第100話:狙われた箱舟
妖精サンディが再びサチ達の元に現われたのは案外すぐであった。
「ねえアンタ達、ちょっと手伝ってくんない?」
「あらサンディ。最近良く会うね」
「ちょっとサチ、それイジワル?言ったでしょ、力貸してもらうカモって。もうギブっ!」
「意味は分からんが、自分で何とかするとも言ってたぞ」
「アタシもしっかり覚えてるー」
「うん、言ってたね。ギブアップするの早いんじゃない?事情知らないけど」
「知らない割によくもポンポン言ってくれるよね!まるでアタシが努力してないみたいに?」
「そりゃアレだ。日頃の行いってヤツか?」
「否定はしなーい」
「ヒドーいっ、サチ、この人達に何とか言ってよぉ」
サンディを見てしばし沈黙を続けていたサチが、3人に向き直る。
「皆、これくらいにしようか」
「そうだね」
「しゃーねぇな、在り処分かってて黙ってるのも気分悪いからな」
「全くだわね」
「って、え?天の箱舟とテンチョーの居場所分かってるって言うの?」
皆はあえて答えず肩をすくめて笑う。
「ちょっと~!どゆこと?」
ここでサチが流星群の一件について説明した。
「それじゃ、天の箱舟はダーマ神殿にあって、テンチョーはこっちの世界放浪してるって事?」
「そ。でも何で店長?その舟ってお店も付いてるとか」
「アタシが勝手に付けたあだ名。アギロはただのオッサンだよ。だけど手紙ね~、そんなマメなヤツだったっけ」
手紙は宝箱に戻して来た。
天使の短剣については、ゼアルと共に行方不明だ。
「店長とアギロって、一文字も合ってねえじゃねーか」
「あだ名って文字合わせだけで決めるんじゃないっしょ!雰囲気よ、雰囲気」
「店長の雰囲気って?」
「ナゾっ」
サチが話を戻す。
「でも待って、サンディが私達と女神さまを対面させようとした時って、まだ箱舟はダーマ神殿にはなかったよね」
「すでにガナサダイが盗んでたのかもな」
「あん時は急遽幻影での登場になっちゃったケド。ホントは直接会わせたかったんだよね~」
「でもどっちみち、女神さまは木に変わっちゃってるんだから対面できないじゃん?」
「ああ、それって世界樹の事?そんなの大昔のハナシよ。もうとっくに果実を実らせて人間の清き心は証明された。元の姿に戻ってますケド!」
「でも、女神さまこの間会った時、自分は自由にならないって言ってましたよ?」
「そりゃ、女神があちこちほっつき歩くワケ行かないでしょーよ。そういう意味じゃん?」
「なんだ、元に戻れたなら良かった良かった!」
皆が喜ぶ中、サチだけは思案し続ける。
「アギロさんと連絡する方法はないの?こっちの世界にいるみたいよ」
「それが連絡付かないから困ってるの!」
「要するに居留守使われてる訳か」
「ええっ、そうなのかな…って、またイジワルするー。イケメンが泣くよ?」
「アギロさんが振り回されてる姿が目に浮かぶ!」
「疲れちゃったのかもね。だから旅に…」
こんなコメントの数々に、ついにサンディが泣き出した。
「うえ~ん!」
どう見てもウソ泣きっぽいのだが、イケメンと言われたボシュだけが気にする。
「おい皆、程々にしようぜ」
「それアンタが言う?まあ、何もかも忘れた~いみたいな心境になるの、誰にでもあるさ」
「それってやっぱアタシのせい?!」
「だけど、何かの事件に巻き込まれた可能性もある」
「そうそれ!それだよきっと!さすがサチ」
「サチは甘いよな、いつも」
「そこがサチだよ。困ってる人を見過ごせない」
「しゃーねえな。探してやるか」
こうして一行はまずダーマ神殿を訪れた。
だがどういう訳か、そこに保管されているはずの箱舟が忽然と姿を消していた。
「申し訳ございません、ここには普段誰も入れないようにしてあるのですが…。妙です」
「やっぱり何か起きているのね」
「こちらでも調査を進めます。何か分かりましたらご連絡ください。力不足で本当に恐縮です」
「いいえ。では一先ず失礼します」
神殿を出て途方に暮れる一行。
「で、そうなると次の手は?どうやって探す?」
自然と皆の視線がリリに集まる。
「ん?アタシが何さ」
「ここは久々に登場じゃねーか?」
「そう!頼りにしてるよ、リリ姉サマの占い!」
「…あー、そういう事?ってかサンディまで知ってるワケ?」
おもむろに麻袋を漁り出すリリ。そしてピカピカの水晶を取り出した。
「今日も曇りなく輝いてる~。どれどれ。占いご無沙汰だから上手くできないかも…」
一同に緊張が走る中、リリがそれっぽく両手を掲げて玉を覗き込む。
「暗くて何も見えないわねぇ…」
「あっ、あれ、天の箱舟の残骸!」
「え、どれ?木片がどこかの海の底に打ち捨てられてるみたいだけど…まさかアレ?」
「そんなぁ、どうして?!どうしようっ」
場所は不明だが、どこかの海底にバラバラになった舟の残骸が沈んでいる。
変わり果てた姿に、陽キャなガングロ妖精もさすがに青ざめる。
