管理人、ショタになる   作:ゆうぐれ

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アークナイツ初心者勢です。どうかお手柔らかに。



Log-01 非常なる覚醒

ただひたすらに、長く、辛い、戦いだらけの日々だった。

 

自然も、環境も、あまつさえ同じ人類まで敵だった。

 

そんな地獄のような世界に『彼』の姿はあった。

 

耳をつんざく銃声、折れ飛ぶ剣身、撒き散らされる破片、地面に転がる人だったモノ、積み上がる瓦礫の山。

 

爆煙の周囲で飛び交う怒号、女子供の悲鳴、鳴り止まぬ警報、味気の無い食事、ズラリと並んだ砲口。

 

地平線を埋め尽くし、こちらへ迫り来る異形の生物。

 

流れていく景色は全て灰色だった。

 

そしてどうやら『彼』は戦う立場にあったらしい。

 

自ら戦場に出て、人々を導き、脅威を排除していく。

 

問題は争いに限らず、いつまでも噴出し続けたが、それでも解決の道を探り続ける。

 

映像を見ていると、苦しさが本当に伝わってくるようだった。

 

というか、その生々しさがやけにリアルだった。

 

見ているこちらが嫌気が差すくらいには。

 

しかしどんな苦しい状況下でも、決して『彼』は諦めない。

 

全ては過酷なこの星で自分達が、帰る場所も逃げる場所も無い自分達が生き残る為に。

 

明日を生きる子ども達の為に、自分達の文明を、人類という種を絶やさない為に。

 

何度も何度も、『彼』はそう自身に言い聞かせて。

 

だが遂には力尽きてしまったのだろうか。

 

急に視界が暗転し、何も見えなくなってしまう。

 

すると今度は耳元に誰かの声が囁かれる。

 

何かを言い聞かせるような、甲高いそれ。

 

「やくそ……を……して……管理人……。」

 

かろうじて『管理人』という単語だけは聞き取れたものの、さっぱり覚えはなかった。

 

しかし不思議と知っている気がした。

 

何故だろうと訝しむ。

 

だがその思考は無理矢理寸断されることとなった。

 

次の瞬間、まるで機材の電源を落とした時のように、プツリと意識が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

監察官の朝は早い。

 

カツカツとヒールを鳴らしながら通路を歩く1人の人物。

 

蒼い瞳と亜麻仁色の髪、頭頂付近から生えた1対の羽が特徴のリーベリ族の少女。

 

名前を『ペリカ』という。

 

無重力ブロックを抜け、シリンダー内の擬似重力区画に入った彼女はとある重厚な扉の前で止まる。

 

権限のある者しか入れない場所である為か、周囲に人の姿はいっさい見受けられない。

 

ペリカは慣れた手付きで幾重もの生体認証とアナログなコード入力を済ませると、室内に入る。

 

清潔感あふれる真っ白な部屋に足を踏み入れたペリカだったが、彼女を迎えたのは2つのレンズと四角い防犯システムだった。

 

もしもペリカがペリカではなかった場合、けたたましい警報が鳴り響き、指向性エネルギータレットが無力化を試みてくるだろう。

 

だが今回は……正確には今回も、タレットはすぐに頭を引っ込めた。

 

ペリカは意に介すること無く先に進み、部屋の奥で立ち止まる。

 

そこにあったのは台座に固定された細長い石のようなもの。

 

表面には状態を表す数値が表示され、茶色の表面はうっすらと中身が透けている。

 

ペリカは石の手前に置かれた簡易的な椅子に腰掛けた。

 

そして手首の端末を点ける。

 

「観察記録、3734日目。石棺に特段異常は見られない。数値は変わらず既定の範囲内を指しており、状態は依然として安定している。強いて言えば表面にホコリがひとつ付いている程度……。」

 

そう言うとペリカは端末を閉じる。

 

そして目の前の物体へ視線を送った。

 

