第10話:さらわれた子供たち
一行が最初に訪れた村では、子供達が魔物にさらわれるという事件が頻発していた。
「早速退治しなきゃならない魔物がいるみたいね」
「全員ぶっ倒して子供達を助けようぜ!」
「ようやくアタシの雨雲の出番かしらん?」
これまでほぼ出番のなかったリリ。杖を掲げてやる気十分だ。
ところがサチからの反応がない。
「おいサチ。どうしたんだよ、黙り込んで」
「お腹でも壊した?」
「ってアイミー、朝からアタシら同じもの食べてるのよ?一人だけ壊すのは変じゃない?」
「そっか。ねえサチってば!」
前方の森を見据えたまま無言のサチが、ようやく振り返った。
「あっ、なぁに?」
「なぁに?じゃねーよ!その帽子被ってると、マジふざけてるようにしか見えねぇな!」
「いいじゃない、サチが気に入ってるんだから?」
「って言いながら、さっきもアレ見て爆笑してたよなぁ?」
「あら何の事?ねえアイミー」
「ホント、何の事?」
ボシュは舌打ちをして背を向け、その先にいるサチの隣りに移動する。
「なあ。あの森、何かニオうよな」
「ええ。今回はちょっと手こずるかも」
「何だよ、そういう事考えてたなら言えよ!で、子供達は生きてると思うか?」
「どうかな。エサとして連れ去られたのでなければ、可能性はあると思う」
「エサならその場で食べない?」
「保存食という事なら持ち帰るんじゃない?」
会話にリリ、そしてアイミーが加わった。
村の人々の話では、魔物は見目の良い子供達だけを連れ去っているという。
見た目が食欲に直結する事もあるだろうが、単に愛でるためというのも考えられる。
魔物側の意見も聞きたかったところだが、相変わらずジョニーは不在だ。
「それでどうする?いきなり乗り込むのはやめたいんだけど」
「いつも行き当たりばったりだからね~アタシら?」
「子供達が生きてると仮定してだけど、あっちに人質がいるからには、無茶はできない」
「お、ようやくまともな回答!」
「お兄ちゃん!冷やかし禁止。真面目な話よ」
「へーへー。おっかねー」
魔物より、と出かかって慌てて飲み込む賢いボシュ。
これ以上怒らせてはチームワークの乱れに繋がる、かもしれない。
「あらかじめ、どこにどんな魔物がいるのか分かった方がいい。事前調査しよう」
「妥当だわね。でもどうやって?」
「森で魔物に出くわして生きて帰れた村人に、聞き込みするのはどうだ?」
「うん。いい考え!じゃあボシュとアイミーでお願い」
「アタシは?」
「リリ姉は私と来て。今は子供だけを狙ってるみたいだけど、リリ姉は危ない気がするの」
「狙われちゃうかしら?オトリになってもいいけど!」
「ダメ!絶対に。連中を甘く見てはダメよ」
険しい表情で言い放ったサチを見て、リリがやや面食らう。
「サチったら!どうしたの、そんなムキになって。半分は冗談だよ?半分、だけどね」
「ゴメン、大きな声出して。オトリは、どんな魔物がいるか探ってから考えてもいい?」
「もち。じゃ、そういう事で」
・・・
こうして2組に分かれて調べを進める事となった。
「で、アタシらは何をするの?」
「武器は持ってるけど、私以外にはガードする盾を持ってないでしょ。それを準備する」
「言われてみればそうよね。敵が強くなれば必要だわ。でもそれなら二人も一緒に行った方が良くない?」
「ここで手に入る物では選り好みはできない。今は3人とも同じ物で我慢して。後からいくらでも好きなのを装備すればいい」
「うん、そうね、分かった。それに皆で行ってたら聞き込みの時間減るし。そうとなったら、さっさとゲットしに行こ!」
「おー!」
いつでもノリのいいサチは、拳を天に突き上げて答えた。
向かった店で、角型のだいだい色の盾を3つ購入。
「贅沢は言えないとはいえ、これかぁ…。サチのカッコいいよね~」
「ゴメン、これは剣と一緒に家から持って来たヤツだから」
「サチの家って、何してるとこ?」
「う~ん。そうだな、平たく言えば国を守ってる」
