マンハッタンカフェは喫茶店をやりたかった   作:南亭骨帯

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 なんかルーキー1位になってた……やっぱ好きなんすね。
 ネタが尽きるまでは頑張るのでよろしくね〜






えっ!?生魚を喫茶店で!?

 

 

 今日も今日とて『喫茶まんはったん』は大繁盛。

 

 厨房では中華鍋やフライヤーがフルスロットルで油の匂いを広げ、ホールと厨房を往復するカフェら店員の手にはいつだってカロリー的にも重量的にも重いものが乗っている。

 

 だが、その喧騒もランチタイムのピークを過ぎた途端にパタリと静まり返る。飲食店特有の客入りの波は安息と戦場を数時間おきに与えてくれる。

 

 

 ではお客さんが少なくなったカフェ達が何をするのかと言うと、やはり新メニュー開発である。

 

 

 日夜、飲食店は客の取り合いで鎬を削る戦いを繰り広げている。

 

 料理の味は勿論のこと、狙った客層を的確に取り込めなければあっという間に客足は遠のいてしまう。

 

 消費者とは基本的に浮気性。いつでも美味しいというのは当然のことで、それでも同じ味を提供し続けると『同じ味で飽きた』と理不尽なことを口にする。

 

 ならば店ができることは客を飽きさせないこと。停滞する前に新たな風を吹き込み、一人でも多くの客に“次”を意識させなければならない。

 

 

「……とはいえ、流石にこれは……」

「え、やっぱダメ?」

「いえ、そうではなく……」

 

 

 というわけで旦那が提案したのがこちら。刺身定食でございます。おお、コーヒーと絶対に合わないもん出てきた。

 

 

 いや売れるとは思っている。この店の客層を思えば刺身定食は断然アリだ。なんなら海鮮丼まで加えても問題ないとは思う。

 

 しかし現状のメニューに生魚まで加えると本格的に取り返しがつかなくなるんじゃなかろうかとカフェは危惧しているのだ。判断が遅い。

 

 

「ここは一応……一応、喫茶店なので」

「そっかぁ……」

 

 

 何を今更、と思っていても言わないのが旦那の優しさである。口にしたが最後、その日の夜に搾り尽くされて干からびた状態で朝日を拝むことになる。

 

 

 ちなみにこの旦那、頭の中で弾いたそろばんには虹色の確変演出が出るくらいには勝算がある。多分キュインキュイン言うしペカったりもする。

 

 実はこの店、メニューが肉類に偏っているのだ。

 

 カツ丼を筆頭に生姜焼きやハンバーグ定食、唐揚げに親子丼と肉料理に関してのレパートリーは十分に取り揃えてある。

 

 一方で魚料理はというと、今のところ焼き魚定食かアジフライ定食くらい。これでは肉より魚派の客層を取りこぼしてしまっている。

 

 

 そこで刺身定食だ。

 

 肉体労働者には物足りないかもしれないけれど、追加の一品としてはとても優秀。海鮮丼にすれば肉体労働者でも満足できるボリュームを出すことができる。

 

 加えて夜の営業では酒のツマミとしての活躍も見込める。昼のラインナップでは層が薄かったおつまみに刺身というエース級のメニューを加入させられるのだ。

 

 

 カフェとて旦那の言いたいことは理解しているし、きっと上手くいくだろうなとも思っている。

 

 それはそれとして手遅れであってもこれ以上喫茶店から離れるのはどうなんだろう、という今更過ぎる上に腹の足しにもならない意地を張っているだけである。辛辣ゥ!