「管理人……昨日は大変でした。アンドレイさんがまた隠し事をしていたみたいで、シン主任がカンカンに怒っちゃって……何故か私が諌める展開になったんです。」

 

ペリカの言葉は虚しく周囲に響くだけで返事は無い。

 

しかしそれでも彼女は話を続ける。

 

だが結局、最後まで応える者は居なかった。

 

「さて……もう行きますね。今日もやるべき仕事はたくさんあるので。」

 

ペリカは腰を上げると、眼前の茶色の石、『石棺』に背を向ける。

 

しかし次の瞬間、石棺の表面に映された数値が激しく乱れ始めた。

 

たちまち安定値を超え、警戒レベルへと達する。

 

腕の端末の通知から異変を察知したペリカは、背後の石棺が激しく反応していることに目を見開くと、わずかな硬直の後に耳へ手を当てた。

 

右目に装着したソフトレンズに連絡先の一覧が表示され、その中から『M3』の項目を選ぶ。

 

幸いにも相手は数秒ほどで出てくれた。

 

[どうかした?こんな朝早くから。]

 

「M3!石棺に異変が!数値が乱高下してる!」

 

[えっ……わ、分かった!今行く!]

 

通話を切るとペリカは石棺に駆け寄る。

 

だが今の彼女は専門家の到着を待つことしか出来ない。

 

「あぁ……そんな……管理人……!」

 

不安と焦りに押しつぶされそうになるも、その時、先ほど呼び出した人物、猫耳が特徴のフェリーン族の少女、M3が現れた。

 

彼女はホログラムの小型端末ではなく、もっと重厚なタブレット端末と折りたたみ式のキーボードを取り出し、有線で石棺と接続させる。

 

ペリカは腕部の端末から宙に投影されたデータを見て、思わずM3に声をかけようとしたが、邪魔をするわけにはいかないからと、グッと抑え込む。

 

まさに一日千秋の思いで待つこと数分。

 

ようやくキーボードを打つ音が止まった。

 

ふとペリカはそちらを向くと、顔を上げてきたM3と目が合う。

 

「M3……管理人は……?」

 

「大丈夫、ちょっと焦ったけど、少なくともトラブルじゃなかった。」

 

「管理人は問題ないの?」

 

「ああ、問題ないよ。もう石棺の心配をする必要も無くなったしね。」

 

「それはどういう……。」

 

ペリカは言葉を詰まらせた。

 

視界の端に映り込んでいた石棺、その内部に人型のシルエットがくっきりと浮かび上がったのだ。

 

固まるペリカを他所にM3は端末を手に取り、いくつかの操作を加える。

 

するとそれに連動してペリカの端末にアクセスキーの権限が与えられた。

 

「これは?」

 

「眠り姫への目覚めのキスってやつ。」

 

「……っ!」

 

安堵と歓喜、興奮が入り混じったような、らしくもないペリカの表情にM3は頬を緩ませる。

 

「ほら、早く押しなよ。私じゃ出来ないんだし。」

 

「え、ええ……!」

 

ペリカはゆっくりと指を伸ばし、端末から石棺のシステムに介入する。

 

直後、石棺表面の数値が消え、代わりに中から何かが外に浮き出てくる。

 

それは1人の男だった。

 

ペリカは嬉しそうに石棺へ近付き、彼を受け止めようと両手を広げる。

 

だが直後、ショッキングな出来事が起こった。

 

「……えっ。」

 

ドサッと、音を立てて床に落ちたのはその男のズボン。

 

問題はズボンの中にある筈の2本の脚が見受けられなかったのだ。

 

これにペリカもM3もサッと顔を青くする。

 

「え、M3……これって……。」

 

「嘘でしょ……まさか影響が身体の部位喪失にまで……!?」

 

端末へ再び目を向けるM3の前で、男は尚も外に出てこようとする。

 

最初は腹、次に上半身、そして顔。

 

ここでペリカは更なる違和感に気付いた。

 

