マンハッタンカフェは喫茶店をやりたかった   作:南亭骨帯

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そんなことしちゃあ、ダメだろ

 

 

 とっても今更だがマンハッタンカフェにはお友達がいる。

 

 とは言ってもそのお友達は他人の目には見えず、カフェの目にしか見えない幽霊のような存在だ。

 

 そのお友達とは物心が芽生えた時からの付き合いで、カフェがアスリートへの道を進んだのもお友達に追いつきたいという強い願いがあったからだ。えっ?そんな大切な子を四話も書いといて出てなかったの?

 

 

 さておき、マンハッタンカフェはトレーナーと歩んだ果てに遂にお友達の背中を捉え、追い越した。

 

 子供の頃からの夢だったお友達への勝利は何ものにも変え難く、お友達とトレーナーしかいない夜のレース場で涙を流して喜んだ。

 

 それを見届けたお友達は未練を無くして無事消滅──したかと思えばそんな事はなく。

 

 カフェがてんやわんやしている今この時もフヨフヨとそこら辺を浮遊しており、時にはゲラゲラと笑いながらカフェを見守っている。

 

 

 

 さてこのお友達だが、実はとんでもないイタズラ好き。

 

 カフェにしか認識されないのをいい事に、カフェの視界に潜り込んでは目の前で奇行を繰り返す。

 

 例えば今。窓際の席で丼をがっついている頭髪の寂しいオジサンを見ると、どこから取り出したのかタオルらしきものを取り出して頭を磨いてやるような素振りを見せている。

 

 

「ンッフ……」

「?カフェ、どうかした?」

「いえ、何も……!」

 

 

 平常時ならば特に気にすることもないいつも通りのお友達なのだが、時々無駄にツボに入ってしまうこともある。どうやら今回がそのパターンらしい。

 

 幸い頭に荒野を抱えたオジサンはちょうど食べ終わる所だったらしく、何とか笑いを堪えて会計を終えるとさっさと店を出ていった。あと二秒あったらカフェが爆発していたかもしれない。

 

 そんなカフェの様子から色々と察したのか、夫は苦笑いを浮かべながらそこにいるであろうお友達に向けて「程々にね?」とだけ言ってまた厨房へと引っ込んでしまった。

 

 

「っ、もうっ……!」

 

 

 やや子供っぽいが、頬をふくらませて抗議を送る。当然お友達は堪えた様子もなく、お腹を抱えてゲラゲラと笑っていた。

 

 

 カフェは分かっている。お友達は自由気ままな猫のようなもの、目を離した隙に何をしでかすか分からない爆弾と同じだと。

 

 カフェが助けを求めれば手を貸してくれるし、幽霊や怪異等の夫ではどうしようもない存在から守ってくれるのも分かっているけれど。

 

 長い付き合いなだけにお友達は何をすればカフェがいい反応を見せてくれるかを心得ているのだ。タチ悪いなコイツ。

 

 

 一頻り笑った後、またお友達はフヨフヨと店内を移動する。客相手にポルターガイスト騒動を起こすとヤバいのは理解しているので手を出さないが、それでもイタズラしたいという心が動いている。

 

 テーブルの横を通るついでにこっそり漬物を一枚拝借したりしながら店内を彷徨いていると、お友達はいい事を思いついた。頼むから忘れてくれ。

 

 ニマ、と楽しそうに笑ったお友達が行く先は厨房。カフェの愛する人が黙々と料理を続けている場所だ。

 

 これにはカフェもギョッとした。だってお友達はあんまり厨房には入りたがらない。それがいきなりヌルリと壁を抜けて入っていったのだ。

 

 何で?と疑問に思ったのも束の間。カフェの視線の先でお友達は夫の頬にキスを落としたのだ。は?

 

 

 勿論夫は分からない。お友達の方から触れようとすれば触れたかもしれないが、これはあくまでもカフェに向けたイタズラだ。

 

 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるお友達を睨むカフェだが、そんな事をすればお友達はますます楽しくなってくる。

 

 また見せつけるように反対の頬にキスをすると、そのまま後ろから抱きつくように腕を回した。

 

 やっぱりそれも夫は分からない。ただお友達がそれっぽい位置でそれっぽく見えるように浮いているだけなのだが、カフェからはそんな区別はつかない。

 

 

「…………?カフェ?どうかした?」

「いえ、何も……」

 

 

 夫の心配もカフェの返答も先程の焼き直し。しかしカフェが抱く感情だけはハッキリと違っていた。

 

 もしここに某光速の粒子がいればギョッとして慌ててその場から立ち去るくらいには色濃い怒りを滲ませていた。

 

 

 何せカフェから見たお友達とはカフェの鏡写しのようにそっくりで、自分のようで自分じゃない誰かが愛する人にベタベタと引っ付いているのだ。

 

 そりゃあ血に飢えた猟犬のような殺気も漏れ出るよね。ちょっとプリティーフィルター剥がれてシンデレラグレってるやんけ。

 

 

「……ありがとうございました」

 

 

 だが、今はまだお客さんがいる。自分達以外の目がある以上は余計なことはできない。

 

 また一人腹を満たした客を見送りながらもカフェのスレンダーな胸の内ではグツグツとコーヒーよりも熱い何かが煮え滾っていた。あーあ、お友達終わったな。

 

 お友達も流石に煽り過ぎたことを理解したのか「やっべ」という顔をして慌てて厨房から飛び出した。だがもう遅い。

 

 

 

 やがて最後のお客さんが店を出る。すっかり夜の帳が降りきった暗闇の向こうに出ていくお客さんの背を見送り、カフェはホッと一息ついた。

 

 何故ならまだひと仕事残っている。具体的には調子に乗りすぎたお友達へのお仕置が。

 

 

 そりゃあもうお友達は命乞いをした。空中に浮きながらも器用に土下座をしたり、泣いて縋ったりもしたけれどもう手遅れ。

 

 カフェは厨房に向かうと、夫の不思議そうな視線も気にせず家庭用の炊飯器を手にして戻ってきた。

 

 

「反省、しなさい!!」

 

 

 そして次の瞬間、お友達が炊飯器の中に吸い込まれた。おいそれどう考えても魔封波やんけ。

 

 見た目はギャグだがお友達には溜まったものではない。抗いようのない吸引力に引き込まれ、あっという間に全身が炊飯器の中へと収まってしまう。

 

 それからバタン!と勢いよく蓋が閉められ、その上から何とも言えない珍妙な模様の御札がスパーン!と貼り付けられた。もう隠す気ないだろ。

 

 

「少なくとも三日はそのままです……!」

 

 

 ガタゴトガタゴト、と激しく揺れる炊飯器。しかしカフェの怒りは収まらない。

 

 お友達の「そこをなんとか……!」と言いたげな揺れを両手で鷲掴みにして抑えると、地の底から出てきたような声で通告した。

 

 

「いいですね……?」

 

 

 アッハイ。霊感が無いはずの夫にもそう聞こえたような気がした。

 

 






夫「あれって……」
カフェ「開封厳禁です……」
夫「でも何かガタゴト揺れてるよ!?」
カフェ「中身はお友達なので大丈夫です……」
夫「お友達何したの!?」

お友達(タスケテー!美味しく炊かれちゃうー!)


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