マンハッタンカフェは喫茶店をやりたかった   作:南亭骨帯

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 1日ズレたけどまあええか……






勝負服を着てお客さんや夫をコーヒー派にしてやりましょう!

 

 

「絶対ダメ」

 

 

 珍しく強い語気。普段温厚な夫からはとても想像のつかない声音に目を白黒させながら、それでもカフェは少しだけ食い下がる。

 

 だってもうこれしかないじゃないか。何をやっても変わらないと言うなら、せめて打てる手を出し尽くしてから諦めたい。

 

 だというのに夫はそれを認めない。本当は自分だって分かっているけれど……正しくない手段で夢を叶えたって嬉しくなんかなれないけれど、諦めきれないのだ。

 

 手を現役当時から少し大きくなった胸の前で握りしめ、カフェは蚊が囁くような声で呟いた。

 

 

 

 

「そんなに勝負服での接客はダメですか……?」

「むしろ何で許してもらえると思ったの???」

 

 

 

 

 和風メイドのような服装のカフェを前にトレーナーは不思議そうに呟いた。そういうプレイなん?

 

 

 

 抹茶色の広袖衿合わせに、フリル付きのコルセットスカート。それに厚底ブーツを合わせた和風メイドを思わせるそれはマンハッタンカフェの二着目の勝負服。

 

 実際はとある和菓子屋の接客係を務める際に制作してもらった衣装で、厳密には勝負服とは違う。頭に『夜の』ってつくもんね。

 

 

 そう、今お伝えした通りこの服はトレセン学園時代に接客係を担当する際に袖を通していた。

 

 ならばトレセン学園を卒業し、自分の店を構えた今。すっかりカフェの物となった今ならばカフェがどんな風に使ってもいいのでは?と思われるだろう。

 

 

 問題はその使用用途。

 

 

「というか……いくらコーヒーを飲んで欲しくても、カフェ的にはそれアリなの?」

「…………苦肉の策、です……」

「お持ち帰りのお客さんにはちゃんと広まってるからやめようよ……絶対違う目的のお客さんが来るだけだって……」

 

 

 カフェはとうとう手段を選ばなくなってきたらしい。いいのかそれで。

 

 

 確かに、夫から見た勝負服を着たカフェは可愛いなんてものではない。

 

 

 まず本来の勝負服は真っ黒なブレザーとチェスターコートに黒いスカートと黒タイツ、アクセントとして金色のネクタイやベルトを配置されたどちらかと言えばシックな方向で纏まったもの。露出度も低く、カワイイよりもカッコイイが先に来る見た目だった。

 

 それがこの勝負服はどうだ。本来の勝負服とは打って変わって明るい配色、スカートとブーツの間から覗く生足。カフェの可愛さを全面に押し出すカタチとなっている。

 

 

 そしてその勝負服が、時を経て艶やかさを得た。

 

 アスリートだった当時と違い、色々と油断の痕跡が見えるようになったカフェ。具体的には胸と尻が膨らみ、お腹周りと太ももがプニプニしている。

 

 そんな状態でアスリート時代の服を着たカフェが今どうなっているのかと言うと、もう何か色々とすんごいことになっている。

 

 

 衿合わせということもあって潰されていた胸はむしろコルセット部分に乗るように主張するようになり、絶対領域から覗く太ももはちょっぴりブーツの上にムチッとした肉感を見せるようになった。

 

 そこにトレセン学園でのボイストレーニングで磨かれた声による【魅惑のささやき】での接客。これもう公共の電波に載せられないだろ。

 

 

「と、当時に比べれば……その、太ってしまったとは思いますが……そんなに見苦しいんですか……?」

「……先週の僕の反応で察して欲しいかなあ」

「……?…………!?………………エッチ」

 

 

 そう言う君が一番エッチだと思う。夫は静かに心の中で呟いた。

 

 

 それはそれとしてその姿での接客はNoである。多少見慣れているはずの夫でこれなのだから、他のヒトミミに見せたらどうなるかなんて分かったもんじゃない。

 

 色んな意味で店どころじゃなくなる、とまで言われてしまえばカフェは渋々引き下がるしかなかった。

 

 

「いい案だと……思ったのですが……」

「まあ、元は接客業務で使ってた服だしね」

「はい……あの時は、楽しかったです……」

 

 

 思い出すのは可愛い後輩となれない接客を頑張ったあの日。バレンタイン用の新作和菓子でもう一度お店を立て直そうと皆で─────うん?

