ルーキーランキングから消えた!?と思ったら総合評価が1,000を超えたら除外されるのか……知らんかった……
その代わり日間ランキングで23位になってた。
やったぜ。
白米5升、ヒレカツ100枚、卵は150個。これなーんだ?
そうだね、オグリキャップしか完食できないカツ丼の完成だね。
「おお……!」
おおじゃないが。カフェは死んだ目でオグリの背中を見守っていた。
事の発端は数日前。トレセン時代の可愛い可愛い後輩であるユキノビジンから電話がかかってきたのだ。
かつてはモデルをやっているゴールドシチーというウマ娘に憧れ、いつかは私もあんな風に……と理想を掲げていた少女も今となってはすっかり有名女優に。あちこちで引っ張りだこになっているようだ。
そんな忙しい彼女からの電話とは珍しいな?と首を傾げつつも電話に出てみると、やや焦った声音が聞こえてきた。
「もしもし……?」
『あっ、カフェさん!?今大丈夫です!?』
「は、はい……」
いつもの穏やかな彼女とは思えない、切羽詰まったような話し方。これはただ事ではないとやや気を引き締め、ひとまず用件を尋ねてみた。
すると色んな意味で予想だにしなかった言葉が返ってきた。
『オグリキャップさんがカフェさんの喫茶店
「…………!!?!?」
それは
過去には有馬記念のラストランで日本中を沸かせたアイドルウマ娘であり、地方中央を問わず彼女に憧れるウマ娘も決して少なくはない。
だが飲食店から見た彼女は正に恐るべき怪物。
元々種族全体としてよく食べる方であるウマ娘だが、彼女はその中でも更に抜きん出ている。それこそ“唯一抜きん出て並ぶ者なし”という言葉を体現するくらいに。
そんな彼女が、この『喫茶まんはったん』に?一体どこからこの店を知ったというのだ。
『この前テレビ局でお会いした時、ネットで美味しそうなカツ丼の店を見つけたんだって……それがカフェさんの店で……!』
「わか、り、ました……」
私のせい……いや違うわ。私が上げてるのはコーヒーだけだったわ。それはそれとしてマンハッタンカフェは絞り出すように返事をするのがやっとだった。
未だに取材を受けたことがない『喫茶まんはったん』だが、ネットに名前を打ち込んでみると幾つかヒットするのだ。
マンハッタンカフェの名前こそ出されていないものの、やはりそこで紹介されているのはカツ丼。コーヒーなんて影も形もない。
問題は『喫茶まんはったん』と指定せずとも、カツ丼というキーワードに引っかかってしまうこと。おそらくオグリキャップはそちらのルートでこの店を知ったのだろう。
「カフェ?さっきの電話、予約?」
「……ある意味ではそうです」
「え、どゆこと?」
「オグリキャップさんが……この店に来るそうです」
「oh......」
何はともあれ一大事。トレセン学園の料理長すらひっくり返ってしまう大食漢が来るとなればそれ相応の準備をしなくてはならない。
すぐさま夫にも情報を共有し、こちらからオグリキャップ本人へと連絡を取った。
向こうは何故私がその店に行こうとしていたのを知っているんだ?と不思議そうにしていたけれど、そこは何とか押し通していつ頃に来るのかを尋ねた。
すると予定では来週の土曜日、と宣った。おいあと七日でオグリ対策しろってか。
「……分かりました、ご来店お待ちしております」
『ああ、楽しみにしている』
半ば死刑宣告にも等しいオグリの言葉を聞き届けた時には、夫は既に行動に移していた。
チラ、と視線をやると誰かに電話をしている最中。話の内容を聞くに材料の調達をしているようだ。あとなんか「契約農場」とか「今後ともご贔屓に」とかも聞こえる。ここ喫茶店やぞ。
そして怒涛の七日間を越えた今日、オグリキャップは来店した。
灰の怪物はぺこりと頭を下げて「オグリキャップだ、よろしく頼む」と何をよろしくしてもらうつもりなのか怖い挨拶を言った。
彼女の注文はシンプルなもので、カツ丼を50杯ほどくれと言った。わんこそばのつもりで言ってらっしゃる?
しかし夫、これを一旦止めた。少しだけお時間をください、と。
何故だ?とキョトンとするオグリキャップを余所に夫は厨房へと戻ると、厨房の奥から数人くらいの「いっせーのーで!」という声が聞こえた。それはもう神輿でも担ぐのかという力強い掛け声が。
本当に何をしているんだ?と更に疑問符を増やしたオグリキャップだったが、それは数秒もしないうちに消え去った。
それは飯と呼ぶにはあまりにも大きすぎた。
大きく、分厚く、重く。
そして大雑把過ぎた。
それはまさにカツ丼だった。
「こ、これは……!?」
懇意にしている仕入先に無理を言って準備したヒレカツ100枚、白米5升、卵150個の超超超超超超大盛りヨタ*1マックスカツ丼。
総重量26キロ。灰の怪物に対抗する為に用意した特注の怪物丼だ。
「……トレセン学園に連絡し、あの頃ほぼオグリさん専用となっていた丼を一つ融通していただきました」
「おお……!懐かしいな……!」
ちなみに死ぬほど苦労した。
まず米。5升て。業務用炊飯器の半分を一つの丼によそうのは熱くて重くて死ぬかと思った。
次にカツ。ヒレカツ100枚て。いつもの事とはいえしばらくフライヤーと向き合い、全部終わっても一人分にしかならない事に軽い絶望を覚えた。
最後に卵。150個て。途中から虚無の表情になりながら鍋と向き合い続けた。工場の歯車になった気分だった模様。
ここまでやってようやくオグリキャップが満足してくれるかどうか、という話だ。最悪これをもう一回作る羽目になる。勘弁してクレメンス。
「では早速……頂きます!」
そしていざ実食。ヒレカツ一枚を一口で頬張り、更に同じ量の米をも口の中へと放り込むオグリキャップ。
よく煮込まれたカツから染みでる優しい出汁と醤油の味わい。だというのにザクリとした衣の食感を残した素晴らしい出来。こんなの白米が合わないはずもなく。
オグリキャップは目を輝かせ更に次を、次を、と食べ進める。カフェは見てるだけで胃もたれしそうになった。
いや、一番参っているのはおそらく夫だろう。何せ厨房の奥で手首を抑えて魂の抜けた顔をしている。戻ってきてもろて。
「こんなに美味しいカツ丼は、初めてだ……!!」
「そうですか……」
そんなことを知らぬオグリキャップはキラキラお目目のままカツ丼を絶賛する。カフェは複雑そうだ。
とりあえずあの調子だともうしばらくはかかるだろうし、今のうちに少しでも夫を労ってあげよう。そう思ったカフェはこっそりと厨房に戻った。
すると先程まで意気消沈だった夫が復活しており、オグリキャップをじっと見つめていた。
よもや浮気か!?と一瞬思考が飛躍するが、流石にそれはないだろう。だって今オグリキャップと付き合ったらあのカツ丼を週一くらいで強請られそうだし。
じゃあどうしたのだろうか、とカフェは恐る恐る夫に声をかけた。
「あの……どうか、しました?」
「ん……少し考えたんだけどさ」
「あれをスケールダウンさせて何分の一オグリカツ丼って名前で大食いメニュー出したら売れないかなあ、って」
「絶対にやめてください……!?」
流石に止めた。夫の手首が死ぬぅ!
夫「サインください!」
オグリ「ああ」
カフェ(눈_눈)