどの質問に、もう一度、答えさせてください」

 

「え……?」

 

「大学時代、先輩が私にとってどういう存在だったか。先ほどの回答は不正確でした」

 

 先輩が目を見開いた。

 

「先輩は大切な先輩だったと答えました。それは事実です。けれどそれは、全体の一部でしかありません」

 

 私を見つめている、赤茶色の瞳が揺れていた。

 

 言わなければならない。

 

 今度こそ。十年前に言えなかったことを、今夜、今、言わなければならない。

 

「大学時代……私は先輩のことが、好きでした」

 

 声が震える。

 

 怖かった。心臓が痛いくらいに拍動して、体の奥が、不安と期待で熱を帯びている。

 

 先輩の表情が凍った。時間が止まったように動きを失った。

 

「先輩として尊敬していた。友人として大切だった。けれどそれだけではありませんでした」

 

「先輩の隣にいると鼓動が早くなって、先輩の笑顔を見ると胸が痛くなって、先輩が卒業した後は……先輩がいない日常が、ひどく、色褪せて見えました……」

 

 先輩の唇が微かに開いた。何か言おうとして、けれど声が出ていない。

 

「好きだったんです……。恋をしていました。打ち明けることができないまま、疎遠になって。それでも先輩を忘れられなくて……。でも、私は連絡する勇気がなかった。先輩の負担になりたくないと……。今思えば、ただ自分が傷つくのが怖かっただけです」

 

 言葉が溢れ出していた、感情が堰を切って流れ出している。止められなかった。止めたくなかった。

 

「三ヶ月前、先輩が玄関に立っていて。女の子になって、途方に暮れた顔で。あの時……嬉しかったんです。先輩が戻ってきたことが。先輩がよりによって私を頼ってくれたことが。不謹慎だとわかっていましたが、嬉しかった」

 

 先輩の赤茶色の瞳から、涙が一筋、頬を伝って落ちた。

 

 声は出していない。

 

 ただ静かに、泣いていた。

 

「先輩が女の子になって、私の隣で笑って、私のためにご飯を作って、花を買って、マフラーを巻いてくれて……。その、一つ一つが、私にとっては十年越しに叶った夢のようでした。先輩の感情が身体のせいかもしれないと、そう考えながら、それが身体のせいだけではないと証明したかった。先輩の気持ちが本物であってほしいと……。そんな、都合の良い願望を……抱いていました」

 

 先輩が……動いた。

 

 ゆっくりと私の前に来た。

 

 見上げるような高さ。先輩は一五〇センチ程度しかないから、立っている私と向き合うと、顔の高さがまるで違う。先輩が私を見上げている。涙で濡れた赤茶色の瞳が、照明を反射して淡く光っていた。

 

「千賀」

 

 先輩の声は掠れていて……。

 

「僕も……好きだよ、千賀」

 

「千賀のことが好き。友達としてじゃなくて。先輩としてでもなくて。千賀のことが、大好き」

 

 先輩の声は震えていた。涙を拭いもせずに、まっすぐに私を見上げて、小さな声で、けれど揺るぎない確信をもって、そう言った。

 

「身体が変わったから好きになったんじゃない。身体が変わったから、好きだって気づけたんだ。千賀のこと、ずっと、たぶん大学の頃から、僕は千賀のことが特別だった。でもあの頃の僕には、この気持ちに名前をつけるための言葉がなかった」

 

 先輩が一歩近づいた。手が伸びてきて、私の手を取った。

 

先輩の小さな手が、私の手を包んだ。

 

「迷惑かもって思った。千賀は僕を拾ってくれた人だから、恋愛感情なんて向けたら千賀の負担になるって。でも……」

 

 先輩が私の手を握る力が、少しだけ強くなった。

 

「千賀が先に言ってくれたから。千賀が十年前から僕のことを好きだって言ってくれたから。だから僕も……逃げないで、ちゃんと言う」

 

 先輩の涙が、握った手の甲に落ちた。温かかった。

 

「好きです、千賀。千賀のことが、好き」

 

 先輩は一人称が「僕」で口調は男性的で……。けれど今の先輩の声は……どちらでもなかった。

 

 男でも女でもなく、ただ、英輝夜という一人の人間の、剥き出しの感情だった。

 

 私の目から涙が落ちたのは、その時だった。

 

 泣くつもりはなかった。

 

 千賀理珠は人前で泣かない人間だ。学会で厳しい質疑を受けても泣かないし、実験が失敗しても泣かない。けれど先輩の「好きです」が……。

 

十年間待ち続けた言葉が……耳に届いた瞬間、涙腺が一切の抵抗なく決壊した。

 

「先輩」

 

 声が出ない。喉が詰まって、声にならない。

 

 私が言葉を失っている間に、先輩が片手を離して、指先で私の頬の涙を拭った。

 

 先輩の指は小さくて温かくて、涙を辿るようにそっと頬を撫でた。

 

「千賀、泣いてるの初めて見た」

 

「……先輩のせいです」

 

「うん。ごめん」

 

「……謝らないでください」

 

 先輩が笑った、泣きながら笑っている。

 

 涙と笑顔が同居する、ぐちゃぐちゃな表情だった。けれどその表情が、今まで見た先輩のどの顔よりも、綺麗だった。

 

「千賀」

 

「……はい」

 

「僕たち、両想いってことでいいの?」

 

 あまりにも先輩らしい、率直で、飾りのない確認に、思わず笑いが漏れた。

 

 厳密な表現を好む私に、先輩はいつも最も端的な言葉を選ぶ。

 

「……はい。両想いです」

 

「……よかった」

 

 先輩が、私の手を引いた。引かれるままにソファに座ると、先輩が隣に来た。

 

 肩が触れ合う距離。いつもの距離……いや、いつもよりも、ほんの少しだけ近い。

 

 先輩が私の肩に頭を預けた。濡れた茶髪からシャンプーの香りがする。先輩の体温が、肩を通じてじんわりと伝わってきた。

 

「千賀」

 

「はい」

 

「十年も待ってたんだ」

 

「正確には十一年と三ヶ月です」

 

「……千賀、そういうとこ好き」

 

 先輩の声が笑いを含んでいた。私も口元が緩んでいるのが自分でわかった。

 

 窓辺のラナンキュラスが、照明を受けて静かに揺れている。

 

 花びらが、涙で滲んだ視界の中でぼんやりと光っていた。先輩がこの花を選んだ時、先輩は私のことを想って選んだのだと、今ならわかる。

 

 

 先輩の前髪をそっと払った。前にも同じことをした。あの時は先輩が眠ってからだったけれど、今は、先輩が薄目で私の指先を追っているのがわかった。

 

「……千賀」

 

「はい」

 

「大好き」

 

 先輩がまた言った。口に出すたびに、言葉の輪郭がはっきりしていく。先輩の中で「好き」という名前が、確実に定着していくのが見えた。

 

「私も……」

 

 ずっと……。ずっと前から。

 

 

「大好きです」

 

 

 先輩は、ひどく嬉しそうに、でも少し恥ずかしそうに微笑んで……私の肩に顔を埋めた。

 

 先輩の鼻先が鎖骨のあたりに触れて、吐息を感じた。

 

 この人が好きだ。

 

 十一年と三ヶ月。

 

 長い長い片想いの果てに辿り着いた場所は……いつもの、ソファの上だった。

 

 特別な場所でも、劇的な瞬間でもなく、ただ二人で並んで座る、何気ない夜のリビングで……。

 

 世界のどこよりも大切で……かけがえのない、私の居場所だ。

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