管理人、ショタになる   作:ゆうぐれ

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Log-04 H-Hour・反転攻勢

ペリカが探していた人物のうちの片方、シン主任の姿は野戦テントのひとつにあった。

 

頭にスコープのような機器を装着した、耳の長い女性技術スタッフ。

 

ペリカが帝江号から増援が出たことについて話すと、彼女は緊張と疲労を顔に滲ませながらも、希望に顔を明るくした。

 

しかしその到着が最短でも6時間かかることを聞くと、ガックリと肩を落とした。

 

「シン主任、今はやれるべきことをやるしかありません。まずは状況を教えてくれませんか?」

 

「ええ、そうですね……すみません、監察官。」

 

シン主任はポツポツと事の顛末を話し始めた。

 

「最初にアンカーが落ちてきたんです……いきなり敷地のど真ん中に。ですが混乱はあれど、自動防衛システムに被害はほぼ無かったので、すぐにアンカー破壊へ動くことが出来ました。」

 

「けれどその後にランドブレーカーも攻めてきたと?」

 

「はい、内側と外側から同時に攻撃を受け、やむなくいくつかの施設を放棄し、ここに防衛ラインを張り直しました。信じられないと思いますが、2つの勢力は連携しているようでした。」

 

「本当に信じがたい話だわ……。」

 

アンゲロスという生物は勢力関係なしに人間を襲う。

 

彼らにとってエンドフィールド工業員とランドブレーカーは見た目は違えど同じ攻撃対象だ。

 

「普通なら内輪揉めが起きるはずなのに……。」

 

ただならぬ事態に思考を巡らせるペリカだったが、その時、眼前のシン主任が興味有り気に視線を別方向へ向けていることに気付く。

 

そちらではチェンと管理人が戯れていた。

 

「ああ、その子は私の同行者です。」

 

「避難民の子供を保護したのですね。それでしたら、あちらの建物に民間人を匿っています。IDを照合すれば家族も探せるでしょう。」

 

「いえ、シン主任。実を言うと……彼は管理人なのです。ああ見えて。」

 

「えっ?」

 

「……え”っ、何それどういうこと?」

 

困惑するシン主任と、管理人の柔らかい両頬をムニムニとつまんだ状態で固まるチェン。

 

ペリカは2人に対して事の顛末を話した。

 

石棺から目覚めた時には幼体化していたこと、知識や精神年齢も幼くなってしまったことなど。

 

いきなり突拍子もない出来事を告げられて、チェンは訝しげな視線を管理人へ向け、シン主任は額に手を当てる。

 

「これが管理人……ホント?」

 

「管理人の覚醒については聞いていましたが、まさか子供になっているとは……。」

 

「ええ、ですが記憶や技術の片鱗も見られます。先ほども、アーツを用いた銃器でランドブレーカーを1人撃破していました。戦闘に関しては何も教えてないにも関わらず、です。」

 

「つまり例のプロジェクトは続行可能と?」

 

「やってみなければ分かりません。ですがその前に……。」

 

ペリカはバリケードの方を向いた。

 

その向こう側からアンゲロスの足音とランドブレーカーの雄叫びが聞こえてくる。

 

「まずは目の前の脅威を可能な限り排除しましょう。」

 

「お!じゃあ私の出番ってわけだね!」

 

チェンは嬉々として腰の2本の剣に手をかけるが、ペリカはそれを手で制する。

 

「チェン、まだその必要はないわ。シン主任、ここ以外に人は居るかしら?」

 

「源石開発センターに別の防衛拠点があります。今のところは全員の安否を確認済みです。しかし一体何をするつもりなので?」

 

「軌道爆撃を使います。多少施設が破壊されるかもしれませんが、これ以上の怪我人を増やすよりは遥かにマシでしょう。」

 

「えっ、軌道爆撃……帝江号のものを?」

 

驚きの表情を浮かべるシン主任に対し、ペリカはただ管理人へ視線を送る。

 

「……分かりました。確かに必要性はありますね。」

 

「ええ、後のゴタゴタは覚悟の上よ。」

 

ペリカは衛星通信機を取り出すと、帝江号へ接続を試みる。

 

しかし今度は繋がらなかったようで、スピーカーからは何も聞こえない。

 

「あら?さっきは繋がったのに……。」

 

「それなのですが、監察官……現在四号谷地はジャミング攻撃を受けており、外部との連絡は不可能となっています。」

 

「それなら高出力の電波で押し通すことは?」

 

ペリカの質問に対し、シン主任は無言でバリケードの向こう側を指さす。

 

そこには今も尚、轟々と炎をあげる変電設備があった。

 

