C.T.B 揺り籠から戦場まで ―老人徴兵制の未来。武器は阿波踊り!?―   作:電機羊

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【時代】2136年(送信側)
【送信枠】sideA(比較的安全)
【位置】GPS:取得不能(妨害)
【ノードID】torrent-5 菊と刀
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(送信開始)



【ノードID】torrent-5 菊と刀

[sideA]

 

0640(06:40)

Place:巣鴨練兵場 西手洗い場

Act:前田/佐藤/木戸

 

(木戸)「……江戸時代初期、阿波地方の領主・十河存保(そごう まさやす)は、藩の存続に江戸幕府が脅威になると考えた。

そこで遥か昔――縄文の海人(うみんちゅ)の時代から伝承されてきた武術を、“民の踊り”に仕舞った。

 

……しかしそれが幕府の耳に入り、踊りは“盆の三日間”以外、禁じられた。

武術としての踊りは、ここで息絶えたかに見えた。

 

……だが、その秘技は脈々と生き長らえていたのだった……。」

 

――と木戸(標準語変換済)が教えてくれた。

 

しかし、あまりに信じ難い話だったので、吾郎は言った。

 

(前田)「でも私は、誰からもそんな話聞かされませんでしたよ?

私の父なんて阿波おどり実行委員長を、随分長い間務めていたんですけど。」

 

木戸はマエダを見て、ため息をついた。

 

(木戸)「ゴロはん、あんた18の時に上京したんやろ。

……徳島の人間はな、今でも“地元で成人式を迎えた者”にしか、この真実を明かさん。

それが阿波の親の責任なんや。

 

――軽率に地元を離れるような薄情もんに、大切な土地の秘密をバラすと思うとるんか。」

 

(前田)「……クッ。」

 

マエダは納得しながらも、唇を噛みしめた。

 

――若かりし日のマエダには、辛い記憶がある。

毎年毎年、たった三日間の夏の祭りのためだけに、一年間。

親にほぼ毎日、ひたすら踊りを叩き込まれた。

 

「ほらもっとヒザを曲げぇ! コラ! いつも嬉しそうに笑顔作っとけ!」

 

自分もいずれ、こんな親になるのか。

高校在学中、吾郎はずっとアルバイトし、貯めた数十万を片手に――卒業式の日に故郷を離れた。

 

マエダは力なく言った。

 

(前田)「……もっと色々、教えて欲しいです。木戸さん。」

 

木戸は「そうか!」と両膝を叩いた。

 

(木戸)「では――

 

あんたら、カポエイラっちゅう武術は知っとるか?」

 

マエダは佐藤と目を合わせて言った。

 

(前田)「知っています。ブラジルで、体制に反抗するためにダンスの中に戦闘術を仕込んだっていう……ちょっと前に流行ったやつですよね?」

 

(木戸)「おう。それも悪くはない。

     ……だが動きが大きい分、“武術バレバレ”や。

 

それに比べて徳島の舞は、動きも掛け声も面白いのに、ずーっと昔からあったのに全然バレんかった。

 

……だが情けない事に、太平洋戦争後に上陸してきた

アメリカの最高司令官――『ダグラス “マッド・ドッグ” マッカーサー』にバレてしもうた。」

 

(佐藤)「バレ……なんでだよ。」

 

* * *

 

(マ司令官)「アレハ、ナニカノ、ブジュツデスカ?」

(地元民)「へぇ、そうだす。」

 

* * *

 

(前田)「それで……どうなったんですか?」

 

木戸は言った。

 

(木戸)「奴は屈強な兵士と踊り子を闘わせた。

……が、ことごとく兵士は負けた。

 

その様子を奴はこう記した。

 

『幾度我々が阿波の人に挑んでも、彼等の繰り出す“泡が沸く”かのような絶え間なき幻影と美技に(中略)……やがて集中力が削がれ、気が付いたら天を仰いでいる。

これはまるで “The Dance with Bubbles” だ』と。」

 

(佐藤)「泡……まんまだな。」

 

(木戸)「その後、徳島では“泡”と“阿波”を掛けて、“阿波おどり”と呼ぶようになった。

それまでは、ただ――

 

『盆踊り』とか

『騒(ぞめ)き踊り』とか

『組踊り』とか

 

好き勝手に呼んじょった。」

 

……それも驚くべき話だった。

だが、それよりも、この後に木戸の口から出た言葉が、マエダの心を捉えた。

 

(木戸)「……んでマッカーサーがの。

ほとんどの日本人が知らん“阿波おどり”という武術を米軍エリートにひそかに伝授する、その条件で踊りの廃止は免除された。

 

……ゴロはん。やっぱりあんたは、わしが見た舞の中でもピカイチや。

いずれCIAの頂点と、ひと踊りせんといかんやろな。

 

――なんせ、この50年間、米軍に阿波おどりを教えとった人物……」

 

(前田)「?」

 

(木戸)「……あれは恐らく、あんたの親父や。」

 

* * *

 

1045(10時45分) 

練馬練兵場 メイングラウンドにて

 

ジリジリと、熱い陽に焼けた大地が顔に近づく。

 

(教官)「クズ共腕立て伏せあと700回ー!!」

一片の容赦のない声が灼熱のフィールド(教練場)に響いた。

 

(靴下男)「嘘だろ!?あのタコが武術の達人?」

靴下男は信じられない、と言う面持ちでオニワカ(真空男)に聞いた。

 

(鬼若)「あの呼吸、間合いの取り方、身のこなし…おそらく間違いないでしょうね。」

オニワカは腕立てのスピードを一切落とさず、話し続けた。

 

靴下男も腕立て伏せを呼吸の様にナチュラルにこなしながら言った。

(靴下男)「で…勝てるかい?鬼若さん。」

 

オニワカは、汗まみれで関節ガクガクの腕立て伏せをしている高齢者丸出しのマエダに目をやって、言った。

(鬼若)「…私があんな方に負ける訳がないでしょう?この間は少々油断しただけですよ。」

 

靴下男は安心した笑みを浮かべて言った。

(靴下男)「そうだよな!!俺たちは数十年前、あんたが毎週世界の有名格闘家を半殺しにしていく動画を、それは楽しんだよ!

