ナイン達と別れたアギロ。
外へ出て見ればまだ数名の囚人達が残っているではないか。
「アギロの大将が来たぞ!外の兵共はあらかた片づけたぜ!」
「おいお前ら、何で逃げてないんだよ!」
「そりゃリーダーのあんたと新入り、置いて行けないだろう?」
「…こんの、バカ野郎がっ」
束の間、肩を抱き合い涙ぐむ男達。
そんな感動的シーンの最中、兵の生き残りが起き上がる。
「浮かれている場合じゃないぞ?聞こえる、破滅の羽音が!帝国に逆らう者に災い、あ、れ…」
今度こそバタリと倒れた兵。
直後に空が見る見る闇に満ちて行く。
その彼方から現れたのは闇竜バルボロスだ。
上空にて留まったまま、バルボロスは闇の力を集めてまたも鎌首をもたげる。
その先はナイン達がいる地下牢だ。
「まだ中に大勢いるだろうに?味方ごと焼き払う気か!」
「あんなの相手にどうしろってんだ、もう終わりだ…!」
「諦めるなお前ら!まだ間に合う、出口に一直線に走るんだ!」
「でもアギロの大将は?」
「俺は大丈夫だ。考えがある。ほら早くしろ!」
「…分かった、もうそれしかない。イチかバチか!」
「アギロ、絶対に死ぬなよな!」
皆が決意を固め一斉に走って行く。
「俺は死ぬ気はないさ。これでいい。さてと、俺の仕事はここからだぜ?」
グレイナル亡き後、空中戦を得意とするバルボロスと戦う方法は?
アギロは一人高台に走る。
「よし。ここなら良さそうだ。見てろよ!」
ホイッスルを取り出し力いっぱい吹き鳴らした。
そして空の彼方から現われたのは、何と天の箱舟であった。
箱舟が、まるであるじを迎えるように扉を開く。
そこから中へと飛び込んだアギロ。
もちろん中にいたのはサンディだ。
「ビックリしたぁー。突然呼ぶんだから。こっちは一人で大変だったんだからね?残骸探して直して、しかも二回目!テンチョー今までどこ行ってたのさ!」
「話は後だ。急いでナインとサチを拾って、こいつをバルボロスに向けるぞ!」
「え?あ、ラジャーっ!」
地下牢での救出作業を終えた二人も、バルボロスに気づいて外に飛び出していた。
それを瞬時に見つけ出して拾い上げ箱舟に乗せる。
「天の箱舟、完全復帰だね」
「姿が見えないと思ったらいつの間に?凄いじゃん、サンディ!」
「ようやくサチからお褒めの言葉、いただきましたー!」
バルボロスが突如現れた箱舟を見やり吐き捨てる。
「フン、天の箱舟か。乗っているのはドミールでグレイナルといた奴らか。何度来ても同じ事。己の無力を噛みしめて、今度こそ死ぬがいい!」
「今度は負けられない。必ず倒す!」
「ええ。勝つまでやるわ!」
今回は箱舟の力を借りて空中戦に挑む。
天使達の力が蓄えられたというだけあり、これまでで一番の強敵だ。
どんなに攻撃を加えてもビクともしないのだから。
「ダメだ、これじゃ体力のムダ遣いだ。どうする?…何か手を考えないと!」
「こうなったら私のセクシービームで幻惑させちゃうんだからっ」
「えっと、サチ?血迷ってる場合じゃ…」
「これでもかー、えーい!」
これがどういう訳か効き目ありで、バルボロスが幻に包まれたではないか。
「ほーらご覧なさい。誰が血迷ってるって?」
「まさかそんな手が。勉強になったよ。それじゃ一気に行くよ、今度は僕だ、えーい!」
幻惑していたお陰でバルボロスの焦点は定まっておらず。
攻撃を上手く交わしながら戦う二人。
やがてバルボロスの方が力尽きた。
「おのれ…まさかこの私が貴様らのような弱く小さき者共に…」
箱舟内ではもちろんこの人が大騒ぎ。
一転、力を使い果たしたナインとサチはぐったりと座り込む。
「キャー、勝利!凄いじゃんアンタ達、今までで一番サイコーだよ!」
「…これでグレイナルも心安らかに眠れるね」
「…そう祈るわ」
「ってか説明してくんない?何でアンタ達がテンチョーと一緒にいたのさ!」
「おい、誰がテンチョーだ。アギロさんと呼べって言ってるだろうが」
「サンディは元気だね」
「こっちはもうヘトヘト!」
「二人ともご苦労さん。しかしこっちだって驚いたぜ?まさかお前達がサンディと知り合いだったとはな!」
「それはまあ、何と言うか、ね」
「うん。ね」
もう疲れすぎて返す言葉も見つからない二人。
「ちょっとー。そこは、天の導きとか運命の出会いとか、言い方あるでしょーが?んもう、張り合いないんだから!」
「ま、会った時からただの人間じゃないってのは分かってたけどな」
「そうだったの?」
「それであの時、驚いた顔してたのね」
「アギロだってただの人間じゃないよね?天の箱舟を呼び出せるなんて。それに天使達の事も見えてたし?」
「そこはほら、ガナンの人達皆見えてたし?」
「あ、そっか」
「でもまあ、箱舟は度肝抜かれたよねー。お陰で助かったわ!」
「ゴホンっ、そろそろいいか。聞いて驚け!それは俺が、この天の箱舟の責任者だからだ!」
このセリフに本来なら響くはずの驚きの声はない。
しばしの沈黙を破り、アギロが嘆き声を上げた。
「おいおい、マジで張り合いないぜ?お二人さんよ」
「本気で驚くと声を失うって事かー」
「まあいいさ、それより早く天使界に向かうぞ。囚われの天使達を送って行かないとな」
「そうなんだけど…女神の果実がもう手元になくて」
「そうなんだ。イザヤール様があのガナンに味方してるって、どうなってるんだろう?」
一難去ってまた一難。
二人の苦難の道はまだまだ続く。
「お陰でアタシはミッション・コンプリーートっ!全く人騒がせなテンチョーなんだから」
「あ?何か言ったか」
ようやく戻れた本職に、アギロはとてもご機嫌であった。