「タワーの通信設備はまだ生きています。ジャミング自体も大型設備を押し留められるものではありません。しかし電源が無ければ打つ手無しです。」

 

「停電時に備えたアナログな有線回線は?それもダメなのですか?」

 

「はい……メンテナンスハッチから地下に侵入され、ケーブル群と通信ファイバーを破壊されました。ご丁寧に上下水道などのインフラ類もです。」

 

「随分と徹底的ね……。」

 

「はい、今は手持ちの源石小型発電機と備蓄水で賄っていますが、いつまで保つか……。」

 

四号谷地の被害状況が外見以上に酷かったことを知り、ペリカは言葉を詰まらせる。

 

また敵の攻撃が、余りにも的確で効果的であることに驚愕を隠せなかった。

 

鉄砲玉で奇襲撹乱が目的のアンゲロス。

 

混乱に乗じた情報の分断と破壊工作を行うランドブレーカー。

 

およそ化け物と野蛮人の組み合わせとは思えない。

 

「ペリカ監察官、ここは管理人を連れて脱出してください。あなた方を逃がすくらいの戦力は残っています。そして近隣の支部へ救難要請を……。」

 

「それも試みたわ。けど橋が落とされていて、対策済みだった。」

 

「そんな……。」

 

「だからここで助けを待つしかないわ。」

 

その時、鉄の棒とトタンで組み上げられた簡易的なヤグラから鐘の音が鳴り響く。

 

ヤグラの見張り員によれば、奥からランドブレーカーの集団が迫ってきているとのこと。

 

おそらくは森でペリカ達を追ってきたボーンクラッシャーの連中だろう。

 

迷っている暇はもう無い。

 

ペリカは覚悟を決めると管理人に近付き、屈んで目線を合わせた。

 

周囲の雰囲気から、少し不安気な表情を浮かべている彼の頬に手を添える。

 

「お姉ちゃん?」

 

「管理人、これから少し危険なところに行くわ。でも大丈夫、私とチェンが必ず守るから。ね?」

 

「う、うん。怖くないよ。」

 

「偉いわ。」

 

ペリカは管理人の頭を撫でると腰を上げ、行動隊の面々と向き合った。

 

「アケクリ、行動隊はここの防衛戦に参加して。私達が用事を済ませるまで、何としてもここを守り切ってちょうだい。」

 

「は、はい……監察官、ご武運を!」

 

4人が武器を持って離れていくと、次にシン主任へ向き直る。

 

「監察官、何かお考えが?」

 

「ええ……アレを、『集成工業システム』を使います。帝江号から下ろしたばかりの、初期ロットの協約コアがここにある筈です。」

 

「それならアンドレイさんが襲撃時に保管庫から源石開発センターへ避難させました。しかしそれを何につかうおつもりで?」

 

「集成工業システムを起動させれば、大型発電機をその場で生成することが可能です。その電力で通信塔を復旧させ、帝江号に爆撃要請を送ります。」

 

「なるほど……しかしあそこまで行くのは危険です。それも起動権限を持つ管理人を連れてなんて。」

 

「承知の上です。どちらにせよ帝江号の助けが無ければ持ち堪えられないのですから。」

 

「……分かりました。出来る限りの陽動はこちらで行います。アンドレイさんに会ったらよろしく伝えておいてください。」

 

「分かったわ。そっちも気をつけて。」

 

シン主任の背中を見送ると、ペリカはチェンへ目線を送る。

 

準備はいいかと。

 

直後、グッと力強いサムズアップが返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

たったの6時間、されど6時間。

 

しかし必ず助けが来ると分かれば工業団員の士気は一気に上がり、もう出し惜しみは要らないからと、今まで温存していたありとあらゆる火力を全て投射し始めた。

 

「撃て!撃って撃って撃ちまくれ!」

 

号令に合わせてバリケードからいくつもの火線が伸びる。

 

ケースレス弾を用いた突撃銃や簡易発現型のアーツロッド、狩猟用のクロスボウ。

 

アケトン爆薬を懸吊した測量ドローンに手製の弓矢、火炎瓶を飛ばす投石器など。

 

それらが向かう先はランドブレーカーとアンゲロスの集団。

 

直後、黒い波のあちこちで爆発が発生した。

 

「行け!全部ぶっこわしちまえ!」

 

「進め!進め……ぐあっ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

雨の中に真っ赤な爆炎が立ち昇り、けたたましい音と衝撃波が周囲へ撒き散らされる。

 

するとそれに反応した敵が中央制御タワー目掛けて動き始めた。

 

一気に相手戦力がタワー付近へ集中し、僅かな空白が発生する。

 