…あれは世間に見捨てられた俺らの心の下剋上だったんだ。

ー今度の闘いも楽しみにしてるぜ。鬼若さん。」

 

オニワカはフッと鼻で笑って言った。

(鬼若)「半殺しを越えたら…その時はごめんなさい(笑)」

 

(靴下男) 「…」

 

ビィーー!(ホイッスルの音)

 

(教官)「腕立てそこまで!

ヒトヒトマルマル(1100)!」

 

(教官)「エサの時間だ!!」

 

次は全員腕立て伏せの姿勢から飛び起き、兵舎への猛ダッシュだ。昼食はいつも1人分少なく作られており、毎日必ず誰か1人がお昼ご飯に有りつけない仕組みなのだった。

 

 

食堂内にて

――――――――

さて、靴下男の視界に偶然マエダが入った。

ーマエダは首尾よくその日の昼食を手に入れ、佐藤のテーブルに向かっているようだった。

その時だった。歩いて兵舎に現れたその日最後の兵士がマエダに近づいた。

 

(兵士)「ここにお前の居場所はもう無いんだよ。…これは俺のランチさ。」

そう言ってその兵士はマエダのプレートを奪ってその場から離れようとした。

 

「やめろ。 今のはフェアじゃないぞ。」

 

  ー靴下男だった。

 

(靴下男)「このタコ…いや前田に昼食を返せ。

今日はお前が最後だったし、こいつはまだここ(軍)を辞めていない。どうしても昼飯が欲しけりゃ俺のを持っていけ。ほら、何やってんだ。さっさと持って向こうに行っちまえ!!」

 

ゆうに2mはある靴下男に凄まれ、ランチ泥棒は渋々従った。

 

靴下男はその昼食のプレートをマエダのテーブルの目の前にぶっきらぼうに置いてから口を開いた。

(靴下男)「おい前田、お前…武術が出来るのか?

…やっぱりそうか、…凄いな。何かを極めるってのは相当しんどい事なんだろな…。 

ならしっかり喰っておけ!俺はお前に辞めて欲しいと今でも思ってはいるが、

別に死んで欲しいとは思っていない。

 

だって…ど、同世代だからな(赤面)。」

 

マエダはポカンと間の抜けた表情で礼を言うタイミングを逃した。その後恐怖と安堵と嬉しさが同時に込み上げて来て呂律が上手く回らなくなってしまった。

 

(前田)「ああ、そう。…いや、ちょっと!え!?あ、ありがとうございます。えと…、檜山さんですか。

はい!まだまだ私ら前期高齢者!先は長いですよ!エイヤッ!エッコラショ!!って共に頑張りましょー!いや、エイヤッ!エッコラショ!!って言うのはですね…」

 

こんどは檜山がポカンとした。

こんな阿呆な男にはこれまで会ったことがないといった表情だった。

思わず少し顔が緩んでしまった。

 

(檜山)「(恥)…か、勘違いするなよ。 べ、別に助けたつもりはないからな! それにお前の動きにびっくりしたとか武術を色々教えて貰おうなんてそういうのもないんだからな!!」

今度は檜山の訳がわからなかった。

 

(木戸)「檜山さん、ちくと落ち着きなもし。もう分かったきに(笑)」

木戸に言われて檜山ははっとして…しばらく俯いて固まってしまった。

 

(前田・佐藤・木戸) …(汗)

 

…その後冷静さを取り戻した檜山はあらためてマエダに対峙した。

 

(檜山)「こ、この前はすまなかった…。」

 

…食堂の隅に、その一部始終を眺めてスプーンを握り潰すオニワカの姿があった。

 

ーこうして1日また1日と過ぎていき、

ついに決闘の日を迎えた。

 

 

(送信終了まで1分)




[sideB]

国名:シルバニア王国(旧・日本国)
国王:鬼若 海衆
人口:約4500万人
(人口比率:65歳以上が約4分の3)

現在『本州』と呼ばれる最大の島に住めるのは原則、高齢者のみ。
64歳までの国民は『准国民』として、『四国』と呼ばれる太平洋寄りで逃亡の困難な島でのみ居住を許されている。

若者は力と健康にだけ恵まれてはいるが知性が乏しく経験も薄い存在と見做され、投票権もない。

見た目にも髪に色があり、禿頭や白髪といった“人間としての特徴”をまだ備えていない―そう蔑まれていた。

元々減少していたかの国の人口は、日本からシルバニアへ国が移行する際、数百万人の若者が国外へ脱出して、いまだに本州に残っている若者たちは、単純労働を請け負うために安い報酬で雇われ、居住地も東京湾を中心とする海底または地下に限られている。

まだ足りない。
盗聴/GPS付きマイナンバーカードの携行。
反乱防止のための “爆薬差歯(奥歯)” これで信用するに値する。
ここまでしてやっと本州に住めるのだ。

地位のある高齢者は、若者を知性の低い存在だとは思っていない。
なので警戒は厳重を極め、反乱の余地は一切ないかに思えた。

―あの日までは<br>

Next Packet: 暁ーあかつきー
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