C.T.B 揺り籠から戦場まで ―老人徴兵制の未来。武器は阿波踊り!?―   作:電機羊

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【時代】2136年(送信側)
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(送信開始)


【ノードID】torrent-10 リープドアウト

[sideA]

 

(木戸)「今まで踊ってたんは体幹重視の『女踊り』ぜよ。

顔や片腕やら胴体壊されても、片腕と両足はまだ動くんじゃ。

 

…観とけよ。こっからは、ゴロはん十八番。阿波踊り一番の華

 

―『男踊り(おとこおどり)』

 

のはじまりじゃ!!」

 

(鬼若)「…バカなのですか? まだ闘うなんてね。

まあいいでしょう。…ですが、そろそろ決着を付ける時間です。」

 

オニワカはマエダにだけ聞こえる声で話した。

(鬼若)「ひとつ…ひとつだけ、死ぬ前に問わせて下さい。答えの内容によっては命だけは助けましょう。」

 

(前田)「ハァ、ハァ(汗)……?」

 

(鬼若)「…この時代に生まれ、

学び、

職に就き、

多くは結婚をし

子を育て、

退職後に戦場で散る。

 

不可分なこの“完全な世界”

 

そして、そこにいる我々とは、

いったい何者なのでしょうか?」

 

(前田)「ハァ、ハァ(汗)…?」

 

(鬼若)「(苦笑)考えたことも無い、という呆けた顔ですね。それはいけません。

 

ーでは、さようなら。」

 

(兵士たちの歓声)

 

(木戸)(心)「(クソッ…見とれよ!ここからがゴロはんの本番じゃあ!)」

 

※ 試合再開 ※

 

(佐藤)「みんな!声張ってー! ソーレ!!」

 

(兵士たちの合唱)

「エライヤッチャ エライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ

踊る阿呆ゥに 観る阿呆ゥ

エライヤッチャ エライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ

ソレッ! 同じ阿呆ゥ……♪」

 

前田:両足をガニ股に、腰を大きく落とし、使える右腕を突き出す。

―その先のオニワカを見据える。

 

(鬼若)「…行きますよ。」

 

鬼若:急速に間合いを詰める、チタン・ナックルを活かした鋭いワン・ツー。

 

前田:低い姿勢のまま、左足→右足へ、前後を入れ替えながら俊敏にかわす。

 

鬼若:自重の乗った重い右ストレート。

 

(佐藤)「ひぃぃ!」

 

前田:飛んできた右拳の“外側”に、自身の右の裏拳を当て、軌道をずらす。

 

(木戸)「わーお。上手いのぉ!!」

 

兵士たちの合唱が熱を増す。

 

鬼若:またもや同じ右ストレート。

―今度もマエダの裏拳で左へ流される。

 

…が、しかし。

それはオニワカのブラフだった。

流れた軌道を“そのまま”使い、強烈で速い回し蹴り。

 

前田:しゃがんだ姿勢から右足を伸ばし、スピードの乗った蹴りを足裏で止める。

 

(鬼若)(心)「(…グッ!!)」

 

(木戸)「おぅおぅ甘いのぉ、ゴロはん(苦笑)踵で受けたら、オニワカの脚潰せたのに。」

 

(佐藤)「そうなの!? そんな余裕なんて無いんじゃぁ…。」

 

(鬼若)(心)「(クソッ……なんでだ?私が負ける訳がない。私こそが本物だ。こんな小物に…いいでしょう、本物の”技”を見せてあげますよ!!)」

 

オニワカはマエダを正面に据えたまま距離を取り、そこで、しゃがんだ。

 

(木戸)(心)「(クラウチングスタート……全力疾走で突っ込むのか?)

おーい!ゴロはん、ちいと気ィ付けなもし!!」

 

鬼若:一気に走り出す。

―そして木戸の予想を裏切り、1m手前で宙高く跳んだ。

 

(前田)(心)「(回し蹴り?)」

 

異様な蹴りに気付いたマエダは慌てて逃げるが、動きの“回転”とスピードが常軌を逸していた。

背中に強打をもらい、地面になぎ倒される。

 

(前田)「い、いだああ!!!」

 

(兵士たち)

「なに…今の?」

「飛んでから…の回し蹴り…?」

「回転数、バグってなかった?」

「…あんなの見たことない。」

「がっつり入ったな。」

「木戸、お前わかるか?あれは一体…?」

 

(木戸)「そんな……ダブル・アクセル。」

 

(兵士たち)「ダブル…アクセル?」

「フィギュアスケート?」

「いやいや、これ格闘技だって!!」

「回し蹴りで2回転半……?」

「普通にヤベー。」

「技を…ひねり出した?」

 

(佐藤)「若い時、『真田海衆:ロシア生まれ』って雑誌で読んだ。」

 

(兵士たち)

「じゃあスケートはお手のものって…。」

「だからって闘いで使うか? しかも出来るか?」

「ちょっと氷見えた。」

「…美しい。」

「究極の武芸家(マーシャルアーティスト)だな。」

 

―氷の回転と、阿波の足運び。

二人はもう常人には到底理解不能な領域で闘っていた。

 

(鬼若)「…さぁ起きて下さい。…あなたはまだ立てますよね?」

 

オニワカは、マエダが蹴りの方向に上体を逃がしていたことに気付いていた。

 

(前田)「いやぁ(苦笑)…ゴホゴホ…なるほどこりゃ…いたたた(汗)。」

 

(鬼若)「もう、あなたは逃げられませんよ。…これで最後にしましょう。」

 

