誘導されるままに地下へと足を踏み入れた一行は、その光景に思わず息をのんだ。
「何だ…ここは?」
「周りに巨大な木の根っこがいっぱい!」
世界樹の存在を知っていたはずのアギロとサンディも驚くほどの異様さだ。
それを受けミカヅチが解説する。
「ここは世界樹の真下よ。根の中に何か見えるでしょ?ちゃんと見て」
「見るからに禍々しい何かが光ってるアレか?」
「そう。あれこそが封印された魔王様の心臓よ」
「「魔王の、心臓?」」
ボシュとサチが反射的にミカヅチと会話する。
「それだけじゃないわ。あの木の根一つ一つに、かつての英雄達の魂が宿っているの」
「英雄の、魂…」
「英雄達は命と引き換えに世界樹の一部となり、女神と共に魔王様を封印してるってワケ」
「そんな…っ」
「その身を犠牲にって、そういう意味なのかよ…」
震える妹の肩を抱き寄せてボシュがつぶやく。
「良く見なさいサチ。いずれあなたもこうなるのよ。本当にそれでいいの?それよりも、英雄達の魂を解放してあげたいとは思わない?」
「…どうすればいいの」
「簡単よ。あなたの手で木の根を打ち払えばいいの」
「待ちなよサチ、それって何か変だわよ!」
「そうだよ、乗せられるな、サチ」
かつてサチ達は不思議な体験をして来た。
一つは四天王の一人暴嵐天バリゲーンとの激戦の最中の事だ。
サチの持つ光の玉が突如輝き出し、光の中から一人の男性の幻影が現れ手助けを受けた。
ジャンピエの存在もそうだ。
遠い昔に活躍した人間が、束の間、共に戦う仲間に加わった。
サチは彼らと約束したのだ。いつかこの手で魔王の呪縛からこの世界を解き放つと。
「迅雷天。私達は英雄達の遺志を継がなければならないの。そして必ず魔王から世界を救う!」
「あらそう。残念ね。でもあなたならきっとそう言うと思ってたわ。だからこそ、わざわざここまで連れて来たんですもの!」
そう言うや、サチに向けて雷撃を放つ。
「きゃーっ!」
「サチ!」
「サチー!」
飛ばされたサチは木の根に激突。途端に根がまばゆい光を放って揺らぎ始める。
「何が起きてる?!」
「根っこがうねうね動いてるんですケドー!」
「世界樹が新たな力と融合しようとしているのよ」
木の根は大きく開き、サチを飲み込もうとしている。
「この時を待っていたのよ!悪いけど、魔王様の心臓はいただいて行くわね~」
「それが貴様の目的か!マズいぞ、サチを木の根から引き離せ!」
「お勧めはできないわね~。融合しかけた体を無理矢理引き離したりしたらどうなるか…サチの体はバラバラになっちゃうかも?」
「そんなっ、どうしたらいいの!」
するとその時。またも不思議な出来事が起きた。
「忌まわしき者に裁きを!」
鋭い衝撃と共に、サチの体は木の根から解放された。
「サチ、大丈夫か!今の技、どっかで見た気が…」
「危ないところだったわね。間に合って良かった」
白銀のスーパーロングをたなびかせた可憐な女性が立っていた。
それは皆が探し求めていた人物。
「ゼアル!どうしてここに?生きていたのね!」
「サチ。あなたはここで死んではいけない」
「もう少しだったのに…よくも邪魔をしてくれたわね?一体何者かしら」
突如現れたゼアルが沈黙のままミカヅチに視線を向け続ける。
その視線を受けたミカヅチは何かを察したようだ。
「ふ~ん…。まさかこんな所に現れるとは?まあいいわ、ここは退散させてもらいましょ」
迅雷天は一人逃げ出す。
「後を追いましょう、ここで逃がしたら厄介よ」
「地上に向かって行ったのだ、逃がすものか!」
いち早く飛び立ったグリザードがミカヅチに追いついた。
「休戦交渉は決裂だな。今度こそ決着をつけてやる!」
「自惚れないでグリザード。私があなたごときを相手にすると思う?この子と遊んでなさい!」
二人の間に現われたのはまたもゴーレムだ。
先ほど倒したゴーレムが復活したらしい。
「迅雷天の力で操られているようだ」
グリザードに追いついたゼアルが続く。
「操られているという事は、意志を持たないという事ね」
「差し詰め、破滅のゴーレムと言ったところか」
「ナイスネーミング!」
「って感心してる場合じゃねーだろ!」
さらに追いついたリリとボシュも会話に加わる。
ゴーレムの継ぎ目から禍々しい紫色の光りが溢れ出している。
「グゴゴゴ…」
「来るぞ!油断するな!」
今回のゴーレムは物理攻撃だけではなく、呪文も操れるようだ。
「ドルマドン!」
「うおっ、何だ?!コイツ半端なくパワーアップしてやがる」
「マホカンタ!」
「マズいわ、呪文が返される…アイミー魔法使っちゃダメ!」
「サイコストーム!遅いよ、もう放っちゃった!」
アイミーの技が跳ね返ってリリに直撃。
「きゃあ~!!せっかく今回は玉じゃなくサマーメモリー持ったのにっ、マジックバリアやってる暇ないわ、自分にベホイミー!」
「リリ姉ゴメン…!」
