C.T.B 揺り籠から戦場まで ―老人徴兵制の未来。武器は阿波踊り!?― 作:電機羊
【時代】2136年(送信側)
【送信枠】sideA(比較的安全)
【位置】GPS:取得不能(妨害)
【ノードID】torrent-2 進め一億!青老年錬成所
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(送信開始)
[sideA]
(Jun)「Area:東京都豊島区
Base:新日本軍 巣鴨練兵場
ここでは入隊者を一人前の兵士にすべく、心構え・体力・戦闘術・反老化など、ありとあらゆる軍人のためのスキルを修得させる。
また、ここでの最終試験の結果により、どの部隊に配属されるかが決まる…
訓練兵の生活
* 0400 起床(サイレン/教官の怒鳴り声)
* 0405 整列・点呼
* 0410 身支度
* 0420 兵舎の掃除
* 0430 練兵場内ジョギング・行進
* 0600 朝食
* 0700 授業
* 1000 体力づくり・訓練
* 1100 昼食
* 1200 戦闘術・格闘技
* 1600 兵舎に帰る
* 1700 夕食
* 1800 入浴(シャワーのみ)
* 1815 銃の整備(分解→磨き→組立→調整)
* 1900 自由時間
* 2000 天皇陛下万歳三唱→就寝
…今日もこんな一日が始まる。」
⸻
0400(4時00分)
(教官)「起きろ! このゴミ共が!!
そのヨボヨボのケツを、“ケツ税”で買った御国のベッドから離せ!!」
教官の怒号と同時に、パトカーのようなけたたましい起床サイレンが鳴る。
ベッドから飛び起きた兵士たちはシーツを四つ折りに畳み、通路に整列した。
(前田)「ゲップ…ムニャムニャ…二つで充分ですよ…ムニャ…わかってくださいよぉ…」
マエダはすっかり熟睡してしまって起きる気配がない。
(教官)「―今のは誰だ?」
老人とは思えない、堂々とした肩幅と筋骨隆々の教官が大声で言った。
(教官)「聞こえなかったのか?
…そうか。ではこの兵舎内の監視カメラをすべてチェックして、探し出そうか?
ここで名乗り出たら罰は軽くしてやる。しかし…」
(兵士)「ま、前田吾郎であります!」
マエダの近くの兵士が叫んだ。
教官はマエダのベッドまで歩いて行く。
そして次の瞬間、教官の重い右拳が、仰向けで熟睡しているマエダの腹を大きく響かせた。
(前田)「げへぇ!!」
目がばっちり開いたマエダは、息を吸うこともできず、教官を見上げた。
(教官)「…貴様は誰だ? …言ってみろ。」
腹を殴った状態で静止したまま、教官は言った。
(前田)「…ま…前田吾郎であります」
息絶え絶えのマエダは小さな声で言う。
教官は顔を近づけ、低い声で言った。
(教官)「…違うだろ。お前は新日本軍兵士だ。
さっきお前が口にしたのは“識別コード”だ。
『お前』が死んだ時に、『お前』の棺桶に『お前』を間違えずに入れるためのな。」
教官の拳はまだマエダの溝落ちを刺したままだ。
教官は耳元で叫んだ。
(教官)「だが新日本軍兵士は無敵である!!
日本人は戦場では死なない!
だから“識別コード”など軽々しく口にするな!!
―貴様が今度名前を聞かれたら、
『自分は新日本軍兵士であります!』と言うんだ! わかったか!?
わかったら言え!!」
(前田)「わぁ…っかりました。わたしは…しん日ほん軍へい士でありまぁす……」
(教官)「声が小さい!!!」
(前田)「“新日本軍兵士”でありまぁす!!」
教官は拳を引き、吾郎はベッドでうずくまった。
教官はすぐさま周りを見渡し、叫んだ。
(教官)「何をしている!? 貴様らクズ共、全員外で行進ー!!
あと、このタコ野郎を医務室に運べ!
当分は訓練に戻れないだろうからな!!」
(前田)「…だ、大丈夫であります! 教官殿!!
私を…皆と走…らせてください。」
マエダは息絶え絶えに起き上がり、言った。
(教官)「…お前はバカか? …二、三日眠っていろ。」
マエダは続けた。
(前田)「ここで遅れを取っては…いかん…のであります。皆と合流…します。」
教官は腑に落ちない様子で言った。
(教官)「…では勝手にしろ。急げ! 進め、駆け足ー!!」
(前田)「は、はい…。お手加減ありがとうございました…。」
そう言うと、千鳥足のマエダが兵舎を後にする。
―教官は自分の拳を見つめた。
(教官)(心)「(…手加減だと? 俺は見せしめのために急所を突いたのだ。
クッ…とうとう私はそこまで老いぼれてしまったのか…?)」
教官は鼻で短く息を吐き、グラウンドに向かった。
⸻
0415(4時15分)行進開始
行進とは名ばかりの、整列した状態での1km/4分ペースのランニングだ。脱落者も多い。マエダも長らくその一人だった。
しかし入隊してしばらくした頃からは、あまり遅れを取ることもなく、最後まで走れるようになってきた。
…徹底した軍の栄養管理と最新健康医学は素晴らしい。高齢者の身体を40〜50年ほど若返らせると言われているのだ。
…しかし残念なことに、それが初老特有のひねくれた心を真っ直ぐにすることは、ほとんどなかった。
(兵士)「なぁ、またあの前田ってタコのせいで、20分も長く行進だ…。」
(兵士)「あいつぁ新日本軍の恥だ。」
(兵士)「どうする? いっちょボコって、俺ら専用のパシリにでもするか?」
行進中の練兵たち会話が、吾郎の耳にも入ってくる。
その時、一人の背の低い男が声を掛けてきた。
(佐藤)「…なぁ、ゴロちゃん。あんたマズいよ。ちょっとヤラかし過ぎだよ。
これじゃ敵じゃなくて、先に仲間にやられちまう。」
柴又の元魚屋、佐藤だった。
マエダの自宅からわりと近所という事で、入隊直後から親しくしていた。
マエダは眉を八の字にして言った。
(前田)「仕方ないよ。俺、精一杯でこんなだもん。
だから教練に付いて行けてるだけでいいんだ。それ以上は贅沢だよ。
頑張って、いつかかあちゃんに楽させたいからね。」
(佐藤)「ゴロちゃん、あんたって…割と江戸っ子だね。純だ。」
(前田)「そんなのサトちゃんもだろ? まぁ俺らみんな同世代なんだし、そのうちちゃんと話せば仲良くなれるさ。」
…訓練から3ヶ月。
いつの間にか前期高齢者(新日本軍第37期生)たち全員が、ほぼ2時間全力疾走しながらも、こんな会話ができる体力を付けていた。
(送信終了まで1分)
[sideB]
(JUN)「…最初はうまくいっていた。
彼らも正気を保っていた。
そんな彼らを国家は、何度も何度も戦場へ送り込んだ。
老人たちは、
「いつになったら終わる?」
「いつ平和が訪れる?」
「あと何回、出撃すればいいんだ」
……と、同じ質問を繰り返した。
そして、出兵だけの余生だと気づき―やがて、
感覚は麻痺し、
自意識は団塊化していく―
そして彼らはついに、
本当の敵が誰なのかを悟った。」
(送信強制シャットダウン)
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