そろそろネタが尽きそう
完全にネタが尽きた時がそのまま最終回になるので、その時は多分滅茶苦茶ヌルッと終わります。
カフェは激怒した。天丼はお店のメニューだけにしてもろて。
もう最近は情緒がジェットコースターなのが通常運行になりつつある元漆黒のステイヤーウマ娘マンハッタンカフェ。
キレ芸でも習得したの?と120億やらかした方のゴルシあたりに弄られそうなカフェだが、実際はかなり穏やかな性格をしている。
まあ定期的にアグネスタキオンを出禁にしたり、八つ当たりのように夫から諸々を搾り取ったりしているけど。
逆に言えばアグネスのヤベー奴か夫以外には基本的に穏やかな対応をする。唯一例外になりそうなのは1,680万色に発光して来店したタキオンの夫くらい。
じゃあ今日のカフェは何にキレているのかというと、まず今の彼女は『喫茶まんはったん』の外にいる事から説明しなくてはならない。
とある繁華街から僅かに路地に入ったありふれた居抜き物件。真っ当に行き届いた清掃、普通に可愛い小物類……どこを切り取っても何かしら既視感がある店内。
テーブル席はたった3席。それ以外は全て大きな鉄板の前を陣取るカウンター席ばかり。
ジュウジュウと耳を、香ばしい香りは鼻を。そして目の前で調理が行われる為に目をも楽しませてくれる店主。
「………………」
「あ、あのー……なんで、睨んでるんです……?」
「……別に、睨んでなんかいません」
「流石に無理があると思うなー!」
『お好み みらくる』の店主、ヒシミラクルは目の前の【八方睨み】をしてくる客に大層困っていた。カフェ、あなたそのスキル持ってないでしょ。
トレセン学園を卒業したウマ娘の進路は思ったよりもずっと多彩なもので、進学する者もいればそのまま就職する者もいる。
そしてマンハッタンカフェがそうしたように、ヒシミラクルもまたトレセン学園を卒業後に店を開いた。
本人は普通に走って普通に大学に行って適当に生きるつもりだったのだが、トレセン学園でトレーナー……現夫と出会ってしまったお陰でライフプランが大きく崩れた。
その責任をとれ!と迫る形でとてもとても強引に押し切った太い方のミラクル、狂った人生設計を立て直すことさえ億劫だったようで。
「……私が得意なことって何かなーって考えたら、お好み焼きくらいだったんですよ」
「いや……他にもあったのでは……?」
「当時は本当にそれくらいしか思いつかなかったんですって。GIレース勝ってたのに」
いっそこのままなるようになれ、と言わんばかりに卒業の進路を勢いに任せた。
すると想像以上にトントン拍子で話が進んだ。それも自分の意図しない方向に向かって。
幸いレースの賞金もあるし、それを差し出せば夫が養ってくれるでしょ〜とはちみーに水飴ぶっ込んだ物よりも甘い考えはすぐ崩れた。
まず最初に責任を取る為、と夫はトレーナーを引退。教え子に手を出したと言われればまあ残念でもないし当然っちゃあ当然なんだが、ぶっちゃけ半ば婚活会場と化してるトレセン学園でそこまで真面目にならんでも。
次にいつの間にか店を開くことになっていた件。特技を活かせる仕事がいいな、の一言から店を開くまで行くとは思わんて。
最後に想定外の人気。先駆者ということでカフェからアドバイスを貰いながらやっていたお好み焼き屋が別方向に人気が出てしまった。
一番の問題は最後、想定外の人気だ。
ヒシミラクルの予定では自分で焼ける気楽なお好み焼き屋……という方向性だったのに、どういうわけかこの店の人気商品はパンケーキやフレンチトーストである。小麦粉くらいしか共通点無いな。
元のターゲット層は若年層というくらいで、それ以上の拘りは特になかった。それが気まぐれで提供したパンケーキの評判が広まり、小洒落た店として認識されつつある。
それに納得がいかないのがカフェ。色々アドバイスした結果、自分の所はあれなのに何でこの店はカフェの理想的な店に仕上がりつつあるのか。これが分からない。
理不尽だという自覚はあるけれど、それでもカフェとしては誰かに吐き出さずにはいられなかったのである。
「何で、何であなたのお店はそうなるのに……!」
