連邦生徒会のコート(背中部分に「シャーレのマーク」と「連邦捜査部シャーレ」が刻印されている)を羽織った上で、アニメ先生のスーツを着用しているのをイメージしてください。
──信じられない者を見た。
「一つだけ聞きます──貴方は、何者ですか?」
「厄災の狐」狐坂ワカモは、目の前の男に対してそう思った。
*
1ヶ月前。ワカモはシャーレを襲撃した。その際にシャーレの地下へ忍び込み、連邦生徒会長の遺したモノを破壊してやろうとしていた。
しかし、運悪く──いや、後々を考えると良いのだろうか──後の"シャーレの先生"に遭遇してしまった。
『"やぁ、はじめまして"』
『あら、あららら…………あ、あぁ……し、失礼しましたー!!』
しかし、仕方がないというものだ。"先生"は、あまりにワカモ好みだった。一言で言えば、一目惚れである。
──人生初の恋だったのだから。
それから数日。あの時相対した"先生"は公式に「連邦捜査部シャーレ」の顧問となった。
流石に
物陰からこっそりと、"先生"の動向を観察する日々だった。
それから一月後、ふと"先生"の後ろ姿を見かけたのだ……正確には、"先生"に良く似た姿を、であるが。
ともかくその時のワカモが、その後ろ姿を"先生"その人と見間違えたのは事実だ。
すぐさま後ろ姿を追い、そして気付いた。
──違う。この男は、"先生"ではない。
普段のワカモなら気付いた瞬間に襲撃するが、同時に違和感を覚えた。
あの時、あの後ろ姿に、確かに"先生"の面影を見た。
ワカモであれば、"先生"であるか否かなど簡単に見抜ける。恋する乙女は無敵であるのだ。
その筈のワカモが──少なくとも、本人は見抜ける自信がある──顔を見るまで、見抜けなかった。
だから観察した。この者が何者なのか。
そして、観察すればするほど、やはりこの人物は"先生"だと錯覚した。
「連邦捜査部シャーレ」と「シャーレのマーク」が刻印された、連邦生徒会のコートを羽織り、その下には普通のスーツを着用している。
ご丁寧に、首にはシャーレの職員証らしきものを提げている。
まるで、"シャーレの先生"ですと言わんばかりの格好だ。そして、それがコスプレの類ではなく本物だということは、"先生"を観察していた自らの観察眼が断定する。
──なにより。その男が取り出した、あのタブレットは。
間違いなく、"シャーレの先生"が持つ、あの──
だから、確かめることにした。直接、その男に。
お前は何なのか、と。
*
不味い事になったと、平山は冷や汗をかいた。
姿こそ見えないが、声と"圧"から、自分に銃を突き付けているのが狐坂ワカモであると、平山は理解していた。
ワカモは決して良い子ではない。
どういうわけか平山には好意的で、シャーレ襲撃の一件以降は平山に害を及ぼす事はなかった。
……それは、決してワカモが更生したからではない。平山が絡まないのであれば、ワカモはその残虐性を表出させる。
そしてそれは今の平山も例外ではない。"この世界のワカモ"にとって、平山は残虐性を隠すべき"先生"ではない。
──今だっていつ銃撃されてもおかしくない。平山はつとめて冷静に、ワカモと対話する事を"選択"する。
「君は──」
「もう一度、聞きます。貴方は、何者ですか」
"圧"が強くなる。余計な事は言うな、聞きたい事だけ答えろ──言外に、ワカモはそう言っている。
平山は唾を飲む。A.R.O.N.Aのバリアはあるだろうが、それはそれとして、ここまで至近距離なのは致命的だ。最悪バリアを突破してくるかもしれない。
だが、しかし。平山は妙に冷静だった。
平山には一つの確信があった。それは、自分の超能力を自覚したが故。
今なお自身が何をできるか把握はしていないが、一つ確かな事はある。
連邦生徒会長は言った。平山は"割り箸を割ることに特化した超能力者"だ。
割り箸を割るのに立ち塞がる障害は、尽くを打ち砕く。
そして平山は、あの約束の割り箸を割れていない。約束は果たせていない。ならば、ここで死ぬことはない。
平山は恐怖を"確信"で押し殺し、選択する。
「ごめんね。まず何を聞きたいか、明確に教えてくれないかな」
「────ッ。言ったはずですが? 貴方は何者なのかと聞いているのです」
「──私は"先生"だよ」
突き付けられた銃身が、揺れる。動揺かなんなのか、平山にはわからないが。
"圧"が弱くなるのは、感じた。
「ふざけたことを────貴方が"先生"であるはずがない。"シャーレの先生"は、既にいます。いかに姿を似せようが、成り代わる事は不可能でしょう」
「……そうだね。私は
「────成る程。雰囲気が似ているのは、"先生"ではあったから、と? ならばその服装は何です? まるで自分が"シャーレの先生"だと喧伝しているようにしか見えませんが」
……コートは脱いでおくべきだったか。"シャーレの先生"がいるのだから、こうして勘繰られる可能性を考慮すべきだったと平山は思った。
「────私は……"シャーレの先生"候補だったんだ。連邦生徒会長に選ばれた、ね……最終的に選ばれたのは、"彼"だったけれど」
苦しい言い訳だ。だが通らない道理もない。連邦生徒会長が選んだのが"彼"一人と断定できるのは、"彼"と最初に会った七神リンだけだ。
──いや、七神リンも、こう言われたら否定しきる事は出来ない。
「戯言を……そうであれば、何故今になって? "シャーレの先生"が現れたのは一ヶ月は前です。貴方の居場所は無い。貴方がシャーレに出入りしている場面を見た事が無い──」
「でも
手に持つタブレットを見せる。シッテムの箱、連邦生徒会長が遺したオーパーツ。
