C.T.B 揺り籠から戦場まで ―老人徴兵制の未来。武器は阿波踊り!?―   作:電機羊

3 / 16
――――――――――――――――――――
【時代】2136年(送信側)
【送信枠】sideA(比較的安全)
【位置】GPS:取得不能(妨害)
【ノードID】torrent-1 人間交差点・課長 前田吾郎
――――――――――――――――――――
(送信開始)



【ノードID】torrent-1 人間交差点・課長 前田吾郎

[sideA]

 

(Jun)「ここからは、この時代の人々の暮らしを、定年退職を翌年に控えたとある人物の人生から眺めていく。

 

    sample:前田 吾郎(まえだ ごろう)

    age:64

    family:妻1、子1

    region:東京都アンダーカツシカ区…。」

 

 

*   *   *   *

 

 

「…課長!」

 

 

「…前田課長!!」

 

 

 

(前田)「ん? あ、あぁ…トキタ君か。どうした?」

 

(常田)「どうしたじゃないですよ〜。最近よくボーっとしてますけど、大丈夫っスか?

あの、例の三ツ橋工房さんの企画書って、課長まだ目を通してくれてませんよね?」

 

(前田)「ありゃあ! しまった!! ごめんトキタ君。夕方までに終わらすわ。もうちょっと待ってて!」

 

(常田)「もお、頼みますよぉ…

まぁ前田課長は俺の心のGrandpaなんで(笑)。別にいいですけどね!でも来年定年ですよね!? 

前田課長にちゃんと軍人が務まるんスかね〜(笑)。」

 

(前田)「…トキタ君(苦笑)。君の“ジジ”ってのはちょっと酷くないかい?

でも…僕は軍には入隊しないつもりなんだ。性格的にどうも…ね。」

 

(常田)「ええ!? マジっスか? いやいや!!

ここの退職金なんて『スズメノナミダ』みたいなもんって、前に課長言ってませんでしたっけ?

…一体どうするんすか? 民間の再就職先なんて、もうコネでもない限り皆無っスよ。」

 

(前田)「うーむ…それはそうなんだけどね…。でも僕にはドンパチの世界は、やっぱり向いてない気がするんだよなぁ…。」

 

(常田)「またそんな事言って! 奥さんはどうするんスか!?

ここは一発ビシッと入隊して、退役後に絢爛優美に余生を送りましょうよ!」

 

(前田)「ビシッと、かぁ…。」

 

(常田)「そうっス! 一昨年定年になった二課の山中係長、いたでしょ?

あの人いま米軍との合同作戦中で、南イエメンでバリバリ活躍してるみたいですよ!

この間も反政府軍のトラック5台爆破したって、TikTokにアップしてました。

いまやイエメンで“オニノヤマナカ”といえば有名だそうですよ!」

 

(前田)「―そうなんだ。…あの山中さんがなぁ。ブービートラップの名手だって?

うちではいつでもコピー機の前にいる“コピーのヤマナカ”だったのに。」

 

(常田)「―少しは知ってるんですね。そうですよ! めっちゃ頑張ってるんです。

あ、あと去年退職したシルバーの小畑さんは、フランス外人部隊とのチームで、検挙100%不可能って言われてたルーマニアンマフィアの大物の捕獲に成功したらしいですよ。

単独潜入中の小畑さんが撮った写真が、逮捕の決定打になったようです。」

 

(前田)「……小畑さんって昔っからコアな盗撮マニアだったんだよなぁ。

一度、女子大生に訴えられかけて、200万円払って和解した事もあったっけ…。」

 

(常田)「い、いま輝いてるからいいんスよ!