オニワカが先程と同じ位置まで下がった。

 

(佐藤)「どうしよう。も、もうおしまいだ。止めなきゃ。」

 

(木戸)「…そうや、ゴロはん。行け」

 

(佐藤)「?」

 

(木戸)「ゴロはんは……相手にやられながら、ずーっと溜めちょったんじゃ。

反撃もせんと……見てみぃ。あの、はち切れそうな太腿を。

身体裂かれても、折られても――今この瞬間だけを待って、我慢しちょったんじゃ(泣)。」

 

(木戸)「……もうええぞ。行け。はよ舞ってくれなもし。」

 

鬼若:クラウチングで、スタートのタイミングを待つ。

 

背中から、物凄いオーラ。

 

(兵士たち)

「ヤ、ヤベー。」

「まずい、今度こそ…」

「に、逃げ、いや気ぃ付けろ前田ー!!」

 

(佐藤)「みんな、合唱だぁー!!」

 

(兵士たち)

「エライヤッチャ エライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ〜♪」(反復)

 

※ ※ ※

 

鬼若:堰を切ったように駆け出す。

初動が起こした砂煙で、観戦者たちは二人を見失った。

 

その時マエダは、両腕を折り曲げて固定し、ガニ股の低い左前構えから、さらに腰を落としていた。

下半身という“弓”が、上半身という“矢”を打ち上げるような構え。

 

オニワカはスピードのベクトルを1m手前で変換し、大きく跳躍。

先ほどを上回る、完璧なジャンプ。

 

マエダも同じく宙に舞う。

 

両 者 接 触

 

「ぐああ!!」

 

―そして、何かが地面にぶつかった音。

 

砂埃が風と逃げていく。

 

…墜落したのは―オニワカだった。

 

(鬼若)「がっ(吐血)」

 

前田:片足で着地し、そのまま、ちょんちょんと斜めに跳ぶ。

リング端でコーナーを掴み、最後は両足で立っていた。

 

(木戸・佐藤・兵士たち)

「ウオーーーー!!」

 

(兵士たち)

「鬼若がブチのめされた!?」

「ほ、本当に勝ったんだ!!」

「前田!おお前田!」

「ダンシングゴッド!!」

「わしらの代表!!」

 

(兵士)「い、いったい何が起きたんだ!木戸!!」

 

(木戸)「鬼若は、さっきと同じ完璧なダブル・アクセルを出した。

…そう、完璧じゃった。

しかしゴロはんは、これを待っとったんじゃ。

……そして、決めた。」

 

(兵士たち)「(……ゴクリ。)」

 

(木戸)「阿波踊り仕舞32手・秘技―

 

『鳴門の渦潮(なるとのうずしお)』

 

―“トリプル・アクセル”をな!!」

 

(送信終了)

(位置情報ジャミング不安定 −30秒)

 




[sideB]


国王はニヤニヤと笑みを浮かべながら話した。

前田は斜め下を見、沈黙している。

そして静かに質問した。
(前田)「…なぜ貴方が鬼若なんです…。」

この人物ほど、世界を意のままにできるという顔が似合う人物はいないだろう。

ーそんな国王は答えた。
(国王)「…ほう(笑)。…では話してやろう。」

*    *    *

激戦地マレーシア。
当時、鬼若と現国王のいる第663部隊はマレーシアに派遣されていた。
彼らはクアラルンプール近くの農村に拠点を築き、戦争難民をキャンプへ送るため、輸送機に乗せる誘導を行なっていた。

(鬼若)「…こちらですよ。急いで!はい、どうぞ。支給品のベントーと通信ワッペン。」

そこに喜屋武(元教官/後の国王)がやってきた。

(喜屋武)「鬼若!少し休憩しろ。」

(鬼若)「オヤ…喜屋武部隊長殿!ありがとうございます。」
オニワカは敬礼した。

(喜屋武)「構わん。楽にしろ。お前も葉巻をやるか?静岡産だぞ。」

オニワカは丁寧に断り、その後しばらく喜屋武の自分語りが続いた。

(喜屋武)「(笑)ーで、その俺の卒業した陸軍学校の暗殺技巧科はな、格闘講習では実技で街のチンピラやギャングを相手に狩りをする訳だ。」

(鬼若)「銃刀法復活前ですか。…私が子供の頃はまだそんな時代でした。」

(喜屋武)「暗殺科の伝統でな。俺は卒業後もその癖が抜けずに仕事終わりによく街へクズ狩りに行ったもんだ。真面目だったからな(笑)。
しかしある日…俺は酔った勢いでうっかり政府の要人を殺してしまった。」

(鬼若)「…?」

(喜屋武)「それが悪運の始まりだ。火消しに走り回り何年も無駄にした。…そしてこのザマだ。
その出来事がなけりゃ今頃は政府お抱え機関で安泰な人生よ。」

オニワカはいつか聞いてみたかった事を思い出した。そんなはずがない、という思いだ。しかし聞く機会を逃していた事を。

(鬼若)「…部隊長の当時の仕事は確か…戦闘インストラクターでしたよね。」

(喜屋武)「表向きにはな。優秀な陸軍所属の諜報員でもあった。まぁ貴様が軍隊に入る頃には除隊して練兵所のクソ教官だったが(笑)。」

(鬼若)「…蝦夷…逃亡生活を送るきっかけになったその場所は函館なのでは?」

(喜屋武)「ああ。…確かにそうだった。なぜ…。」

オニワカの身体に電流が走り全身の毛が逆立った。

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(送信終了)

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