管理人、ショタになる   作:ゆうぐれ

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Log-05 6時間の攻防

管理人はハッと目を覚ました。

 

瞼を開けると、近くに居たペリカがすぐさま駆け寄ってくる。

 

重い倦怠感に包まれる中、管理人は上体を起こした。

 

周りを見渡すと、先程と同じ、棚とコンテナが並んだ倉庫の広い空間が目に入ってくる。

 

「管理人、大丈夫ですか?気分が悪かったりとかは……。」

 

「あの怖い人は……お姉ちゃんは……だいじょうぶなの……?」

 

「私たちは問題ありません。管理人が敵を倒してくれましたから。」

 

ペリカの視線の先を見ると、離れた位置にゴーグルとマスクを着けた工業員によって、ビニールを被せられている『人型の源石(オリジニウム)』が鎮座していた。

 

「っ……。」

 

グッと息が詰まる。

 

それが何だったのか、管理人はハッキリと覚えていた。

 

無力化を目的とした低致死性武器である電撃銃を命中させた時とは違って、あの状態は絶対に生きてはいない。

 

つまり確実に殺したのだ。

 

思い起こされたのは、自身の操る源石が相手を無機物に変えていく瞬間。

 

それを未熟な頭で必死に処理を試みていると、横合いからペリカの両手が伸びてきた。

 

ギュッと、彼女の胸元へ優しく抱き寄せられた。

 

暖かさと柔らかさ、良い匂いが顔いっぱいに広がっていく。

 

「管理人、貴方は私とチェンを救ってくれたのよ。今はそのことだけを覚えていて。他の難しいことは考えなくていいから。」

 

「でも……うん……。」

 

ペリカの腕の中で、管理人は自分の張り詰めた緊張感が氷のように溶けていくのを感じ取った。

 

両手をそっと彼女の背中に回し、身体をもたれかからせる。

 

「よしよし……よく頑張りましたね。」

 

縋るような管理人をペリカは温かく受け止め、優しく頭を撫でた。

 

すると彼女の腰へ回された2つの手が、簡単に振り解けそうなほどに弱々しいそれが、キュッとしがみ付いてくる。

 

静かな時が過ぎていき、管理人の腕にこもった力も、徐々に弱まっていく。

 

だがそんな時間を中断するように、近くのコンテナの影からチェンが顔を覗かせてきた。

 

「ねえ、ペリ……。」

 

「しーっ……!!!」

 

ペリカは人差し指を口の前で立てて、全力で静かにしろとアピールする。

 

チェンは慌てて自分の口を押さえた。

 

しかし更にその後ろから別の影が現れる。

 

「ペリカ監察官、協約コアを搬出したよ。あとは管理人だけど……あっ。」

 

「もう……空気読んでよ、毛玉じい……!」

 

チェンが肘で軽く小突く。

 

その相手、フクロウのような見た目をしたリーベリ族の男性技術スタッフ、アンドレイ・ズロタリードは遅れて状況を理解すると、急いで嘴を閉じる。

 

しかし時既に遅く、眼下のペンギンのヒナは既に再起動を済ませていた。

 

胸元から小さな重みが無くなり、ペリカは怨嗟の視線をアンドレイへ向ける。

 

「あはは……か、管理人、大丈夫かい?」

 

「ん……おじさん誰?」

 

「あぁ……うん……その見た目じゃあ記憶も無くなってるよね……。」

 

アンドレイは肩を落としたが、すぐに気分を切り替える。

 

「ええと……アンドレイだ。ここの技術スタッフをやってる。よろしくね。」

 

「うん、よろしく。」

 

アンドレイは管理人の小さな手を握りながらチラリとペリカの方へ視線を向ける。

 

対してペリカは小さく頷いた。

 

「それでなんだけど、ちょっと頼み事をしていいかな?」

 

「いいよ、なにをするの?」

 

「集成工業システムのことは聞いているかな?その協約コアの起動権限が管理人にあるから手伝ってほしいんだけど……。」

 

