サチとナインは各地で人々を助け、順調に地上に落ちた女神の果実を集めて行った。
「ねえナイン、今集まってる分を天使界へ持って行っておこうよ」
「そうだね。失くしたら大変だし」
「そっちはいいねー。アタシの人探しは一向に進展ないんですケド!」
こんな不満を言いながら、運転士サンディが最後に箱舟に乗り込む。
すると、いつもとは違う光が辺りを包む。
「なっ、ナニゴト?」
「どうなってるの、サンディ!」
「分かんなーいっ」
慌てる3人。
その光の中から現われたのは…。
何と本場物の天使の男性。背には大きな翼、頭の上に輪っかが浮いている。
その頭は見事なスキンヘッド。
「久しいな、ナイン、サチ」
「えええ、イザヤール様っ!?」
「サンディ、心配ないよ、この方は僕達の師匠だ」
「マジ?!この人がサチのっ」
「だから違うったら!」
「果実を探し歩いていたのはお前達だったのだな。それは私が届けておこう」
「分かりました。それではお願いします、イザヤール様」
何の迷いもなく果実を全てイザヤールに渡すナイン。
するとイザヤールがつぶやいた。
「さすがだな。地上に落ちた果実はこれで全てだ。確かに受け取った、これで…」
この時イザヤールの脳内にある声が響いていた。
『ご苦労であった。約束通りその果実を我が帝国へ送り届けよ』
「今、声が聞こえたような…?」
「僕も聞こえました、果実を帝国へ届けろと!イザヤール様、どういう事ですか?」
「聞こえてしまったか。私に歯向かうと言うなら、お前達とて容赦はしない。ぬんっ!」
イザヤールは強かった。師匠なのだから当然だ。
強烈な呪文が二人を襲う。
「く…っ、イザヤール様を、止めないと…!」
「ダメ、体がっ」
「動けまい、サチ、ナイン。弟子が師匠に逆らう事は許されない。それが天使の理」
「ええっ、ちょっと二人とも何やってんのよ!」
目に見えない鎖で縛られた二人の周りを、サンディが飛び回る。
「…さらばだ」
イザヤールは光と共に消えてしまった。
「果実が持って行かれちゃったよ!って、え~!何アレ、外にヤバそうなのがーっ!」
空を覆っていたのは巨大な黒い竜であった。
その名も闇竜バルボロス。
イザヤールを背に乗せたバルボロスは、箱舟に強烈な攻撃を加えて去って行く。
「これってば、もしかしなくてもピーンチ!また舟がっ、あ~れ~…!」
サンディの嘆きと共に天の箱舟は真っ逆さまに落ちて行った。
・・・
またも二人は地上の人間に助けられていた。
「目が覚めた!お姉さん、なかなか起きないから心配したよ」
「ん…。ここは?」
「僕の家。お兄さんは向こうの部屋。もう目を覚ましてるよ」
「はっ、そうだ、箱舟は?サンディ!」
『ここ~。アタシは無事。飛べるから!それよりアンタよ。酷いケガしたみたいだけど平気?マジ死んだと思ったんだからねっ、グスっ』
「心配かけてゴメンね」
サチが何もない空中に向かって頭を下げるのを、ポカンと見守る家主の少年。
「あっ、頭は問題ないからご心配なく!」
そこへナインが顔を出した。
「サチも目が覚めたんだね。良かった」
「ナイン!私達、結局何がどうなったんだっけ?」
『アタシの箱舟がまた壊されたの!冗談じゃないわよ?』
「うん…。どうやら僕達、お師匠にしてやられたみたいだ」
「きっと何か事情があるのよ。そうでなければ…っ」
「そうだね。僕もそう思う」
「お兄さん達が川から流されて来る前に、この村の上を黒い竜が飛んで行ったんだ」
「「それ!バルボロス!!」」
こう叫んだ二人の前に、新たな人物が現れた。
「やはりお前達はあの竜と関係があるのだな。あんなものに目を付けられればこの村は終わりだ。すぐに出て行ってくれ!」
「叔父…村長さん、そんな言い方はないよ!二人ともケガしてるんだよ?」
「子供は黙れ!不吉な客人になど関わる必要はない。いいな、すぐに立ち去ってくれ」
そう言い残して、終始威圧的な村長は部屋を出て行った。
「…ゴメンよ。この村は元々よそ者を嫌うんだ」
「気にしないで。言い分はよく分かるよ」
『感じワルっ!ナインは人が良すぎだよ~』
「全くだわ。でも私達があの竜を退治すれば文句ないでしょ」
「お姉さん、それホント!?できるの?」
「サチ、そうやってキレないの。空を自由自在に飛び回る敵相手に、勝ち目あるの?」
「動きを封じるとか何かあるでしょ!」
「安易だなぁ」
「何よ。初めから諦める方がダサいわ」
「はあ?今なんて?」
「まあまあ!お姉さん達ケンカしないで。空の英雄グレイナルっていう聖なる竜がいるの知ってる?その竜が力を貸してくれれば、どうかな」
「それは本当?どこにいるの!」
「竜には竜を、って事だね」
「秘密の言い伝えがあるんだ。像の見守りし地に、封じられた光で竜の門を開くべしって」