その隙を見逃さず、ペリカとチェン、管理人の3人はタワーの裏手から駆け出した。

 

「うぅ……皆んな戦ってるのに私だけ逃げてるみたいだよ……。」

 

「この先、嫌でも戦わざるを得なくなるわ。それまで我慢して。」

 

「分かってる……まず管理人を守らなくちゃダメだからね。」

 

チェンはペリカの手が繋がれた先を見る。

 

そこには緊張に身体を強張らせた管理人の姿があった。

 

「管理人、大丈夫?」

 

「だいじょぶ……怖くないよ。えっと、チェン……お姉ちゃん?」

 

「……おぉ。」

 

ビシリと、岩のように固まるチェン。

 

マスクで目元は見えないものの、ペンギンを彷彿とさせる管理人の丸っこくて愛らしいシルエットと幼い仕草、そこから放たれた言葉に彼女は衝撃を受けた。

 

すぐさまペリカがジッと視線を向ける。

 

「チェン、ふざけている時間はないですよ。」

 

「あはは……ごめんごめん。ねえ管理人、もう1回言ってよ。チェン姉って呼んでもいいよ?」

 

「チェン?」

 

「いいじゃん。ペリカばっかりズルいよ。」

 

「だから今はそういうことをする暇は無いと……。」

 

「管理人、知ってる?ペリカっていっつも仕事か管理人の話しかしないんだよ。どこでそんなこと知ったのかって言いたくなるほどの情報をたくさん……。」

 

「チェーンー?」

 

「あっ。」

 

管理人の脇に手が入れられ、ひょいと持ち上げられる。

 

子供が玩具の所有権を主張する時のように、ペリカは管理人をチェンから離した。

 

「ほら、早く行きますよ。」

 

「けちー。」

 

それから3人は極力隠密行動を心掛け、どうにか源石開発センターの手前に辿り着いた。

 

道中、後ろから派手な音が鳴り響いてくるおかげで敵に存在が露見することはなかった。

 

「ここね……門が破壊されているわ。ランドブレーカーにやられたのかしら。」

 

「見てよこれ。スゴい斬撃の跡……なんかヤバそうな敵が居るね。」

 

壁面につけられた大きな斬撃痕にチェンは目を輝かせる。

 

「行きましょう。ここからは戦闘は避けられないわ。」

 

「りょーかい!」

 

ペリカはペン型のアーツロッドを、チェンは2本の高周波ブレードをそれぞれ手に持った。

 

2人の後ろを管理人はちょこちょことついていく。

 

「敵が居るよ……やる?」

 

「迂回は無理そうね……やるしかないわ。」

 

屋内の一角で見つけたのは何やら物資を漁っているランドブレーカーの集団。

 

チェンとペリカは彼らの背後から襲いかかると、電撃と斬撃を浴びせた。

 

「おりゃあっ!」

 

チェンは初撃で敵2人を斬り捨てる。

 

ドサリと敵が倒れ込んだ時、既に周囲から音は消え去っていた。

 

彼女が振り向くと、そこには管理人の目元を手で隠しながら近付いてくるペリカの姿が。

 

「大丈夫?」

 

「当たり前よ。」

 

一行は更に先へ進む。

 

地下へ繋がる階段へ足を踏み入れると、何かのけたたましい破壊音が聞こえてくる。

 

味方のものなのか、銃声も続けて響いてきた。

 

「あっちだわ。急ぎましょう。」

 

ペリカ達が辿り着いたのは広い倉庫の中だった。

 

そこには沢山の物資が積まれており、コンテナでバリケードを作った味方と、そこへ群がるランドブレーカーが戦っていた。

 

影から様子を伺っていると、何かに気付いたのか、チェンが指をさす。

 

「ねえ、あれ……!」

 

目に入ってきたのはバリケードに近づいていく一際大きなランドブレーカー。

 

おおよそ敵の親玉といったところだろうか。

 

そいつはバリケードの前に立つと、手に持った大剣を振り上げた。

 

「食らえ!雑魚どもめ!」

 

「た、退避だ!逃げろ!」

 

「ふんぬぅっ!」

 

「うわぁっ!?」

 

人と同じくらいの大きさを持つ大剣は、コンテナのバリケードを易々と粉砕した。

 

空いた隙間から雑兵がワラワラと流れ込んでいく。

 

「チェン、アレを全部倒せるかしら。」

 

「もちろん!もう行っていい?」

 

ペリカが頷くと、チェンは待てを解除された犬の如く、正面から突っ込んでいった。

 

すれ違い様に敵3人を斬り払うと、その敵が倒れる前に次の獲物へ飛び掛かる。

 