課長もそんな皮肉ばっか言ってないで、一旗上げてくださいね! 応援してますから。

あ、じゃ、その前に今日中にその企画書頼んます!(笑)」

 

(前田)「あぁ。またね、トキタ君。」

 

…まったく、お節介な奴だなぁ。

でもほんとに、俺の孫でもおかしくない歳なのに、今の子はちょっと…しっかりし過ぎだよなぁ。

若者ってやっぱりもっと…あ! いかんいかん。企画書に目を通さないと。

うわ…何ページあるんだぁ、これ…。

 

 

※ 一年後 ※

 

――――――――

 

(常田)「お疲れ様でした! 課長。」

(社員A)「お元気で。前田さん!」

(社員B)「寂しくなります(泣)。私が新入社員の時から、いつも色々……。」

 

(前田)「いや〜。みんな、ありがとう。本当に僕は幸せ者だよ。

プロジェクトの成功を一緒に見られないのは残念だけど……みんなで頑張って成功させて下さい。」

 

(常田)「わかってますって。(泣)

わかってますって、課長。そんなことより今後の予定はどうなんスか?」

(社員A)「やっぱり新日本軍、入隊ですか?」

(社員B)「いまはもう、大した資格のない定年退職者の働き口なんてありませんしね。」

(社員A)「課長なら薄くてどこにでもハマりそうだから、再就職先もありそう。」

(社員B)「まさか…無職ですか(笑)? 前田課長。」

 

(前田)「…参ったな。君たち言いたいこと言ってくれるね(苦笑)。

僕は健康で、どうやら長生きしそうだから(笑)、寿司職人見習いにでもなろうかと思ってる。

自分より若いオヤジにドヤされるだろうけど、なに、君たちの相手をしてると思ってればいいさ(笑)。」

 

(常田)「酷いですよ〜課長!!…(涙)でも応援しますから。 しっかり頑張って下さいね!」

 

(前田)「ありがとう! みんな。本当にありがとう…ありがとう…。」

 

 

※ 半年後 ※

 

――――――――

 

(掃除機の音)ヴォーーン

 

(妻)「…あなた。お父さん。ちょっと掃除の邪魔よ。そろそろコタツから出て。」

 

(前田)「うーむ…ここが一番居心地が良いのに。」

 

(妻)「もう…面接を2つや3つ断られたぐらいで、やる気をなくされちゃ困るわよ。

私のパートがなかったら、どうする気だったの?

…やっぱり軍隊に入れば? 内勤になるかもしれないし。」

 

(前田)「うーん。でも…なぁ…

いや…まぁ就職先をこれ以上探すのも面倒だし、ちょっと話だけでも聞いてくるか。」

 

(妻)「嬉しい!(笑)やっとやる気になってくれたのね。

ほら、従軍中はJRフリーパスが貰えるって言うじゃない? 休日にはまた昔みたいに旅行に行けるわね。」

 

(前田)「まったく、かあちゃんはいい気なもんだよなぁ。

俺が死んだらどうするの? 向かいの安川さんとこみたいに。」

 

(妻)「だって安川さんは競輪にハマって、物凄い額の借金があったのよ?

借金を返すための手当目当てで、毎回最前線を希望してたんですって。

そんな事してたら、そりゃいつかは弾に当たっちゃうわよ。

お父さんみたいな“戦う気のない人”は、出撃なんてさせてもらえないわよ。きっと。」

 

(前田)「俺に戦う意志がないだって?…いや、まぁ、そうだけど…。

とりあえず説明会、毎日やってるみたいだし。お昼食べたら行ってくるわ。」

 

――こうしてマエダは、説明会へ出掛けるためにサンダルをつっかけ、

何となくそのまま入隊してしまった。

 

―マエダの第二の人生が始まる。

 

(送信終了まで1分)

 




sideB]

世界中で行われているブートキャンプ―老人への過剰なトレーニングと反老化薬剤のオーバードーズ、遺伝子組換え施術の結末…彼らはとうとう『寿 命』という曖昧な概念を超越した死ぬような訓練と忍耐を経て、

 ついに『不老』を勝ち取った。

 事故などの不慮の出来事にさえ遭わなければ、寿命は尽きず、永遠に生は続くのだ。 …しかしその結果が、『揺り籠から戦場まで』を“終わることなく繋ぐ”この社会を加速させてしまうことになった。

65歳以上の人類は皆戦う。
戦死しなければ結局は老齢人口は増え続け、国は困窮し始める。
そうならないように退役は強制的に延長される。
その結果彼ら<br>
[WARNING]
逆探知のリスクが増大しています。
現在のノードを破棄し、座標を移動します。

次の接続予定地点:東京都 豊島警戒区域内
送信予定ファイル:進め一億!青老年錬成所


-log out.-


 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。