マンハッタンカフェは喫茶店をやりたかった   作:南亭骨帯

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 ひゃあ我慢できねえ連日投稿だオラァ。






光速の粒子なヤベーやつ

 

 

 ウマ娘の本質はアスリートである。

 

 普通の人間よりも高い身体能力を有しており、中でも足の速さという一点においては人間の最高クラスであっても勝負にならないほど。

 

 そんなストイックな彼女らであってもアスリート時代は高校生。血反吐を吐いてでも走る日もあれば放課後に買い食いを楽しむ日もあった。

 

 今日はその頃の友人……友人?が『喫茶まんはったん』を訪れていた。間違っても食堂じゃない。OK?

 

 

「いやはや……人生は予定通りにはいかないものだとは言うけれど……それにしたって予定外にも程があるんじゃあないかい?」

「……開口一番に嫌味ですか?」

「まさか。三度も出禁を食らった身としては発言にも慎重になるものさ。これは心の底からの同情だよ」

 

 

 どこかねっとりとした話し方。それは光速の粒子の名を持つウマ娘、アグネスタキオンによるもの。

 

 彼女はマンハッタンカフェのアスリート時代のライバルであり、同時に学園に世話を押し付けられた問題児でもある。

 

 それがお互いに引退してトレセン学園を卒業すると、こうして落ち着いた状態で話せるようになるのだから人生とは分からないものだ。

 

 ピークタイムを過ぎて客が減った今、タキオンの手元にあるのは湯気が立ち上るマグカップ。決して山盛りの白米と揚げ物ではない。

 

 

「……私は未だにコーヒーよりも紅茶ばかり飲んでいるが、カフェのコーヒーが手間暇をかけた良いものであることは知っているからねぇ」

「それは……はい」

「まあ私は経営学とか流行り廃りには疎い人種だが、良いものなら売れるという考えは間違っていたんだろうね」

 

 

 ぐうの音も出ない正論。問題児のクセに。

 

 そりゃカフェだって甘かった部分はいくらでもある。良いものを提供すればお客さんは分かってくれる、なんてナイーブな考えはとっくに捨てた。

 

 だからといってコーヒーと軽食がドカ盛ご飯に変わるとは思わないだろ。しかも何でそっちが売れるんだよ。

 

 

「そういう……タキオンさんはお仕事の方は……?」

「私かい?私ならこの前ようやくひと段落したところだよ」

「ひと段落?」

「ああ、現役時代の経験を通した論文がようやく通ってねえ……教授って怖いね、カフェ」

 

 

 しかしタキオンはタキオンで苦労があるらしい。傍若無人な背中が煤けて見えるぜ。カフェもちょっと同情した。

 

 

 トレセン学園を卒業したアグネスタキオンはそのまま大学へと進学。彼女のトレーナーと共に脆かった足の改善を成し遂げた際のデータを纏めあげ、少しでも多くのウマ娘の手助けになれば、と思ったらしい。

 

 勿論入学していきなり成果を挙げられる、なんてことは考えていなかったのだけれど。タキオンが思っていた以上に期待されたのかお偉い方からのツッコミは想像以上だったご様子。

 

 

「『素人質問で恐縮ですが……』って本当に言われるんだねぇ……怖かったよ……」

「……どうしたって人間からはウマ娘の視点は分かりませんから。大変でしたね」

「まあ、お陰で研究予算が降りたと喜べる部分もあったが……うう、どうせすぐ次の論文発表を求められる……」

 

 

 そう愚痴ると机に突っ伏して未来の己に降りかかる試練を憂う。こればかりはカフェだろうが夫だろうがどうしようもない。

 

 今のカフェにできることは空になったマグカップの中身をそっと補充するだけ。勿論代金なんて受け取る気はない。

 

 再びマグカップの中に熱が宿った頃、アグネスタキオンは顔を上げてジトっとした目でカフェを見ていた。

 

 

「……なあ、カフェ」

「はい」

「自分から言うのもなんだが、君と私はそれなりに長い付き合いだよね」

「トレセン学園で三年、卒業してから五年なので……八年くらいは友人してますね」

「ならさあ…………」

 

 

 

 

 

「いい加減白湯以外の飲み物をくれたっていいじゃないか!?」

 

 

 

 あ、そういえばマグカップの中身は白湯です。うん、油っこいのを受け付けなくなってきた人が朝によく飲んでるやつ。

 

 当然アグネスタキオンはまだまだ健康。たとえこの店の看板メニューの大盛りカツ丼を持ってこられようとも容易く完食できる。

 

 じゃあなんでわざわざ白湯なんか出しているのかというと。

 