 

 

 この瞬間、カフェはさあっと血の気が引くような感覚に襲われた。

 

 チラ、とスマホの画面を見てみるとそこに示されたのは現在時刻の18時と今日の日付──

 

 

 

 ──2月14日の表示があった。

 

 

 

 

 もうお分かりだろう。2月14日……即ちバレンタインデー。愛する異性にチョコレートを贈る日。

 

 

 今この瞬間まで、カフェはバレンタインデーの事を完全に忘れ頭からすっぽ抜けていたのだ。

 

 

 

(マズイマズイマズイ……!)

 

 

 

 バレンタインデーを忘れていた、ということは当然チョコレートも用意していない。毎年欠かさず渡していたのに、先日ヒシミラクルの所に行ってからすっかり忘れていた。

 

 しかも現在時刻は18時。この時間からチョコレートを自作するのは現実的ではなく、かといって今から探しに行っても売れ残りがあるかどうかという程度。

 

 あまりにも高すぎる喫茶店力の前に大事な事を忘れてしまうなんて。カフェは冷えきった頭をポカスカと叩きたい気分に駆られながらも、立ち止まっているわけにはいかなかった。

 

 

「少し……用事ができました……!」

「えっ、カフェ!?ちょっと待って!」

「すいません、無理です……!」

 

 

 そしてカフェは慌てて飛び出して行った。

 

 

 

 勝負服を着たまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、カフェは羞恥心で死にそうになった。

 

 夫が止めるのも聞かず、どうにか贈り物を……と元GIウマ娘としての走力でアチコチを駆け回った。勝負服姿で。

 

 いつもは物静かで綺麗な奥さんが、どこか見覚えのある可愛らしい服装で駆け回るのを見た常連さん達は大興奮──より困惑が勝った。でしょうね。

 

 

 6件目の店でようやく納得がいく贈り物を見つけ、いざお会計……という段になってようやく今の自分が何をやらかしたのかを自覚。白い肌を羞恥で真っ赤に染め上げた。

 

 会計中に店員から可愛いですね!とトドメを刺されながらも何とか帰宅。物凄く言葉を選んでいる夫の前髪まで来ると、一言。

 

 

「ハッピーバレンタイン、です……」

「あ、ありがと───うわっ!?」

 

 

 もうどうにでもなーれ♡となったカフェは無敵だった。

 

 贈り物を見せ、それをテーブルの上に置いたかと思えば次の瞬間には夫を抱えあげていた。

 

 

「ちょ、か、カフェ!?」

「…………」

「無言ヤメテ!怖い!」

「大丈夫、です……」

 

 

 ここまでやらかしたのだ、最早今更一つや二つくらい増えたってどうでもいい。やがてカフェは寝室に辿り着くと、夫をベッドの上へと放り出し──すぐさま覆い被さった。

 

 

「すぐ……いつもみたいになりますので……!」

「カフェ!?さすがにヤケぴょいはちょっとどうかと思──」

 

 

 この後滅茶苦茶ヤケぴょいした。

 

 

 






〜お友達への質問コーナー〜

Q.旦那さん生きてる?
A.何とか生きてる

Q.どっちが勝ったの?
A.元ステイヤーにヒトミミが体力で勝てると思う?

Q.もっかい聞くけどどっちが勝ったの?
A.なんやかんやカフェが負けた

Q.…………マジで?
A.いつものことだぞ。天然の誘い受けやらかして旦那掛からせて【お先に失礼!】してる。



Q.ところで先程カフェさんがあなたのことを探していましたが
A.お前そういうことは先に言えよ!?早く逃げないと───やあカフェ。これは違うんだ。別にカフェのアレコレなんて見てなごめんなさい許してください反省しますから炊飯器だけは勘弁してくだ




※お友達への質問コーナーは諸事情により打ち切りとさせていただきます。数行の間でしたがありがとうございました。


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