マンハッタンカフェは喫茶店をやりたかった   作:南亭骨帯

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パフェ!パフェもお忘れなく!

 

 

 飲食店には季節限定という手段がある。

 

 

 夏にはかき氷や冷やし中華、秋ならハロウィン関連等……気温やイベントに適したメニューを出すことで新規のお客さんを呼び込める可能性が高まるのだ。

 

 それは『喫茶まんはったん』でも同じ。現在の季節、冬に合わせたメニューを季節限定と銘打って提供している。

 

 

「このブリのテリヤキ定食モツの味噌煮定食を……二つともご飯大盛りで!」

「かしこまりました……」

 

 

 勿論ご飯メニューですがなにか。クリスマスは府中で死にました。

 

 

 最初は夏の頃の冷やし中華だった。この時点でだいぶおかしいんだけど旦那に染められちゃった(意味浅)カフェは止めなかった。

 

 それが思ったより売上が良かったものだから、季節ごとに旬の食材を使った限定メニューを作ることにしたのだ。

 

 春にはタケノコご飯や筑前煮、夏には夏野菜たっぷりカレーや冷やし中華。そして秋にはキノコとエビたっぷりの天丼や秋刀魚の塩焼きなんかも出している。

 

 

 現在の季節は冬。寒さに負けないようにと温まるメニューを考えたところ、ほぼ全てのメニューがグツグツという効果音がつくものばかりになった。

 

 厨房では複数の鍋が常に煮えており、中身はおでんやモツ煮など……とても喫茶店とは思えぬ茶色一色の様相だ。そもそも喫茶店にあの数の鍋は並ばないとか言ってはならない。

 

 立ち上った出汁と味噌の香りは店内を満たし、外にさえ広がっていく。そうして空っ風に吹かれた道行く人々を誘惑し、また一人、二人と店の中に吸い込まれてくるのだ。

 

 お陰で普段のピークタイムはとうに過ぎているはずなのに、15時になっても客脚が途絶えない。なんならこの時間から酒を頼んでいる客までいる始末。

 

 

「いやあ、寒い日にモツで一杯やる!これ以上の楽しみはねぇな!」

「違いねえ!家で飲んでるとおっかぁが喧しいしな!」

 

 

 最早食堂すら通り越して『居酒屋まんはったん』になりつつあるような気がしてきた。ここからでも入れる保険ってあります?火災保険とかPL保険とかなら入ってるってよ。

 

 

 しかしだ。幸いなことにコーヒーもそれなりに売れている。流石にトラックドライバーは酒を片手に運転するわけにはいかないので当然だろう。

 

 故に喫茶店らしからぬ店内を見てもカフェはそこそこ機嫌がいい。どういう形であれコーヒーが赤字に化けないだけでも精神衛生上マシになるのだ。

 

 

 そこへまた一人、寒風の中を歩いてきたウマ娘が来店した。

 

 

「いらっしゃいま…………ポッケさん?」

「おおお、おう、カフェ……席、あるか……?」

「は、はい……とりあえずこちらへどうぞ……」

 

 

 意外ッ!それはジャングルポケットッッ!!

 

 

 いや別に友人だから来る前に連絡を寄越せとは言わないけども。不意に来られるとそれはそれでびっくりするのである。

 

 雪の積もった服を少し払ってやり、それから厨房近くの友人優先席へと案内して温かいお茶を出してあげるとフーフーと息を吹きながらゆっくりと口をつけた。猫舌可愛いね。

 

 

「ひ、久しぶりに顔を出そうと思ったら……今日に限って雪まで降りやがんの……」

「それは……災難でしたね……」

「まあそれよりもよ!あんだろ!」

「いつものパフェ、ですか?」

 

 

 それはさておき、この店にポッケが来る時は決まってパフェを頼む。

 

 元々ウマ娘は女の子ということもあって甘いもの好きが多いのだが、中でもポッケは特にパフェを好んでいる。

 

 カフェが喫茶店を開いたという話を聞いた時も、すぐさま店を訪ねて開口一番に「パフェ!パフェくれ!」と言ったほど。

 

 故に今回もパフェを食べるのだろうと思ったのだが、ポッケは首を横に振った。

 

 

「それもいいけど、今日は違ェ!ほら、あるだろ?冬限定のスイーツ!」

「…………ぁ」

 

 

 目を輝かせるポッケに対してカフェの目はブラックコーヒーのように澱んでいった。グッバイハイライト、三日くらいしたら帰ってきてね。

 

 

 冬限定と言えばイベントメジロ……じゃなかった、目白押しである。クリスマスに年末年始、バレンタインデー……特にスイーツの話題には事欠かない。

 

 ならば仮にも喫茶店を名乗っているこの店でもそうした期間限定スイーツがあるはず!と期待に胸を膨らませて来たらしい。

 

 だが残念。ポッケよ、お前の目の前にいるのは3年間カツ丼を提供し続けた店主達だ。その喫茶店って名乗るのやめたら?

 

 

「……ない、です」

「え、ないの?」

 

 

 ポッケは残念がっているけれど、それ以上にカフェは凹んでいる。

 

 悲しいことにマンハッタンカフェ、事ここに至るまで季節限定スイーツという考えが頭からすっぽ抜けていたのだ。

 

 夫と話し合って季節限定メニューを考案する際、一度でもケーキやアイスが脳裏を過ぎったかと言われると残念ながら首を横に振らざるを得ない。

 

 そのツケがこれだ。すっかりカツ丼に染められた思考回路は友人を落ち込ませた挙句、自らこの店を喫茶店から遠ざけてしまった。

 

 

 何やら自分以上に凹んでいるらしい事を悟ったポッケは申し訳なさそうに注文をパフェに切り替える。ポッケが『不調』ならカフェは『絶不調』に『偏頭痛』のバッドステータスまでついているかもしれない。

 

 意図的でなかったとはいえ友人を落ち込ませたままというのは大変心苦しい。何とかフォローできないかと必死に頭を回すポッケは他のテーブルにあるモツ煮を見てこれだ!と閃いた。

 

 

「ま、まあ仕方ないって!お客さん多いもんな!モツ煮とか作ってたら期間限定メニュー考える余裕ないよな!」

「…………すいません、あのモツ煮が期間限定メニューなんです」

「ッス────…………」

 

 

 ざけんなや フォローができへん へっぽこが

 

 哀れポッケ、君は完璧で究極の道化。精一杯絞り出したフォローは地雷を通り越して致命傷である。某120億事件の出遅れくらいの大失敗だ。

 

 気まずいなんてもんじゃない。片ややらかした……と罪悪感いっぱいで、片や思考回路が卵でとじて美味しく煮込まれていたことを自覚した状況だ。目覚まし時計を早急に持ってこい。やり直させてくれ。

 

 その後数分もしないうちに色鮮やかなフルーツと生クリームが盛り付けられたパフェが届いたものの、それを食べるポッケの顔は非常に暗かった。

 

 

 

 後にジャングルポケットはその日のことをこう語る。

 

 『あんなに味がしないパフェは初めてだった』と。

 

 

 






スイーツの新メニューを作ろうとしたけど店でよく売れているスイーツがコーヒーゼリーと善哉とソフトクリームしかない上にパフェの売れ行きが死ぬほど悪い事を知って頭を抱えてしまったマンハッタンカフェ「」
夫「お労しやカフェ…」


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