()()()のだ。

 

自身の記憶の中にある、その人物をひと回り小さくしたような顔立ち。

 

よく見れば両手も上着から出ておらず、袖口がぷらぷらと揺れている。

 

懸念事項だった下半身も決して欠損しているわけではなく、細くて短いそれが遅れて現れた。

 

「あっ……!」

 

ポンっと、男は……いや、()()()は石棺から放出され、慌ててペリカが受け止める。

 

ダボダボの衣服に包まれた彼の身体は非常に軽かった。

 

手や腕も小さくなっており、以前までの男らしさはほとんど残っていない。

 

しかしちゃんと生きてはいるようで、温かい体温が肩越しに伝わってきた。

 

再会の嬉しさと予想外のハプニングに情緒をぐちゃぐちゃにするペリカだったが、M3の言葉で我に返る。

 

「監察官、感動の再会を邪魔するようで悪いけど、先に医務室へ行こうか。」

 

「そっ、そうね……メディカルチェックを受けないと。」

 

2人は足早に部屋を後にした。

 

約10年ぶりに覚醒した『管理人』を携えて。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

最初に気付いたのは一定間隔で聞こえてくる電子音だった。

 

鼻をくすぐるのは消毒液と薬を連想させるような独特の匂い。

 

何故かは分からないが、思考を巡らせずとも音の正体が心電図の音で、ここが病室のベッドの上ということが連想された。

 

そしてそれは予想通りだった。

 

瞼を開けると、視界に映ったのは真っ白で清潔な、知らない天井。

 

音のする方向へ首を動かせば、医療機材が置かれている。

 

だがその時、強烈な違和感を覚えた。

 

確かに自分の状態は認識出来た。

 

しかしそれ以上が浮かび上がって来ないのだ。

 

何故ここに居るのか、最後に起きていた時は何をしていたのか。

 

更には、自分が何者であるかさえ。

 

「な……なん……。」

 

違和感はまだまだ続いた。

 

考えられないのだ。

 

何故自分がここに居るのかと思考を試みても、想起されるのはベッドの柔らかさと消毒臭に対する嫌悪感だけ。

 

まるで()()の頭の中を覗いたようだった。

 

「うぅ……。」

 

手で頭を押さえる。

 

すると不意に視界へ自分の腕が映り込んだ。

 

小さかった。

 

途端に背筋がぞわりとした。

 

欠損しているわけではなく、形も正常だが、そのサイズに脳が異変を発信し続けてくる。

 

だがやはり異変を感じるだけで、どうして異変を感じるのか、どこが異変なのかと、それ以上の思考は生まれなかった。

 

そのズレに恐怖を覚える。

 

かろうじて自分が幼い身体付きをしていることは理解出来たが、だからと言って何かあるわけではない。

 

拭いきれない違和感と戦っていると、遂には幼体がエネルギー切れを起こしたのか、強い眠気が襲ってくる。

 

結局、身体のお昼寝タイムに意識も引っ張られていった。

 

「……んっ。」

 

再び意識が覚醒する。

 

目を閉じてからあっという間に感じられたが、先程までの眠気はスッキリと無くなっていた。

 

だが瞼を開けると、何故か視界は暗いままだった。

 

かと思えば、急に目の前が真っ白に光り、先程と同じ病室が映し出される。

 

そこでベッドの傍にとある人物、頭に鳥の羽のようなものが生えた少女が居ることに気付く。

 

手元では果物ナイフでリンゴを剥いていた。

 

そのままジッと彼女を見つめていると、視線に気付いたのか、ふと目が合った。

 

少女の蒼い目が少し見開かれる。

 

「管理人、起きたのですね。私が分かりますか?」

 

「えと……。」

 

どう反応していいか分からないでいると、少女は何かを察したのか、笑顔から一転して表情を曇らせた。

 

そして恐る恐るといった様子で口を開く。

 

「やはり記憶も……無いのですか。」

 