世界に一つしかないはずの遺物。
ワカモは具体的な事はわからずとも、それがやはり、あの時シャーレの地下で見たあのタブレットであると、理解していた。
「それは────」
「シッテムの箱。連邦生徒会長が遺したオーパーツ──"先生"に遺された、"先生"を守る防壁」
「馬鹿な──」
「……君の言う"シャーレの先生"が持つ物とは別物だよ。"彼"から奪った物じゃない。銃弾一つで死に至る我々"先生"、それぞれに与えられた守り手だよ」
話題を全力で逸らす。今ここにいる平山が、"シャーレの先生"ではなくとも、シャーレに集められた複数いる"先生"の1人であると誤認させる。
……嫌になる、生徒を騙すことになるとは。平山は心の中で溜息を吐く。
──これでは
「……"先生"は」
「……?」
「"先生"は、貴方の事を知っているのですか」
「────いいや。"彼"は、私を知らないよ。私も、私と"彼"以外にも"先生"がいたのか……いたとしたら、どれだけいたかはわからない」
「──そうですか…………えぇ、良いでしょう。ここは見逃してあげます。貴方の狂言回しに騙されたのではありません。貴方が、本当に"先生"の1人なら、殺してしまえば面倒になるというもの……それにもし、今の"先生"が貴方を知らずとも、後々知った時に、嫌われるのは御免被るので」
その言葉を発した後、突きつけられていた銃が後頭部から離されるのがわかった。
平山は息を吐く。ギリギリ命が繋がった……。
「しかし、その格好はいただけません。とくにコート……"シャーレの先生"ではないのにそんな格好をしていては、私のように勘違いする者も現れるでしょう。なにより……」
"圧"が、少し強くなる。未だに、ワカモはいざとなれば、殺す気ではあるのだろう。
「貴方が"シャーレの先生"を騙るのに、その格好を利用するやもしれません。そうなれば見逃した私の恥。確実に仕留めますので──そのつもりで」
「あ、あぁ……肝に銘じるよ」
そう答えると"圧"がフッと霧散する。ようやく完全に、敵意を鎮めてくれたようだ。
ゆっくり振り返る。その顔面は狐面で塞がれており、表情を読み取れなかったが……なんとなく、慈しむような表情をしている気がした。
「──さっさと行きなさい。気が変わる前に」
「あぁ、それじゃあ──また。コートや職員証は……折を見て処分するよ。それで勘弁してくれ」
向きを変え、最初に提案された通りアビドス方面へ移動を開始する。背後の気配は、平山がその視界から消えるまで残り続けた。
*
遠ざかっていく男の背中に、銃を向け直して──やめた。
もうワカモには、あの男を殺せない。
「──"先生"」
──あの男との対話を振り返る。
『"ごめんね。まず何を聞きたいか、明確に教えてくれないかな"』
『"──私は"先生"だよ"』
『"……そうだね。私は
『"────私は……"シャーレの先生"候補だったんだ。連邦生徒会長に選ばれた、ね……最終的に選ばれたのは、"彼"だったけれど"』
「──あぁ」
男が語った事に嘘はない──そう思わされた。力強い言葉、優しい語り口。
話せば話すほど、仕草を見れば見るほど、その姿が"先生"と重なって見える。
わかってしまった。目の前の男は"先生"ではないが、"先生"であった。
トドメは顔だ。"シャーレの先生"同様に自分好みの、しかし"先生"とは似ていても別人だとわかる顔つき。
──あの顔を、至近距離で見てしまった。
浮気などとんでもない。ワカモの心は"シャーレの先生"のモノだ。決して、あの男にうつつを抜かす事はない。
もしあの男がなにを勘違いして自分と逢瀬を行おうとすれば、殺さないとなった今でも、容赦なく撃ち抜けるだろう。
──それでも。あの顔は駄目だ。
自分好みの顔が、どこか迷子にでもなったような顔をしていて。
自分好みの顔が、こちらを見た時。
──すごく、悲しそうな顔をしていて。
きっと、自分と同じ。ワカモが男に"先生"を重ねたように。男はワカモに誰かを重ねて見た。
──"彼"は、自分に
「……」
"彼"の事は、連邦生徒会──ひいては"先生"に伝えるべきだろうか。
今更"彼"の言葉が嘘であろうが、殺しに行くほど熱意はない。
「……やめておきましょうか。まだ、"先生"に顔を見せる勇気はありませんものね」
「厄災の狐」は、男が視界から消えてしばらくして。その場を後にした。
*
「……先生、ご無事で何よりです。本当にお疲れ様でした」
「うん……肝が冷えたよ」
ワカモの気配が消えてしばらく。平山は立ち止まりへなへなと崩れ落ちた。
知っている生徒が、確かな殺意を持って平山を襲った。
それは平山の精神を大きく削るモノであり、同時にこの世界が自分の知るキヴォトスではないことを再認識させられた。
「……この世界を知るために、最低限の生活環境を早く整えないと──」
平山はゆっくり立ち上がる。いつまでも立ち止まっていられないと、移動を開始する。
その背中は、どこか寂しそうで。
その背中を──否、その存在を観測し、観察する者が数名いたことに、平山は気付かなかった。
いくら"先生"に似てても、ワカモなら撃ちそうですが、"割り箸を割ってない"バフで無傷で切り抜けました。
無かったら1回ぐらいは撃たれてたと思われます。A.R.O.N.Aバリアがあるので死にはしないでしょうが……。
ワカモは持ってないので、セリフの口調や性格などなどで、色々解釈違いがあるかと思われますが、どうかご容赦を。
なんならA.R.O.N.Aバリアについてもなんとなくで描写してるので……。