アンドレイの目に映ったのは頭上に疑問符を浮かべた管理人の姿だった。

 

すぐに横合いからチェンが補足を入れてくれる。

 

「機械のスイッチをオンにしてほしいだってさ、管理人。」

 

今度は分かってくれたようで、管理人は首を縦に振った。

 

「で、これなんだけど、どうだい?行けそうかな?」

 

「わぁ……おおきい……。」

 

移動した管理人たちの前に現れたのは大きなタワーのようなものだった。

 

中央には細長い源石が3本の支柱によって固定されており、その見た目は帝江号に似ていた。

 

周りでは技術スタッフが梱包材を剥がし、内部の配線を確認している。

 

アンドレイが状態を聞けば、問題ないと返って来た。

 

「管理人、じゃあ、お願いしてもいいかな?」

 

「手をかざせばいいの?」

 

「うん、そこのコンソールに。」

 

アンドレイが表面の蓋を開け、中のコンソールを起動させる。

 

そこへ管理人は腕を突き出した。

 

「……認証開始します。」

 

ペリカが端末で機器を操作すると、管理人をスキャンの光が包み込んだ。

 

同時に腕の端末が淡く光り出し、幾重にも施されたロックを解除していく。

 

数秒後、機械に火が灯った。

 

表面にパラメータを示すホロが浮き上がり、源石が内側から発光し始める。

 

これにチェンが声を上げた。

 

「やった!動いたよ!」

 

「協約転送ネットワーク……接続、通信状態は良好……成功だわ。あとは発電機ね。アンドレイさん。」

 

「図面ならもう上げたよ。必要な原材料も揃えてある。」

 

「分かりました、管理人。」

 

ペリカは管理人の前に座り込み、手に持ったタブレットを見せた。

 

「これを生成してくれませんか。本来ならボタンひとつで作れるのですが、今はまだシステムが未完成で……。」

 

そこに映っていたのは箱型の源石発電機だった。

 

管理人は言われるがまま、再度協約コアに手をかざす。

 

腕の端末が光り、管理人はシステムに接続した。

 

そして項目の中にタブレットに映っていたものと、同じ見た目の設備があることに気付く。

 

迷わずそれを生成、とは言ってもほとんど感覚に近いものだったが、ここも記憶の自分が代わりに行なってくれた。

 

「あっ!出て来たよ!」

 

協約コアの源石が発光をより強め、管理人の隣に四角い物体が下から順に生成されていく。

 

それはあっという間に完了した。

 

「じゃあ、次は動作確認だな……。」

 

早速、アンドレイが発電機に源石のインゴットを入れると、そこから変圧器を介して施設の給電ポートに繋げる。

 

すると今まで薄暗かった施設に電気が点き始めた。

 

「やった!成功だ!ちゃんと動いた!」

 

「さっすが管理人!やるじゃん!」

 

チェンは管理人を抱き上げると、柔らかい頬に顔を擦り付ける。

 

だがすぐペリカに奪われてしまった。

 

「まだ終わりではないですよ。管理人、あと4つほどお願い出来ますか?これだけではタワーの電力を賄えないんです。」

 

「うん、わかった。」

 

それからは早かった。

 

30秒も経たない内に発電機が次々と生成され、源石を入れると全て作動した。

 

本来ならマイクロ波やレーザーで送電するところだが、今は非常時である為、最も単純で確実な有線での接続を行う。

 

先端のプラグを持って中央制御タワーへ帰ると、電力供給を再開し、通信を復旧させることに成功した。

 

「こちら四号谷地、フィオナ、聞こえるかしら?」

 

[あっ……ペリカ監察官?合流ポイントに向かったのでは?]

 

「それより今すぐ軌道爆撃を要請するわ。場所は中枢基地の中央制御タワーと源石開発センターを除く全てのエリアよ。」

 

[えっ、そんなことしたら施設も……。]

 

「もう十分に破壊されてるわ。いいから早く。時間が無いの。」

 

[わ、分かりました!]

