第107話:翼なき天使たち
異世界に存在する浮き島は、サチ達一行とミカヅチが去り元の静けさを取り戻した。
護衛のために一人残ったグリザード。
世界樹の根元で体を丸め、束の間の休息を取っている。
世界樹となった女神セレシアは一人、沈痛な面持ちで誰にともなく語りかける。
『間もなく嵐が来るでしょう。世界の運命を変えてしまうほどの、とても大きな嵐が…』
セレシアは思う。人間達に抗う術はない。
神に等しい存在に抗うには、遥か遠い昔に封じたあの力でなければ…と。
・・・
この世界にまだ天使が存在した、遠い昔にさかのぼる。
天使界に、突如天変地異とも呼べる出来事が発生。
想像を絶する衝撃により天使界は貫かれ、二人の天使が地上へと振り落とされてしまった。
サチによく似た守護天使その名もサチと、守護天使ナイン。
二人は、倒れていたところを村の娘に助けられていた。
「もうすっかりいいみたいね。あの大地震でどっかから落ちたんだろうけど、ホント危ないところだったのよ、二人とも」
「本当にありがとう」
「助かりました」
自分達が天使である真実を娘に伝える事はできない。
二人は当たり障りなく答える。
ここで疑問が生じる。天使の姿は本来人間には見えないはず。
「天使界の異変が地上にも大地震を起こしたみたいだね」
「私達、羽がなくなってる」
「うん。頭の輪っかも。きっとあの異変に関係あるんだと思うけど…」
「…もう私達、天使じゃなくなっちゃったの?」
こんな疑問や不安を抱えながらも、娘の元に身を寄せて穏やかに過ごす日々が続いた。
しばらくしたある時、ナインとサチの前に一人の男の霊が現われた。
それは娘の父であった。
亡くなった後も娘の事が気がかりで昇天できずにいるらしい。
二人は、恩返しも兼ねて密かに行動に出る。
父の霊から事情を聞く事に成功、娘との間を取り持ち、見事問題を解決した。
そうして晴れて父の霊は天に召された。
「良かった、これであの子に、少しは恩を返せたかな?」
「だね。やっぱ私達まだ天使みたい。良かったー!」
そんな現場を目撃していた一人の妖精がいた。
「ちょっとアンタ達。ただの人間なのに、霊を昇天とか何なのさ」
「ええと…こう見えて僕達は天使なんだ。それよりキミは?」
「フフン。アタシは謎の乙女サンディ、こう見えて天の箱舟の運転士よ!」
「「…」」
「なんか怪しいけどー。さっきの見ちゃった手前、アンタ達の事信じる事にする。ねえ、箱舟乗ってみる?」
「怪しいのはお互い様だよね」
「全くよ。でも箱舟乗る!」
不審に思いつつも、ナインとサチは箱舟に乗る提案を受け入れる。
これがどういう乗り物かは知っているから。
「どう?なかなかイケてんでしょ。やっとここまで直したんだから!」
「壊れちゃってたんだね。大変だったね」
「ねえサンディ。私達、天使界に戻りたいの」
「マジに天使ならそう言うと思った。アタシもあっちがどうなったか確認したかったし。それじゃ早速行くよー、スイッチ、オンヌ!」
ところが箱舟は微動だにせず。
「やっぱダメか。アタシ的には天使を乗せれば動くと思ったんですケド!」
「え、動かないの?直したって言ったよね」
「動かないモンは動かないの!」
「きっと何か足りないんだよ。燃料とか?」
「そんなモン補給してるとこ見た事ないんですケド!」
途方に暮れる3人。
「もー、こんな事になってるのにどうして神様は助けてくれないワケ?こうなったらアンタ達、いっぱい人助けして星のオーラを集めて!それを目印に神様が見つけてくれるはず!」
「…。よく分からないけど分かったよ。じゃあ、どこか町に降りよう」
「もー。人使い荒くない?あ、天使使いかー」
素直なナインと不満そうなサチは、取りあえず星のオーラを集める事ととなった。
・・・
娘と村に別れを告げて、新たな町にやって来る。
通りを歩いていると、兵士達が屈強な男達を集めて何やらやっている。
話を聞いてみれば、この国は今謎の黒騎士に狙われており、退治できる人間を集めているのだとか。
サンディに急かされ立候補した二人は、すぐに城へと連れて行かれる。
行ってみれば、王女と王様が言い合っていた。
「黒騎士の目的はわたくし。わたしくが赴けば国は助かります!」