「うん……僕はかんりにん?って人なの?」

 

発せられた自身の声は少女に負けず劣らずの、未だ変声期を経ていない高い音域のものだった。

 

少女は僅かな沈黙の後に、ゆっくりと言葉を選びながら話し出す。

 

「そうね……まずは自己紹介からしましょう。私はペリカって言うの。よろしくね。」

 

「ペリカ……じゃあ、ペリカお姉ちゃん?」

 

何故そう口走ったのかは分からない。

 

知識の中には現状に相応しくない発言だと記されていたが、思考の方は問題無いと主張してくる。

 

対してペリカと名乗った少女はフリーズを引き起こしていた。

 

かと思えばズイと、顔を近づけて来る。

 

「管理人、もう1回言って?」

 

「えっと……ペリカ、お姉ちゃん。」

 

「……可愛い。」

 

「ん……?」

 

「なんでもないです。話を続けましょう。」

 

頬を緩ませるペリカだったが、すぐに顔の筋肉を元の位置に戻した。

 

「ここは『エンドフィールド工業』の本部、『帝江(ディージャン)号』の船内です。そして貴方はそのトップ、管理人です。」

 

「僕がトップ……えらいひとってこと?」

 

「そうです。もちろん本来は大人の姿でしたが……。」

 

ペリカはこちらの手を取ってくる。

 

彼女の白い手は細くて小さかったが、自分の手はそれ以下だった。

 

「あぁ……まさか影響がこんなにも深刻だったとは……。」

 

「お姉ちゃん?」

 

「いえ……すみません。今気にしても仕方ありませんね。そうだわ、せっかく栽培室から取ってきたのですし……。」

 

表情を落としかけたペリカは、誤魔化すように隣のテーブルから何かを差し出してくる。

 

それは先程、皮を剥いていたリンゴだった。

 

……ただ、切り分けられておらず、丸ごとひとつのままだったのだが。

 

思わず皿を持ったまま唖然としていると、慌てた様子のペリカが再び皿を掻っ攫っていく。

 

「ご、ごめんなさい。子供にこれは食べにくかったわね。りんごは丸ごとが縁起に良いと言われてるのだけど……!」

 

アセアセと慌ててナイフでリンゴを細かく切り分けるペリカ。

 

その様子を見ていると、不思議と笑いが込み上げてきた。

 

『彼女らしくもない』と。

 

ペリカとは初対面であるにも関わらず。

 

「ふふ……あははっ!」

 

「もう、笑わないでください。」

 

「なんか……お姉ちゃんとは会ったことがあるかも。」

 

そう言うと、ペリカはわずかに口角を上げた。

 

「そう……ですか。それだけでも良かったです。」

 

ペリカから、今度はちゃんと一口サイズに切られたリンゴが差し出された。

 

それを口に運ぶと、甘みと酸味が舌を通して広がる。

 

こちらも久しぶりな気がした。

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「なあ、今度の生産ライン。ちょっと非効率じゃないか?組み換えも効かないし。」

 

「でも場所と輸送コストを抑えられるわ。そもそも今のは例の『源石(オリジニウム)技術を使った革新的な新システム』とやらが実用化されるまでの繋ぎだし、持続性は考慮しなくていいのよ。」

 

「けど、それって管理人が居ないとダメなんでしょ?もう10年も眠ってるって言うし、私がおばさんになる前に起きてくれるといいんだけどなぁ……。」

 

「まあ、大丈夫だろ。いつかまたケロっと現れるさ。ほら、あんな風に……って、えっ!?」

 

「ん?どうしたの?」

 

「なんでグラサンを二重にかけてるんですか……あれ、あの子……。」

 

「管理人……ではないわね。似てるけど。」

 

「隣に居るのはペリカ監察官……ま、まさか……!」

 

「嘘!?そういうこと!?」

 

「これは面白くなってきたわね。皆んなにも教えてあげましょ。」

 





メイド?うっ、頭が……。

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