C.T.B 揺り籠から戦場まで ―老人徴兵制の未来。武器は阿波踊り!?― 作:電機羊
【時代】2136年(送信側)
【送信枠】sideA(比較的安全)
【位置】GPS:取得不能(妨害)
【ノードID】torrent-9 はじまりの舞
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(送信開始)
[sideA]
(前田)「あああ、あいたぁぁ!!」
マエダはパニック状態でその場を離れ、コーナーで左腕を抱えながら悶えた。
オニワカは機を逃さず、今度はマエダの左脇腹をえぐった。
―嫌な音が響いた
。
肋骨が砕けたのだ。
(前田)「ぎやぁぁ!い、いたいー!!」
激痛で倒れかかったマエダの右腕が、たまたまオニワカの胸元をかすめた。
オニワカは数歩後退したが、攻撃ではないと分かると再びマエダに襲いかかった。
が、そのときリング外から空き缶が投げ込まれ、オニワカの頭に当たった。
(鬼若)「(!)」
(観客席・罵声)
「おめぇいい加減にしろよ!!」
「前田は素手で頑張ってるじゃないか!!」
「恥知らず。」
「…あんまりじゃの。」
「もう無名の頃のアンタじゃないんだぞ!」
「こんな試合……孫にどう話せばいいんだ。」
「お前さん軍人……いや人間じゃねぇ!」
そんな外野の声を浴びながらも、オニワカはマエダへとどめのパンチを右側頭部へ見舞った。
ズガッ!
(前田)「うわああ!ちょ!!痛ァアァ!!ギアアア!!!」
かつて経験したことのない激痛にマエダは悶絶し、失神しかけた。
(鬼若)(心)「(クソッ……しっかり入りませんでした。あいつらのせいで動揺しましたかね。……でも、まあ終わったでしょう。)」
その時、マエダの右耳から何かが落ちた。
(木戸)「サトちゃん、いかん!まずい!外れてもた!!」
(佐藤)「え!!何?ヤバ……もう駄目じゃん……ゴロちゃん殺される。」
―木戸お手製のイヤホンだった。
これはマエダが決闘に勝つために木戸が思い付いた奇策で、耳に阿波おどりの音頭を流し、恐怖心を退けて闘いに集中できるようにしていたのだ。
おかげでマエダは伝統技能を喚起し、闘いに集中できていた。
マエダは踊りに身を委ね、「夢遊」あるいは「酩酊」に近い状態にあった。
―しかし今や、肋骨は折れ、左腕は垂れ下がり、顔じゅう赤く腫れ上がり、そしてイヤホンが潰された。
今までオニワカを完璧に制してきたトランス・ダンスは封印されてしまった。
そう。
マエダの糸が、完全に切れてしまった。
(鬼若)(笑)「いかがですか?前田さん.先ほどまでとは別人ですよ?
痛みに戦意を削がれましたか。そうですか(笑)。みじめです。
まったく素人が決闘なんてしちゃいけませんよ。
……これですか?チタン・ナックルと言うんですが、気になります?
何言ってるんです。
本物の戦場では銃も刃物も何でもありなんですよ?
こんな物ごときでモチベごと崩れてたんじゃぁ……今ここで死んだ方がいいです(笑)。」
(兵士たち)
「あー……終わった…。」
「もっと観ていたかった…。」
「鬼若より、前田に驚かされたよ。」
「クネクネしながら闘って……映画みたいだったよな。」
その中で、一人がぽつりと言った。
(兵士)「……俺の婆さんが四国出身でさ。
あいつの……いや、あいつが婆さんみたいだなって。昔、あんなの踊ってたような……。」
別の兵士が続ける。
「それなんか…待て……今思い出す。婆ちゃん唄ってた……。」
また別の兵士が言った。
『エライヤッチャ、エライヤッチャ、ヨイヨイ……』」
ざわめきが変わった。
(兵士たち)
「それ知ってる!!」
「うわぁ懐かしい…。」
「『踊る阿呆に(笑)…』だっけ?」
「徳島特別区(District of Toqushima)の踊りだ。」
そしてさらに別の誰かが言った。
(兵士)「…なぁ。マエダって、あんなに勇気あったのな。
それなのに、ずっと俺たちに腰低くてさ……俺ら面白がって、散々なことしてきた…」
次の声が繋ぐ。
(兵士)「だからさ…今こそマエダを応援しないか?
