天使界から再び地上へと舞い降りたナインとサチ。
送ってくれたアギロと箱舟に別れを告げて、ガナンの地を踏みしめる。
「お城に行けって事は、敵はこの国の王様なのかな」
「じゃない?で、そのお城って、あれ…?」
二人の目前にそびえるガナン帝国城。
そこは常に不気味などす黒いモヤの壁が取り囲んでいる。まるで侵入者を拒絶するように。
「何だか入りずらいなぁ」
そこへどこからか声が降って来た。
『この壁こそが城を守る邪悪なオーラです。今こそ私の祈りにより道を開きましょう』
「女神様の声だ!
「ありがとうございます!」
柔らかい光が徐々に強くなり広範囲に広がって行き、やがて辺り一帯を包み込んだ。
「黒のモヤが薄れた!」
「これなら中に入れそうだね」
『今の私ではこれが限界のようです。これは一時的な措置、どうかあなた達の力でオーラの根源を断ち切ってください』
「分かりました、きっとやり遂げてみせます。中に入ろう、サチ」
城内に入ると、早速物凄く強力な気配を感じる。
「お前達がゲルニックとゴレオンを倒した者達か」
「魔物?またも人みたいな見た目だね」
「いや顔は完全に人じゃないよ」
二足歩行の和装をしたヒョウだ。
切れ味の良さそうな見事な日本刀を掲げて、淡々と続ける。
「我が名はギュメイ。帝国三将最後の一人。この先は主君ガナサダイ皇帝陛下の玉座の間。我が忠義にかけて、招かれざる者通しはせぬ!」
「今回は剣術の戦いになりそうだね。久しぶりだなぁ」
「悠長な事言ってる場合じゃないわよ!来る、構えて!」
「受けてみよ、さみだれ斬り!」
「うわっ」
「かえん斬り!」
「きゃあ!」
「回転斬りー!」
立て続けに物凄いスピードで繰り出される技の数々。
二人は呪文を使う暇もなく、防御に徹するしかない。
その斬撃に耐え切れず倒れ込んだのはナインだった。
「えー!ナインが死んだっ、ザオラルー!」
「…ゴメン、ありがとうサチ。こうなったらキミのあの手しかないよ」
「あの手?きゃあっ、待って!すんごい攻撃っ、もう無理ー!」
「ほら、セクシービームさ!僕が何とか食い止めるから、やってみて!」
「ああいう硬派なサムライ男に効くと思えないけど…っ」
瀕死の状態で放ったサチのセクシービーム。
どうやらギュメイを幻に包んだようだ。動きが止まりこんな事を言って来る。
「ムムム、良く見れば娘、何と器量よしな…まぶしくて直視できぬっ」
「やった!攻撃が半減した、今だ!えーい!」
ナインの鋭い斬撃が決め手となり、ようやくギュメイが地に膝を付いた。
「…見事だ。あの方の他に、我が剣を打ち破る者がいようとは…最期にお前達のような敵と戦えた事、誇りに思うぞ…」
「邪悪な帝国の将軍の割に、立派なおサムライだったね」
「私の魅力にはひれ伏したみたいだけど?」
「凄いよサチ、僕にはできない」
「ナインの最期の一撃だって凄かったわ」
珍しくお互いを褒め合う二人であった。
「ここの魔物達には、彼らなりの忠誠や事情があるみたいだ。敵なのに同情しそうだよ」
「ちょっと分かる。イザヤール様にももしかしたら、そういう事情があるのかも」
「それってガナンへの忠義?まさか!」
自分で言った事ではあるが、サチも顔をしかめて同意を示す。
「いずれにしても、何があるのか増々知りたくなった。さあ、魔帝国ガナンを打ち倒そう!」
「ええ、人間界のため、女神様のためにね!」
気持ちを新たに奥へと進む二人。次に待ち受けるのは果たして…。
・・・
同じ頃、イザヤールはナイン達と同じガナン帝国城にいた。
魔帝国ガナンの皇帝ガナサダイを倒すために。
「イザヤールよ、女神の果実を早く寄こすのだ」
「これが欲しくばくれてやる。だがその代わり…お前の命を貰い受ける!」
手にした偽の果実を投げつけ言い放つ。
「それがキサマの本心か。果実はニセモノだな」
「女神の果実は天使界の宝。魔物になど渡すものか」
「よくもたばかってくれたな?」
「お前を倒してあの方を救い出す!」
ついに戦いが始まる。それは実に熾烈な戦いだ。
イザヤールの繰り出した強烈な呪文が何度も跳ね返される。
自分の攻撃を自分で受け止める事になるイザヤール。
「災難だったな。キサマが強い術使いであればあるほど、こちらに有利なのだ!」
「くっ…」
「これで終わりだ、死の魔槍!」
ガナサダイが放った呪文は、ダメージに加えイザヤールの魔力を封じた。
