ラテーナの案内で無事に目的地に到着したナインとサチ、そしてサンディ。
『ここが魔獣の洞窟よ。封印を解く方法も知っているわ』
「「じゃあ、お願いします」」
ラテーナが背を向け、何やら唱えてから二人を振り返る。
『後は任せるわ。私はあの人を見つけなければ…』
そう言い残して消えた。
見たところ周囲に変化はない。
しばし無言で顔を見合わせる二人。
取りあえず何もない空間に向き合っていると、どこからともなく重々しい声が響いた。
『勇気ある者よ。光の道を矢と変えなんじに託す。竜の門にてこの矢を放て』
「キター!!」
見ればナインの手にいつの間にか光の矢が握られているではないか。
「ちょっとナインっ、それは?」
「…いつの間に?」
「細かい事は気にしない!よーし、アンタ達、ソッコー村に戻るよ!」
急ぎ村まで戻った二人プラス一は、その足で谷へとやって来る。
「ここでこれを放てばいいんだね。僕がやっていいのかな」
「アタシが出来るワケないじゃん。サチは若干やりたそうだケド」
「滅相もない。ここは持ってた人がやるべきー」
弓に矢をつがえ、ナインが勢い良く解き放つ。
矢が飛んだ軌道に放物線上に光が走る。
それはまるで空に橋がかけられたようになった。
「凄ーい!光がいつまでも消えない!まさかこれはアンタ達にも見えてるよね?」
「見えてる見えてる。キレイ!」
これには村中の者が気づいたであろう。
事情を知っていた少年と村長が真っ先にその場に駆け付けた。
「お兄さん、お姉さん!」
「何と…これが言い伝えにある光の橋か!」
「凄いや!これなら叔父さんも信じるでしょ?お兄さん達が黒い竜を倒してくれるって」
「うむ…。これまでの無礼、お許しくだされ。伝説によれば、この橋を渡れば空の英雄の住むドミールです。ご武運を祈っておりますぞ!」
「「行って来ます!」」
見送られながら二人が橋を渡って行く。
その後をサンディがひらひらと飛んで追い駆けた。
こうして辿り着いた橋の終着点ドミールにて、まずは住人に話を聞く事にした。
「済みません、僕達バルボロスを倒す事になりまして」
「空の英雄のグレイナルさんに会いたいんですが、何か知っていますか?」
「闇竜バルボロスの事か?あれは魔帝国ガナン共々、300年前にグレイナル様が倒した」
「それがまだいるんです」
「えっと、別の世界に?」
「…。は?」
首を傾げつつも、これ以上関わりたくないと思った住人の男性はあっさり教えた。
「グレイナル様ならこのドミール火山の山頂にいらっしゃる」
「「ありがとうございます!」」
「アンタ達、頭おかしい人と思われたかもよ?」
「「気にしない気にしない!」」
「だけどさ、300年も前の人、じゃなくて竜なんて、もしかしてゾンビだったり?」
「やめてよー」
「そうだよ。サンディ、お願いだから本人の前では言わないでね?」
着いてみれば火口の熱気が半端ない。
3人の元へ大きなものが近づいて来た。
「誰じゃ?里の者ではないようじゃな」
「あっ、あなたがグレイナルさんですか?」
「さよう。ワシは空の英雄グレイナル。ムッ、ガナンの兵士と同じ不快なニオイ!さてはワシの命を狙ってきおったか!」
「ええ?違います、僕達ガナンは関係なくて」
「そう、バルボロスを倒すのに力を貸してほしくて!」
「あ奴はワシが300年前に倒したはず。お前達は信用できぬ。すぐに消え去れ!」
突如怒り出したグレイナルに、あっという間に追い返されてしまった。
「思った通り、すっかり老いぼれちゃってたねー」
「英雄って言うのは大昔の事だし、仕方ないって」
「話も聞いてもらえなかったのはイタイね」
火口の熱さに耐え切れず、一度里へ戻る事にする。
ドミールの里に戻ってみれば、魔物が暴れているではないか。
それはバルボロスではない別の魔物。見た目は人型フクロウだ。
「何アイツ、キモっ」
「同感!マジでキモいんですケドー!」
「あれは…。ゲルニック将軍!」
「ナイン、知ってるヤツ?」
「うん。前にちょっとね」
魔物がこちらに気づいて話しかけて来た。