しかし敵もただ黙ってやられているわけではなく、敵襲に気付くと、チェンの攻撃を受け止め、そのまま打ち合いに持ち込む。

 

隙をついて彼女の背後から別の敵が迫り、大ぶりのナイフを振り上げた。

 

「くらえ……おえ”っ!?」

 

だが次の瞬間、チェンの背中、その尾てい骨のあたりから生えた龍の尻尾がぎゅん!と、敵の喉目掛けて伸びた。

 

先端が喉を突き、相手の動きが止まる。

 

次に敵の視界に映ったのは靴とスカートの裏側だった。

 

「ぼほっ!?」

 

背後の敵を蹴り飛ばしたチェンは、次に顔前で鍔迫り合いをしていた相手の剣を払い、自身のもう1本のブレードで上半身を串刺しにした。

 

ボタボタと血が滴り落ち、床に鮮やかな赤色の溜まりを作り出す。

 

そしてチェンは敵と自身の立ち位置を入れ替え、遺骸を盾にしながら他の敵に向かって突き進んだ。

 

もうどっちが蛮族なのか分からない。

 

それを横目にペリカは管理人を空のコンテナの中に押し込む。

 

「管理人、ここで待っていてください。すぐに終わらせますので。」

 

「うん、気をつけてね。」

 

「はい。」

 

コンテナの蓋が閉じられると、管理人は暗闇の中に身を縮こまらせた。

 

一方、ペリカは管理人が見えなくなった途端、優しい笑みを顔から消し去る。

 

「さて……管理人に見られる心配もなくなったことですし……。」

 

ペリカはアーツロッドの源石カートリッジ——アーツを使う為のパワーパックを交換すると、早速近場の敵へ電撃を浴びせた。

 

バチバチッ!と先程よりも太く眩い放電が敵に向かって伸びる。

 

電気信号で動く身体に電撃を浴びせれば、神経が焼かれ、筋肉が強制的に痙攣を起こす。

 

手も腕も脚も、致命的な心臓や呼吸筋まで。

 

よってペリカの電撃に当たった敵は、文字通り糸の切れたマリオネットのように、次々とその場へ倒れていった。

 

「ん……次……。」

 

床に倒れ伏した敵の間を、カツカツとヒールを鳴らしながら歩いていくペリカ。

 

絶叫も返り血も無く、冷徹な顔つきのまま、僅かな腕の動きのみで敵を排除していく彼女の姿は、チェンとはまた違った恐ろしさを感じさせた。

 

そしてバリケード手前の敵を全て排除し、次は味方と交戦中の敵へ襲いかかる。

 

すると奥から本命が現れた。

 

「貴様ら!よくも仲間を!ぶっ殺してやる!」

 

大剣を構えた大男のランドブレーカー。

 

彼は床に積み上がる仲間の成れの果てに憤慨すると、荒々しく大剣を振り回し、勢いのまま傍らの棚を叩き斬った。

 

対してペリカは乱れていた前髪を軽く手で直し、チェンはブレードに付着した血糊を振り払う。

 

大男が足を踏み出すと同時に、彼女達もそれぞれ動き始めた。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

管理人は暗いコンテナの中でうずくまっていた。

 

今の彼に覚醒時の論理的な思考はもはや残っておらず、自身の状況に対する違和感もさっぱり無くなっていた。

 

僅かに知識だけが、その対象物を目にした場合にのみフラッシュバックするという状態になっていたが、他は一般の子供と何ら変わりない。

 

だから管理人は非常に怖かった。

 

いきなりシャトルが撃墜されて、怖い敵の集団に襲われて、今はどこかへカチコミをかけている。

 

周りではバタバタと、野蛮で非文明的な敵対者とはいえ、同じ人間が血を流して死んでいく。

 

更にはそれを行なっているのは、いつも優しくて何でも教えてくれるペリカお姉ちゃん。

 

恐怖を感じないわけがない。

 

「うぅ……。」

 

ギュッと膝を抱え、頭をそこへ押し付ける。

 

だが恐怖心が心中の大半を占める中、一部がこうも言っていた。

 

『仲間を守れ』と。

 

何故かは分からないが、考えてすらいないにも関わらず、仕切りに『戦え』と叫んでくる。

 

先程、バイクのサイドカーから敵を狙撃した時も同じだった。

 

確かに自分の身を守るために行なったという面もあるが、大元のきっかけはそれだ。

 

知識のマニュアルに従ってグリップを握り、アーツを操作して電撃を放った。

 

「でも……戦うなんてむりだよ……。」

 

心の声に対し、そう返した時だった。

 

