高専に通ってはいるものの、大体俺以外のみんなもそうなのだが、任務で離れることが多い。
貴重な戦力を遊ばせて置くわけにいかないという大人の事情だ。
任務のために、俺は色んな地域を回った。その最中で、回収しておきたいものも回収する。
具体的には沖縄に行った際だろう。
魔虚羅を倒すための準備だ。
魔虚羅を倒すための準備で思い出したのだが、俺は自身に課した縛りをひとつ設けた。
それは『影融呪変』を使用した貫牛の使用……つまり貫牛の特性を俺自身に付与しないという縛りだ。
これに関して俺は、非常に悩んだ末に決めることとなった。
貫牛の特性を自身に使えば、とても戦闘を優位に進めることが出来るだろう。
シンプルに自分の攻撃力を増すことが出来るのだ。
使い勝手がとても良いことは想像出来る。
だがその利便性を犠牲にしたとしても、魔虚羅の調伏は絶対に必要だ。
魔虚羅の隔絶した性能は態々言うまでもないだろう。
とにかく俺は、貫牛の特性付与を自身に行わない縛りとして、貫牛そのものの破壊力を向上させることを選択した。
その結果として将来失敗する可能性もあるが、そんなことだけを考えていたら何も出来なくなる。
犠牲無くして勝利を得ようなどとは考えてないのだ。
俺に五条先生や宿儺のような隔絶した才能はない。
だからこそ、引き算だ。引けるものは引いていくという呪術師本来の在り方で行こうと思う。
「おっ、ようやく見つけた」
そんなことを考えていた任務の帰宅途中。
俺は任務の行きの際に、玉犬をとある地域に解き放っていた。
目的は人探し、もとい呪霊探しだ。
任務終わりの帰宅の際に無事に目的の存在を見つけたため、俺は運転してくれていた窓の人に降ろすよう頼み、徒歩へと切り替える。
それからしばらく歩き続け、やがて目的の場所に辿り着く。
川の近くにある地下へのトンネル。
俺はその中へと入って行く。
中に入った俺を出迎えるのは、異形の肉塊たち。
四足歩行だったり虫のような奇形をしたものだが、どれも呪霊ではない。
これは術式により魂の形を歪められた人間だ。
それらが四方から襲い掛かってくる。
「邪魔だな」
俺は玉犬を顕現させ、迎撃させた。
それだけで元人間たちは呆気なく血の海を作り、その中へと沈んでいく。
何の術式もない上に、呪力も大したことのない存在だ。
玉犬と言えど、負けるわけもない。
そうして奥まで進んだ俺は、つぎはぎの呪霊を目視するのだった。
「いやぁ良かった良かった。五条悟が来ても困るけど、あんまり弱いと実験にならないからさ」
つぎはぎの呪霊ーー真人だ。
人間の呪いから生まれた呪霊。
その姿を見た俺は、悪くないタイミングだとホッとする。
この地にいる時点で分かっていたことだが、七海と接敵する前の段階だ。
この段階であれば、俺は目的を果たしやすい。
真人を倒すとか従えるとかではなく、その後ろにいる人物……ではなく漏瑚に用があった。
漏瑚は五条先生にやられた傷を癒すために雲隠れしてしまっているので、真人からそちらに掛け合うことを目的としていた。
「残念ながら俺は実験体じゃない。どちらかと言えばパートナーだな」
それにこの段階の真人はそんなに強くないので、俺でも簡単にやり込めるであろうことが期待出来る。
自身の術式を過信している真人は、無防備に俺へと飛び掛ってきた。
俺は目にも留まらぬ速度で拳を振るい、その顔面にぶち当てる。
「ぶへぇ!?」
真人は吹っ飛び、地面を転がった。
その顔には困惑が見て取れる。
『無為転変』は真人の扱う術式であり、魂の形を自在に変えられる彼に通常の攻撃は通じない。
だが原作にて主人公である虎杖は、魂の輪郭を知覚していることにより真人にダメージを与えられた。
同じ理屈だ。
憑依転生者伏黒くんたる俺が、魂を知覚していない訳がない。
真人の魂を知覚し、輪郭を捉えることは難しくもないのだ。
そんなことを知らなくても、殴られた瞬間に感じたものがあるのだろう。
真人は困惑した表情のまま口を開く。
「なんだ、その魂……? どうなってる? 2つある?」
「そうか、やっぱり分かるか」
もはや戦う意思を見せない真人。
今回の俺は戦いに来た訳ではないので、会話してくれるのであればむしろ助かる。
それに面白い話もしてくれそうだった。
「なんだこれ、いや、それより君、本当に人間? その魂、どちらかと言えば
「
「やっぱり? だよねぇ! なんだよ仲間だったんなら実験なんて必要ないじゃん」
真人の言葉。
それは憑依転生者である俺のことを端的に示していた。
自分でも何となく自覚していたことである。
他人の身体を乗っ取り、寄生しているかのように生きている俺が、まともな存在な訳もないだろう。