辛うじて持ち堪えていたイザヤールが倒れ込んだその時。
ナインとサチがその場に辿り着いた。
「あそこに倒れているのは、イザヤール様?!」
「ホントだ!イザヤール様っ」
「…どうしてお前達が、こんな所へ…」
「よくもイザヤール様を!覚悟しろ!」
「かかって来るがよいネズミ共。魔帝国ガナンの皇帝がじきじきに相手をしてやる」
「呪文を使うなナインっ、マホカンタで跳ね返されるぞ…!」
忠告を受け、寸でのところで剣に切り替えたナイン。
そしてサチに目を向ける。
この無言の合図に、サチはウインクを飛ばす。
「あんたもサチ様の魅力を存分に味わいなさい!えーい、セクシービームー!」
ここでも必殺技が放たれた。
そしてガナサダイもまた幻に包まれたではないか。
「ななな、何という…魅力的な!おぬし、ワシの嫁に…っ」
「なる訳ないでしょバーカ。鏡見てから言ってよね?ナイン、今よ!」
「よーし、任せて。イザヤール様のかたき、渾身のええーーい!」
ナインの剣はガナサダイを捉えた。
そして勝利をもぎ取ったのだった。
「…強くなったな、ナイン、サチ」
倒れたままのイザヤールに駆け寄る二人。
「どうしてこんな事にっ」
「一体どういう事なのですか?」
「捕らえられた天使達を救うため、従うふりをして来たが…力及ばずこのザマだ」
「裏切ったふり、だったのですね!」
「…それでも、自分の行いが間違っていたとは思わない。ただ…お前達を欺き傷付けてしまった事が心残りだった」
「きっと事情があると分かっていました…っ」
「ええ、だって、私達のお師匠ですもの…グスっ」
イザヤールが力を振り絞り、ゆっくりと二人の頭に手を伸ばし微笑む。
「だがお前達は、私の想像など遥かに超えて、強くなっていたのだな…」
「イザヤール様が鍛えてくれたのだから当然です!」
「…ありがとう。どうやら私はここまでのようだ…後の事は頼む…。あの方を、我が師匠を救い出して…」
こう言い残し、イザヤールの姿が消えて行く。
「イザヤール様!そんな…っ、ザオラル!ザオラルー!」
「サチ、ムダだよ。イザヤール様はもういない」
「えーん!」
「よしよし。取りあえず好きなだけ泣いて」
ひとしきり泣いたサチは、ピタリと泣き止むと大きく息を吸い込んだ。
「もう大丈夫?」
「時間くれてありがと、ナイン。泣いてる場合じゃないよね。で、あの方って…」
「とにかく、この奥にまだ誰かいるって事だよ。助けに行こう!」
二人は息を切らしながら城の地下牢にやって来る。
最奥に鎖で繋がれた天使がいるのに気づいた。
「あそこ!あの人がイザヤール様の言っていた人だよ!」
「ここを訪れる者がいるとは…。そうか、また私一人を残してガナサダイは逝ったか。野望を果たせぬまま彷徨うヤツの魂に力を与え手駒にしてやったというのに…」
薄暗さもあるが、どう見ても善人のそれではない容姿に、警戒を強める二人。
「あなたは…誰なの?」
「つくづく人間とは勝手な生き物だ。存在する事自体が罪…。それが人間だ」
「何を、言っているの?」
「人間を守ろうとするセレシア、滅ぼそうとしながら放置するグランゼニスも同罪。犯した罪は裁かれねば…。誰もやらぬならこの私が手を下す」
「罪だなんて!あなたは一体誰なの!」
「我が名はエルギオス。かつて大いなる天使と呼ばれし者」
「イザヤール様の師匠が、そんな事を言うはずない!」
「あ奴の弟子か。問おう、翼なき天使達よ。人間に守る価値があると思うか?」
「「あるに決まってる!」」
勢い込んで答えるも、体が動かせなくなっている事に気づく。
上位の天使に逆らえない掟で体が縛られているのだ。
「300年囚われていた私の憎しみがどれほどのものか、お前達には想像できまい。その憎悪の念こそが私に力を与えたのだ。今や私の存在は神をも超えた!」
「そんなのおかしい、狂ってる!」
「そうよ、目を覚まして!」
二人の言葉は届かない。エルギオスはさらに声を張り上げて続ける。
「私の閃光により神は死んだ!今こそ私が神に成り代わり、至高の玉座に就こう」
「「何をする気?」」
「おおそうだ、人間共を滅ぼす前に、まずは神の国を我が居城としようではないか」
そう言い終えるや、鎖に繋がれていたはずのエルギオスは自由の身となる。
天井を突き破って城から飛び出すと、物凄い早さで天へと飛んで行った。
たまたま今回の敵達には幻惑が入りやすかったので、このような展開となりました(笑)