「ねえリリ姉。この場所、もっと前に時間を戻せたりはしない?」
「やった事ないけどやってみるよ。戻れ戻れ~!」
「ありきたりな呪文だ」
「うっさいわ。ほれ戻れ~時間よ戻れ~」
すると、映し出されていた画が切り替わった。
今度はバラバラだった舟が元の姿で海上に浮かんでいる。
海は次第に荒れ出し、空には稲光が走る。そして見事に舟目掛けて雷が落ちた。
「ひえぇ~~っ!」
「今のカミナリ、何かおかしかったね」
「アイミーも気づいた?アタシも思った」
「ええ…魔力を感じたわ」
「魔力の雷?それって誰かの仕業って事か?」
「何なの、もうっ。ワケ分かんない!それじゃテンチョーは死ん…」
「ストーップ、勝手に殺さないの!見て、今度は牢屋みたいなのが見えてるよ」
「あれ、ここってついこの間に行ったあそこに似てない?」
「あっ!ここ知ってる、何とか帝国だよね。昔凶悪な皇帝が…って、どうしてテンチョーがそんなとトコに?」
「その前に、その国は大昔に滅んで今は砂漠地帯だぜ。過去にタイムスリップしたとでも?」
「だとしたら探してもいない訳だわ」
「それってもしかして、あの時もこの牢屋にアギロさんがいたって事?」
「それ分かってたら連れ帰れたじゃん!目の前まで行ったのにっ」
悔しがる中、サチがリーダーらしく結論を出す。
「もう一度あの場所へ行くしかない。大賢者にお願いしてみよう」
こうして一行はフォズに連絡を取ってもらい大賢者と再会。
再び大地の記憶を辿りガナン帝国へと足を踏み入れた。
「まさかキミらに呼び出されるとは思わなかった。寝てたのにー」
「ごめんなさい、でも本当に助かりました。ありがとう、大賢者様」
サチにチュっとキスを贈られて、ワタワタと震え始める大賢者。
「そそそ、そんなにボクの事…っ」
「おい。なんか勘違いしてんぞ」
「ここにもいたか、チェリーボーイ」
「にも、って何だよ、にもって?」
「えー何だろー」
その後、無事に地下牢からアギロを助け出す事ができた。
「やれやれ。とんだ事になっちまったぜ」
「テンチョー、一体何があったの?いつから?」
「聞いたところで、俺の記憶は確かじゃない。しかし、またここに閉じ込められるとはなぁ!」
「「また?」」
「まあまあその辺の昔話は置いといてだ。助かった、礼を言う」
「何にせよ、一連の出来事に悪意を感じるわ…」
「ああ。間違いないのは、誰かが妨害してるって事だ。クソがっ」
この時、サチの脳裏にぼんやりと映像が浮き上がる。
それはたくさんの背に大きな羽を生やした者達が、この地下牢に囚われている姿。
先日訪れた際にはなかった現象だ。
「っ、これは…?」
「サチ?どうかしたか」
「ここって確か、以前罪のない多くの天使達が囚われていたのよね」
「そう言ってたよね。え、どしたの、急に」
「今見えたの。その人達が囚われている映像が」
「ちょっと?そういうのはアタシが玉で見るヤツなんですケド?」
役目を奪われたような気がしたリリは、少しだけサチを睨んだ。
「サチ凄い、いつからそんな過去を見る力が?」
「そんなの持ってないよ。今何となく見えただけ…待って、まだ続いてる、誰かがその天使達を助け出した!」
「そういうのは英雄の仕事だろうな。で、どういうヤツだ?」
あわよくば自分に似ている事をと願うボシュ。
「若い男性みたい」
「髪の色は青かったりするのか?」
「う~ん。黒っぽいね。でもボシュに似てるかな」
「おお!俺に似てるか。そうかそうか!」
「お兄ちゃん嬉しそう」
「男は英雄に憧れるモンだよ」
「べ、別にそういうんじゃねーよ?」
次に一行は、問題の箱舟の沈んだ海へとやって来た。
「俺を出してくれて正解だ。箱舟を動かせるのは運転士の俺しかいないからな」
「だから起動しても動かす事ができなかったのね」
「ちょっと待て。起動しただと?」
「ああ。ゼアルが乗った瞬間にな」
「ゼアル?どっかで聞いたような…」
「テンチョぉ~、頼りにしてるよ~」
「真っ先に死んだと思ったヤツが、手の平返したな」
「何か言った~?」
「なあお前、女神と姉妹なんじゃなく、リリ姉と姉妹なんじゃねーの?言動似すぎだ!」
「ボシュ君~、何か言った~?」
そして…。
しばしの時間はかかったが、見事に天の箱舟の復元に成功した。
早速いざ神の国を目指そう!と乗り込んだ一同。
「スッゴいゴージャス!この前のと全然違うわ」
「これって本物のゴールドですか?」
「当たり前だ。神の国へ行く乗り物だぜ?安物じゃ神々に申し訳ない」
「そんなもんかぁ?」
「私に聞かれても」
このほのぼのした空気を、外からの音が一転させた。
空がゴロゴロと唸り声を上げている。
「ねえ、この音って…」
「雷っ、だよね」
「ウソでしょ、また?!テンチョー何とかして!」
「無理に決まってるだろ、俺は天地雷鳴士じゃない!」
「はいっ、アタシ!それですけどどうすれば?」
一行は、ああでもないこうでもないとオロオロするうちに、意識が遠のいたのだった。