 

「……うちでは紅茶は扱っておりませんので」

「あー!出た!カフェの紅茶差別!飲食店がそんな事をしていいと思っているのかい!?」

「何か問題でも?」

「食べ物のことは戦争になりうるんだよカフェ!インスタントのきつねとタヌキ然り、チョコ菓子のきのことタケノコ然り!!」

 

 

 ……まあ、こういう事だ。

 

 マンハッタンカフェはコーヒー派でアグネスタキオンは紅茶派。それだけのことだ。

 

 で、自分で店を構えたのなら自分が好きな物だけ扱いたいというのもままあることで。コーラやオレンジジュースは出しても決して紅茶だけは出てこないのである。

 

 だというのにこのアグネスタキオン、店に来る度に毎回紅茶を注文するのだ。だからねェって言ってんだろうが。

 

 無いものを頼まれてもカフェにはどうしようもない。なのでせめてもの、と紅茶の茶葉抜き──即ち白湯を提供し続けている。

 

 尚、実際の所はもう五年もこのやりとりを続けたせいで半ば意固地になっているだけだったり。

 

 

 それはそれとしてだ。カフェの記憶にあるタキオンが飲む紅茶とは溶けきれないほどの角砂糖を積み上げた飲み物モドキ。

 

 いくら友人とはいえ自分の手であんな劇物を作る手助けはしたくなかった。

 

 

「そもそもあなた、砂糖塗れにして飲んでるんですからそこらの自販機で買ってきたらいいじゃないですか」

「……学生時代を掘り返すのはやめたまえよ。とっくの昔に健康に悪いからとモルモット君に止められたさ」

「……!?我慢、できたんですか……!?」

「その反応は失礼だねえ!?」

 

 

 マジで?という視線を我慢できなかった。嘘やろお前。

 

 じゃあ今はまともな味が飲めるのか?と尋ねるとそれでもやはり甘めにはなってしまうらしい。角砂糖は三個で済むそうだ。まだ多い。

 

 

「……正直、味覚がぶっ壊れてるとばかり」

「本当に失礼だねえ!?君の中の私はどうなってるんだい!」

「…………聞きたいですか?」

「やめとこうかな」

 

 

 アグネスタキオンは賢いので引き際を弁えるのだ。決してあの日々を黒歴史だと思ってたりはしない。

 

 だがやられっぱなしも釈然としない。ウマ娘とは元来負けず嫌いな生き物なのだ。やり込められたまま黙っているほど大人しければトレセン学園の門を叩いたりはしない。

 

 

 

「ところでカフェ」

「今度はなんですか……」

「ずっと前から思っていたんだけど、君、まだ旦那様に敬語なのかい?まさか何年もそのキャラで通してきたからやめ時を見失ってたり──」

 

 

 

 

 

 この辺りからアグネスタキオンの記憶は途絶えた。

 

 次に目を覚ましたのは愛しいモルモット君が待つ自宅。あれ?と疑問符が浮かぶより先に激しい痛みに襲われた。

 

 

「あ、起きた!」

ふぉ、ふぉふほっとくん(モ、モルモット君)?」

「……とりあえず、はい、鏡」

 

 

 可哀想なものを見る目の彼に手渡された鏡を覗き込むと、そこにあったのは『前が見えねえ』状態の己の顔であった。

 

 

 

「……カフェさんが『口が過ぎるお嫁さんを引取りに来てください』って言うから何事かと思ったら……」

あおひすふぃたねぇ(煽り過ぎたねぇ)……」

 

 

 

 ギャグの世界線だから1時間後には治った。あと出禁を食らっていた事も告げられた。

 

 





【タキオン出禁理由リスト】

その1:シンプルウザかった

タキオン「紅茶は……ない?飲食店なのに?」
カフェ「無いところもあるでしょう……?」
タキオン「ふむぅ……君はよっぽど私のことを考えていたんだねえ?わざわざ私一人に嫌がらせをする為にメジャー所の飲み物である紅茶を仲間はずれにするとは!いやはや、これで店を構えると言うから驚いたものだよ!だいたい──」
カフェ「出禁です」
タキオン「えー!?」


その2:余計な事を言った

タキオン「……なあカフェ」
カフェ「……言いたいことがあるならどうぞ」
タキオン「これじゃあマンハッタンカフェというよりマンハッタンカツじゃ──」
カフェ「出禁です」
タキオン「えー!?」


その3:どう見ても不審者

カフェ「出禁です」
タキオン「えー!?」
カフェ「当たり前でしょう!?ゲーミング発光する状態で来ないでください!!」
タキオン夫「あはは……ごめんね……」


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