ドゴン!と、コンテナが激しく揺れ、衝撃で頭上の蓋が僅かにズレる。

 

何事かと外を覗くと、ランドブレーカーの1人がコンテナの前で倒れていた。

 

次に敵が飛んできた方を見ると、敵の大男と戦うペリカとチェンの姿が。

 

子供の視点から見ても、苦戦していることは明白だった。

 

「くっ……コイツ、刃が通らない……どうして……!」

 

「電撃にも耐性があり過ぎる……ただのランドブレーカーではないわね……。」

 

息を荒くする2人の前で、大男は余裕そうに肩を回す。

 

よく見ると、大男は他の雑兵に比べて肌や髪がより白くなっていた。

 

また全身の筋肉が異様なまでに盛り上がっており、重いはずの大剣をまるで片手剣のように軽々と振り回している。

 

とても自前で鍛えたものとは思えない。

 

「2人が……危ない……。」

 

そのことを認識すると、管理人の中で遂に勇気が恐怖を上回った。

 

小さな手足を動かして、どうにかコンテナの外に出る。

 

次の瞬間、手の表面に不思議な感覚が、電撃銃を撃った時に身体を駆け巡ったそれが渦巻く。

 

すると周囲のコンテナが内側から淡く光り始めた。

 

「な、何?コンテナが光ってるよ?」

 

「一体何が……あっ。」

 

自身の足元でペリカが見たのは、損壊したコンテナからこぼれ出た源石(オリジニウム)

 

正確には感染防止の為に粉砕した源石を安定化溶媒で固め、インゴットに成形したものだ。

 

黄土色のそれは内側から光を放っていた。

 

「ここにあるの全部源石ってこと?危なくない!?」

 

「不活性状態になってるから大丈夫よ。まあ、今はそうではないみたいだけど……。」

 

ペリカとチェンはゆっくりと後退りを始める。

 

すると彼女達と入れ違いでひとつの小さな影が前へ進んでいった。

 

「えっ……か、管理人!?」

 

「管理人!どうして出てきたんですか!早く戻って……!」

 

ペリカは伸ばしかけた手を止める。

 

彼女の視線の先、管理人の細い腕に巻かれたバンド。

 

端末も兼ねたそれには『特殊な源石』が埋め込まれており、以前までの管理人はそれを用いたアーツを活用していた。

 

本来ならば記憶の無い今の管理人には無用の長物であった筈だが、今それが光り輝いていた。

 

「ペリカ、管理人のアーツって……。」

 

「源石を直に操ることが出来る……と、皆んなは言っていたわ。」

 

2人の前で源石は尚も輝きを放ち続けていた。

 

管理人は大男に向けて小さな手をかざす。

 

彼の中で、この後どうすべきか、どうなるのかは身体に残っていた感覚が教えてくれた。

 

「ごめんね。」

 

管理人のマスク(リミッター)が内側から僅かに光を放ち始める。

 

直後、コンテナを突き破って幾つもの源石が、まるで氷のつららのように長く伸びて、一斉に大男へ迫った。

 

「な、何だ!?」

 

大男は大剣でそれを弾き飛ばす。

 

だがすぐに別のコンテナが内側から吹き飛び、源石の槍が大男に向かって突き進んでいく。

 

そして1本が僅かに大男の脚に刺さった。

 

しかし先端だけで、ダメージは毛ほどもない。

 

「このガキっ!何しやがったぁ!」

 

「管理人!」

 

「早く下がって!」

 

大男は激昂し、管理人に向かって駆け出す。

 

すぐさまペリカとチェンが管理人の前に出るが、結局、彼女達がそれぞれの武器を振るうことはなかった。

 

何故なら大男が自ら足を止め、ドッと、その場に膝をついたからだ。

 

「な、何が……う、動か……ない……!」

 

異変はすぐに目に見えて現れた。

 

今しがた源石の槍が刺さった大男のふくらはぎ付近、その周囲が黒く硬化し始めていた。

 

そこから見慣れた結晶体、源石のそれがパキパキと生え始める。

 

「う……うあ……うが……!?」

 

脚から下半身、上半身と続き、遂には腕と頭まで覆っていく。

 

そしてあっという間に源石の結晶で包まれてしまった。

 

「何が起きたの……!?」

 

「源石は生物の体組織を源石へ変異させる特性を持つわ。多分、管理人はそのスピードを早めたのだと思うけど……あっ、管理人!」

 

唖然とするペリカとチェンの前で、管理人は力なくその場へ倒れ込んでしまう。

 

彼が最後に見たのは、焦った様子でこちらを覗き込んでくる2人の顔だった。

 





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