像の見守りし地は魔獣の洞窟、竜の門はこの村の谷にある事が分かっている。
だが竜の門を開く方法だけが誰も知らないのだとか。
「とにかく行くしかないね」
「ええ。行ってみれば何か分かるでしょ」
「それじゃ、グレイナルさんに会いに行こう!」
「おー!」
「お兄さんもお姉さんも頼もしいなぁ」
二人は隠れて回復呪文を唱え、あっという間に全快した。
「悪者、やっつけて来るからね!ってナイン。どうしたの、黙り込んで」
「…ううん。何でもないよ。それじゃ、行こうか」
少年に別れを告げ、二人はサンディと共に歩みを進める。
「ところで、魔獣の洞窟ってどこにあるか知ってんの?アンタ達」
「私が知る訳ないじゃない」
「…だよね。僕も知らなんだけど」
「えー!ダメじゃん。どうすんのさ」
「サンディは箱舟の修理しなくていいの?」
「そうよ、ほったらかしはよくないんじゃない?神様に怒られるよー」
「こないだ直したばっかよ?やってらんない。あの竜に文句言わないと気が済まないの!」
「あはは…だね」
「ねー」
しばし無言で森を進んで行くと、見覚えのある娘の霊に遭遇する。
『またここへ帰って来てしまった…あの人を見つける事もできずに…』
「キミは…前にもどこかで会ったよね?」
「確か、最初にこっちに来た時だっけ」
『あなた達には私が見えるの?…そんな人は初めて。私はラテーナ。一つお願いを聞いて』
「いいよ。何をすればいい?」
『村に置いて来てしまった大切なものを、見つけて来てほしいの』
言い分によれば、それは村の守護天使の像の足元に隠したそうな。
「任せて!行くわよナイン!」
すっかり人助けが生業となってしまったサチ、そしてナインであった。
向かってみれば、像はボロボロに朽ち果てていた。
「まさかアレ?じゃ、ないよねぇ」
二人の先を飛んでいたサンディが見つけて言う。
「他にないからこれだよ。長い間手入れもされてないカンジー」
「うん。ちょっと悲しい気持ちになるけど、今は探し物が先だね」
それはすぐに見つかった。
ひし形の青い石の付いたネックレスだ。
両側から白い翼が生えたデザインが目を惹く、その名も星空の首飾り。
それを持ってすぐに先ほどの森に向かう。
『私のお願いしたもの、見つかったみたいね』
「どうやらこれで合ってたね」
「あの像の朽ち果て具合からして、これがあまりに輝いてるから心配だったけどー」
『ありがとう…。それはあの人が私にくれた大切な首飾り。天使が近くにいると光を放つって』
見れば青い石は二人が見つけた時から確かに光っている。
「なるほどそういう事!」
『まさかと思ったけれど、あなた達もあの人と同じ…天使なのね』
「と、いう事は、キミの探している人って…」
首飾りを手にしたラテーナ。
『ああ…見える。あの人が…!』
二人に見守られ、ラテーナは静かに語り出した。
『ある時、私は大ケガを負った人が倒れているのを見つけたの』
声を掛けるも返事はない。見ればその人には翼が生えている。
それでも放っておく事はできず、どうにか村へと連れて帰ったそうな。
『私の家で手当てして看病したわ。それが村の守護天使エルギオスとの出会い』
エルギオスのケガも治り、ラテーナは天使に出会えた事を無邪気に喜んだ。
そう、あの時までは…。
突然村に兵士達が押し寄せた。
「この世の全ては我がガナン帝国のもの。例えこんなちっぽけな村でもな!」
村長がすぐさま対応し差し出せるものなどないと訴えるも、兵士は村長の娘に目を付けた。
それがラテーナであった。
「なかなか器量良しの娘ではないか。共に来るのだ。さもなくばこの村がどうなるか…」
村長もラテーナも激しく抵抗したが、兵士の力には敵わない。
そこへ強烈な何かが降って来て兵士を吹き飛ばした。
次々に天からイカヅチが落ちて兵士達を倒して行く。
そんな事ができるのは、守護天使エルギオスただ一人である。
「…その力、貴様はまさか…っ」
「ガナン帝国に逆らうなど、それがどれだけ愚かな事か、後で思い知らせてくれる!」
『私のせいであの人は…。だから私は、あの人を探し続けなければ…。これを見つけてくれたお礼に、何か私にできる事があれば言って』
「って、その後どうなったの?そのエルギオスさんが何かされたって事よね」
「アタシも超気になるー!」
サチの質問に答えはない。ラテーナは無言で待っている。
「サチ。今はこれ以上の詮索はやめよう。キミはこの村の人だよね?」
『ええ。遠い昔だけれど…』
「もしかして、魔獣の洞窟ってどこにあるか知ってたりする?」
『それなら知っているわ。案内しましょうか』
「「お願いします!」」
かくして二人は幸運にも洞窟の場所を知る事ができたのであった。