もしこれであいつが死んだら、俺たちこの先ずっと悔やむと思うんだ。
アイツと俺たちは何も違わない。
だって俺たちはみんな―
―マエダと同期で、同世代だろ?」
空気が一気に反転した。
(兵士たち)
「…わかった。俺は応援する!!」
「俺も!」
「俺も!!」
(次々に)
(木戸)「なんじゃぁいきなり……おまはんら、調子良すぎるっちゅうんじゃ(泣)
まぁ……んだら全員で合唱じゃあ!!ええか!?」
(兵士たち)「おう!!」
(木戸)「んじゃサトちゃん!!
いっちょ景気いい音頭頼むぜよ!!」
(佐藤)「あいよ!!!」
佐藤は兵士たちの前に出て向き直った。
(佐藤)「では皆の衆ー!!
―物の始まりが『一』ならば、
国の始まりが『大和の国』、
島の始まりが『淡路島』。
こちとら生まれも育ちもアンダーカツシカは柴又――」
(木戸)「いよっ!!」
(佐藤)「―時は戦国、出会いは大和国。
泥棒の始まりが石川の五右衛門なら、
決闘の始まりは前田吾郎!
お相手するのは『伝説級』、
こちとら暴力『ノーサンキュー』!
しかしケンカとあっちゃぁ逃げてはいられない。
どうかお見知りおきを。
鬼の前では踊ることしか出来ない、
我儘で、
散漫で、
卑屈で、
自信も金もない、
誰にも必要とされていない、
ー俺らの代表!そして不屈の漢!
『前田吾郎』
一世一代の舞で御座います!!」
(佐藤)「ソーレ!!」
(木戸)「踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ!
同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損!……ヨイヨイヨイ!!」
(合唱)
「踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ!同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損!」
(反復、熱狂)
(鬼若)「う、うるさいゴミ共ですね!!
…貴方たち『指名試合』って知っていますか?これが終わったら貴方方全員―」
…!
皆の音頭に押し上げられるかのように、マエダの身体が―ゆっくりと立ち上がった。
(前田)「…私の大切な友人たちにまで手を出さないで下さい。」
(兵士たち)
「ウオーー!!」
「いいぞ!鬼若なんかやっちまえ!!」
「ダンシングキング!!」
「前田!前田!!」
(鬼若)「……貴方、肋骨が砕けて顔面も骨折して片腕が……。あぁ、バカ……なのですか?」
(鬼若)(心)「(立てる状態ではない。これまで手にかけてきた格闘家なら、泣いて命乞いしている時間だ。……あぁ間違いない。奴はもう闘えない。)」
(佐藤)(泣)「……スゲェよゴロちゃんは。……でも木戸ちゃん、もうどうやって闘ったら……。」
(木戸)「……なぁサトちゃん。阿波踊りにはなぁ、『男踊り』と『女踊り』があってな……。」
(佐藤)(泣)「え……。」
(木戸)「今まで踊ってたんは体幹重視の『女踊り』ぜよ。
顔や片腕やら胴体壊されても、片腕と両足はまだ動くんじゃ。
……観とけよ。こっからは、ゴロはん十八番。阿波踊り一番の華
―『男踊り(おとこおどり)』
のはじまりじゃ!!」
(送信終了まで20秒)
[sideB]
前田吾郎は王宮内(旧皇居内)にスムーズに通された。
第二ボタンから流れてくる映像は、まるで前田を警戒する様子もない。
―本当に友人を招待するように迎え入れられた。
国王王室に入ると、そこには国民が初めて見るぼやけたホログラムではない実物の
“国王”と見られる筋骨隆々の人物が立っていた。
(国王)「……ついにご対面だな!!」
国王は前田の方へ近づいて来た。
(前田)「…久しぶりだね。海…あ、あぁ!?」
画面が揺れた。前田が動揺しているのだろう。
(国王)「驚いたか?…間抜けのタコ野郎。」
(……通信品質低下)
(パケットロス率:48%)
(再送要求中……)
Next Packet: リープド アウト
Est. Time: Unkonwn
(接続待機中……)