「え、それってまさか、国王様とかじゃないよね?」
「それ以上は秘密」
「ええっ、ちょっと!まさかアンタ、お姫様?!」
「大袈裟。姫なんかじゃないよ。見たら分かるでしょ?あ、でも皆には内緒にしてね?」
「…って結局どっちよ?」
3つの盾を抱えてリリが呆然とする。
だがしかし、目の前のサチはいつも通りの平凡っぷりを全面に出している。
本人が言うように姫というよりは変わり者の町娘だ。
「ま、いっか~。サチはサチだしね」
「うん。リリ姉ならそう言ってくれると思った」
二人は微笑み合った。
やがて聞き込みから戻って来た二人と合流する。
「盾か。いかつい顔がデザインしてあるが、敵を威嚇してくれたりするのか?」
「魔物の方が怖い顔してるんじゃない?」
「言えてる!これね、親分の盾っていうらしいよー」
「…私もこれ持つの?」
「アイミー。我がまま言わない!いいじゃん、皆一緒で」
「取りあえずの品だから。今回はそれ使って。軽い攻撃なら受け流せるわ」
「分かった。ないよりはマシよね」
アイミーは自分にこう言い聞かせるのだった。
その後宿に落ち着いた一向は、聞き込みで分かった情報を共有する。
「えっと、まとめると?コマイヌの化け物と、ネズミの化け物、角が一本生えたウサギ、あと何だっけ?」
「白い毛の生えた雪男みたいなのも見たって人がいたわ」
「オオトカゲとイモムシは毒を吐くらしいぜ」
「転がって来た岩が不気味に微笑んでたっていうのも気になるわね」
「それもあるけど、森にクラゲがいたって言うのもどうなのさ?」
ここまで話し終えた時。
外から壁に体当たりするような、ドド~ンという音が数度響いた。
「魔物が下りて来たのか?一発カマしてくるか!」
真っ先に立ち上がったボシュだが、サチに袖を引っ張られて留まる。
「静かに。何か聞こえない?」
耳を澄ませば微かに声がする。声というのか、ぼよぉぉん…という鳴き声が。
「ジョニじいじゃないの?」
「そうよ、きっとそう!お兄ちゃん、槍は置いて」
「なぁんだ、ちょうどいいから槍の稽古でもしようと思ったのに?」
ドサリと椅子に腰を落としたボシュに替わり、サチが立ち上がって窓を開ける。
「ジョニじい!やっと追いついたね。ちょうど今、退治する魔物の事話してたの。いろいろ教えてほしい」
「遅くなったのである。暗くなる前にと思ったのじゃが。何かと足止めを食ってのー」
「それって、魔物絡みか?」
「ノー、である」
「分かった、ならオンナ絡みだわね!」
ジョニーから否定の言葉はない。
「って、マジで女かよっ…このエロじじ…」
「お兄ちゃん、口が悪すぎ。もっと柔らかく」
「エロジジイはエロジジイだろうが」
言い合う3人をスルーして、サチはジョニーと向き合う。
「狭くて中には入れないよね」
「ここでよい。2階でなくて良かったのである!」
「そうね。じゃあ続き、ボシュお願い」
「ああ。とにかく魔物の種類は多い。目撃情報がないだけで、他にもいるかもしれない」
窓を全開にして、ジョニーを加えた作戦会議が始まる。
「この辺りに生息する魔物は、長期戦にならなければ問題ない」
「毒を吐く間もなく倒せばいいって事だわね」
「その通りじゃ。ただし、おぬしの雨雲を使うのは、他に手段がない場合に限るぞよ」
「サチの剣で一発よ。で、お兄ちゃんが取りこぼしを倒す。いつもの感じでいいんじゃない?」
「それが許されるほど、今回の敵は甘くはないのである」
「そう。今回は敵の種類も数も多い。私の体力が持つかも問題だけど、耐性を持つ敵がいたらアウト。だから、その時にリリ姉の出番よ」
「切り札ってヤツね。悪くないわ」
「あの、私は…?何をすれば…」
「アイミーは状況を見て、スカラで守備力を補ってほしい。皆まだまだガードが甘いから。あなたが頼りよ。それと救出した子供達をお願い」
「うん、任せて!」
頼られて嬉しいアイミーは、満面の笑みで頷いた。
サチのお陰で、リリもアイミーも気分のよい決戦前夜となった。