五条先生や高専の人たちからは随分大人びてるだとか、感情的にならないよねとか色々言われてるが、それも当たり前のことだ。
俺は人として必要なものが欠如した存在なのだから。
まあ、だからこそ最強になりたいと強く思っているのかも知れないが……そこはいいだろう。
最強を目指すのは、別に何者かになりたいがためでもないのだ。
ただなりたいから目指すのだ。
「それにその魂どうなってるのかな? 受肉体……ではないよね?」
「さあな。俺にも分からない。だがお前の言う通り、2つあるのは間違ってはない」
先ほど述べた俺が魂を知覚出来るのも、それが理由だ。
2つある理由は分かっている。
憑依転生者たる俺自身の魂と、憑依転生者に乗っ取られてしまった伏黒恵の魂だ。
しかしこれに関して、呪術廻戦に当てはまる形の存在はない。
先ほど否定したように受肉体ではない。
かといって禪院真希と真依のような一卵性双生児という扱いでもない。
こればっかりはご都合主義と言わざるを得ないが、俺の魂と伏黒恵の魂は別物として認識されていながら、同様の魂として区分されているようなのだ。
それが分かったのは、甚爾や津美紀を見殺しにし、更に伏黒恵としての生き様を捨てた縛りの結果だ。
思い返して見れば、俺はそれらを捨てることに躊躇もなければ苦しみもなかった。
本来であればそこまで呪力量は増えなかっただろう。
けれど結果として呪力量は大幅に増える事になった。
理由は単純に、伏黒恵の魂が俺の中にあり、伏黒恵がその出来事を避けたい事実として認識していたからだろう。
俺が結んだ縛りを、伏黒恵が請け負う形になったのだ。
だからこそ縛りは有効判定となった。
そして俺と伏黒の2人分の呪力も合わさっているからこそ、ここまでの呪力量になれたのだと考えている。
だから俺は憑依転生を自覚した最初に言ったのだ。
俺たちなら、きっとなれるさ。
最強にな。
と。
「ほとんど同じだけど……俺じゃないと分からなかっただろうね」
「そうか」
俺のことに気付けたのは、無為転変によるものだろう。
少なくとも、五条先生や虎杖も俺のことに気付かなかったのだ。
直接魂に触れるようなことがない限り分からないだろう。
まあ、漏瑚や鹿紫雲が死に際に経験した宿儺の謎空間に引きずり込まれたらバレるかも知れないが。
しかしあれは流石に例外扱いでいいだろう。
となれば、俺のことを正確に認識出来る存在は真人以外皆無だと言える。
「それでここには何しに? その制服、呪術師として溶け込んでるんだろう」
「ああ、羂索に用があってな。お前経由なら会えると考えたんだ」
「羂索?」
「夏油傑だよ。彼の本名だ」
「へぇ……本名ね。確かに俺経由なら会えるかも知れない。けどそう簡単に会ってくれるかな?」
「いや、俺のことを伝えたら確実に向こうから会おうとしてくる筈さ。だからそうだな……折角だしその場には漏瑚も来るように伝えてくれないか? もしくは俺が指定された場所に向かってもいい」
その言葉に、真人はキョトンとした表情を見せる。
「漏瑚?」
「ちょっと力を借りたいことがあってな」
「ふーん、まあいいけど」
どうでも良さそうに了承したのを確認した俺は、取りあえず目的を果たせたと認識する。
後は帰るだけなのだが……残念ながらこのまま帰るわけにいかない。
俺はここで呪力や術式を使ってしまったので、残穢が残っているのだ。
そのまま真人の情報を持ち帰るか、ちょっと戦闘した感じの演技でもしないとならない。
そのことを真人に伝えると、彼は情報を持ち帰ることを了承してくれた。
「五条悟が来ないようにしてくれたらいいよ。出来れば1級術師の中でも下位くらいの奴が来るようにしてくれたら助かるかな」
「ああ、それなら問題なく出来る。後、ポロっと俺のこと言わないでくれよ」
「大丈夫! 俺を信じなよ!」
「人の悪意から生まれた呪霊を信じろ? 面白い冗談だな」
「まあまあ、君は人間じゃないから大丈夫さ」
信じる、信じないはともかく。
俺のことをポロっと零されたら嫌だが、嫌なだけだ。
適当な言い訳を吐くだけだし、言い訳が通じないのなら高専にいるのは諦めて羂索側に付くだけのこと。
交流会後のプランは既に考えており、ぶっちゃけ羂索側に立っていた方がプランに沿って動きやすいということもある。
とは言え、現在考えているのは高専側でのプランなので、態々それを変える必要もない。
そうして俺は、真人との邂逅を終えて立ち去ることになった。
因みに真人の隠れ家は既に七海が捕捉していたようで、報告するとちょっと怒られた。
入れ違いにならなくて良かったと思うべきなのかも知れない。