 

通信が切れると、ペリカは後ろを振り向く。

 

そこではシン主任がホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「ああ……これで安心ですね。」

 

「まだよ。軌道爆撃にはあと3時間ほどかかるわ。」

 

「「「え”っ。」」」

 

ペリカの言葉にシン主任はもちろんのこと、周りにいたチェンや行動隊のメンバーも固まった。

 

管理人に飴で餌付けしていたアンドレイが説明を入れてくれる。

 

「帝江号は4万キロ離れた静止軌道に浮かんでるからね。ここに攻撃が届くまではけっこう時間がかかるよ。公転のスピードだって打ち消さなきゃならないんだし。」

 

「えー!こう真上から一瞬でズドーン!とかじゃないのー!?」

 

「チェン、それはフィクションの演出よ。というわけで、あと3時間耐える必要があるわ。でも6時間よりかはマシでしょう?」

 

「まあそうだけど……。」

 

すっかり終わった気になっていたチェンは、まだ状況が変わっていないことに肩を落とした。

 

だがその時、ふと視界の端に小柄な姿を捉えた。

 

「チェンお姉ちゃん、どうしたの?」

 

「あっ、管理人……。」

 

そこには棒付き飴を舐める管理人の姿があった。

 

その不安気な表情を前にチェンはハッとする。

 

「そうだよ!せっかく管理人が頑張ってくれたんだから、私たちも頑張らなきゃ!」

 

「ええ、そうね。電源も復旧出来たんだし。シン主任、防衛システムはまだ残っているかしら?」

 

「はい、まだ電力を回せるのでしたらタワーの防御火器と移動砲台が使える筈です。」

 

「ペリカ監察官、材料を揃えれば集成工業システムで簡易的なタレットとか爆薬を作れると思う。ちょっと地下の倉庫群を見てくるよ。」

 

チェンの言葉に呼応して、ここが正念場だと周りも動き出す。

 

今度こそ最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

四号谷地の喧騒が遠のき、冷たい静寂に包まれる。

 

地表から遥か離れた上空、帝江号は無音の世界に浮いていた。

 

だが空気の満たされた船内はクルーの慌ただしい音で溢れていた。

 

大量の技術スタッフが右へ左へと駆け巡り、交代のローテーションなど全て無視して、とある準備に取り掛かっていた。

 

「こちらバーベット基部!配線の準備完了!あとはブッ刺すだけだ!」

 

「第113号輸送艇より発光信号です!帝江号との相対速度、揃いました!」

 

「ガイドビーコンを出せ!近辺の船外作業班は全員退避!」

 

「お前ら!アレは一点モノだからな!絶対に傷つけるんじゃねえぞ!」

 

帝江号の巨大な船体に寄り添うのは箱型の大型輸送艇。

 

船室に積みきれない大きな設備を保管しているその船は、ゆっくりとハッチを開いていく。

 

中に載っていたのはパーツごとに分解された大口径の電磁砲(レールガン)、またの名をマスドライバーという。

 

「降ろしかた、始め!」

 

号令が発せられると、まずは砲身部分がイオンスラスターの青白い火を吹き、自ら貨物室を飛び出していく。

 

距離が十分に近付くと、帝江号側のアームが伸びて、そっと持ち手を掴んだ。

 

同じように機関部や照準器など、他のパーツの受け渡しも行なっていく。

 

「回収完了!これで最後です!」

 

「よしっ、次は組み立てだ!急げよ!」

 

息つく間もなく、今度は設置と火器管制システムの準備に入る。

 

特に帝江号のブリッジ(艦橋)はてんてこまいだった。

 

擬似的に重力を再現した居住区画とは違い、完全な重力制御が施されたその場所で、とある1人の少女は慌ただしくコンソールを触っていた。

 

女性修道士を彷彿とさせる格好をしたサルカズ族のオペレーター、静語伝道会出身のエンジニアである『ザイヒ』はマスドライバーの照準と投射するコンテナの弾道計算を進めていく。

 

マスドライバーから撃ち出されるのは大型のフレシェット弾を大量に積んだ紡錘形のカプセルだ。

 

