マンハッタンカフェは喫茶店をやりたかった   作:南亭骨帯

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となりのレトロ

 

 

 バレンタインデー騒動でカフェの可愛さがご近所一帯に知れ渡った日から数日。何故かやつれていた夫も本調子を取り戻した頃。

 

 突然『喫茶まんはったん』を揺るがす見過ごせないニュースが飛び込んできた。

 

 

 

 

 

「そういやカフェちゃんよ、知ってるかい?向こうの方にあたらしく喫茶店ができたんだってよ」

「………………!!?!?」

 

 

 カフェ上ご乱心。鎮まりたまえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 常連のおっちゃん曰く。半年ほど前から工事が行われていたのだが、そこに何ができるのかを誰も知らなかった。

 

 それがいつの間にやらレトロさを全面に押し出した立派な喫茶店が建っており、今月の頭にようやく営業が始まったのだとか。

 

 

「どっ、どどど……どこに……!?」

「向こうの方だよ。駅に行く方の通りんとこにできてたぜ?」

「い、いつの間に……」

 

 

 駅近でレトロ風喫茶店とは。なんてこった、喫茶店としてあまりにマトモな立地過ぎる。

 

 そんな情報を聞いてしまえばカフェが冷静でいられるはずもなく。ただでさえ喫茶店と認識されていないこの店から客まで奪うつもりか、と胸中穏やかでない。

 

 思わずバッ!と夫の方に視線を向けてみれば、カフェと違ってキョトンとしていた。危機感is何処。

 

 

「……いや、大丈夫でしょ」

「ですが……!」

「客層被んないでしょ?」

「…………」

 

 

 何も言い返せなかったし、普通に納得してしまった自分に泣いた。そうだね、少なくとも目の前のおっちゃんはレトロ風喫茶店入りそうにないもんね。

 

 唯一懸念点があるとすれば、コーヒーの売上が多少なりとも落ちるかもしれないくらい。まあ水筒にコーヒー淹れるサービスがあるからそれも安泰のようなものだけど。

 

 

 カフェの不安はさておき、おっちゃんが話を続ける。なんと、その店に一度足を運んでみたのだと。

 

 

「そんでよ、その喫茶店……トラック転がすついでに行ってみたんだ。まあ敵情視察だな敵情視察」

「……どうでした?」

「それが聞いて驚け?あっちの店、駐車場があるにはあるけど狭っ苦しいんだ」

 

 

 まあトラックならそうでしょうね……と思ったが、おっちゃんによると普通車5台しか停められないほど小さい駐車場だったらしい。ちっさ。

 

 仕方なくどこか別の場所に停めて歩いて来店。いざメニューを開いてみると──

 

 

「なんつーか……やたら甘くて高いケーキだかスイーツだかばっかりでなあ……ありゃ俺らみてぇなオッサンが行くとこじゃねえな!」

「……まあ、喫茶店とはそういう場所ですから」

 

 

 でしょうね、としか言えなかった。というか当初はこの店も同じ方針でいくつもりだったし。

 

 それから思い出しながら話し続けるおっちゃん。すると何を思い出したのか、そういえばと話を切り替えた。

 

 

「強いて言うなら店員が若い女の子ばっかだったのは良かったが……こっちはカフェちゃんがいるし負けてねえな!な、旦那!」

「……?カフェより可愛い子なんてどこにもいませんよ?」

「なっ……!」

「ダハハ!ここまで言い切られちゃどうしようもねえなカフェちゃん!」

 

 

 ああ、ちょっと歳がいった男性にありがちな話題か……と話半分に聞いていたカフェ。いきなり矛先がこちらに向いたかと思えばとんでもない爆弾発言を食らった。おお、尻尾が荒ぶっておられる。

 

 突然の褒め殺しに流石のカフェも動揺を隠せず、おっちゃんの前だというのに夫の背中をポコポコと叩き始めた。あら可愛い。

 

 

 

 おっちゃんの話はともかく、カフェはまだ不安を拭えない。

 

 確かに現在の『喫茶まんはったん』とその喫茶店の客層は被っていないものの、それは裏を返せばいつか来るかもしれないコーヒー派のお客さんを取られることでもある。そうかな……そうかも……。

 

 じゃあ『喫茶まんはったん』に何ができるのかと言われても、この店には向こうのようなお洒落なスイーツも内装もない。

 

 それでも一つだけ、これだけは負けない!と胸を張って言えるものがある。それこそが──

 

 

「なら……コーヒーで勝負です……!」

 

 

 そう、マンハッタンカフェこだわりのコーヒー。これだけはどんな喫茶店が相手でも負けないという自負がある。

 

 それはそれとしてその場にいたおっちゃんと夫は(そういやここ喫茶店だっけか……)と店名を再確認していたり。おっちゃんはともかく、夫おい。

 

 

「でも、そのお店も随分と思い切った出店だよね」

「……?と、いうと……?」

「だってほら、ここに(名前だけとはいえ)既に喫茶店があるのに同じジャンル(?)の店を構えるなんてかなりリスキーじゃない?」

「あー……そういやそうだな?」

 

 

 言われてみれば確かに。おっちゃんとカフェは首を傾げた。

 

 実態はともかくとして、この辺りに店を構えるとなれば『喫茶まんはったん』の看板が目に入らないということはないはずだ。

 

 駅から少し離れてこそいるけれど、ここだって駅周辺という括りに入る程度には駅近物件。既に喫茶店の枠としては埋まっているはずだ。

 

 それでも駅近に喫茶店を構えたということは、余程自信があることの現れだろうか。既存の店から客を奪ってやるぞ、と。

 

 何にせよしばらくは油断ならない、とカフェは一層気合いを入れて働くようになった。ついでにコーヒーにも更に力を入れようとして夫に止められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに喫茶店を出した店主に話を聞くとこう返ってくる。

 

 

 

 Q.喫茶店被ってますけど大丈夫ですか?

 

 A.え?喫茶店?どこにあったの?

 

 

 Q.あっちに『喫茶まんはったん』が……。

 

 A.ええ……?いやいや……。

 

 

 ・大型トラックが並ぶクソデカ駐車場

 ・どう見てもガテン系なおっちゃん、腹ペコウマ娘達が満足そうに出てくる

 ・オグリキャップが大絶賛

 ・大盛りカツ丼を薦めるレビュアー達

 ・明らかに喫茶店とは思えない量と種類の食材を搬入する業者

 ・期間限定品の張り紙にデカデカと載っているモツ煮やおでんの文字

 ・定期的に出禁になっては泣いて縋りついて出禁を解いてもらっているウマ娘

 

 

 これで喫茶店名乗るのは無理があるでしょ……本当は『定食屋まんはったん』じゃないの?正体見たり!って感じですね。

 

 

 Q.じゃあ定食屋にコーヒーの味負けてることになるんですがそれはいいんですか?

 

 A.……うちは紅茶派なので。

 

 

 

 後日『喫茶まんはったん』にてコーヒーを飲んだ瞬間膝から崩れ落ちる人がいたとか。

 

 

 






店主「わぁ……!ぁ……」
カフェ「泣いてしまいました……」
夫「何事!?」
常連(分かる…分かるぞその気持ち……!)




 ネタが尽きたのでしばらく更新途絶えます。
 そのうちひょっこり戻ってくるのでその時はまたよろしくお願いします。


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