「何で死なない訳?ホントに運のいい人達ねぇ」
こんな声が聞こえて来て、サチが最初に目を覚ました。
そこは元いた砂浜で、見知らぬ人物が立っている。
「…ん、誰?」
「雷に打たれた割に傷一つないって、どういう事かしら。まさか冥王サマが守ってたりするワケ!愛の力を見せつけてるとか?バカバカしっ」
「あの、何の話してる?」
「こっちのハナシ~。初対面よね。私は迅雷天ミカヅチ。あなた達が言う最後の四天王よ♪」
「ジンライテン、ミカヅチ…。皆、起きて!四天王がいる!」
サチが横で転がっているボシュを揺する。
「…ん?どこだ、ここ。って誰だお前は」
「だからっ、迅雷天ミカヅチって今名乗ったでしょ!」
「最後の四天王だって」
「お…、女じゃねーか」
「差別発言反対ー」
「それについては同意する」
「あら、気が合うじゃない?サチ!」
またも名乗る前に名を呼ばれフクザツな気持ちになるサチ。
「うるさいなぁ…。サンディ、静かにしてよ?」
「アタシ、なんもしゃべってないんですケド!」
「…あれ、今何してたんだっけ?」
「皆ようやく起きたね。こちら最後の四天王のミカヅチさん」
「あ、ご丁寧にどうも。…って何でサチが紹介?!」
「四天王って、女の人もなれるんだね」
「あら~。可愛らしいあなたまで女性蔑視?」
「あっ、そういう意味じゃないです!ほら、今までの四天王って言ったら、アレだったから」
「アレ?…ああ、アレね。確かに!」
「よくもまあ、アレで通じたもんだ」
妙なところで女性陣の意見が合致する。
「おい!また俺の舟を壊しやがって。どういうつもりだ?前回のカミナリもお前の仕業だって分かってるんだぞ!」
「それはこっちのセリフ。邪魔だから消したのにまたノコノコやって来るなんて。どういう神経してるの?」
「あ?何だその言い草は!」
「あ~うるさいうるさい!オジンのダミ声って苦手なのよね。発言を控えてくださる?」
「勝手な事言いやがって!」
「まあまあ!それで箱舟が邪魔ってどうして?魔王復活が目的でしょう?何か関係が?」
「それに乗って行く場所は決まってるでしょ。行ったところで私には関係ないケド」
「関係ないならどうして邪魔するのよ、オバサン!」
「オバ、オバサン?!このピチピチの肌の私に向かって、オバサン?!そっちこそ露出高すぎのケバい金髪オバンでしょうが」
「んなっ、何ですって!この世界一の美貌を持つリリ様に向かってっ。アンタの方が断然金髪オバンよ。大体、金髪被りもやめてほしいわー」
二人は似たような髪色をしている。ミカヅチはストレートのロングだが。
リリが怒りのあまり雨雲の杖を構える。
そして気づく。相手のミカヅチも同じ杖を持っている事に。
武器も被った!とさらに嘆くリリであった。
「…ふう~ん。いい武器持ってるじゃない、あなた。さすがはサチの仲間ってところ?」
一触即発のミカヅチとリリを尻目に、ボシュがぼそりとつぶやく。
「なんか俺、あの辺の女共が皆姉妹に見えるんだが…おかしくなったのか?」
「サンディさんとあの四天王の人とリリ姉でしょ。怒りのポイントも似てるしね」
「つまり神の国に行かれると困るのね。向こうに何か見られたくなものでもあるの?」
「別にないって言ってるでしょ!とにかく。私が言いたいのは一つだけよ」
答えたのはリリだ。
「聞こうじゃないの」
「あなたに言ってないわよ!いい?サチ。あなた達に偉大なる魔王様は絶っ対倒せない」
「そんなのやってみなきゃ分かんねーだろ」
「今まで何人もの英雄が皆、命と引き換えに魔王様を封印するしかなかったのが証拠。それでもあなたは英雄の道を歩むつもり?よく考える事ね、ふん!」
言い終えるやミカヅチの姿は霧の中に消えた。
「…消えやがった」