それが大気圏突破後に展開、ダーツ状の子弾が最終調整をしながら目標地点に降り注ぐ。

 

大質量を高速でぶつける原始的な兵器だが、威力は凄まじい。

 

「ペリカ監察官、本当にこれでよろしいのでしょうか……。」

 

ザイヒは心配そうにコンソールを見つめる。

 

そこに映っていたのは軌道爆撃による推定被害範囲。

 

ペリカ達の居る基地の全てが真っ赤だった。

 

かろうじて中央制御タワーと源石開発センターは入っていないものの、直撃による爆風や飛散する破片の影響をモロに食らうだろう。

 

しかしだからといって撃たないわけにもいかない。

 

その攻撃範囲内では今なおランドブレーカーが我が物顔で跋扈し、アンカーが際限なくアンゲロスを生み出し続けているのだ。

 

「あぁ……どうか監察官や管理人の皆様をお守りください……。」

 

ザイヒは両手を握ると、祈りを捧げた。

 

マスドライバーの照準器とフレシェット弾の精密誘導システムへと。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

赤色灯のついた薄暗い空間の中、最初に異変に気付いたのはコンソール傍の兵士だった。

 

緊急時の操縦士でもある彼は、簡易レーダーの電子音を耳にすると、すぐに傍らの端末を操作し、外の様子を映した画面を見つめる。

 

アームに保持されたそれを今度は隣に動かした。

 

「団長、帝江号(母艦)から何かが射出されました。落下予想地点は四号谷地の中枢基地近辺。落着まではおよそ3時間、我々はその2時間後に降下します。」

 

「数は?」

 

「現時点で確認されたのは3発。落下角度からして、おそらく無人の突入カプセルかと。」

 

「ふむ……。」

 

画面に表示されたのは遠くに浮かぶ帝江号。

 

太陽に照らされて白く輝いている船体の、影になった部分がチカリと光る。

 

発光は3回続いた。

 

団長と呼ばれたリーベリ族の男、鉄誓軍独立機動降下猟兵団団長のポグラニチニクは考え込む。

 

そこへ部下の隊員が、少し上ずった声で話しかける。

 

「団長、これは明らかに軌道爆撃ですよね?勝手に使用して大丈夫なんでしょうか?」

 

「悠長に使用許可を得ている暇は無かった。おそらく独断で撃ったのだろう。」

 

「それって条約違反じゃないですか……。」

 

「現地にはあの管理人が降りたと聞いている。彼の身に多大な危機が迫っているのだとしたら、筋は通る。」

 

ポグラニチニクは身体を固定していたバーを上げると、降下ポッドの壁面に空いた小窓を覗き込んだ。

 

見えたのは青と白で構成された美しいタロⅡと、友軍の降下ポッド。

 

そこを横切るように黒い複数の物体が高速で過ぎ去っていく。

 

「全員、今のうちに仮眠をとっておけ。あと5時間で突入態勢に入る。武具の点検も怠るな。」

 

通信機に向かってそう言うと、後ろからも含め、すぐに了解と短く返事が聞こえて来た。

 

それから約5時間後、遂にタロⅡが目の前に迫って来た。

 

大気圏に突入し、圧縮熱でポッドが真っ赤に燃え上がる。

 

シャトルに比べて遥かに強いGがかかっていたが、ポグラニチニクは顔色ひとつ変えない。

 

ポッドは大気圏突破後に減速し、地表が近付いてくると、頭頂部から落下傘を開く。

 

「全員、傾聴。四号谷地はアンゲロスとランドブレーカーで満ちていると予想される。落ちたアンカーも最低で5本だ。軌道爆撃で多少減らされているだろうが、激しい戦いになるだろう。」

 

ポグラニチニクの声色は非常に落ち着いていて、声量も勢いも控えめだったが、代わりにその言葉ひとつひとつに強い覇気がこもっていた。

 

話を聞く隊員たちも極めて冷静で、動揺や緊張などは一欠片もない。

 