 

 

「……分かりました」

「へ?」

「この店を始めたいと言ったのは私ですが……この店を続けられるのは貴方のおかげですから。貴方がしたいのなら、私も頑張ります」

「カフェ……!」

 

 

 でも愛には勝てなかったよ……いつもの事だけど。

 

 というかもう半分くらいヤケになってるところもある。

 

 だって愛する旦那が一生懸命に料理をしている横顔はカッコイイし、何だかんだ美味しそうに食べてくれるお客さんの顔を見るのも嬉しい。

 

 後は自分のくだらない意地を忘れさえすれば幸せになれるのだ。ならば受け入れた方がよっぽど良いに決まっている。

 

 だから決して『炒飯とか麻婆豆腐とかあるし、もう今更かぁ……』と諦めたわけではない。ないったらない。

 

 

「じゃあそうと決まれば、早速冷蔵庫を増やさなきゃね!」

「ちょっと待ってください???」

 

 

 だからといって何でも受け入れるわけじゃねェぞテメェ。

 

 言いたいことはわかる。生魚を扱うならそれ専用の冷蔵庫を増やした方がいい事くらいはカフェもわかる。

 

 それにしたって判断が早すぎやしないか。何をキョトンとしてんだカフェが出したのはOKサインであってGOサインじゃねェんだぞ。

 

 

「……先日タキオンさんを五回目の出禁にしました」

「それは知って──五回目?」

「四回目の出禁解除から三日後にまた出禁にしました」

「何それ……」

 

 

 出禁!出禁解除!出禁!を現実でやる奴がいるとは。旦那は既に理解が追いつかない。

 

 

「何故、五回目の出禁を出したと思いますか……?」

「…………えっと、何で?」

 

 

 ついでに心当たりも多すぎて分からない。嫁の友人とはいえ素行は……うん、だいぶアレな方なので。

 

 もっと言えばかつての同僚もそうだ。ゲーミング発光してどの面下げて店に来てるんだと思わなくもない。お前その状態で街中歩いて来たの?という問いかけに「え?うん」と返す狂人を理解しろという方が酷だろう。

 

 質問を質問で返すな、と言いたいところだがカフェとてその辺りの理解はできている。目を伏せたまま、そっと顔を背けて呟いた。

 

 

「……タキオンさんが」

「うん」

「タキオンさんが『それにしてもいい食堂……じゃなかった喫茶店だねえ!』って言ったんです……!」

 

 

 なんてこった。何も間違ってねぇ。

 

 

 出禁を解いてもらったアグネスタキオン。四回もやらかしている時点で反省もへったくれもないのだけれど、一応は学習する賢いウマ娘だ。

 

 やらかす予定なんてあるはずもないけれど、念の為に出禁にならないように媚びを売るつもりが地雷ど真ん中を全力で踏み抜いてしまった模様。

 

 口を滑らせた、と思ったタキオンはそりゃあもう凄い勢いで言い訳を並べ立てた。

 

 

『いや違っ……!これは、そう!あれだよ!!君の旦那様のカツ丼の売れ行きがあまりにも良すぎてつい言い間違えただけで──』

『出禁です……!』

『えー!?』

 

 

 尚、言い訳という名の追撃でしかなかった。オーバーキルやめたげてよぉ。

 

 

 タキオンでさえナチュラルにこの店を食堂だと思い込んでいるのに、旦那まで食堂路線をガンガン突き進もうとしている。これはカフェにとって何とも言えない感情を抱かせた。

 

 

「か、カフェ……?」

「…………メニュー追加も、冷蔵庫拡張も許可します」

「カフェ……!」

「その代わり、私が前から欲しいと言っていた豆も買わせてもらいますからね……!」

「カフェ……」

 

 

 こうなったらヤケである。

 

 誰が悪いかと言われると多分自分が悪いんだろうと分かっているけれど。それでも引っ込みがつかなくなる感情だってあるのだ。

 

 

 

 それから数日後。

 

 喫茶店の厨房とは思えない収納力を持った冷蔵庫と、個人用と言うにはかなり値段の張るコーヒー豆が届けられた。

 

 

 

 

 

「……マグロの解体ショーとかいけるか?」

「今なんて言いました???」

 

 

 

 やっぱ止めさせた方がよかったかもしんない。

 

 

 

 






旦那「カフェ、お寿司ってどう思う?」
カフェ「あなた?」

旦那「カフェ、イクラ零れ丼ってよくない?」
カフェ「あなた??」

旦那「カフェ、マグロの解体ショーって……」
カフェ「あなた???」

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