「オーバーヒート、オーバーヒート!」
「今度は何だ!」
「アイツの攻撃力がアップした、気を付けて!」
何だかんだとてんやわんやの一行であったが、いつの間にか勝利していた。
「皆、よく頑張ったわ。リリ姉大丈夫?」
「うん、どうにか。改めてアイミーの力を実感ってカンジ?」
「ホント、ゴメ~ン!」
「呪文はああして返される事もあるから気を付けよう」
「肝に銘じます…」
「そんなに落ち込まないで?アタシも油断してたんだ、今度は返されたのを返し返してやるっ」
こんな反省会を開いているところに、倒したはずのゴーレムが再び起き上がる。
「グ、ゴゴゴ…!」
「迅雷天の力が及んでいる間は、どうやっても倒せないようだ」
「じゃあどうすんだよ!」
「邪悪な力を断ち切る…それが黒い天使の力」
そうつぶやいたゼアルの体から、メラメラと赤紫のオーラが湧き上がる。
「忌まわしき者に…鎮魂を!」
再びゼアルの必殺技が炸裂した。
ギロチン台のような装置が突如現れ、空間を断ち切る。
「何度見てもヤベー技だな…今度こそ倒したか?」
倒れたまま動かないゴーレムを見てつぶやくボシュ。
「どうやらそのようだ。だが、迅雷天には逃げられてしまった」
「残念だけどそのようね」
「ゼアル、黒い天使って何…?」
「今はまだ話せないわ」
「じゃあ、迷いの洞窟で白い花びらを残してくれたのはあなた?」
ゼアルの髪飾りを見てサチは思った。そこには同じ白い花が飾られていたから。
「サチ。私はあなたに大きな借りがある。だから今回はそれを返しに来た。けど…次に会う時、私はあなたの味方であるとは限らない。それだけ覚えておいて」
「え、それって…どういう意味?」
「いずれ分かる時が来るわ」
そう言い残し、ゼアルは振り返りもせずにその場を去って行った。
サチ達とアギロ、サンディだけが残された世界樹の地下空間は、静寂と虚脱感に包まれる。
「サチ、これからどうする?」
「アギロ…心配してくれてありがとう。正直いろんな事がありすぎて…頭の中が整理できてない」
「ちょっと~!しっかりしてよ?リーダーがそんな弱音吐いてどーすんのさ!」
「迅雷天がこのまま引き下がるとは思えん。必ずまた魔王の心臓を奪いに来るはずだ」
「そうよ!なのに私達、番人をやっつけちゃった!」
「ああ。だからしばらくの間は俺がここを守るとしよう」
「グリザード…」
「サチ。一人で全てを抱える必要はない。お前には共に戦う仲間がいる。それを忘れるな」
「そうだぜ!何かあれば遠慮なく言ってくれ。俺も力になる」
「そうそう、アタシもね!ギャルパワー舐めるなってカンジ?」
「アギロ、サンディ…皆ありがとう」
その時。どこからともなく不思議な声が聞こえてくる。
『サチよ。私の声が聞こえますか?』
「これは…女神さま!」
『私は魔王を封印するため力を費やしています。多くを語る時間はありませんが、許す限り真実
をお話します。地上の世界樹の元へ来てください』
「ほらサチ、行こうぜ!」
「行こう!」
皆に励まされ、サチは強く頷いた。
「うん、行く。私、女神さまに聞きたい事が山のようにあるんだから」
地下を出て地上に戻って来ると、世界樹の下に見覚えのある姿が待ち構えていた。
『サチよ。あなた達は魔王の正体を知ってしまいましたね…』
「はい。女神さまは、魔王から世界を救うために世界樹になっていたんですね」
『ええ…。ですが、私も父である神に創られた存在です。私一人の力では魔王を封じる事はできませんでした』
「だから英雄達の力が必要だったのですか?」
『私もできる事ならば、あなた達人間にこんな重荷を背負わせたくはありませんでした。ですが…。他に方法がなかったのです』
「それじゃあ、これから先も同じ歴史が繰り返されるって事?」
「何人もの人がああやって犠牲になって行くんですか…」
「サチも世界樹の一部になって、魔王を封印しろって言うのかよ?」
そんなのヤダよ!と叫ぶアイミー、そしてリリ。
『そんな事は、させま…せん。なぜなら…サチ、あなたは…特別な、存在…なのです、から…』
言葉は次第に途切れ途切れになり、そして女神の姿は消えてしまった。
「結局、最後になんて言おうとしたんだ?」
「肝心のところが何も分からなかったわね」
「でも、そんな事はさせないって、サチは大丈夫って事だよ、きっと!」
「だよな。そうだよ、なあサチ!」
「特別って、何…?」
どこか不満気なサチの表情に、3人は気づいたが触れずにいた。
その頃、暗闇の世界では…。
『迅雷天よ…失敗したのか?』
「申し訳ございません。思わぬ邪魔が入りまして」
『我が肉体の発掘は済んだ。残るは…心臓のみ』
「必ず手に入れますとも。魔王様の復活は誰にも止める事はできません。だから、覚悟してね、セレシアお姉さま?」
この会話により、ミカヅチと女神は姉妹である事が判明。
ボシュの主張は大当たりであった。