エンドフィールドのオペレーターとはまるで違う、兵士の目をしていた。

 

「目的はただひとつ。四号谷地の奪還だ。死ぬことを恐れるな。気張っていけ。」

 

「「「おう!」」」

 

隊員たちは声を上げると、全員が武器を手に取り、落着に備える。

 

ポッドは落下傘を展開しながらも地表ギリギリまで高速を保ち、着陸直前で底面のブースターを点火した。

 

砂煙を発生させながら、ほとんど着陸よりも落下という表現が正しいほどに激しいタッチダウンを済ませると、各降猟隊は勢いよく外へ繰り出した。

 

爆発ボルトでハッチを吹き飛ばし、外へ出たポグラニチニクは隊員と共に橋頭堡を、ポッドの落下によって発生したクレーターの淵を確保する。

 

砂煙が晴れるのを待つと、一斉に駆け出した。

 

——そして、すぐに足を止めた。

 

「あっ!!」

 

「こ、これって……団長!」

 

「……間に合わなかったか。」

 

ポグラニチニクはらしくもなく愕然とした。

 

周りの隊員も言葉を失う。

 

早朝の薄暗い空の下、目の前に広がっていたのはクレーターだらけの荒地と、わずかに残った廃墟だけだった。

 

ランドブレーカーもアンカーもアンゲロスも人間の姿もない。

 

ただ様々な物体の焼けた臭いが鼻をついた。

 

化学的な臭いから肉を焼いた時のような臭いまで。

 

もちろん美味しそうな匂いではなく、腐臭の入り混じった、吐き気を催すものだ。

 

しかし戦場では珍しくはないのか、隊員たちは顔色ひとつ変えない。

 

「現在地の再確認を。落着地点がズレた可能性も……。」

 

ポグラニチニクは隊員にそう指示を出そうとしたところ、足に何かがぶつかる。

 

拾い上げてみると、それは道路標識だった。

 

爆風の高温によって塗料が剥げているが、『四号谷地中枢基地』という文字が読める。

 

「団長、もしかして軌道爆撃の指示は陥落を予見した上での……。」

 

「敵全てを巻き込んだ自決、か。」

 

「残念です……せめて骨くらいは拾ってやりましょう。」

 

「そうだな。だが敵への警戒は続けろ。ここからは生存者の捜索に入る。」

 

「……了解。」

 

部隊は基地があった場所を捜索し始める。

 

しかし流石は軌道爆撃といったところか。

 

高密度金属で構成された巨大なフレシェット弾を雨あられと降らせるだけあって、破壊力は凄まじく、建物も岩も等しく溶けていた。

 

直撃範囲から外されていたおかげで、僅かに形を残していた中枢制御タワーと源石開発センターを除き、文字通り平地になった基地には捜索する場所すら残っていなかった。

 

仕方なく残っていた建物に入り、中を懐中電灯で照らすも、焼け焦げたランドブレーカーの一部が数個転がっているだけだった。

 

[こちら第三小隊、源石開発センターに生存者無し……ランドブレーカーの死体と不思議な形の源石があるだけです。]

 

[第五小隊です。基地外縁にアンカーの残骸を3つ確認。基地内の2つを含め、落ちて来たアンカーは全て破壊されたと考えられます。]

 

[第二小隊より第一小隊へ。近隣の橋が落とされています。道路に脱出の痕跡もありません。]

 

上がってくる報告に生存者に関しての情報は皆無だった。

 

ポグラニチニクはヘルメットを外すと、コンクリートの岩塊に腰を下ろす。

 

「何か報告は無いのか。」

 

「何も……何もありません。ランドブレーカーとアンゲロスの死体だけで……。」

 

「そうか、死体だけか……死体?」

 

ここでポグラニチニクは違和感に気付く。

 

()()()()()()()()ということに。

 

ここの基地には何千何百もの人員が詰めていた。

 

もし全滅しているのならば、絶対に遺体が見つかる筈だ。

 

頭でも腕でも指でも、必ず一欠片は。

 