「あんな不気味な男に娘を渡せるか!」
「…あのー、話を聞かせてもらっても?」
「陛下、この者達が退治してくれるそうです!」
「おおそうか!約束の時までに娘を湖に届けろと言っておる。断じて許せん!湖へ行き、敵を討ち取ってほしい」
『これってば人助けのチャンス!国中から感謝されちゃえば、星のオーラわんさと集まるっ。いきなり目的達成!』
サンディが二人の耳元で騒ぎ立てるが、この場でその姿も声も二人以外は認識していない。
チラリとサンディに目を向けてから、目を合わせる二人。
小さく頷くと、ナインが答えた。
「分かりました。やってみましょう」
すぐに湖に行ってみるも誰もおらず。
「呼んどいていないって何?帰ろ帰ろ!と、帰ったふりして振り返れば、的な?」
サンディが振り返ると…。
黒い馬に乗った黒い鎧姿の男がいつの間にか現われていた。
『貴様らに用はない…。姫君はどこだ…』
「出たー!!」
『姫君を差し出せ!我が麗しの姫君を!』
「アンタ達、あとヨロシクっ」
サンディがその場から離れたのを確認後、戦闘態勢に入るナインとサチ。
「ここは私に任せて!そーれマホトーン!」
サチの放った呪文により、男の霊はすぐに力を失った。
『何ゆえ姫君は貴様らのようなものを私の元へ…。メリア姫はもう私の事を…あの約束は偽りだったのか!』
「メリア?あそこの姫って、確かフィオーネっしょ」
『そ、それは…誠か!?』
「本当ですよ。ね?」
「うん。間違いなーし」
『そうか…私は深く長い眠りに就いていたのか』
男は例の大地震によって、この見知らぬ地で目覚めたらしい。
記憶を失っていたが、この国の姫を見てメリア姫を思い出したのだ。
『私の名はレオコーン。メリアは我が祖国の姫君。私達は婚礼を控えていたが、邪悪なるものの呪いで私だけが闇の世界に閉じ込められてしまったのだ。恐らくもう数百年は経つ』
「数百年ってそれ、もうだたの人間の姫が生きてるはずないんですケド!」
『私は…遅すぎたのか…』
そこへ白いドレスの女性が現れた。
「遅くなどありません。黒バラの騎士よ…」
『これは…メリア姫?…なぜ』
「約束したではありませんか、ずっとずっと、あなたの事を待っていると…」
『…。ありがとう、異国の姫、そして旅人達よ。もう思い残す事はない』
そう言って黒騎士の霊は消えて行った。
「これって解決って事でいいカンジ?」
「黒騎士の魂が救われて良かった。私がメリア姫でない事は気づかれていたようですが」
「あなたはやはりフィオーナ姫でしたか」
やって来たのはこの国の王女フィオーナだった。
「昔に聞いたわらべ歌に、黒バラの騎士と姫が出てきたの。騎士はきっと姫に会いたかっただけ。そう思って、昔風のドレスで来てみたのです」
「ありがとう。きっと僕達だけでは黒騎士の魂を救えなかった」
「本当に!ナイスな機転だわ。さあ姫、王様が心配しています、早く城へ帰りましょう」
城にて王様から盛大に感謝され、事件は解決。
「見て見てアンタ達!空にたくさん星のオーラが出てるよ!」
だが二人には何も見えない。
「マジ~?これだけ出てれば神様も見つけてくれる!さ、天の箱舟のとこまで戻るよ!」
戻ってみるも、残念な事に何も変化はない。
「本当はどうなるの?」
「舟が光って動き出すの!」
「予想が外れたねー」
「きっと時間がかかるのよ。もう少し待てば…」
待つも変化なし。
「マジすか…アタシら、神様に見捨てられちゃった?」
とその時、ナインとサチが光り出した。それと同時に舟がピクリと動いたではないか。
「もしかして、アンタ達に天使の力が戻りかけてる?」
「もっと人助けすれば、元の姿に戻れるのかな」
「それだ!」
という事で、二人は再び旅を始め多くの人々を救って行った。
「なかなか手際いいじゃん!見えないだろうけど、今あちこちに星のオーラ出ちゃってるよ!」
「そうなんだね」
「見たかったなー」
「こんだけ人を幸せにしたんだから今度こそ!さ、ダッシュで戻るよー」
二人が箱舟に乗ると、明らかに内装が煌びやかになったではないか。
「天の箱舟が僕達を天使と認めてくれたのかな」
「ようやくね」
「行けるっ、今度こそ行けるー!スイッチ、オーンヌ!」