マンハッタンカフェは喫茶店をやりたかった   作:南亭骨帯

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世はまさに

 

 

 カフェは激怒した。いつもの事だ。

 

 

「だから、私は止めたんです……」

 

 

 未だ寒い日が続く今日この頃。仕事上がりか休日のお客さんはモツ煮と酒を楽しんでいる『喫茶まんはったん』だが、ランチタイムはやはり食事メニューが強い。

 

 丼物や定食類がそこら中のテーブルを席巻し、北風吹き付ける中で働いてきた腹ぺこ労働者達が親の仇のようにがっついている。

 

 しかし最近様子が変わった。食後のコーヒーの事かって?いや……確かに増えはしたけど2、3人くらいなんで別に……。

 

 

 その変化とは、運ばれていく食事の量。数量、という意味ではなく一杯分の重量という点。そして普段はあまり見かけない大人数のウマ娘達だ。

 

 

 まず、今まで提供していた食事は基本的にヒトミミ向け……大盛りと銘打ってはいるものの、その基準はヒトミミの胃袋に合わせた量なのだ。

 

 実際に数値を出すとカツ80gを2枚と白米を2.5合。そこに卵を3個と中々ヘビー級な代物。お値段なんと1,000円ポッキリ。やっす。

 

 ぶっちゃけこの時点で大半の肉体労働者には天国でしかないのだけれど、これを更に倍にしたメニューが存在する。

 

 それがウマ娘用。値段も倍になるが量も倍になるという、ヒトミミからすれば『誰がこんなの頼むんだ?』というメニュー。

 

 見ればわかる通り、この店の主な客層はヒトミミの労働者がほとんど。なのでウマ娘用メニューというのもあってないような存在で、実際にここ最近で頼まれたことは1、2回あったかどうか。

 

 

 じゃあ何で今、この店にたくさんのウマ娘が来ているのかと言うと……ぶっちゃけ灰の怪物(オグリキャップ)のせいである。

 

 

 富、名声、実力……ウマ娘の憧れを全て手に入れたアイドルウマ娘、オグリキャップ。彼女が不意に放った一言──いや原稿用紙5枚分くらい語っていたけどカット編集された発言──は、ウマ娘を飯へと駆り立てた。

 

 

 

 ──『喫茶まんはったん』は、いいぞ……

 

 

 

 ウマ娘は腹を減らし、カツ丼を追い求める。世はまさに大揚げ物時代。盛大に何も始まらない。

 

 

 まあ要約すると『喫茶まんはったん』のカツ丼がすっかり忘れられなくなったオグリキャップが、うっかりアチコチでカツ丼の魅力を吹聴してしまったのだ。

 

 そしてそれに突き動かされたウマ娘のうち、何割かが直接『喫茶まんはったん』を訪ねてしまったというだけのこと。

 

 

 問題はそのウマ娘用メニューを廃止し、前回オグリキャップに作ったカツ丼から『1/nオグリカツ丼』というメニューを作ってしまったこと。

 

 カツ100枚、白米50合、卵150個を基準に1/nで注文するという形態。これが腹ぺこのウマ娘にはあまりにも都合が良すぎた。

 

 

「1/10オグリカツ丼ひとつお願いします!」

 

「私は1/20オグリカツ丼で!そっちは?」

「んー……私も1/20で」

 

「1/5オグリカツ丼お願いしまーす!今日はもう滅茶苦茶食う!食うったら食う!」

「マジかお前」

「コイツ……『太り気味』を覚悟してきている……っ!?」

 

 

 まあ来るわ来るわオグリカツ丼。普通に1/20……米2.5合の特盛が注文されるし、覚悟ガンギマリのウマ娘だと1/5すら注文してくる。

 

 勿論厨房は大忙し。それでも一人で間に合わせるカフェの夫は多分阿修羅か何かで分身の術が使えるに違いない。そうでなきゃヒトミミやめてる。

 

 

 そうして現在の『喫茶まんはったん』は、あちこちのテーブルに山盛りカツ丼の摩天楼が乱立している真っ最中。

 

 ヒトミミからすれば何のドッキリだよ、という光景だがウマ娘達は平然と完食している。乱立していた摩天楼が高速で消えていく。残すウマ娘は一人もいない。お残しは許しまへんで。

 

 

「ご馳走様でしたー!」

「はい……またの、お越しを……」

 

 

 また一人、また一人とカツ丼を胃に収めては満足そうに店を去っていく。

 

 あの身体のどこにあの量が入ったの?なんて考えてはいけない。女の子はお砂糖とスパイスと素敵なものいっぱいでできてるのだ。

 

 

 それはそれとして、カフェが心配なのは夫……の手首。

 

 この大規模なカツ丼ラッシュを前に菜箸と鍋はフルスロットル。いつもの事ではあるが量が量だけに普段の数倍増しで疲弊しているのではないか、と不安になる。

 

 ウマ娘の波が収まり、ピークタイムも過ぎた頃。カフェは厨房に入ると夫に声をかけた。

 

 

「あれ?今お客さんいないよね?」

「その……手は、大丈夫ですか……?」

「あー……今んとこ大丈夫かな」

 

 

 キョトンとしていた夫だがカフェの質問を聞くと苦笑いを浮かべながら問題ないと返した。

 

 曰く、これでもトレーナー時代に比べれば身体的にも精神的にも楽なんだと。中央トレーナーはマジでどんな労働環境なんだ?と戦々恐々とする。

 

 

「でも、これが連日続くとキツいかもなあ……」

「……どうしましょうか」

「流石にライスさんみたいに急遽人を雇う、というのは難しいしなあ……」

 

 

 そんな化け物フィジカルであってもこの状況が続くのはキツいらしい。今日だって元トレーナーだったから耐えられた、元トレーナーじゃなかったら耐えられなかった。

 

 何とか対抗策はないものか、と頭を悩ませる二人。ひとまずしばらくの間は『先着〇人限定!』と銘打つことで凌ぐことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウマ娘のお客さんが、増えています……!?」

「何でだ……!?」

 

 

 

 尚、数量限定になったことで寧ろ希少価値が高まり、余計にウマ娘を惹きつけてしまった。

 

 しかもオグリカツ丼がダメなら、と普通にたくさん食べて帰るので皿洗い的な意味で仕事も増えた。ぴえん。

 

 

 






オグリ「カツ丼美味かった」

ウマ娘A「カツ丼だっ!カツ丼を食え!」
ウマ娘B「当然ッ!!カツ丼だッッ!!」
ウマ娘C「それが流儀ィッ!!」

常連's(((ウマ娘ってあんなに食べるんか……)))

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