しかしここまで敵の死骸しかないことは逆に不自然と言える。

 

ポグラニチニクの瞳に光が戻った。

 

「全隊に通達、もう一度建物付近を捜索せよ。地下室がどこかにある筈だ。」

 

そう指示を出した直後、サクリと砂を踏みしめる音が耳に入ってくる。

 

重装備を纏った降下猟兵の足音にしては軽いそれを聞いて、ポグラニチニクはハッと後ろを向く。

 

眩い朝日をバックに、逆光となった視界の中、そこにあったのは小さな人影。

 

煤と砂まみれになったペンギンのヒナ(管理人)が立っていた。

 

彼はポグラニチニクを見ると、ただ後ろを指さす。

 

「あっちに……居るのか、仲間が。」

 

コクリと、管理人は頷いた。

 

「……今すぐここに工兵隊を呼べ。急行させろ!」

 

「は、はいっ!」

 

それからポグラニチニクは管理人を抱え、彼の案内する方向へひた走った。

 

到着したのは積み上がった瓦礫と、僅かに空いた小さな隙間。

 

工兵の特殊カッターで穴を広げると、その奥には通路が続いていた。

 

「ペリカお姉ちゃん!チェンお姉ちゃん!」

 

管理人が声を上げると、奥からペリカとチェンが姿を現す。

 

「管理人!もう、どこ行ってたんですか!心配しましたよ!」

 

「あっ、もしかして助けを呼んでくれたの?やったー!やるじゃん管理人!」

 

ポグラニチニクが管理人を下ろすと、今度はペリカに抱き抱えられた。

 

音を聞きつけたのか、シン主任やアンドレイ、行動隊の面々など、次々に顔を出してくる。

 

管理人と同じく砂まみれで酷い格好をしていたが、全員がピンピンしているようだった。

 

「ポグラニチニク団長、助かりました。軌道爆撃をしたはいいものの、出口が全て押し潰されてしまって……危うく生き埋めになるところでした。」

 

「ペリカ監察官、私はただついて来ただけですよ。真の功労者は管理人です。それより場所を変えましょう。管理人が粉塵を吸ったらよくありませんから。」

 

穴から出て来たのは管理人やペリカ達に留まらず、工業団員や避難民など、数百人に上った。

 

更には他の部隊からも地下室に生存者発見との報告が入り、誰も居なかった四号谷地はたちまち人で溢れかえった。

 

高台の岩塊に腰を下ろしたペリカは、危機が去ったことに歓声を上げる人々を見下ろしながら隣の管理人に声をかける。

 

「管理人、よく頑張りましたね。()()皆んなを救いましたよ。」

 

「んぐ……そうなの?」

 

「ええ、そうです。凄いことですよ。」

 

「ふーん……。」

 

どうやら管理人の興味は自身の功績よりも、降猟隊の隊員から貰った風船ガムに移っているようで、必死になって膨らませようとしては失敗している。

 

「違うよ管理人、ガムの膨らませ方はこう!」

 

「むぅ……チェンお姉ちゃんみたいにできない……。」

 

「むふふふ……ふごいで……ふぶっ!?」

 

管理人の隣で得意気にガムを膨らましていたチェンだったが、あまりに膨らませすぎて破裂し、派手に顔へ引っ付かせる。

 

それを見てケタケタと笑う管理人。

 

敵と戦った時とはまるで違う、その子供らしい姿をペリカは微笑ましく思った。

 

そしてこうも思った。

 

この笑顔を曇らせないようにしようと。

 

かつての自分が彼に助けられたように。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「……ふっ、何と大胆不敵なことを。これは少し予想外だったな。」

 

「お頭、何かあったんで?もしかしてさっきの地震のことが分かりやしたか?」

 

「いや、何でもない。それより手すきの連中を集めろ。あと『ロダン』を呼べ。」

 

「おっ!またどこかに出るんですかい!」

 

「ああ、予備プランに移行する。目標は『源石研究パーク』だ。何もかも燃やし尽くせ。」

 




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