「わわ、私に言われても知りませんよぅ!?むしろそっちが何でああなったんですか!」
何でやろな。心当たりしかないカフェは静かにパンケーキを口の中に放り込んだ。うっま。
何度か述べた通り、カフェと太い方のミラクルは飲食店経営者としての先輩後輩の関係にある。
だからこうしてたまにミラクルの店を訪れてはヤケ食いのように鉄板焼きのパンケーキを食べているわけだ。
「本当に、何をしたんですか……?」
「やー……色々請け負ってたらいつの間にかそういう扱いになってたので……多分カフェさんの参考にならないといいますか……」
ちなみに経緯は以下の通り。
・まずヒシミラクルが鉄板で焼けるし、とオムレツやハンバーグを提供するようになる。
↓
・客の要望にも応えるようになって牛タンや豚トロ、ステーキ肉も焼いてくれるようになる。
↓
・そんな中、突如として謎のふわふわ好きウマ娘が現れ、ふわふわのパンケーキを注文する。そしてヒシミラクルのパンケーキを前にアドマイヤベガ(シリアス)にソックリだが真逆のボケ適性を持つウマ娘、アドマイヤベガ(ふわふわ)が絶賛する。
↓
・お洒落なパンケーキ屋になる。
何か途中ダービーウマ娘の先輩の名前が出たような気もするけどざっとこんな感じ。ルートは似通っているのに何故こうも結果が違うのか。
「私のお店に来るのはオ〇〇〇い店とかそんなのばっかりなのに……何故このお店にはウマスタグラムのインフルエンサーなんかが来るんです……?」
「むしろ最初はそっちの方が来るようなお店にするつもりだったんですよ?あ、コーヒーいります?」
「……業務用のコーヒーは、ちょっと」
今ならちょっとだけ理解も納得もできるけれど、当時のカフェはまあまあ荒れた。何であっちだけ、と。
だって『喫茶まんはったん』は一杯一杯を丁寧に豆から挽いたコーヒーを淹れているのに、冷蔵庫から取り出した紙パックコーヒーを注いでるだけの方がよく売れてるなんて受け入れ難いにも程があったんだもの。
流石にそれを表立って誰かにぶつけたりはしなかったけど、それはそれとして今でも業務用紙パックコーヒーはカフェの口には合わない模様。
何とか話題を変えよう、と自称普通の頭を働かせたヒシミラクル。捻り出した話題は考案中の新メニューについてだ。
「そ、そういえば……今度新メニューとして出そうか悩んでるやつがあるんですよ。ちょっと試食してもらえません?」
「……はい、私でよければ」
「ありがとうございます。それじゃあ、これなんですけど……」
そう言ってヒシミラクルが取り出したのは──カリカリに焼いたベーコンと黄身だけ半熟の目玉焼きが乗ったパンケーキプレートだった。
「うち一応9時から開けてるんですけど、朝ごはん需要あるかなーって思いまして……もう試食し過ぎて私達だけじゃよく分かんなくて〜…………?」
「…………」
「か、カフェ先輩?」
無言で1口、パクリ。そのまままたもう1口。それから少しモグモグと沈黙が流れた。
やがて口の中を空にしたカフェは感想を口に──する前にドヨーン……と目に見えて落ち込んだ。
滅茶苦茶喫茶店っぽい新メニューを考えているヒシミラクルに対し、うちの夫は今頃新たな中華料理メニューを開発してそうだなあ……とか思ってしまったのだ。カフェのライフはもうゼロだ。
「……とても美味しい、です」
「ほ、本当ですか!?」
「はい……うちで出したかったくらいに」
「ああ……過去形なことに哀愁を感じる……」
圧倒的な喫茶店力の前に大敗を喫したカフェ。そろそろ現実を見て今ある幸せを大切にするべきなのかもしれない。そう思った。
「ところで喫茶店力ってなんです??」
「『如何に喫茶店らしいか』を数値化したものです……私のお店の喫茶店力はたったの5……」
「……ちなみにうちは?」
「2,000……3,000……どんどん上昇しています……!?」
「カフェ先輩最近ド〇ゴンボール読みました?」
太い方のミラクル「あだ名酷い!?」
細い方のミラクル「あ、あはは……」
アグネスのヤベー奴「心外だねえ!?」
アグネスのヤベー奴「ヒョワッ!?た、タキオンしゃん!?」