「ムッキーッ!何なのあの女!言いたい放題言ってくれちゃって。我らがリリ姉サマに暴言吐きすぎだっつーの!」
「第三者がそんなに怒ってくれると、冷静になれるもんだわ」
「それよりサチ。これからどうする?また舟を修復しなきゃならんぞ」
「わざわざ出て来て邪魔するくらい、神の国に行ってほしくないみたいだし?行くっきゃないでしょ」
「そうだね。アギロさん、申し訳ないけど、もう一度復元作業お願いします。その間に、私達はダーマ神殿に行って来るので」
「フォズさんに最後の四天王の事を報告しなくちゃだもんね」
こうして一行は一旦サンディとアギロと別れ、ダーマ神殿を目指す。
「あの舟が壊されなきゃ、ダーマ神殿まで一っ飛びで行けたのにー」
「でもあれって、神の国に行く用の乗り物なんだよね?」
「ラクしようと思うな、全ては鍛練、いい運動だ」
「はいはい!」
ダーマ神殿にて。一通り話を聞いたフォズが神妙な顔で頷く。
「なるほど…最後の四天王、迅雷天ミカヅチ、ですか。その者こそがこの世界に魔王を誕生させた張本人だったという訳ですね」
「その人、雨雲の杖を持っていました」
サチがこう付け加えると、フォズは何かを思い出した様子で立ち上がる。
「もしかしたら…」
「フォズ大神官様?」
「古い文献に気になる記述があったのを思い出しました。少しお待ちください」
フォズが席を外すと、一行はざわつく。
「古い文献って…。あの女、そんなに昔から生きてるのか!リリ姉のオバン発言は間違ってなかったって訳だ」
「そんな事だろうと思ったのよー」
「たまたまだよね、リリ姉」
「…。バレた?」
「だけど、雨雲の杖を持っていたなら、あの人は天地雷鳴士かもね」
「カミナリ落としたり、霧に包まれたりしてたからな」
そしてフォズが分厚い本と共に戻って来た。
「お待たせしました。こちらに迅雷天ミカヅチらしき女性の記載があります」
それによると、その昔、黒王と呼ばれる人間の王様がいたそうな。
迅雷天はその黒王に目を付け、その体と邪悪な魂を融合して魔王を生み出したとか。
「どうしてその黒王様?が狙われたんだろう…」
「ど~せ、悪どいヤツだったんじゃねぇの?」
「魔王は絶対に倒せないと、ミカヅチは言っていました。その理由は、魔術で生み出した存在だからとかでしょうか?」
「どうでしょう。こういった文献は数多く存在し、全てが真実とは限りません。かつての英雄達が、その命と引き換えに封印してきたというのは間違いないのですが」
「そうするしか方法がなかったとしたら、やっぱり絶対に倒せないのは本当って事になりますよね」
「だけど、どうして倒せないんだろう。魔力で造られたなら、魔力で消せそうだけど」
「一理あります。迅雷天はかなりの魔力の持ち主のようですから。そしてこれが事実ならば、迅雷天が魔王を誕生させた目的も気になります」
「はい。きっと私達の知らない事実がまだまだあるんです。これから神の国に行って、女神さまに直接話を聞くつもりです」
「そうですか。ついに神の国へ行かれるのですね」
「何度もミカヅチが壊しやがってるが、何度だって復元して何が何でも行ってやるさ」
「復元するのも運転するのもアギロさんだけどね」
「神の国への交通手段があるとは驚きました。そんな天の箱舟が現代に現れたのは、神の御心なのかもしれません」
「女神さまに会いに行くべきよね。特にサチは」
「そう思います。私も神に仕える一人として、神官達と過去について調査をしてみましょう」
「よろしくお願いします」
「サチさん、一つご忠告させてください」
「はい」
「お話を聞く限り、迅雷天は今までの四天王とはタイプが違うようです。何か底知れぬ恐ろしさを感じます…。くれぐれもご用心ください」
話を聞いただけで、フォズはミカヅチの異様さに気づいた。
さすがは女の直感、である。