「おやおや。まさかあなたが絡んでいるとは?どうせ皆さん、もうすぐこの地上から消える運命。それまで精々あがく事です。ホーッホッホッ」
そう言うや目にも止まらぬスピードで空の向こうに飛んで行った。
「超不穏な事言い残してったケド!どうすんのさ!」
「…僕達だけじゃ太刀打ちできないかもしれない。やっぱりグレイナルの力が必要だ!」
「アイツ、そんなに強敵なの?」
大急ぎで火口に戻った3人は、再びグレイナルと対面すべく声を張る。
「「グレイナルさん、もう一度話を聞いてください!」」
「くーださい!」
「サンディ、それじゃ何かもらいに来たみたいだよ」
「手伝ってやってんのに、うっさいわ。あ、ほら、出て来たヨ!」
「また貴様らか」
「ドミールが攻撃されたの!お願い、力を貸して!」
「里で起きた事は知っている。お前達の言っていた事はどうやら事実だったようじゃ。ゲルニックめ、里を攻撃するなど許せぬ!」
「それじゃあ…」
「手を貸そう。お前達の名をまだ聞いていなかったな」
「ありがとうございます!羽はないですが守護天使、ナインとサチです」
「ふむ。天使であったか。ならば可能やもしれぬな…」
「「何がですか?」」
「お前達がワシの背に乗れば、今のワシでも再び空を飛べるはず、とな」
「えー、空飛べなくなってたの?!それヤバくない?」
サンディの嘆きには聞こえない振りで、グレイナルは二人に向けて言う。
「…。さあ天使達よ。この背に乗るがよい」
そこへ見計らったようにゲルニック将軍が現われた。
「そうは行きませんよ!泳がせればグレイナルに接触すると思っていました。誘き出してくれて感謝します」
「くっ、付けられてたのか」
「気配も感じなかったわ。ナインの言うように強敵みたいね」
「前回は運が良かったけど、…今回はどうかな」
「ナニナニ、ナインたら運で勝つ気?いつからそんな弱腰オトコになったのさ!」
「同感ー」
「やってみれば分かるよ!先手必勝、えーい!」
ナインが先に呪文を放ったが、なぜかダメージを与えられない。
「ウソ、何で?私も!えーい!」
「ホーッホッホッ、息の根を止めて差し上げましょう!」
「来るよ、サチ!」
「え、何が?」
「ザラキ!」
それは確率で即死を与えられる呪文だ。
「そういう事ね…。やられたっ」
「サチ!」
「キャー、サチが死んだ!」
「まだまだ、ザオラルー!」
「ふぅー、生き返ったぁ。ありがとナイン。守りの盾使ってたのに殺されたっ、何てヤツ?」
そんなこんなでワタワタしながらも、一度戦った経験のあるナインの戦略により何とか勝利をもぎ取った。
「私の計算は…あなた達のせいで大きく狂わされました。実に腹立たしい。…ぐふ」
「ヤッター♪さすがアンタ達!」
「よくやった、ナイン、サチ。さあ、ワシの背に乗るのじゃ」
二人は同時に大きなその背に飛び乗る。
するとグレイナルに、かつての力がじわじわと戻って行く。
次の瞬間、巨体は力強く空へと飛び立った。
・・・
ついにバルボロスと対面の時がやって来た。
「来たか、グレイナル。かつてのようには行かぬぞ!」
「バルボロス…まさか生きていたとは」
「私はさらなる力を得たのだ。貴様とは違う!己の非力さを思い知るがいい」
バルボロスは闇の力を高め、ドミールの里に向けて鎌首をもたげる。
「何をする気だ!」
「貴様をただ殺すのではつまらん。その前にあの里の最期を見せてやる」
「いかん、このままでは…!ナイン、サチ、短い間だったが世話になった。餞別にこれをくれてやる。300年前に帝国の将軍を倒し手に入れた物じゃ」
二人が受け取ったのはガナンの紋章だ。
「グレイナル!何をする気!」
「生きよ、守護天使達よ。さらばじゃ、ワシはワシの里を守る!」
グレイナルは二人を背から振り落とすと、その身を盾として里への攻撃を受ける。
里を守り抜いたグレイナルの巨体は、凄まじい衝撃と共に空に散った。
「何なのこの展開っ!英雄やられちゃったじゃない!知ーらないっと…」
サンディはこうつぶやくと、二人を置いてどこかへ飛んで行ってしまった。